表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時と宇宙(そら)を超えて  作者: 琅來
第Ⅲ部 心の置き場所は
62/71

第五章「そして、戦いの時」―3

 は、ふとニュースを見てスプーンを取り落とした。

 他の誰でもなく、富瑠美が(・・・・)それをやったということは……考えられないほどの衝撃があったということを意味する。

「お姉様? 一体、何が――」

 は富瑠美の見ているニュースを見て、口を噤む。

 その目は、驚愕に見開かれていた。

「どう、して……」

「もう、おうこくが……?」

 その時、が部屋に入って来た。

 そして、強張った二人の表情を見て、首を傾げる。

「姉上? 一体、どうかなされたのですか?」

 柚希夜は二人が見詰めている画面に目を移し、顔を引き攣らせた。

 そして、二人に声を掛ける。

「……姉上。部屋に戻りませんか?」

「え、ええ……」

「そう、ですわね……」

 二人は席を立つと、富瑠美の部屋に集まる。

「富瑠美異母姉上(あねうえ)。一体、どういうことですか? これは」

 まず、柚希夜が富瑠美に詰め寄った。

「そ、そんな……わたくしは、何も聞いてはおりません……」

「何故です。富瑠美異母姉上は王でしょう。王なのに、それは何です?」

 柚希夜の声は、今まで聞いたことがないほどに険しかった。

異母姉上が、今富瑠美異母姉上の身代わりをやっておられるのですよね? 富瑠美異母姉上、早理恵異母姉上にすぐさま連絡を御取り下さい」

 その言葉に、思わず富瑠美は目を泳がせる。

 柚希夜は、すっと目を細めた。

「……まさか、連絡を取る手段がない、などと仰せになるのではありませんよね?」

「…………」

「本当ですか? 何故、確認しなかったのです。このようなことになるかも知れないと、一度も御思いにはならなかったのですか?」

 柚希夜の言葉に、富瑠美は返事ができなかった。

 確かに……これは、自分の不手際でしかない。

 その時、些南美が柚希夜と富瑠美の間に割って入った。

「そこまでになさい、柚希夜。確かに、確認しなかった富瑠美御異母姉様(おねえさま)が御悪いのかも知れませんが、それはもう過ぎたことですわ。反省しないのは問題でしょうが、それでも、今はそんなことをしている場合では御座いませんわ。反省するよりもまず何より、今はどのようにして早理恵御異母姉様と連絡を取るのか、そして地球連邦を出るのかを決めなければなりませんわ」

 咄嗟に不満そうな顔をする柚希夜に、些南美は真剣な顔で言い聞かせた。

「御忘れですの? ここは異邦の地。わたくし達は、ここの方々にとっては敵ですわ。それも、王族。早くここを出なければ、わたくし達の命が危ないですわ。……それに、わたくし達はともかく、富瑠美御異母姉様は王なのですから。ですから――」

 その時、荒々しい足音が聞こえ、三人は顔を強張らせる。

 突然部屋の扉が開け放たれたかと思うと、険しい顔をした大人が入って来た。

 彼らが連れているのは……『本物』のルーレ・ウォンレット、ルーリ・ウォンレット、ルーマ・ウォンレットで、その後ろには、彼らの両親であるウェンリス・ウォンレットとオリガ・ウォンレットがいる。

 三人は、固まったまま動けなかった。

 本当の彼らがいるという、そういうことは、つまり――

「ばれた、そういうことだ。偽者の貴族ども」

 まるで、三人の思考を読んだかのように、先頭に立った男性が口を開く。

「全く、リャウラン国の王子と王女などと、嘘までついて、よくぞここまで乗り込んで来たものだ。ウェンリス・ウォンレットもオリガ・ウォンレットも、本当に馬鹿だな。みすみす懐に害虫を招き入れるなど」

「この時期にこのような者が来ることは、分かり切ったことではないか」

 その言葉に、三人は肩を竦める。

 いくら何でも、十八と十六と十五の子供には、やれることがなかった。

「全く、この為だけに整形するとは。狡猾なことだ」

「しかも、こんな子供が。地球連邦も、舐められたものだな」

「しかし、残念だったな。こちらの勝算は高い」

「それに今日、初めて全国民に、花鴬国とは交戦中だということが発表された訳ではない。半月前に発表は済んでいる。だが、其方らのような人間がここにいることを警戒して、イギリス州では発表していなかっただけだ」

