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時と宇宙(そら)を超えて  作者: 琅來
第Ⅰ部 それぞれの居場所
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第一章「日記帳」―1

 ここは、今からおよそ千と数百年後の、西暦三二四八年、全宇宙共通暦一三二一年の世界。

 西暦二七〇〇年頃、地球は他の遠く離れた星から発見されたことを告げられ、しかも文明がこちらの方がだいぶ遅れていることに気付かされ、大混乱に陥った。

 だが、ここではもうそんなことは遠く昔の過去の出来事となり、地球は地球連邦となり、日本国はただの日本州となって、みんなが全宇宙共通語を話す時代となった。

 ここはそんな日本州の、とある街にある公園だ。

 季節は夏真っ盛りで、夏休みである。

~! お待たせっ!」

「あら、遅かったじゃないの、。呼び出したのはそっちのくせに」

 声を掛けられた少女――由梨亜は、背中の中程まで届く、柔らかく波打った茶色の髪を一つにまとめている、緑がかった黒の瞳の美少女で、声を掛けた少女――千紗は、肩甲骨辺りまでの、長くもなく短くもない長さで、墨を流したかのような、柔らかく光る真っ直ぐな黒髪を一つにまとめ、瞳の色は髪よりは茶色い色をしている。

 それだけならいいのだが、今の地球連邦の常識で考えると、この光景は可笑しく見える。

 何故なら、由梨亜はいかにもお嬢様に見えるのに対し、千紗は普通の少女なのだ。

 もしもここに常識のある、普通の人がいたら、首を捻ったはずである。

 何故ならこの地球連邦は身分社会で、大きな会社を経営し、しかも慈善団体などに寄付するお金を惜しまない、何十代も続く家を貴族と呼び、いくら稼いでも、寄付するお金を惜しむ家や、まだ成って間もない成り上りは富豪と呼ばれ、それ以外の人は庶民と呼ばれる。

 また、商売をしていても、老舗と呼ばれるような昔から経営しているお店でも、支店がなかったり、少なかったり、手を付けている仕事の幅が狭かったりすると、いくらお金を稼いでも、寄付しても、ぎりぎり富豪には認められるかもしれないが、貴族として認められない。

 そして、この由梨亜は正真正銘大貴族のお嬢様で、千紗は正真正銘の、親戚のどこを捜しても富豪や貴族がいない、立派と言ってもいいほど立派な庶民なのだ。

 しかし、この二人は敬語を使わず、しかも相手の名前すら呼び捨てで普通に通している。

 なので、珍しくはあるが、二人は身分を越えて友達になったと考えるのが妥当である。

「あのね、由梨亜。さっき先輩から連絡あって、あたし達も百不思議に挑戦しろって!」

 そう……七不思議ではない。

 百不思議である。

 この二人の通っている学校はかなりの曰く付きで、そう言った怪談物が数限りなくあるのだった。

「本当! 千紗?」

「勿論! それで内容は、夕方頃に学校の使われてない備品室に行くことだって。それで、怪談によれば、そこには、昔自殺した女の子が遺書にって遺したノートが、逢魔ヶ時になると現れるんだって。それを見つけるっていうのが、あたし達が挑戦することだってさ」

