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時と宇宙(そら)を超えて  作者: 琅來
第Ⅲ部 心の置き場所は
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第七章「新しい未来への一歩」―2

 は、終始にこにことしていた。

 その隣で、もにこにこと笑っている。

 最初は誰も突っ込まないでそれを眺めていたが、あまりにも不気味なそれに、とうとう睦月むつきこうが突っ込んだ。

「おい、お前ら……それ、そろそろやめろ」

「こう言うのも何だけどさ……はっきり言ってそれ、かなり不気味だよ? 気持ち悪い」

 婚約者の手厳しい言葉に、けれど、二人は不気味な笑いを消すことはない。

「え~? だって、ねぇ?」

「うん。しょうがないじゃん。ね? 由梨亜」

「ええ。千紗」

 そうして、益々笑みを深くする。

 周りは、全員総毛立った。

「もう私、嬉しくてしょうがないわ。あ~んな不毛(・・)な戦いが、ようやく終わるんだもの」

「うん。お互いにちょこちょこっと動いているだけなのに怪我人は結構出てるし、物資の消費量も半端ないし……本当に、意味ない(・・・・)、よね?」

「あら? さすがにそこまで言わなくてもいいんじゃない? 少なくとも、和平条約にかこつけて、地球連邦の方もおうこくの方も、悪習(・・)を撤回することができるんだもの」

「うん。そうだね。それだけはまあ、唯一の(・・・)、成果だよねぇ……。まあ、理想論を言うとすれば? こ~んな戦いじゃなくってさ、最初っから話し合いすれば良かったのに、ねぇ?」

「ええ。それは同感だわ。すぐさま変えるのは不可能だけど、これから、ちょっとずつだけど良くなっていくに決まってるわよ。じゃないと、ねぇ? 私達が頑張った意味なんてないわ」

「そうだよねぇ。本当、いろっいろ一遍に片付いたし……それは、良かったのかな? 全っ然、意味のない、無益な、戦いでもねぇ」

「そうねぇ。ほんっと、何で、こんな戦いが起こったのかしら? 私、そこが不思議でならないのよ」

「う~ん……そこは、ねぇ? ちょっとここの、偉ぶってるくせに小心者のこそこそ貴族に聞かなきゃ、分かんないかなぁ」

「そうだわね。毒にも薬もならないけど、害にだけはなってくれるんだから。邪魔ったらありゃしないわ」

「そうそう。さっさと任期終えて退陣してくれないかな? そうしたら、あの意気地なしとは比べるのも申し訳なるくらいしっかりした、エンダーレンス議長が大統領になれるのにね」

 ……二人は、延々と毒舌を披露し続けた。

 だが、ふと時計を見て時間を確認すると、今度はにっこりと笑う。

「ねえ、由梨亜。もうそろそろだね?」

「ええ。星系内生中継の、和平条約締結!」

 二人は、本当に嬉しそうに笑う。

 先程まで、ずっと毒舌を吐いていたのが嘘のようだ。

「まぁったく、ようやく終わるよ~」

「長かったわよねぇ~。一ヶ月以上、かしら? こっちに来てから」

「だねぇ~。あいしょうもとりょうそうも、みんな元気にしてるかなぁ」

 遠い目をしている千紗に、由梨亜はくすりと笑い掛ける。

「元気にしてるに決まってるわよ。それぞれ大学に通って! って言うか、これから大変なのは、私達なのよ? 一ヶ月以上も、しかも入学したての大学休んじゃったし……。これから授業の選択と、進んじゃった分の勉強をして……。教授達に訊ける分は訊けるだろうけど、そんな暇じゃないだろうし、そもそもそんなに時間もないし、ほとんどを独学でやんなきゃならなくなるかも知れないし……」

 指折り数える由梨亜に、千紗は頭を抱えた。

「あ~~!! 由梨亜、嫌なこと思い出させないで~っ!」

 だが、その言葉に睦月と香麻も同調した。

「げっ……だったよなぁ……」

「ああ……。しかも、レイメーア大学経営学部って、難しいので有名なとこだったろ? 何とか入れたけどさ……勉強、付いてけるかな……?」

 途端に憂鬱状態に陥る親友と恋人と親友の恋人に、由梨亜は無言で背中を強打する。

「あだっ!」

「いってぇ!」

「ぐはっ!」

 三者三様に呻くのを、由梨亜は腰に手を当てて見下ろす。

「な~にマイナス思考になってんのっ?! 勉強は頑張れば取り戻せるのよ! 一年とか半年だったら、あ、無理かも……って思っちゃっても仕方ないかも知れないけどさ、たかが一ヶ月よ? 下手すれば二ヶ月になるかも知れないけど! それでも、一ヶ月二ヶ月の遅れなんて、遊ばないで頑張れば、ちゃ~んと取り戻せるの! プラスに考えなきゃ! マイナスにばっかり考えてたら、できる物もできなくなるわ!」

