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時と宇宙(そら)を超えて  作者: 琅來
第Ⅰ部 それぞれの居場所
25/71

終章「そして、二人は……」

、そういえばさ、どうしてこっちに還ってきたのか、詳しい理由訊いてなかったよね? 何で?」

 由梨亜が戻ってきた次の日、は庭で訊いた。

「ええ。あのね、私は今、こうして千紗と普通に喋ってるでしょ?」

「うん。それが?」

「そのこと自体が、おうこくじゃ……その中でも、王族、貴族とかでは信じられないことなの」

「はあっ?」

 千紗が目を瞠って裏返った声を上げると、由梨亜はくすくすと笑い、冗談めかして言った。

「びっくりでしょ。私はカサミアン宮で、王族としての言葉遣いやら儀礼作法やらを色々叩き込まれたわ。異母妹いもうとや私の婚約者で異母弟おとうと、あと妹のとか、弟のとか、とっても私に親切な弟妹達から教えてもらったんだけど、その中でもこういう風には喋らなかったわ。どんなに仲のいい兄弟でも、『~で御座いますわ』とか『~ではないでしょうか』とか『~ですわ』とか、女性だったら『わたくしが~』とか、男性だったら『私が~』とか、ほんっとうに舌噛みそうになる言葉遣いなの。それが窮屈だったのが理由の一つ。あと、私達地球連邦の考え方と、花鴬国の考え方がすっごい違ってたのも。私達が普通って思う考え方は、花鴬国じゃ平和的な考え方、消極的な考え方なの。私が花鴬国に来てからそういうことは感じ取ってたけど……あのね、花鴬国にはどうしても意見が纏まらなくって二つに割れちゃった場合、そうひょうかいっていうのが行われるの」

「総票会? 何? それ」

 千紗は、眉を寄せて首を傾げる。

 由梨亜は少し眉根を寄せてから、千紗の為に、わざわざ噛み砕いた説明をした。

「総票会っていうのは、最終的にどっちの意見を支持するかっていうのを決める場で……まあ、普通の選挙を小規模にしたような感じね。けど、それに投票できるのは十五歳以上の王族、宗教家、貴族、官吏、学者だけ。その前には色々意見交換とかあるんだけど、その大人数が全部揃うのは総票会が最初で最後。そこで最終論説を行って、最終的にどちらかに投票するの。そして……三日前ね、『地球連邦を宇宙連盟に加盟させる為、武力か話し合いか』というテーマの総票会があったわ。だけど、そこで私が示した考えは、他の誰も考え付かなかった考えだったの」

「どういうことを言ったの? 由梨亜は」

「『もし戦争が起こったとしたら、必ず戦死者が出る。そしてその身内は嘆き悲しむことになる。まだ戦勝国は勝ったという事実に慰められるが、戦敗国は違う。必ず憎しみが襲い掛かってくる。だからそういったことの前に、できれば話し合いで解決すべきだ』って」

 由梨亜はそれを言ってから、少し顔を顰める。

 その時のことを、そしてその意見を言った時の周囲の反応を、思い出したのかも知れない。

 けれど、千紗はそれが分からなかったのか、怪訝そうに首を傾げ、唇を尖らせた。

「まあ、それは……普通じゃん。頭がいい人なら、想像力が豊かな人なら、誰でも考え付くでしょ?」

 千紗の疑問に、由梨亜は静かに首を振り、しんみりと告げた。

「だけど、花鴬国では違うのよ。花鴬国の辿って来た歴史上には、戦争に負けるという史実がほとんどないから。だから、花鴬国で必要とされるのは、富瑠美みたいな考え方を持った王なのよ。私はあの総票会では勝ったけど、それはきっと、みんなが目新しい考え方に惹かれただけのことだわ。私は、あの国には必要ない。それに千紗に逢いたかったし、こうにも逢いたかったし、何より戻る方法が見付かったんだもの。戻らない人がいたら、そっちの方が可笑しいわよ。千紗もそう思うでしょ?」

 由梨亜が肩を竦めて訊ねると、千紗は笑い、由梨亜と同じように肩を竦めてみせた。

「だね。でも、由梨亜のお陰であたしは、元の記憶を取り戻せて良かったよ。そういえばさ、由梨亜。一体いつの間に、香麻と付き合うだの何だのっていう話になったの? あたし何にも聞いてなかったから、すっごくびっくりしたよ」

「ああ、そう言えば、すっかり忘れちゃってたわね」

 千紗は、思いっきりずっこけた。

 その突然の動作に、由梨亜は思わず目を瞠る。

「だ、大丈夫? 千紗」

 千紗はしばらく呻いていたが、キッと由梨亜を睨み付けるように見上げ、うっすらと目に涙を滲ませながら叫んだ。

「由梨亜! 忘れちゃってたはいくら何でもないでしょっ!」

 千紗に怒鳴り付けられた由梨亜は、首を竦めた。

「ご、ごめん……でもね、私が香麻に告白したの、過去に行った、ちょうどあの日なの。お父様に婚約者候補達のことを聞かされて、あの時、ちょっと自棄になっちゃっててね。それで朝、もう振られてもいいって思って、決死の覚悟で香麻を呼び出して告白したら、受けてもらえたのよ。とっても……とっても、嬉しかったわ」