 この二人の会話で大体分かったかも知れないが、二人の所属している部活は、『心霊研究部』という部活である。

 だが、その名前の響きとは違い、普段のこの部活は、科学的な根拠を元に心霊現象を解明していくという、至って科学的な部活である。

 この二人は、その部活の一年生だ。

 だが、年に一度――三年生が引退してしばらく経った夏休みに、何故か一年生が、この学校の百不思議の中から一つを挑戦するという慣習がある。

 そしてこの二人も、その順番が回ってきたということだ。

「それで、時間は?」

「今週の水曜日、夜の六時だって。先生もいいって言ってたよ」

「ってことは、先生からも許可を得ているんだ」

「当たり前でしょ? あたしはともかく、先輩がそんな手抜かりするはずないよ」

 ……自分で分かって言っているところが、特に問題な発言であった。

「まあ、そりゃそうよね……それで、場所は?」

「旧校舎三階の北端の、さっきも言ったと思うけど、備品室。だけど、今は使われてないから、埃に気を付けないとね」

「ええ。ねぇ千紗、今日暇? 時間あるのなら、うちで遊ばない?」

「うん、いいよ!」

 この二人の名前は、ほんじょう由梨亜とさいいん千紗。

 二人は、とても仲の良い親友だ。

 しかし、二人はこの後に起こることを知らなかった。

 知っていれば、断るに違いなかった、恐ろしいことを。




 ちょうど、明日初めての任務に挑戦するという、火曜日のことだった。

「千紗」

「何? 由梨亜? 明日の確認?」

「違うの。あのね、千紗。明日……行かない方がいいよ」

「どうしてっ!」

「千紗、煩い。ちょっと黙って」

 由梨亜は大声を出した千紗に注意をしてから言った。

「あのね、私の曾お祖母様は、この学校に通っていらしたらしいの。曾お祖母様は、本家から外れてたから。それで、私が明日、これに挑戦するっていうことを聞いて、注意して下さったの。曾お祖母様はこの、私達が試そうとしているこの怪談で、危険な目に会ったんだって。だから、この怪談は、飛ばされたんだって」

「何それ。由梨亜。それ、ほんとに信じてんの?」

「えっ?」

 由梨亜は、きょとんとした表情で言った。

「あのさ、それって、どの曾お祖母さん?」

「……え~っと、お母様の、お母様の、お母様に当たる曾お祖母様よ」

 由梨亜は、指を折って数えた。

「……その人ってさ、前、あたしが由梨亜の家に遊びに行った時に、私立の超頭がいいので有名な幼稚園から大学までの一貫校出身で、その中でも常にトップクラスだったって、あたしにすっごい自慢してた人だよね?」

「…………」

 由梨亜は、言葉が出なかった。

「これはあたしの想像だけどさ……多分、由梨亜の曾お祖母さん、由梨亜を心配して言っただけで、何にも根拠はないと思うよ……?」

 千紗が恐る恐る言った言葉に、由梨亜は頭を抱えてしまった。

 全く否定できないだけに、とても痛い。

「うん……多分、そうかも……」

「じゃ、明日、予定通りにね?」

「……うん。ごめん……千紗」

「いいって。ほら、行こ?」

「うん……」

 由梨亜は半ば脱力したまま、千紗と共に歩いて行った。




 そして、その夜が来た。

「千紗~!」

「遅い! 今まで何やってたの!?」

「えっ……。だって千紗。今、五時四十分だよ? 五時五十分集合って言ってなかったっけ?」

「え……アハッ」

「もぅ。ボケないでよ」

 由梨亜が頬を膨らませて言った言葉に、千紗は笑いながら答えた。

「じゃあ行こっか」

「うん!」




「うっわ~! こんなに薄暗くって人気もない学校って怖いね~由梨亜。何だか気味悪いし……。ねっ、由梨亜。あたしはこんなことするの初めてだけど。由梨亜はある? あっ、そうだ、そういえば、この中にあるノートって……」

