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時と宇宙(そら)を超えて  作者: 琅來
第Ⅱ部 戦いの幕開け
36/71

第四章「再会」―1

「お~い、! もう荷物の準備は終わったのか?」

「終わったわ! の方手伝って来るから、こう睦月むつきも一緒に来て!」

「ちょっと由梨亜! 何言ってんのよ? あたしももう終わりましたぁ!」

「あら、千紗にしては珍しいじゃない。何? 天変地異の前触れ? あ、おうこくがもう攻めてくるとか?」

「そっちこそふざけたこと言わないでよ。言霊って知ってる? 口にした通りのことが起こるっていう力。もし本当に今日とか明日とかに花鴬国が攻めて来たら、由梨亜の責任だよ?」

「はぁ? 何言ってんのよ。そんなの関係ないじゃない。私はそんな言い掛かりに責任を持つ気はありませんっ!」

 二人が睨み合うと、睦月と香麻が割り込んで来た。

「まあまあ二人とも、ちょっと落ち着きなよ」

「今は時間ないんだろ? ほら、さっさとお義父とうさんに報告に行くぜ」

「はいはい」

「は~い……」

 四人は耀ようの元へと急いだ。

 今は、耀太からの衝撃的な話があってから一週間経っていた。

 彼らは地球連邦の首都、イギリスに集まることになっていた。

 最初はアメリカの方が、土地があるからいいのではないかとなっていたらしいが、やはり首都の方がいいとなり、日本州の上流貴族の中でも最も影響力の強い一族の直系数家族と、直系の皇族と天皇がイギリスに行くことになった。




「お父様! あたし達準備終わったよ!」

「ああ。早いな」

「早くなんかないわよ。それより、お父様とお母様は終わったの?」

「い、いや、その……」

「まだ終わりません。私はこれぐらいでよいと思うんですが……」

「奥様はこれでは多いから減らすようにと仰ったのですが、旦那様はこれでは少ないと仰って……」

「まあ、意見の相違ってやつね」

「う~ん……あたしはが妥当だと思うなぁ。これ以上増やしても余るだけだと思うし、減らすのもいざとなったら大変かも知れないし……」

「そうだなぁ。俺も千紗に賛成だ。というより、これだったら増やすよりも減らす方が妥当だろう」

「俺も同感だ」

 そう言われ、耀太は詰まり、も少し嬉しそうな顔ながらも詰まった。

「さあ、お嬢様方の賛成は頂けましたから、これでいいですね? 旦那様、奥様」

 と、長らくこの屋敷に仕えている、古参となってしまった執事のふうが言った。

 彼は耀太が産まれた時から仕えているので、耀太でも迂闊に逆らいがたい人物でもあった。

「ほら、お父様、お母様。お返事は?」

「……はい。これで、頼む」

「ええ。宜しくお願いします」

 その二人に風斗は頭を下げると、四人に向き直った。

「ところでお嬢様、お坊ちゃま、荷物はご用意できましたか?」

「あ、はい。できてます」

 身分で言えば千紗や由梨亜の方がこの風斗よりは高いが、どうもこの執事だけには反射的に敬語を使わざるを得ないような雰囲気があり、二人は風斗に無意識で敬語を使っていた。

「……それより風斗さん。俺らにお坊ちゃまは、やめて下さいって何度も言ってるんですが……」

「お気になさらず、お坊ちゃま。これはわたくしの趣味ですので」

 ……ズバリと言い切られた。

 睦月は言葉の持って行き先をなくし、ただただ沈黙していた。

 その二人の様子に、由梨亜はプッと吹きだして言った。

「さあ、二人とも。時間ないんだから、さっさと荷物取りに行きましょ?」

「あ、ああ」

「はい。畏まりました」

 そう言うと、沙羅といさむという召し使いが耀太と瑠璃の荷物を持ち、そして四人の荷物をれいすずりょうしょうへいに持つように言い、彼らを階下に送り出した。

「それでは、皆様。出発まであと一時間ほどありますから、お茶でも飲みますか?」

「ええ。風斗。お願いします」

 そう言うと、六人はソファーに座った。

「それにしても……とうとう、日本州を出るのね」

「うん……レイメーア大学はアメリカの方にあるから、その時に久し振りに出るのかと思ったけどさ……」

「ああ。俺も、日本の外には修学旅行とか……あと、家族旅行で一、二回? ぐらいかな?」

「俺もだ。何か、アメリカもイギリスも日本と同じ地球連邦っていう一つの国だけどさ……何て言うかな、滅多に行かないから、結構近い外国って感じすんだよね」

「まあ、それには地球連邦の歴史が関係しているだろうな。何しろこの星には、かつて二百国近い国々が存在していたし、この国は連邦制だから、そのせいだろう。だがそれと比べると、他の国はもっと『一つの星が一つの国』という意識が強いな」