「其方らは、さぞ驚いたことだろうな」

 その言葉に、三人は度肝を抜かれる。

 交戦状態に入っているということだけでも驚いたのに、それが最低でも半月は前から。

 つまり、早理恵の所に行こうとしても、最早不可能だったのだ。

 三人はただ大人達の怒号に身を縮めていたが、そこに、場違いなほどに明るい声が響いた。

「あ~、はい、はい。そろそろ気が済んだかしら?」

 その声に、三人は顔を見合わせる。

 もし、自分達の聞き間違いではなかったら、この声は――

「ほら、いくら敵国のスパイかも知れないって言っても、まだ十代の女の子男の子相手に、そんなことしないでよ? ほんっと感じ悪いけど? こっちが悪者に見えてくるし」

 ……この声も、やはり聞き覚えがある。

 三人の目の前に、ほんじょうと本条()が現れた。

 ……しかも、何とも暢気な笑顔を浮かべて。

 三人は自らの状況を忘れ、思わず二人の顔を見詰めたまま放心する。

「じゃあ、そういうことで……任意同行、って言ってもいいのかな? 来てもらってもいいかしら?」

 その口調は強制をしている物ではなく、ただ単に訊ねているだけの物で、三人は顔を見合わせる。

 だが、その言葉に最も反応したのは、大人達の方だった。

「なっ……!」

「ば、馬鹿なことを言うな!」

「あんた達、さぁ……」

 千紗が、頭を掻きながら言う。

「一体、誰のお蔭で(・・・・・)、ここまで来れたと思ってんの?」

「そうよ。もし私が何にも言わなかったら、自分達だけで捜さなきゃならなかったでしょう? どこの誰が、っていうところから含めて。あ、そっか。最初っから言わなきゃ良かったのよね。そうすれば、三人とも何にもなかったでしょうに」

「なっ……! お、お前は、それでも地球人かっ!」

「そうよ。それに、主義主張は人それぞれでしょう? 偶々(・・)()が、協力してくれたから良かったものの、もし私がいなかったら……どうなってたと思う? 花鴬国に全っ然敵わなくって、すぐに降参してたに決まってるわよ。私がいるから、そして私が協力しているから、地球連邦は、辛うじて、花鴬国と引き分けでいれるのよ? もし三人に酷いことをするって言うなら、私は軍に協力するのをやめるわ。勿論その場合……」

 由梨亜は、懐から黒いケースを出す。

 三人は、それを見て目を瞠った。

 それは、二人と最後に会ったあのパーティーで、二人がふた達に渡していたあのケースだったのだ。

「これは差し上げるから、どうぞご自由にお使いなさって構いませんけれど?」

 その言葉に大人達は顔を歪める。

「そんなことを言っても、所詮それはお前しか使えないだろう!」

「ええ。でも、私には、あんまり必要のない物ですから、どうぞご自由に。これを使いたいなら、使える人を捜して下さいね? あ、勿論、私以外で」

 ……何故か、手を引くことを前提とした話し方になっている。

「それは、一体……何なのですか?」

 柚希夜が、由梨亜達に向かって慎重に問い掛ける。

「これ? う~ん。知っているかどうかは、ちょっと微妙だなぁ……あ、でも、これに似た物だったら、知ってると思うわ。花鴬国の人間なら、ね」

 由梨亜は含み笑いをすると、ケースの中から鏡を取り出した。

 富瑠美達はそれを見た途端、サッと顔色を蒼くする。

 今の、由梨亜の含み笑いが分かった気がした。

 そう、花鴬国の人間ならば、絶対に分かるだろう。

「もしや……きょかいきょう、ですか?」

「う~ん、それと近い物ね。去解鏡プラスアルファ、ってことかしら?」

 その言葉に、些南美と柚希夜は首を傾げる。

 去解鏡の能力に、上乗せされていることとは……一体、何なのだろうか。

 いや、それよりも、問題は――

「あ、あり得ませんわ! 去解鏡は、もっと大きくなければ、その効力を発揮致しませんもの! そんな手鏡ほどに小さければ、精々が、半径数十キロも視ることができれば優秀なくらいでっ……!」

「さすがねぇ。でも、不思議なことにこれは、そういった距離は条件の中に入ってないのよ。つまり、ここからでも、花鴬国のことは探れるの」

 由梨亜は悪戯っぽく笑い、三人は思わず呆然とする。

 どんなに優秀な去解鏡だとしても、たった一光年離れているだけで、その場所のことは探れないのだ。

 それなのに……一光年どころではなく離れている場所のことを、ここからでも探れる?