 高らかに宣言すると、由梨亜は端末へと視線を滑らす。

「ほら、今はそんなことを言ってる場合じゃないでしょ? 早く見なきゃ! 何てったって、私の異母妹いもうとの晴れ姿だもの!」

「あ、そうだったね……。ねえ、由梨亜……あれ、本当に由梨亜の異母妹? 性格違い過ぎるでしょ」

 げっそりした顔で言う千紗に、由梨亜は明るく笑い飛ばす。

「あら、それは仕方がないんじゃない? いくら腹違いの姉妹で乳姉妹でも、育った環境が違うもの」

 明るくころころと笑う由梨亜に、千紗達三人は苦笑する。

 ほんじょう由梨亜が、本当はうんきょうだということ――これは、睦月と香麻にだけは、打ち明けていた。

 富瑠美達は、きっと由梨亜を訪ねてくる。

 その時に、この二人にだけは隠し通すことができないと判断したのだ。

 けれど、両親である耀ようには、まだ何も言っていない。

 ただでさえも、娘だと信じていた者が娘ではなかったり、記憶が相当いじられたりしていたので、これ以上の衝撃を与えると、本当にどうなるのかが分からないと思ったからだ。

 だが、この先、様子を見て言うようにしようと決めている。

「さあ……始まるわよ。新しい未来への一歩が」

 そっと含み笑いをする少女二人に、少年二人は、顔を見合わせて苦笑を洩らしたのだった。




 富瑠美は、目の前に立つ人物に笑顔を向けてみせた。

 この映像は、地球連邦中に流されている。

 自らの好感度を上げておいて、悪くなることは何もない。

「それでは、本日は宜しく御願い致しますわ。ベルイマン大統領」

「い、いえ。こちらこそ、宜しくお願い致します。富瑠美陛下」

 少しおどおどとしている男を、富瑠美はとっくりと眺めた。

 この男が地球連邦の代表となってから、今年で四年目になる。

 地球連邦での大統領の就任期間は四年間なので、来年にはトップが替わってしまうのだ。

 だから、今の時点で条約を締結することの意義を問う声もある。

 けれど、この無益な戦いを収めるには、これしか方法がないのも事実だった。

「それでは、大まかなことは、既に決まっておりますし……早めに始めてしまっても、構いませんでしょうか?」

「え、ええ。勿論です」

 富瑠美はその言葉に頷くと、背後を振り返った。

 呼ばれた異母弟妹ていまい達は、富瑠美に頷くと文書を持ってくる。

 その姿に、地球連邦側の人間達は顔を顰めた。

 富瑠美はそれを目の端で捉えると、ゆったりと笑ってみせる。

「ああ。三人は、わたくしの異母弟妹ですわ。わたくしの父、花雲恭(ほう)きょうの第七子にして第四王女、第五王位継承者の花雲恭早理恵。同じく第九子にして第五王女、第七王位継承者の花雲恭些南美。同じく第十五子にして第七王子、第十三王位継承者の花雲恭柚希夜」

 富瑠美の紹介で、三人はそれぞれ名前が呼ばれるごとに会釈する。

「各大臣達には、王であるわたくしが抜ける以上、国の政務を執ってもらわねばなりませんので、ここに連れて来る訳には参りませんでしたの。その代わりと言っては何ですが、この三人に見届け役を御願いしたのですわ。おうだいじんである、異母妹の花雲恭()に来てもらおうかとも考えたのですが、彼女は大臣としての仕事が忙しく、残念ながらそういう訳にはいきませんでしたの。ですから、役職に就いていない王族の中で、こちらに来たいと望んだこの三人を御連れした次第に御座います」

 堂々とした言葉に、地球連邦の人間は、顔を見合わせる。

 そして、富瑠美は彼らに向かってにっこりと微笑んでみせた。

「地球連邦の方々。そちらにはそちらの事情がありますように、こちらにもこちらの事情がありますの。貴方方にしてみれば、こんな子供が――それも、成人すらしていない者が、見届け役の一員としていることに不快感を覚えるかも知れませんが、こちらにしてみれば、王族がわたくし以外誰もいない中で結ばれた条約に、不平不満を感じる方が出ないとも限らないのです。ですから、どうか御承知下さいませ」

 頼む口調ながら、会釈程度にしか頭を下げない――最早、首を傾げているのと同等な程度の角度のそれに、富瑠美が生まれ付いての王族なのだということが知れ得る。

 両者間に流れた冷たい空気を払拭したのは、連邦議長のジャック・エンダーレンスだった。

「さて……諍いはそこまでにして、次に進めませんか?」

 さすがは年の功と言うべきか、議会の議長を務めていると言うべきか、その言葉に空気が緩んだ。

 その様に、富瑠美は思わず息をつく。

 驕りではなく、自分は決して無能なだけの君主であるとは思わないが、それでもこういうことはできない。

 そこのところは、まだ十代の子供だということなのだろう。

「さて……それでは、和平条約の内容の確認を」

 その言葉で、この長い時間が始まった。

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