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時と宇宙(そら)を超えて  作者: 琅來
第Ⅲ部 心の置き場所は
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第四章「憂慮」―2

「さて。二人は、今日中に向こうへ戻らねばならないのではないですか?」

「あ、まあ……それは、そうですが……」

「でも、こちらの時間で明日の午前中いっぱいは、大丈夫ですわ」

「……あの、……」

「何でしょう?」

「ここの時間で午前中いっぱい、ということは、時差と移動時間を計算すると、シャンクランでは、お昼近くまでの休みを取っているのでは?」

「はい。マリミアン様に会ったら、絶対に話が長引くと思いまして、それくらいは休みを取らなければと思いまして。あ、でも、休みの前借りをしただけですから、何ら問題は御座いませんわ」

 その言葉に、マリミアンは思わず苦笑した。

(血かしらね……これは。こんな無茶なところは)

「分かりましたわ。では、二人とも、もうしばらくはここに滞在するのですね?」

「はい」

「全く、無茶をしますわね……。少しはを見習いなさいな」

 思わず、マリミアンの口からそんな言葉が漏れた。

「え?」

「何故、柚希夜なのですか?」

「あ……そう、でしたわね。柚希夜は、隠していたのだったわ……」

「隠して、いた?」

 その言葉に、マリミアンは自分の迂闊さを笑いながら言った。

「ええ。柚希夜は、とても頭がよいのです。そして、実はとっても計算高い。恐らく、貴方達十五人の中で、最もずる賢く、そして何が起こっても冷静でいられ、そして……国政の裏を見ても平然としていられるのは、柚希夜でしょうね。でも、柚希夜はそれを隠しているのですから、そこを突っ込んでは駄目ですわよ? 恐らく……柚希夜は、貴方達の為を思ってそれほどまでの能力を身に付け、そして隠しているのですから」

 マリミアンにあっさりと言われ、二人は脳裏を凍り付かせた。

「そんな……まさか、柚希夜が?」

「ええ。……とにかく、落ち着きなさいな、二人とも」

 マリミアンは苦笑すると、立ち上がった。

「さて、貴方達が来たのなら、今日はもう仕事にならないわ。同居している子達を紹介するから、ここで少し待っていて下さいな」

 マリミアンは笑顔でそう言うと、そのまま部屋を出て行った。

 部屋に残されたと麻箕華は、顔を見合わせる。

「……杜歩埜御異母兄様(おにいさま)

「……何だい? 麻箕華」

「何だか……凄いですわね、マリミアン様の御子様は」

 その言葉に、杜歩埜は怪訝な顔をする。

「それは、どういうことだい?」

「だって、御異母姉様おねえさまは、言うまでもないでしょうけれど……その、とても行動力がおありで、決断力と度胸を兼ね備えておられる御方で、その上、十三の歳になられるまではずっと地球連邦におられて、しかも一年半前に行方不明と、なられて……」

 その言葉に、杜歩埜はだんだんと目を逸らす。

 確かに……麻箕華の言う通りだ。

 しかも、それに加えて杜歩埜は、富実樹がそれなりの強さの魔力も持っていたことも知っている。

 麻箕華は、『富実樹が行方不明となった』と言ったことで沈んだ気を上げ直した。

御異母姉様は、杜歩埜御異母兄様を大変好いておられますでしょう? それも、幼い頃から両想いでいらっしゃって」

 その言葉に、杜歩埜はほんの少しだけ顔を赤くする。

「そ……そこは、言わないでほしいな、麻箕華」

「何故です? わたくし、御二人のことには十歳の頃から気付いていましたわよ? ええ、気付いていましたとも。最も、どこか変に、少し可笑しいと感じたのは、それよりも一年は前でしたけれど。他の兄弟も皆、このことにはわたくしと同じ頃か、それよりも早く知っておられていましたわよ? 御異母姉様以外は」

「…………」

 その言葉に、杜歩埜は返す言葉がなかった。

「それと、富瑠美御異母姉様も。富瑠美御異母姉様は、十歳の頃まではマリミアン様に御育てされていらっしゃったので、マリミアン様の御子様であると申してもよいでしょう? そこから考えますと……あの、今回のことを考えると……何と申しますか、さすがはマリミアン様が御育てになられた方だと思いますわ。それに柚希夜も、本当に驚きましたわ。まだ、本人に確認をした訳では御座いませんけれど、マリミアン様は、柚希夜の御母様であらせられるでしょう? そう考えると、柚希夜の『本当』に気付いていても、可笑しくはないのかと思いますわ……」

