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005


 深夜、さすがにこの時間帯ともなれば信長と蘭丸も共に寝息をかいている頃だ。しかし、この静けさと安息の時間に傷跡を入れる者がいた。それは。


「びえええええええ!」


 突然だった。どこからか聞こえてくる老人の叫び声が静寂を切り裂いた。この声にいち早く反応した信長は、二段ベッドから飛び起きて、急いで私服に着替えた。非常事態と言えども、自身の混血である証拠は隠さないといけないため、サングラスは着用済みだ。全ての用意が整った後、ぐーぐーとイビキをかいて寝ている蘭丸を素手で叩き起こす。


「起きろ、蘭丸」


 と、呼びかけたと同時に、信長の手にぬめぬめとした触感が伝わった。


「ふえ?」


 蘭丸は口からヨダレを垂らしたまま寝ていたらしい。パジャマの首元がえらく濡れているのだ。それに直に触ってしまった信長は、蘭丸の張のある頬にヨダレのついた指を擦り付けた。


「じいさんの叫び声が聞こえただろう」


「しゃみません、ねてました」


 蘭丸はまだ寝たりないといった顔で欠伸をかました。


「ちょっと様子を見てくる。お前はここで待機していろ」


「いえ、ぼくもいきます」


「駄目だ。夜は闇の住人がうろついているぞ。俺みたいな」


 信長は夜型だった。それも堕天使と人間の混血であることが関係しているのか、それは定かではない。


「信長殿のような人なら大丈夫そうです」


 しかし、それでも蘭丸は信長の後をついてこようとする。ベッドから起きて、裸足のままスリッパを履いたのだ。


「馬鹿野郎。俺は悪人だぞ」


「それをいうなら、僕だって悪人でしたよ」


 上手い返しだ。信長は素直にそう思っていた。


「分かったよ。どうなっても知らないぞ」


「はい。自分の身は自分で守りますから」


 こうして、信長と蘭丸の二人は宿屋の表へと移動した。信長の片手にはきっちりと拳銃が握られている。


「おかしい」


 信長は呟いた。店主の姿がカウンターにもいない。カウンターの後ろを覗いてみると、布団を敷いてはいるものの、姿は見えなかった。


「信長殿」


 自分の呼ぶ声が聞こえて、信長は振り返る。


「どうした」


「扉が開いています」


 夜風だ。扉から、体に丁度いい風が吹いていたのだ。


「やけに涼しいと思ったら、開いていたのか」


「外に行ったのでしょうか?」


「その可能性が高いな。外に出るぞ」


 蘭丸は頷いた。そして、信長にピタリとくっつく形で、蘭丸はついてきている。外に出ると、丁度目の前に宿屋の老人がいた。何やら地面に座って、両手を上げたり下げたりしているではないか。


「おおお、御静まりををををを」


 明らかに常軌を逸脱した様子だった。誰もいない場所に向かって、叫んでいるのだ。それも歯切れの悪いテープレコーダーのように。


「おいじいさん、どうしたんだよ」


 信長が老人の肩をポンと叩くと、老人は人形のようにカタカタと音を立てて、こちらを振り返った。その顔は青白く、まるで死人だった。


「御静まり、おしずまり、オシズマリ、OSHIZUMARI」


 本格的に壊れたテープレコーダーだ。


「じいさん。何かあったのか?」


「ソイツは関係ねーよ」


 声が聞こえた。信長でも蘭丸でも、ましてや老人でもない第三者の声音だ。その声は確かに聞こえた。それも空の上から。信長と蘭丸の二人はゆっくりと首を上げた。



 ▲



 ――家の上に男が立っている。その男は街灯の光に照らされて、夜だというのに姿形がくっきりと見えた。男は茶髪の髪をしていて、頭にバンダナをつけている。顔立ちはそれなりに整った好青年だ。


「誰だ。お前は?」


難波田憲次なんばだのりつぐ。この村の村長だ」


 そう言って、自己紹介をしていた。


「村長だと? まさかお前が」


「そう。悪夢の現況だ」


 八重歯を剥き出しにして、難波田は口角を上げた。


「なんか、タコ焼き職人っぽい感じですけど」


 蘭丸は見た目だけで人を判断していた。


「ちょい待て。バンダナだけだろうが」


 焦った様子で難波田は突っ込みを入れる。


「お前、本当に村長なのか?」


 段々と信長の中で疑心が生まれた。


「そうだ。部外者が侵入したと聞いて、わざわざやって来たのさ」


「俺達の事か」


「他に誰がいるんだよ」


「お前がこの村を恐怖で支配していると、宿屋の主人に聞いたが、それは本当なのか?」


「それがどうしたよ。てめーには関係ないだろうが」


「いいや。関係あるさ、俺は、お前みたいに権力に物を言わせるタイプが嫌いなんだ」


   ――刹那。銃口から常闇の一撃が放出されていた。その一撃は闇夜を切り裂いていき、難波田の足元を崩した。これにより、足場を失くした難波田は四肢をバタつかせて、地面に激突したのだった。



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