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時と宇宙(そら)を超えて  作者: 琅來
第Ⅲ部 心の置き場所は
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第七章「新しい未来への一歩」―3

 睦月むつきこうは、流れてくるその情報を耳にし、固まった。

「お、おい……。一体、どんな手品使ったんだ……?」

「え? 何のこと?」

「やだわ~、睦月。何? 私達を疑うの? 私達、何にもしてないけど?」

 いっそ白々しいほどにすっ呆ける二人に、睦月と香麻は脱力した。

「そっか……そうだったよな……」

「忘れてた俺らが馬鹿だったな。そうだよ、お前らは、そういう奴だったんだよ……」

 睦月と香麻に盛大な溜息をつかれても、千紗と由梨亜は全く気にしない。

「にしても……おうこくからの要求は、停戦はともかくとして、宇宙連盟への加盟、絶対的な貴族優遇制度の廃止……か。すっげぇ変わるよなぁ……」

「ええ。そうねぇ。香麻」

「で? 地球連邦からの要求は、地球連邦に対して圧倒的に不利な状態の貿易関連の問題を片付けること……だって? 具体的には、関税率がどうのこうのって……。それに加えて、地球連邦に貿易が有利になるようにするみたいだし……。しかも、花鴬国の一夫多妻制度の制限、もしくは廃止。それと、宇宙連盟の規約で、所々『王族』ってだけで制約を外れているところの改正。はあ……俺らの方が、突き付けてる条項が多い気がすんだけど……いいのか? これで。一応、どっちとも賠償金はないみたいだけどさ……」

「大丈夫よ、睦月。これだけじゃなくって、どうせ裏ではもっとあるんだから」

「げっ……」

「マジかよ」

 千紗の言葉に、睦月と香麻は顔を顰めたが、由梨亜はそれを笑った。

「当たり前じゃない。それでこそ『政治』ってもんよ。二人とも、憶えておいた方がいいわ。それにね、地球連邦からの要求は少し緩めで、花鴬国からの要求は決定的。おまけに、今回の和平条約って言うのは地球連邦から言ってきたことだし、それ以外の要因からも、今回だけは地球連邦が有利。だから大丈夫よ」

 自信を持って告げられた言葉に、睦月と香麻は居心地悪そうに身じろぎする。

 そして、居た堪れずに視線を泳がせ、睦月と香麻は突然立ち上がった。

 その行動に、千紗と由梨亜は目を瞠る。

「ちょ……二人とも?」

「一体、どうしたの?」

「こ、これ……」

 睦月と香麻が一心不乱に見詰める画面。

 そこに目を移した千紗と由梨亜は、流れるテロップに、そしてその情報を耳打ちされて目を瞠るの弟妹達に、睦月と香麻と同じように目を瞠った。

「うっわ……ナイスタイミング。……良かったじゃん、由梨亜」

「え、ええ……。そう、そうね。ほんと……良かった……」

 由梨亜は、目の端に涙を浮かべる。

 四人が見詰める画面の先では、由梨亜の弟妹達が手に手を取り合い、抱き合っている姿が映っていた。

「良かった……御父様が、お目覚めになって……」

 由梨亜は、吐息のように言葉を洩らす。

 由梨亜の――うんきょう富実樹の父、花雲恭(ほう)きょう

 彼が毒を盛られて眠りについたのは、共通暦一三二五年の五月。

 そして今は、共通暦一三二七年の二月。

 およそ二年振りの目覚めだ。

「御父様……御父様、本当に、良かった……」

 由梨亜は、顔を手で覆う。

「うん。良かったね、由梨亜。……これで、花鴬国の膿も、洗い流せるよ」

「ええ……そう、ね……。御父様が王位を退いたのは、病の為だもの……ぼけた訳でもないんだし……御父様だったら、ちゃんとを導いてくれるわ……」

「うん。でも、きっと驚くだろうねぇ。目が覚めたら、一気に二年近くが経ってて、王位は長女から次女に移って、その長女は行方不明なんだから……」

「ええ……そうね。でも……もうこれで、大丈夫よ。私の心配は、もう、全部なくなったも同然だわ……」

「うん。ほんと……ほんと、良かったね、由梨亜……。ねぇ、由梨亜」

「何?」

 ふと何かを思い付いたように明るい顔をする千紗に、由梨亜は首を傾げた。

「大学って、夏休み……すっごく長いんだよね? まあ、あたし達の場合、補習に使われちゃうかも知れないけど……でも、それをさっさと終わらせれば、そして高速船で移動すれば、地球連邦から花鴬国に行って、それからまた地球連邦に戻って来るのも簡単じゃないの? ほんじょう家の財力を考えれば、往復に高速船を使っても、所詮蚊に刺された程度だろうし」

「あ……そうね。そうだわ」

 由梨亜は、驚いたように瞳を瞬く。

「だから、さ。遊びに行こうよ。花鴬国に。それで、由梨亜の御父様と御母様に……会いに行こう? それと、由梨亜の弟妹達にも。二年振りの再会。きっとみんな、喜ぶよ?」

 その言葉に、由梨亜は曖昧な表情をした。

「あ……ん、若干、喜ばなさそうな人も三人いるけど……。とかとかれいとか……。こうは御母様と仲が良くて、しゃともそこそこ仲が良かったみたいだけど、とかじょとかとは、まあまあの付き合いでしかなかったし……」

