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時と宇宙(そら)を超えて  作者: 琅來
第Ⅰ部 それぞれの居場所
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第六章「四年後……」―2

「失礼致します、御父様、御母様」

 今、ほうきょうは妾とその子供達の住まう階に当たる、二十階にいる。

 なので、父に会いに行く時も、母に会いに行く時も、同じ階に行けばいいのだ。

「あら、。どうなさいましたの?」

「いいえ。何もなかったのですけれど、御二人に御会いしたくて来てしまいましたわ」

 富実樹はそう言うと、峯慶の足元のベッドに座った。

「御父様、御久し振りで御座います」

「富実樹、御前は相変わらず元気だな。その元気を少し分けて欲しいくらいだよ」

 峯慶は苦笑して、目を覗き込んだ。

「そんなことを言って、本当は何か別の理由があるのではないか?」

「えっ? 何がですか?」

 富実樹はしらばっくれると、机の上に置いてあったプズィと言う、甘くて皮ごと食べられる一口大の果物を取り、口に運んだ。

 しょうはくすくすと笑うと、富実樹に向かって言った。

「富実樹、丸分かりで御座いますわよ。嘘を付く時に何かをするのは、富実樹の癖のようですからね」

「うっ」

 富実樹は、軽くむせてしまった。

「これ、富実樹。ここでむせたら大変なことになるぞ」

「は、は……い、御……父……様っ。ゴホゴホ」

 富実樹は何とか飲み込むと、一息ついた。

「それで? 富実樹。何がありましたの? わたくし、気になりますわ」

 由梨亜妾が、少女のように目をきらきらさせて言った。

「あ、あの……えっと、その……」

「富実樹、私も由梨亜妾も気になるのだから、さっさと言って御終いなさい」

 これまた峯慶も、まるで少年のように目をキラキラさせて言った。

 歳を取っても、もう十六になる子供がいても、相も変わらず少年少女のような夫婦だ。

 富実樹は言葉に詰まり、

「し、失礼致しますわ。わたくし、やはり戻りますわね」

 そう言うと、慌てふためき、部屋を逃げるように『静々と』飛び出して行った。

 それを見ていた峯慶と由梨亜妾は、思わず吹き出していた。

「面白いこと。必死で隠そうとしても、わたくし達には分かっていることですのに……」

「ああ。しかも、それを解消するにはと結婚するしかないからな。富実樹は地球連邦で育った為、恐らく近親婚には嫌悪を抱いていることだろう。それを、この国の風習に合わせることになって……可哀想なことをするな」

「ええ。わたくしはこの国で産まれ育って来たものですから、王家の近親婚に嫌悪などを感じたことは御座いません。わたくしはの、こうしゃに向ける目に、他の方に向ける目とは違って嫌悪が入り混じっていたことで、初めて近親婚を忌み嫌う方がおられるということに気付きましたから。沙樹奈后は陛下の異母妹いもうとですし、紗羅瑳侍は陛下の従姉であり三従姉みいとこでありますから、血の繋がりが御座いますもの。最初は信じられなかったのですが、やはり富実樹は嫌悪感を抱いていることでしょうね。近親婚をすれば異常が出る可能性がある為、『汚い』と禁じられている地球連邦で育ったのですから……」

 二人は前王とめかけだが、この国の風習を変えることはできず、助言をしようとしても、女王である富実樹が隠そうとしているからには気付かないふりをしなくてはいけない。

 二人は軽く、けれど、それに込められた意味はとても重い溜息をついた。




 富実樹は先程の峯慶と由梨亜妾の態度について、頭の中で大癇癪を起こし、不満をぶちまけていた。

(全く、御父様と御母様ときたらっ! 私が杜歩埜との恋愛を隠していることを分かっているからさっさと吐きなさい、みたいに! 御父様にも御母様にも、絶対に分からないわ! 御父様は最初に産まれて、王位に即くことは分かり切っていたから色々危険はあったけど、ちやほやされて女なんか選り取り見取りで、しかも自分の妾と大恋愛なんかしてっ! 御母様はせんしゅくだいじんの孫に産まれて、しかも八歳の時に御父様との婚約も確定してっ! しかも下手に他人に惚れないように屋敷の外には滅多に出ず、侍従なんかとも滅多に会わず! そして御父様に会った途端に一目惚れなんかしてっ!)