 常識的に考えてもあり得ないが、由梨亜の表情は真剣だった。

「聞いたことがない? これ……げんかいきょう、って言うの。花鴬国でも、相当珍しいと思うけど、貴方達なら、知ってるんじゃない?」

 千紗が横から挟んだ言葉に、三人は戦慄した。

「ま、さか……」

「そ、んな、嘘……嘘ですわ!」

「ま、まだ現解鏡は、試作段階なはずっ……!」

「え、そうなの? それは知らなかったわ」

 千紗は目を瞬くと、にっこりと笑う。

「で、やっぱり知ってたのね? これ、相当機密情報のはずだけど?」

 その言葉に、三人は思わず息を呑んだ。

 確かに……思い掛けないことを言われて、油断してしまった。

「じゃあ、これくらいの情報でいいでしょ? あとはそっちで勝手に探って」

 千紗はそう言うと手を振り、大人達を追い払ってしまった。

 富瑠美と些南美と柚希夜は、唖然としてそれを見守る。

「じゃあ、そういう訳だから……貴方達をここにいさせる訳にはいかないの。だから、しばらくあたし達の泊まってる所で我慢してもらってもいい?」

「何故……何故、そのようなことを……」

 富瑠美が呆然と呟くと、千紗は慎重に辺りを見回し、誰もいないことを確認してから、小声で言う。

「それは……貴方達が、由梨亜の弟と妹だから、かな? それに、これは貴方達の責任じゃないし」

 その言葉に、三人は息を呑んだ。

 富瑠美と柚希夜は、自分達のことに気が付いていたのだ、ということと、千紗は双子の妹となっている由梨亜が、本当はだったと知っていたのだということで。

 そして些南美は、本条由梨亜がうんきょう富実樹だと知って。

「まさ、か……富実樹御姉様? 富実樹御姉様なのですかっ?」

 些南美は、思わず由梨亜に詰め寄った。

「ええ。ごめんなさいね、些南美、富瑠美、柚希夜。今まで、ずっと黙ってて……」

 由梨亜は、あの頃の富実樹の笑みを浮かべる。

「さあ、こっちに来て? 事情はおいおい説明するから。あ、あと一つだけ言っておくけど、この現解鏡は本物だから。そして、私が軍に協力していることも」

 その言葉に、思わず三人は戦慄した。

「ごめんなさいね? でも、今の私は花鴬国の王でも王女でもなく、地球連邦の貴族だから。まあ……だから、貴方達に酷い目を見させなくても大丈夫なんだけど」

 由梨亜はそう言うと、三人に手をかざす。

 そして、一分経つか経たないかのうちにまた手を下げ、満足そうに頷いた。

「どう? これで、貴方達だとはばれないわ」

 その言葉に、富瑠美と些南美と柚希夜が顔を見合わせると、三人の顔は、ウォンレット家の子供の顔でも、勿論本当の顔でもなくなっていた。

「ふ……ふふ、富実樹御姉様……ま、まままさか、こ、これはっ……!」

 些南美が盛大にどもりながら由梨亜を見上げると、悪戯っぽくウインクを返される。

「実は、魔力を持っているの。私」

「貴女達の曾お祖母さん、すっごい魔族の力を持った女王様だったんでしょ? だったら由梨亜にその力が、断片的にでも受け継がれていても可笑しくないって思わない?」

 千紗に言われ、思わず些南美と柚希夜は唾を飲み込む。

 富瑠美にとっては初耳ではないが、この二人は違うのだ。

 ただ呆然と突っ立っていたが、千紗はそれを気にした様子はなく、パンと手を打った。

「ほら、あたし達が泊まってる所に行こう? ここじゃ落ち着いて話せないよ」

 千紗はそう言い、三人を促した。

 由梨亜もそれに乗り、五人は部屋を出て行ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