1/6
1・妖精
買い物へ行こうと玄関のドアを開けると、そこは異世界だった。
淡いピンクの空に、小麦色の肌の妖精が飛んでいる。丸い顔にふわふわの帽子をかぶり、とぼけた目が愛らしい。羽ばたくたびに虹色の粉が散り、南国の果物のような香りが広がる。りん子は思わずうっとりした。
「写真に撮っておかなくちゃ」
急いでカメラを持ってくると、玄関の段差につまづいた。りん子は転び、カメラを投げ出してしまった。
『うっ』
どこからともなく、苦しげな声が響いた。カメラが空にめり込み、景色に皺が寄る。妖精の顔は醜く歪み、苦しげに羽を動かしながら落ちていく。りん子は手を差し出そうとしたが、妖精は灯火のように消えてしまった。ピンクの空も色あせ、まばたきをする間に消えた。
あとには、アパートの廊下と隣の木立が見えているだけだった。
「何だったのかしら」
りん子はカメラを拾った。壊れてはいないようだ。幻だったのかも、と思い、そのまま買い物に出かけた。