 初めて由梨亜の口から聞く花雲恭家のあり様に、睦月と香麻――特に香麻はカチンコチンに凍り付いた。

「な、何か……すげぇとこだな……」

「まあね。花鴬国は、立憲君主制だから。でも、王族として政治に関われるのは、王になるかおうだいじんになるかだけだし。結局、王になれるのは一番最初に産まれた子供だけだから、誰が最初に子供を産むかで相当ピリピリしてたと思うわよ、私が産まれる前は。その後は……まあ、誰の産んだ子が鴬大臣になるか、でしょうね。だから、一生懸命自らの子供に、自分の後見する女性の子供に、英才教育を施す」

 由梨亜はそう言うと、肩を竦めた。

「まあ、だからって、その子供が母親の期待に沿うかどうかは別問題だけど。鴬大臣になりたくないって言って、官吏を目指している異母弟妹ていまいもいるから」

「官吏……って?」

 睦月が眉を顰めて言うと、由梨亜は少し目を瞠った。

「あ、そっか。地球連邦じゃ、『官吏』って言い方はしないもんね……。えっとね、『官吏』って言うのは、地球連邦で言う官僚みたいな物なの。簡単に言えば、上級の国家公務員ね。普通の政治家とは違うから、国家試験を受けて、それに受かれば王族でもなれるわ。王族は政治家になれないから、国政に関わる職を目指すとしたら、官吏しかないのよ。だから、ほうれんって言う異母弟妹は、官吏になりたいと思っているの。二人とも、鴬大臣職には興味がないらしくって」

 由梨亜は、小さな微笑を浮かべる。

「それに、璃枝菜と鳳蓮の御母様は阿実亜女で、阿実亜女は元々一般庶民。だから、そこら辺は緩かったみたいで、二人ともバリバリ勉強してたわねぇ……。でも、璃枝菜はまだ十七歳で、鳳蓮もまだ十六歳だから……国家試験を受けれるのは、まだまだ先ねぇ……」

 遠い目ながら、何だか懐かしそうな顔をする由梨亜に、香麻はショックを受けたような顔をする。

「な、なあ、由梨亜……」

「何? 香麻」

「お前……本当は、戻りたいんじゃないのか?」

 その言葉に、由梨亜は目を瞬いた。

 だが、綺麗な笑みを浮かべてみせる。

「そうねぇ……懐かしく想わないって言ったら、嘘になるわ。でも、私の居場所は、ここなの。富瑠美達が、私のことを慕っていても、花鴬国に帰るようにね。心の拠り所は、たとえ両親を同じくする姉弟でも、違ってしまうのよ」

「ん……そっか。由梨亜がいいんなら、別にいいよ。俺も、気にしないことにする」

「ありがと、香麻」

 由梨亜は、ほんの少しだけ小さく笑う。

「あと、私達がやるべきことは、日本州に帰ることだけだわ。もう、この戦いとは関わらない」

 由梨亜が肩を竦めて言うと、睦月が難しい顔をしながら言った。

「なあ、由梨亜。そう言えばお前、げんかいきょう……どうする気だ?」

「現解鏡? ああ、あれならもう発送済みよ。ねぇ、千紗?」

「うん。由梨亜」

 にこにこと、どこか腹黒い笑みを浮かべる二人に、思わず睦月と香麻は一歩引く。

「は、発送済みって……ど、どこに?」

「勿論花鴬国に決まってるじゃん、香麻」

 千紗に笑いながら言われて、睦月も香麻も固まった。

「か……花鴬、国?」

「うん。花鴬国」

 語尾に音符が付きそうなほどご機嫌に言う千紗に、睦月が身を乗り出した。

「何で花鴬国に送るんだ? あれ」

「だって、あの技術は花鴬国の物だし? しかも、特許取得済みの。あの現解鏡だって、元々は花鴬国で、実験的に創られた物だと思うの。だったら、餅は餅屋にじゃないけど、元あった所に戻すのが筋じゃないかなぁ、って。……一応、富瑠美達にも了承は得てるよ」

『富瑠美』という名を呼ぶ時だけ顰めっ面になる千紗に、由梨亜が吹き出す。

「千紗ったら……相変わらずねぇ。そんなに富瑠美のこと嫌い?」

 その言葉に、千紗は膨れっ面をする。

「別に、嫌いって訳じゃないけど……とにかく、合わないの。あたしみたいなど庶民と、富瑠美みたいな生まれ付きのお姫様」

 そのあまりの言葉に、今度は由梨亜が笑い出した。

 それにつられて、睦月と香麻も笑い出す。

 最初は眉を吊り上げていた千紗も、この雰囲気に、次第に笑い出す。

 四人の間に、暖かい空気が流れた。

 そして、この地球の上にも、同じように。

 画面の中では、富瑠美が、大統領のアルトゥール・ベルイマンと、満面の笑顔で握手を交わしていた……。

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