 その言葉に、杜歩埜は首を傾げた。

「柚希夜の、『本当』?」

「ええ。わたくし、今まで柚希夜のことは、優しくて、穏やかで、どこかのんびりしているような異母弟おとうとにしか思っておりませんでしたもの。マリミアン様の仰るように、頭が良く、計算高く、ずる賢くて、冷静で、国政の裏を見ても平然としていられるようには思えませんでしたわ。……いいえ、今でもそうです。政の裏などを柚希夜が見たら……多分、傷付くと思っていました。……柚希夜は、わたくし達にずっと隠していたのですね。『本当』を、見せないで……。柚希夜は末っ子だから、皆からの関心が薄くて、だから隠せたというのもあるでしょうが、それはそれで、悲しいことですわね……」

 麻箕華の言葉に、杜歩埜は何とも言えない顔をした。

「確かに、私も知らなかった。何も。何一つとして。ただ……」

「ただ?」

「何となくだが……柚希夜は、私達の前と富実樹異母姉上(あねうえ)の前では、態度が違っていたような気がする。富実樹異母姉上の前では……何と言うか、あまり気を張っていないような、安らいでいるような気がした」

 その言葉に、麻箕華は顔を歪めた。

「富実樹御異母姉様……一体、どこにおられるのでしょうか? 富実樹御異母姉様がおうこくにいらっしゃったのは、合わせても四年になりませんが、やはり一番上の御異母姉様なのですよね……。こうして考えると、本当に、偉大な御異母姉様だと思いますわ。だって、わたくし達と一緒にいた時間は、そんなに長くない――いいえ、むしろ、兄弟達の中では最も短い付き合いでしたわ。でも……柚希夜を安心させることができ、それに……富実樹御異母姉様が王位に御即きになられたのは、花鴬国に戻っていらしてから、たったの一年しか経っていない頃……まだ、たったの十四歳の頃でしたのよ? 今のわたくしよりも、一つ年下の頃には、王位に即かれたのです。わたくしには……とても無理ですわ」

「麻箕華……」

 その言葉に、杜歩埜はぎくりと肩を強張らせた。

「私達は……一体、いつの間に、富実樹異母姉上を頼っていたのだ?」

「杜歩埜御異母兄様……?」

 麻箕華は訝しげに眉を寄せたが、杜歩埜は空を見詰めたまま、愕然と、呆然と呟く。

「富実樹異母姉上が花鴬国に還って来られたのは、十三の時。そして、再び行方不明となられたのは十六の時。四年にも満たない、ほんの僅かな時間だ。なのに……その短い間に、私達は、富実樹異母姉上に頼り切っていた。王位に即かせ、精神的にも頼り切って、何かと言えば、ずっと富実樹異母姉上に持ち掛けて……。父上が御倒れになり、富実樹異母姉上も不安であっただろうに。全く、弱音も吐かず頑張っておられたのに、それに、私は気付かなかった……。どうして、気が付かなかったのだ? 私は……」

 杜歩埜は、唇を噛んだ。

「もしかしたら……富実樹異母姉上は、耐え切れなかったのかも知れないな。あまりの重責に。だから……もしかしたら、富実樹異母姉上は、わざと出て行ったのか……?」

 その言葉に、麻箕華は顔色を変えた。

「杜歩埜御異母兄様っ?! そ、そんな……嘘ですわ。そんなの、あり得ません!」

「だが、時期がちょうど良過ぎる」

 間髪を容れずに断言した杜歩埜に、麻箕華は眉根を寄せる。

「時期……?」

「ああ。富実樹異母姉上が失踪なされたのは、そうひょうかいの直後だ。しかも、富実樹異母姉上の考えが認証されたその直後。富実樹異母姉上としたら、もうこの国には思い残すことはない、とは思えないか? 今まで頑張ってきたから、もう充分だと、もうよいのではないかと思われても、仕方がないのではないか……?」

 その言葉に、麻箕華は顔を歪ませる。

「でも……それは、ただの推測でしょう? 富実樹御異母姉様からは、何も……何にも、聞いておりません。だから……そう断定するのは、まだ早いですわ。杜歩埜御異母兄様」

 その言葉に、杜歩埜は顔を沈ませる。

(だが……私が今言ったことが絶対に間違っているとする証拠も、何もない……。そう、富実樹異母姉上は、何も残してはいゆかれなかった……)

 二人が沈んだ時に、扉が開いた。

 そこから顔を覗かせたのは、マリミアンと、三人の年上の少女達だった。

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