006
「難波田憲次、覚悟しろ」
難波田の額に銃口を向けた。すると、難波田は不敵な笑みを浮かべているではないか。この状況で、それが出来るのは本格的にイカレた奴か、本当に度胸のある奴のどちらかだろう。
「ハハハ。覚悟だと」
「ここで死ぬか、悪夢を終わらせるか、好きな方を選べ」
信長は相手を萎縮させる眼を持っている。サングラスを取り外して、赤色の眼と黒色の眼のオッドアイで、難波田を威圧する。
「俺はまだ終わっちゃいない」
「なに?」
「闘いさ。やろうぜ!」
瞬間、立ち上がりざまに、信長の衣服が切れた。何か鋭利な刃物で切りつけられたようだ。信長は一歩後ろに下がって体勢を整える。
見ると、奴の手にはクナイが握られていた。本来なら忍者が使う物だが、この男も忍者だというのだろうか。
「そんな屑鉄で此の俺を倒せると思っているのか?」
「当たりめえよ!」
難波田は一心不乱に突っ込んできた。一気に間合いを突き詰めてきたため、弾丸を発射させる隙を与えられなかったのだ。それ故に、苦悶の表情を見せながら拳銃でクナイの突きをガードする。
「上々の踏込だ。銃を恐れていないようだな」
信長は歯軋りをしてしまう。それなりに重い一撃だったのだ。この男も戦闘経験はあるようだ。ここまでくると、難波田の奇妙な格好も、ただの素人ではなさそうな戦闘狂の姿に思えてくる。
「あたぼうよ。銃に恐れて逃げ腰になるのは腑抜けだぜ」
「そうか」
その瞬間、クナイと激突したままの拳銃から銃弾を発射した。つんざくような銃声音が二人の耳に響き、難波田は一瞬だけ表情を曇らせて隙を作った。無論、信長はその隙を見逃さない。空いている左の手を前に伸ばして、難波田の右頬にクリーンヒットさせる。
難波田は、まるでスローモーションのように、ゆっくりと体をよろめかせた。とてもクナイで攻撃できる姿勢では無い。すると、信長は再び弾丸を発射させて、相手のクナイを弾き飛ばした。
「ぐ!」
右手だ。難波田はクナイを持っていた右手を押さえつけていた。撃たれた事により、右手に振動が走ったのだろう。無論、二度目の隙も見逃さない信長は一気に走り込んで、難波田の額に、再度銃口を向けた。もう奴には抵抗するだけの武器は残されていない筈だ。
「さっきと同じ展開だぞ。またクナイで斬りつけるか?」
オッドアイの眼で蔑視した。目の前の男は、その程度の男だというのか。
「無理だな。右手が痺れちまってらぁ」
難波田はぶっきらぼうに右手を揺らしている。しばらくは使い物にならないだろう。
「降参しろ。御前みたいな姦雄な男を相手する時間も惜しい」
信長は怒っているようだ。この村を悪夢で憑りつかせた残忍な男の事を。しかし、難波田はまた笑っているのだ。嫌、違う、難波田の笑い声ではない。まったく別の男の声だ。じいさんの声でもなければ、蘭丸の声でもない。
しかも、難波田は気を失って地面に倒れ込んだ。信長はまだ何もしておらず、別の男の笑い声が響いたとたんにだ。
「難波田ァ。お前の役目は終わりだ。そこで眠ってろ」
いつの間にか、黒髪のロングヘアーの男が難波田の隣にいた。ここまで移動したとなると、とんでもない速さだ。
「何者だ。貴様」
拳銃の銃口は難波田から、謎の男に移り変わった。
「俺か? 俺はこの村の村長さ」
両手を広げて、自分は村を持っているのだとアピールをしていた。
「村長はそこに倒れている男だろう?」
「違うな。こいつは村長代理だ」
男は長身の若い男だが、口の周りに髭を生やしていた。
「代理だって?」
信長は聞き返す。
「俺は忙しい身分だから、こいつに代わりをしてもらっていたのさ。だが、第六天魔王の登場となれば話しは別だ。急ピッチで飛んできたぜ」
「俺を知ってるのか?」
「ああ、俺達は仲魔だろ」
すると、男の片目が赤く光ったのだ。この男もオッドアイで、混血らしい。信長は警戒の針を全身から生やせて、拳銃を持つ力をよりいっそうに強くした。
「お前も混血だったのか!」
「堕天使プロファイル801番、上杉謙信」
彼の声には響きがみられる。とても低い声で特徴のある声だ。一回聞くと、二度と忘れられないだろう。
「堕天使側に寝返った武将か」
「もはや戦国の時代は終わりだ。これからは堕天使が日本を統治する」
「それで、手始めにこの村を支配したのか」
信長は追及する。どこまでも。
「そうだ。俺の悪夢を見せる能力で住人に悪夢を見せていた。実は、こいつにも悪夢を見せていたのさ。堕天使プロファイル圏外の難波田憲次君に」
そう、村長代理の難波田にも悪夢を見せていたのだと言う。
「悪夢を見せて、どうした?」
「操っていた。俺の手足のように」
「成程、さっきの攻撃はお前の仕業か」
難波田への怒りは憐れみに代わった。この男も所詮は上杉謙信の操り人形に過ぎないというのだ。
「お前にも悪夢を見せてやろうか?」
「断る。こんな道端で寝るつもりは無い」
「そうか。為らば、死ね」
上杉謙信は剣を抜いて踏み込んできた。やはり、さっきの攻撃はこの男の動きだったのだろう。白刃を見せて、迷いなく斬りかかってくるのだ。