「ふ~ん……じゃあ、地球連邦の方が、花鴬国と比べると不利だわ」

「あら、どうして? 由梨亜」

「だって、花鴬国は同じ国って意識強いから、戦いに協力しやすいでしょ? 国が協力を呼びかければ、それに愛国心の強い人はすぐ協力する。でも地球連邦の場合、州内での結び付きが強過ぎて、自分の住んでる州に対する愛情は強い。でも、国全体での結び付きとか、愛情とか……そういうのは、他国と比べると驚くほど稀薄なのよ。だから、まだ他国と比べると建国約四百年っていう新興国だっていうこともあるけど、国内の結び付きが弱いせいで、他国から侮られやすい。っていうか、完璧侮られてるわ」

「由梨亜、すご~い!」

「ああ。さすがだな。千紗より頭がいいだけある」

「こんなに頭がいい娘がいるって、何だか嬉しいわねぇ」

「ちょっと香麻、何よ。あたしと由梨亜はおんなじぐらいの頭の良さですからねぇ~」

 千紗と香麻と瑠璃の素直な称讃に対し、睦月と耀太の顔は険しくなった。

「なあ、由梨亜……どうして、そこまで知ってるんだ?」

 睦月のその問いに、由梨亜は少し間を空け、あっさりと答えた。

「ほら、私、中一の頃から三年半……だいたい四年ぐらい、かな? レイリア国で働いてたでしょ? その時地球連邦の出身だって言って働いてたんだけど、私の年齢での差別よりも、地球連邦出身ってことでの差別の方が強かったわ。他国出身の同い年の子と私が同じとこで働きたいって言ったことがあるんだけど、あと一人しか雇えないって言われてね、試験を受けたんだけど、結局その子の方が採用されたの。それは純粋にそこで必要とされていた才能での問題だったんだけど、そこを出る時にその子が言ったの。

『結局、あたしの方が採用されたわね。所詮は地球連邦出身ってことなのかな。貴女は知らないようだから、教えるわ。あたしも最初は、貴女が地球連邦出身だってことで貴女に対する差別感はあった。だけど、貴女自身を知って、それは偏見だって分かった。でもね、みんながみんな、そういう人だとは限らないわ。貴女が地球連邦出身ってだけで、貴女自身を見ようともしない。差別される。いじめられる。だから、こういう採用関係以外では、信用できる人以外には地球連邦出身だってこと、自分から積極的に話さない方がいいわよ』

 って。確かに、それは正しかった。私はその後も採用試験を三回受けたんだけど、そのうちの二回は、地球連邦出身だってことで断られたわ。つまり、地球連邦に対する諸外国の見方は、それぐらいまで厳しいってこと」

「……由梨亜。よく、そこまで悟ったな」

「ありがと。でもこれぐらい、外国に長期滞在した地球連邦人なら、全員分かるはずよ。よっぽど鈍い人じゃない限りね」

 由梨亜はそう悪戯っぽく言い、誤魔化した。

 花鴬国を出て、早二年。

 たまに地球連邦の人が知らないようなことを口走ることがよくあったが、由梨亜はそれを誤魔化す術を身に付けていた。

 花鴬国では、自分の考えは受け入れられない。

 だが、花鴬国で過ごした日々のせいで、由梨亜の中には花鴬国の考えも入っていた。

 そのせいで、時々このように感心されたり、奇異の目で見られたりする。

 大勢の人に、異端視されるのは辛い。

 深い悲しみを覚えもする。

 だが、自分の大切な人が認めてくれるのなら、決して不幸せではない。

(私は……私の大切なものを護る。たとえ危害を加える者が、血を分けた兄弟や、父や母であろうとも、決して、私は……)

