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時と宇宙(そら)を超えて  作者: 琅來
第Ⅰ部 それぞれの居場所
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第三章「婚約者」―2

……千紗!」

 珍しいの慌てているような、急かすような声が聞こえ、千紗はこの時代で目覚めた。

「由梨……亜? ここって、一体……」

「分からないの。私もたった今目が覚めたところで……」

 と、由梨亜は泣きそうな顔で言った。

 そこへ、ドアを開き、一人の女性が入って来た。

「――?」

「えっ?」

「何て言ったの? 解る? 由梨亜」

「いいえ。私にも、さっぱり……」

「――。――? ――? ――」

「千紗、私、この女の人が何て言っているのか確実には答えられないけど、大体の意味は解ったわ」

 そう言って溜息をついてから、由梨亜は言った。

「『すみません。あの、何て言ったんですか? もしかして言葉が解らないんですか? 私にも、何て言ってるのかさっぱり解らないんですけど……』って」

 そして、そこにいた女性は、また何やらよく解らない言葉を発し、いきなりドアを開けて、飛び出して行った。

 千紗は、まだ目覚めてからあまり時間が経っていない為、どこかぼんやりとしていたが、由梨亜はそれよりも前に目が覚めていたので、頭が少しはっきりしていた為、何とかパニックになりそうな気持ちを抑えてから周りの様子を観察した。

 そこは全面白い壁になっている小さな部屋。

 出入り口の所には水道があって、手が洗えるようになっている。

 他には、とってもとっても古い、小さな冷蔵庫と思われる物、あとは、歴史の授業で習った、だいたい千年ぐらい前まで使われていた、テレビと言う情報を得る為の端末、二人の寝ている、二つのベッド……。

 辺りは、薬臭いような、消毒液の臭いがして……。

 そこまで考えた途端、直感的に、由梨亜にはここがどこだか分かった。

「千紗、ここ病院よ」

「えっ? でも病院の普通病棟って昼間は階全部が一繋がりで、場合によって隔壁装置を作動させる明るい場所でしょ? ここは何だか暗い雰囲気だし、ここじゃあ治る病気も治らないよ」

「ええ。だから、ここはそんな装置もなくて、そんな分かりきったことも分からない……だいぶ昔の、時代。それも、何百年前、って言う……」

「ここって、やっぱり……千年前の世界なのかな……」

 そこまで言った時、さっきの女性――そして、ここが病院だとすると、恐らく、看護師と思われる女性が、様々な人を連れて来た。

 その人達は十人ほどだった。

 そして、恐らくその人達の母国語であるような、先程の女性とはまた違っている言葉を喋っていったが、ほとんど分からなかった。

 だが、中に一人、言葉が少し解る人がいた。

「貴女は?」

 と訊いて来たのだ。

 彼は地球連邦の古代語を喋っていたが、千紗はその古代語で、喜んで答えた。

 千紗と由梨亜は、中学校に入ってからの選択授業で、古代語を習っていたのだ。

 だから、簡単な会話なら、できるようになっていた。

「あたし、貴方の言っていることが解るわ! あたしはさいいん千紗。十三歳よ。彼女はほんじょう由梨亜。十三歳」

「貴女は、彩音……千紗? そちらは本条……由梨亜? そして、十三歳? そして、何故――?」

 その後、その人が喋った言葉は、まだ古代語を習って間もない二人にとって、少ししか意味の解らないものだった。




 その二日後、二人がその病院らしき所で、図書室に行った。

 そこには様々な本があったが、ほとんどが読めない物だった。

 やはり、少しなら意味の解る本はあったが、まだ習っていない単語や文法が大量にあり、よく意味が解らなかったが、大抵の発行年は二千百年代頃だった。

 そして、その中から、千紗がある物を発見した。

「ねえ、由梨亜。これって……」

 呆然としたような千紗の口調に、由梨亜は首を傾げながら言った。

「どうしたの?」

 由梨亜が駆け寄り、千紗の手に持っていた物を見た途端、唖然としてしまった。

 何と、あの日記帳が千紗の手に載っているのだ。

「な、何、これ……一体、何がどうなっているの?」

 由梨亜がそう言った途端、千紗の手の上にあった日記帳から眩しい銀色の光が溢れ、千紗と由梨亜は思わず目を瞑ってしまった。

 そしてその光が去った後、看護師がやって来た。

「あら、ここにいたの?」

(えっ?)

 二人はとても驚いた。

 今までは何を言っているのか解らなかったのだが、今は何を言っているのか解るのだった。

「もうそろそろ検査の時間だから戻りなさい……って、ニホンゴは通じないんだった。エイゴも初歩的なものしか通じないし……えっと、私と」

 と言い、右手の人差し指で自分を指すと、

「貴女達二人が」

 と言い、左手の人差し指と中指で由梨亜と千紗を指し、

「一緒に行く」

 と言って、その三本の指をくっつけ、移動させた。

 由梨亜と千紗は、

「分かりました」

 と言ったが、相手が首を傾げたので地球連邦の古代語で言い直した。

 すると、その看護師は、

「ほんと、何言っているんだか解らないわ。名前を言った言葉とか、こっちに話し掛けてくる時に喋っている言葉はエイゴだけど、名前はニホンジンっぽいし……でも、二人で話している言葉はニホンゴどころじゃなくって全然聞き覚えもないし、意味も解らないし……」