「へ~え。そうだったんだあ。良かったね、由梨亜」

「ええ。だから、本当はあの時、屋上で言うつもりだったの。だけど、言う前に過去に飛ばされるし、そこで本当の出生を知って、もう地球連邦に戻れないって……香麻にも、もう二度と逢えないって知るし――。……本当は、もう諦めてたの。でも、こうして戻って来ることができたし……正直言って、嬉しいわ。花鴬国の家族を、見捨てた、ってことには、なるんだけど……でも、それでも、戻って来て、良かったって……そう思う」

 しんみりと言った由梨亜に、千紗は少し気まずげな表情をした後で、わざと笑い飛ばすように、由梨亜の背中を一回はたいた。

「まあ、『終わり良ければ全てよし』って言うし、今がいいんだからいいんだよ、きっと! 花鴬国の人達には気の毒だけど、由梨亜は、こっちの方がいいんでしょ? だったら、それで間違いはないよ。由梨亜が家族でも、全部を義理立てする必要なんかないもん」

 千紗はそう言うと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「……それにしても、由梨亜、あんな状況でよく香麻に告白したよね。信っじられない。あの、清楚で優雅なお嬢様が、さ」

 その言葉に、由梨亜が頬を膨らませた。

「べ、別に、いいじゃないの。告白くらい。個人の勝手でしょ? それとも何? 私が香麻に告白して付き合うことになったこと、一度も千紗に言ってなかったからって僻んでるの?」

 由梨亜がふざけて喧嘩腰で言うと、千紗は苦笑して両手を上げた。

「僻んでなんかないよ、由梨亜。だけど、ちょっとは拗ねたくなったけど。でもまあ、しょうがないっては分かってるよ? 確かにあの状況じゃあ、そんなことは言えないしさ。あたし、あの時はもう、何が何だか分からなかったもん」

 千紗はそう言うと、芝生の上に寝っ転がった。

「う~ん。気持ち~い!」

「そう言えば千紗」

「何? 由梨亜」

「私、れいごう高校に途中入学しようと思うんだぁ」

「へ~。嶺郷高校って……へっ? 嶺郷高校? あたしの通ってる、あの嶺郷高校?」

「そうよ。他にあるっていうの?」

「な……何でっ?」

 千紗が思わず大声を出すと、由梨亜にケロリと言い返されてしまった。

「だって千紗も香麻もいるし、吹奏楽強いし、何てったってその吹奏楽に香麻がいるんだもの! それに千紗、私がいなくなってから、結構テストとかの順位上がったでしょ?」

「うん……まあ」

 千紗は『さいいん千紗』から『ほんじょう千紗』に戻った時に受けた、耀ようと家庭教師の容赦ない猛攻を思い出し、思わず言葉を濁らせてしまった。

「だからね、千紗と競ってみたいの」

「……ってか由梨亜、その口調だともしかして……」

「もしかしなくても吹奏楽に入るわよ」

「な……何でっ! ってか、由梨亜楽器吹けんの?」

 千紗は、思わず盛大に顔を引き攣らせた。

「勿論。私、本当は吹奏楽部に入りたかったの知ってるわよね?」

「うん」

「それで、私が花鴬国の御父様に訊いてみたら、別に楽器吹いてもいいって言われたから、今までトランペット吹いてたの。勿論ちゃんと先生付けてもらってね。だから、それなりの実力はあるはずよ」

「そっか。何か、王女様らしくないなぁ。王女様って言うと、ピアノとかフルートとか……でもさ、由梨亜。途中入学の試験は七月だよ? 夏休み中。あと二ヶ月もないんだから、勉強頑張んないとっ! 言っとくけど、うちの学校、結構難しいからね」

「分かってるわよ。私は、ここにずっといるつもりだもん。受かるように頑張るわよ」

 由梨亜が肩を竦めると、千紗はふと思い付いたように由梨亜に詰め寄った。

「でもさ、よくやってくれたよね、由梨亜。あたしが長女って。責任押し付けないでよ」

 千紗は凄味を効かせて言ったが、由梨亜はあっさりと答えてしまった。

「あら、でも産まれた早さは、千紗の方が先よ。私は千紗よりも後に産まれたもの」

 そう言うと、由梨亜は強制的に会話を終わらせ、そっと目を閉じた。

 地球連邦は宇宙連盟に加盟していない為、あまり他国の情報が流れてこない。

 だが、しばらくすれば、必ず富瑠美の即位という情報が流れてくるだろう。

 由梨亜は、空を見上げた。

 青く、澄み切った空。

 それは、花鴬国と同じ色でありながら、違う空。

 由梨亜も芝生に寝っ転がると、高い高い空を見詰めた。

 ここでは今、途中入学テスト以外に気掛かりなことは何もない。

』とは、大違いだ。

 平和な、平和な国――それが、今の地球連邦。

 花鴬国が連盟に加盟するよう働き掛けてくるのも、まだ先のことだろう。

 由梨亜は、横の千紗を見た。

 すると、穏やかな寝顔を浮かべて眠っていた。

 由梨亜は小さく笑うと、自分もそっと目を閉じた。

 まだ、この国は平和でいられるだろう。

 そして……自分も。



(続)

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました! 『時と宇宙を越えて』の第Ⅰ部は、ここで完結となります。この後、しばらく時間が飛んで第Ⅱ部が始まる予定ですので、どうぞそちらの方も宜しくお願いします!

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