 そして、穏やかな一時は、流れ去って行った……。




「皆様、着きました。ここが、これから私達が泊まる所です」

 風斗の声で、乗り込んでいた人は車を降りた。

 千紗は降り立ってすぐに辺りを眺め回したが、誰も道を歩いていなかった。

 それもそのはず、この州に住んでいた庶民は、最低限必要な人を残し……と言っても、ほんの数百人程度を残し、他の州に移っていたのだ。

 なので、ここの住民はほとんど貴族という、離れ小島になっていた。

 ただ、彼らは自らの栄華を極める為ではなく、いざとなったら命を投げ出す為――ノブレス・オブリージュを果たす為に来ているのだが。

 他の、多くの人達を護る為に……。




 千紗は、用意された部屋に入ると、ベッドの上に倒れた。

「ねぇ、由梨亜! ここのベッド、フカフカで気持ちぃ~!」

「はいはい。ほら、さっさと荷解きしちゃいなさい」

「は~い」

 二人の為に用意されたのは、二十畳ほどの洋室だった。

 もともとここはホテルだったらしく、部屋の中にトイレとお風呂も付いていて、特別用のない時はずっと部屋の中にいれた。

 さて、ここに来たメンバーだが、『ほんじょう家』という括りで見ると、本条家として来たのは僅か八人、千紗、由梨亜、睦月、香麻、耀太、瑠璃、風斗、れいという、女性の中で最も古参の召し使いだけだった。

 ちなみに他の部屋は、睦月と香麻、耀太と瑠璃、風斗と澪という部屋割りになっていて、他にも日本州から来た人も泊まっていた。




「ふぁ~あ~。退屈ぅ~……」

「千紗、そんなこと言っちゃ駄目じゃない。だって、お父様やお母様達は、連日ご挨拶に行ってるのよ? 私達が暇なのは、まだ平和な証拠。いつ、花鴬国が攻めて来るのか分からないんだからね」

「由梨亜はそう言うけど、香麻に逢えなくて淋しくないの?」

 千紗の拗ねたような問い掛けに、由梨亜は詰まった。

「そ、そりゃぁ、寂しいわよ。でも、二人はお父様とお母様に付いてなきゃいけないし……私達がぐうたらしてられんのも、あともうちょっとだけだし……」

 由梨亜は呟くようにして言うと、窓の外を眺め続けた。

「何よ、あともうちょっとって」

「何、お父様から聞いてなかった?」

「何が」

「私達、あと何日かすれば天皇陛下のご一族と面会するんですって」

「え……そうなの?」

 固まってしまった千紗に、由梨亜は笑って答えた。

「ええ、そうよ。お父様達が今いないのは、他の貴族の人の挨拶回りに行ってるからだけど、他の貴族もやってるし、天皇陛下もやらないって誰が決めたの? さすがに天皇陛下が挨拶して回るのは無理だから、少しずつ呼んでるんですって。で、確か……そうそう、明々後日だったっけ? 明々後日の、午後にうちが面会予定だって言ってたわよ」

「……何で、もっと早く言ってくれなかったのぉ?」

「あ、ごめん。完璧、忘れてた」

 由梨亜のその言葉に、千紗はガクッと脱力した。

「ねぇ、由梨亜。それって忘れることじゃないでしょうっ! あんた、わざと黙ってたね!」

「え~。何のこと~?」

 そう言いながらも、由梨亜は千紗と距離を取っている。

 顔はニコニコ笑っているが、目線は鋭い。

 千紗はそんな由梨亜の様子を見て、こちらもまた顔はニコニコ笑いながら言った。

「ふぅ~ん……そこまでの覚悟があるってんなら、上等じゃないの。あたしと勝負したいって訳?」

「ええ。やっぱり千紗の言う通り、ちょっと暇で体が鈍りそうだったもんでねぇ」

 二人はそう言うと、部屋を出ようとした。

 この部屋で取っ組み合いをするには、少々狭かったのである。

 だが、由梨亜が扉を開けた途端、目の前に澪がいた。

「あら? 澪、どうしたの?」

「ええ。お嬢様達に、お客様がいらっしゃってます」

「お客様……?」

「どう言うこと? 澪。あたし達にお客様って」

 千紗の疑問に、澪も首を傾げた。

「さぁ……? どなたかまでは私も分かりませんが、お嬢様達と同年代のご令嬢達です」

「あたし達と、同年代って……どう言うこと?」

「取り敢えず会ってみましょうよ。その人は、名前を言わなかったの?」

「はい。誰が来たか分からなくして、ちょっと驚かせてみたいと……」

「ふぅ~ん。じゃあ、行きましょ、千紗」

「うん、由梨亜」

 二人は先程の言い争いを忘れたかのように、仲良く澪の先導について行った。

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