序章「密談」
そこには、十名ほどの人がいた。
「御決断下さいませ、陛下」
「ですが……もう少し御願い致します。そうすれば、変わるかも知れません」
「そう仰って、既に一年が経とうとしておりますぞ、陛下。どうか、御決断を。第一、陛下は鴬大臣であらせられた時、こちらの意見を提示した張本人では御座いませぬか」
「ですが……」
富瑠美の、躊躇うような、迷うような声音に、自信たっぷりの声が答えた。
「我らがかの国へと通達してから、既に一年が経ちます。しかし、彼らは未だに返事を致しておりません。新戦祝大臣と成られたシャーウィン・リシェル・スウェールも準備を進めており、新兵器も開発を重ね、充分に力を発揮できます。ですから陛下、御許可を。御許可を頂けるのでしたら、私は、貴女の願いを一つだけ叶えて差し上げましょう。――陛下、これは取り引きに御座います」
宗賽大臣、シュールの言葉に、富瑠美はガタッと立ち上がった。
新兵器の開発は、寝耳に水の話らしい。
「それが……それが御前の思惑なのですか! 宗賽大臣っ!」
眦をきつくする富瑠美に、シュールは嘲笑した。
「思惑とはまた、人聞きの悪い。私は元々、富実樹先王陛下が御提案なされた方ではなく、陛下が御提案なされた方の支持者だったということですよ。事実、総票会で私は、陛下の方に票を入れましたし」
「陛下。貴女は、もう引き返せませぬぞ。拒否などをするのにも、既に時が経ち過ぎております。残念ながら、それは御気付きにならなかった陛下の御怠慢とでも言うべきものに御座います。御諦め下さいませ」
追い打ちのように官僚が声を掛けると、富瑠美は拳を震わせて吐き捨てた。
「もう、いいっ! どうせ、わたくしは飾り物の王。先王陛下ほどの実行力も決断力もありませんっ! どうせ飾り物なのだから、わたくしに断らず、御前達で好きになされば宜しいでしょうっ!」
富瑠美はそう言い捨てて部屋を出て行き、部屋に残った面々はほくそ笑んだ。
……計画が、動き出した。
二年前から、練りに練られた計画が。
「さて、と。陛下を黙らせたことだし……次は、地球連邦の反応が楽しみであるな?」
「はっ。仰せの通りに御座います」
その場には、新戦祝大臣のシャーウィンも、新政財大臣のウォルトもいない。
だからこそ、このように本来なら三番目の地位にあるシュールが一番権力を握っている。
彼を止められる人物は、今のところ唯一人――先々王に当たる花雲恭峯慶だけであったが、彼は植物状態で、一年ほど前に暗殺されかかってから、一度も目を開けたことはない。
その為、既に王宮ではなく国立病院にいた。
他のまだ生きている王族で、王や鴬大臣を勤めたことのある――つまり、政の経験が豊富な人物は、もう、誰もいない。
「どう料理しようかな? 地球連邦の民を」
独り呟いたシュールの言葉に、誰もが頭を垂れた。
今、この王宮では、彼の言うことが絶対だった。