「千紗!」

「はい!」

 千紗は、思わず背筋を伸ばして答えてしまった。

 ……ちなみにその叱責は、正直言って今まで聞いたどの先生や親からの叱責よりも迫力があり、逆らいがたいものであった。

「煩い! ちょっとは静かにしたらっ? ほんと言うと、私、怖いんだから……ちょっとだけだけどね」

「ふ~ん……ちょっと、意外かも……」

「いいから、さっさと行くわよ!」

「は~い……」

 二人は、薄暗い廊下を歩いて行った……。




「由梨亜、着いたよ」

「ええ」

「それじゃあ、行くよ!」

 ガラッ、という音を立てて千紗と由梨亜が戸を開けると、使われていない机の上に、何かが一瞬ピカッと光った。

 光は一瞬にして消えたが、千紗は構わずにその机へと歩き出した。

「ちょ……待ってよ! 千紗!」

 呆気に取られていた由梨亜が、我に返って千紗を追いかけた。

 千紗は追って来た由梨亜を従え、その光った場所へ行ったが、光った机の上に置いてあった物を見るなり、息を呑んだ。

「……ほんとに、ノートがあった……」

「千紗……でも……でも、さ。これ……もしかしたら、先輩の悪戯かもよ……?」

「うん……でも、悪戯にしてはちょっと悪質じゃない?」

「うん……まあ、悪質って言えば、悪質だろうけど……ちょっとした、ドッキリかもね」

 ……既に、二人の中では『先輩の悪戯』と確定されてしまっている。

「うん……じゃあさ、これ、先輩に報告した方がいいよね?」

 千紗は携帯端末という、地球連邦内ならどこでも繋がり、希望すれば立体映像にできる優れ物であり、大抵はみんな持っている物を取り出して言った。

「じゃ、あたしがかん先輩に電話掛けるね?」

「ええ。私って、こういうの持ってないもんねぇ……」

 由梨亜の溜息じみた言葉に、千紗はにやっと笑った。

「こういう時、お嬢様って不便だねぇ」

「もうっ! いいから、さっさと先輩に連絡取ったら?」

「はいはい」

 千紗は、すぐに柑奈に電話を掛けた。




 その時、柑奈は苛々と携帯端末を手に取ったり置いたりと繰り返していた。

 と、その時、いきなりコール音が鳴り、ぱっと携帯端末を手に取った。

「もしもし?」

『もしもし、柑奈先輩ですか? あたしです。千紗です』

 柑奈は、それまでの苛々とした様子を消し、手をぽんと打った。

「千紗? ……ああ、そういえば今日だったね。……それで、どうだった? 何か、見付かった?」

 柑奈の悪戯っぽい言葉に、千紗が映像に映るように、一冊のノートを掲げた。

『はい。こんなノートが置いてありました』

「へぇ。こんなのがねぇ。中身、見てみた?」

『あ、いえ……まだです』

「じゃあ、見てみなさいよ」

『はい……』

 柑奈は、しきりと千紗を急かした。

 そのノートをパラパラと捲っていた千紗は、少し怪訝そうな顔になった。

「ん? どうした? 千紗」

『あの……これ、普通のノートじゃないんですけど……』

「どんななの?」

『え~っと、何て言うか……』

『日記帳に見えますね……』

 横から、由梨亜が顔を出して言った。

「ふ~ん……じゃ、しばらく二人でそれやっといて」

『はっ?』

『はいっ?』

 二人は、揃って驚いたような顔になった。

『え~っと……これを、ですか?』

「うん。そう。二人で交互にやっといて? 一人だったらずっと一人でやればいいだろうけど、二人だからね。だったら、二人で交互にやったらいいんじゃないの? あ、でも、後で見せてもらうことになるかも知れないから、見せられない内容は書かないこと。いい?」

『はい、先輩』

「それじゃあ、明日ね」

『はい。さようなら、先輩』

 千紗と由梨亜はそう返事をすると、端末を切った。

 柑奈はしばらく端末を手に考え込んでいたが、一つの番号を押した。

 短いコール音の後に、柑奈と歳の変わらない少女が出る。

『もしもし……柑奈? もしかして、千紗と由梨亜から連絡来たの?』

「うん。見事に引っ掛かってくれたわよぉ~」

 柑奈は、にっこりと微笑んで言った。

 そう、これは毎年恒例の肝試し――というか、悪戯なのである。

『じゃあ、どうする? 千紗と由梨亜で一年は全員終わったけど……ネタばらし、いつやる?』

「う~ん……じゃあ、九月入ってからにしよ? あんま早過ぎても、興醒めでしょ」

『じゃあ、また明日ね、部長さん』

「はいはい、明日絶対遅れないでよ? 副部長さん」

 二人はそう冗談のような口調で言うと、それぞれ端末を切った。




「じゃあ、先輩はああ言ってたけど、順番どうする?」

 二人は学校から帰りながら、会話を交わしていた。

「ん~、じゃ、由梨亜からでいいよ」

「ええ。分かったわ。じゃあすずが早く帰ってって言ってたから、急ぐわね」

 鈴南とは、由梨亜付きの召し使いである。

 けれど、その鈴南にしても、実は貴族階級のお嬢様であり、千紗よりも身分が高い。

 そんな人間を複数人使用人として抱えている由梨亜は、それこそ正真正銘のお嬢様なのであった。

「うん。じゃ~ね」

「じゃ~ね~!」

「あの由梨亜は、どんなことを書くのかなぁ……」

 由梨亜が去っていくと千紗は独り言を漏らし、そして角を曲がり、自宅へと帰って行った。




 由梨亜は、屋敷の扉を潜ると、声を掛けた。

「ただ今戻りました」

 すると、すぐに鈴南が出て来る。

 どうやら、由梨亜が帰るだろう時間を待っていたようだ。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 鈴南が頭を下げると、その後ろから、由梨亜の母が顔を覗かせた。

「あら、お帰りなさい。由梨亜」

「ただいま。お母様、鈴南」

「それでは奥方様、お嬢様。こちらへ。夕ご飯のお支度が整っております」

「ええ、鈴南」

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