 と、独り言を言った。

 だが、千紗はその話の内容でもなく、先程の異常現象のことでもなく、別のことを考えていた。

(エイゴ……って、何? ニホンゴ? ニホンジン? 意味解らないよ。でも、あたし達が話しかけられて少し解った言葉……あれは『エイゴ』だったのね。そして、彼女が話している言葉は『ニホンゴ』……)

 そして、由梨亜と千紗は一緒に病室に向かった。

 あの、交換日記帳を抱えたまま……。




 検査が終わった後、二人はその交換日記帳を開いた。

 自分達がこんな所に来た理由を知る為に。

 その交換日記帳には、二人が書いた内容もなく、二人が期待したような内容もなかった。

 しかし、実際書かれていた内容は、読まなければ良かったと思うほど、嫌なものだった。



《我ハ コノノートニ 閉ジ込メラレシ者ナリ

 面白半分ニ フザケタ願イヲスル者ニ 禍アレ 呪アレ

 真剣ナ思イヲ 抱エシ者ガ コノノートヲ手ニスル時ニハ 祝福ヲ

 我ハ 知ッテイル

 コレヲ手ニシ 我ガ祝福ヲ与エル存在ト ソノ者ガ望ムコトヲ

 故ニ 我ハ一時的ナモノナレド ソレヲ授ケヨウ 

 差別ノナイ 世界ヲ

 ソシテ》



 そこで、交換日記帳の文章は、途切れていた。

 と言うより、恐ろしいことに、血に汚れて見えなくなっていた。

 そしてページをめくると、そこには、ぽつりと、まるで切望するかのように続きがあった。



《我ハ……望ム

 其方達ノ 真ノ幸セヲ

 我ハ コノノートニ 吸収サレタ命

 ナレド 未ダ消滅シテオラヌ 命ナリ

 ソノ命ガ 消エ失セルヨウナ危険ヲ 冒ソウトモ 我ハ 其方達ヲ護ロウ

 永遠ニ――永久ニ》



 ここは……恐らく、北の方なのか、山に近いのか――もしかしたらその両方なのかも知れないが、あと三、四日後にようやく十月なのに、窓からは、紅葉した落葉樹が見える。

 その樹を見るともなしに眺めながら、二人は考え込んでいた。

 このノートに書かれていた内容を。




 その一週間後、由梨亜と千紗がこの時代……つまり、千年前の時代に来た衝撃でできた打ち身、痣、捻挫、打撲などの怪我が治ると、修道院兼孤児院の、『ほういん』に入れられた。

 ここの時代では、小学校を卒業する十二歳で、小成人式と言うものを受ける。

 それは、小学校を卒業して、中学校に入学してもやっていけるかどうかをテストするもので、その段階は、特級から八級と分かれ、その段階によって扱いが違う。

 例えば、特級ならばどの学校にも入れるが、その下に行くに連れて、学校の選択肢がどんどん減っていくのだ。

 つまり、下に行けば行くほど将来や進路の選択の幅が狭められてしまうという制度である。

 なので、産まれ持った身分は、社会では

「フン、そんなの何になるのさ」

 と、粗雑に扱われるが、逆に有名な学校を卒業すると、

「ああ、あの学校の卒業生ね!」

 と、随分大事に扱われ、場合によっては、様々なことに掛かる料金が優遇される場合もある。

 また、会社などの就職も、かなり有利になる。

 また、あまり有名でない学校の場合は、差別も何もない。

 なので、学力でそこにいったという人だけではなく、もっと上に行けるような学力を持った人――そう、随分優遇されるような学校に行ける人でも、その特別扱いが嫌だと言って、わざとレベルの低い学校に入る人もいた。

 そして、そういう学校にも入れなかった人達は、優秀な学校に行けた人とは完璧に逆の扱いになる。

 なので、身分による差別はないものの学力や学歴による差別があり、賢い人物が頭の悪い――賢い人に言わせれば、愚者に対する軽蔑の思いは、千年後の時代で、身分の高い人物が身分の低い人物に対して抱える軽蔑の思いと比べると、圧倒的にこちらの方がとても強いのだ。

 由梨亜と千紗の場合は、ここの言葉が一切解らず(と思われていて)、喋れないので(これは本当)、この小成人式は受けられない。

 そして、この小成人式を受けられなければ、本当の成人式を受けることができない。

 なので、大人になっても就職できない。

 だから、このような修道院で、一生働いて生涯を終えることだろうと、思われていた。




 さて、香封畏院に入った由梨亜と千紗だったが、意外と人数がいて、百人ほどの規模の修道院だった。

 だが……その修道院の過ごし方が、あまりにも過酷で、激しく辛いものなのだ。

 何と、平日は睡眠時間が五時間ほどしかない、かなりのハードスケジュールだ。

 だが、休日は自由時間があり、睡眠時間が六時間摂れ、しかも、自由時間に昼寝もできる予定だった。

 そんな所で、二人は過ごし始めた。

 そのおよそ二ヶ月後、驚くべきことが持ち上がるとも知らずに……。

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