 どすどすと、思わず強く足を踏み鳴らしてしまう。

(絶対あの二人には、私のこうへの、まるで身を斬られるかのように切なく心を絞られるかのように苦しい、何年も逢ってないのに慕い続けてしまうこの気持ち――杜歩埜も些南美も感じているこの気持ち、分からないわ! 杜歩埜達も、私と似たような境遇ね。互いに好き合って、結婚してもいいってぐらいに好きなのに、相手もそれぐらい好きだって分かっているのに、それでも想いを伝えることは許されず……私は叶わない恋だと知ってるし、もう逢えないから諦められる。だけど、もしここの侍従か官吏か貴族が香麻だったら耐えられないわ。それが杜歩埜達の場合だと、毎日顔を見られるし目配せもできる。だけど、想いは伝えられない……。きっと、私よりも辛いはずだわ)

 富実樹は、そこまで考えると、フウッと溜息をついた。

(何とかしてあげたいけど、私には無理……せめて私にできるのは、私が杜歩埜と二十五歳で結婚した後、あの子をそうにするしかないんだわ……)

「何とか、ならないかしら……」

 富実樹は思わず口に出したが、実現不可能だと自分でも分かりきっていること、余計にその言葉は虚しく耳に、心に届いた。

 一つ、大きな溜息をついた後、ふと、資料庫の一つに入ってみようと思いたった。

 いつも、自分の周りには人が居る。

 そして、気の休まる時はない。

 久し振りに一人になりたいのと、周りの人が自分を見つけられるのか試す気持ちだった。

 そして、一番近い資料庫へ入った。

 そのことで、自らの運命が再び変わろうとするとは、露程も知らずに――。




 ガッチャ

 ギィ~イ~

 ガッ グッ ガッチャン

 という、何とも不気味な音と共に、富実樹は資料庫に入った。

 この王宮では、トイレや風呂などの一部の例外を除いて、扉は全自動式になっているのに、この資料庫は、簡単な暗号のタッチパネルが付いているところだけが近代的と言える部分であり、扉は人力で開けなければならないのだ。

「何これ。ろくに掃除してないわね……。空調設備もないし。こんな埃っぽいとこ入ったの、あの交換日記帳を見つけた時以来よ……。そういえばここ、今現在必要ない書類を溜めておく所のうちの一つだっけ。それにしても……うわ、何これ。九百六十四年前のサマヌ国の王朝交代劇の新王朝を認める許可? こっちはおうこくの、九百九十八年前の総下制度の許可? 確かにこれは捨てるに捨てられない書類ね……。全然使わないけど。それにしても、こんな部屋があと三部屋あるって言うのに、どれだけよ……」

 確かに、富実樹の言う通りだ。

 データを入れている『キエシュ』自体には、混乱させないようにする為一種類ほどしかデータは入らないが、見失わない為縦一センチ、横五センチほどの大きさで、それを入れている箱は縦一メートル、横七十センチとなり、その中にはかなりの量が入る。

 しかもその箱が天井に付くほどの棚となり、壁など見えず、さらには通路も人が擦れ違える程度の隙間しかない。

 富実樹は、頭が痛くなった。

「こんな量、バックアップの為とはいえ、よく取って置くわね……ほんと、頭が痛くなるわ……」

 そう思いながら、とりあえず一周することにした。

 そして、最後に一番奥の片隅に行った。

 そこに行くと、不思議な紋様の描かれた円があった。

「何、これ……?」

 近づき、靴の先でその端を擦ってみたが、何も変化はない。

 もっとよく見ようと床にしゃがみこみ、その時、体勢を崩してしまい……その円の中に、両手を付いてしまったのだ!

 すると突風が富実樹を包み込み、富実樹を円の紋様の中に引きずり込んでしまった。

 富実樹は前にも似たような経験をしていたから、驚きはしたものの恐れはしなかった。

 何故なら、そこは富実樹が現在の日本州から過去の日本国へ、過去の日本国から花鴬国に行ったその時に通った、あの亜空間と同じだったからだ。

 そして、富実樹は半分忘れかけていた、地球連邦の古代語の声が聞こえた。

『貴女は何を望みますか?』

(『貴女は、何を望みますか』、ですって……? そんなこと、決まっているじゃないの!)

 富実樹は理不尽なこととは知りながらも頭にきて、地球連邦の古代語で叫んでしまった。

「当たり前じゃない! 千紗に会うことよ!」

 その途端、身の丈が二メートルほどの、今の富実樹では、どんなに暑くても不可能な軽やかな服装をした女性が立っていた。

 そして、何か意味不明の言葉で話しかけられた。

「――? ――。――。――」

 それは意味が全く分からなかったものだが、前にも聞いたことのあるようなものだった。

「いいえっ! わたくしはまだ、できませんっ! 御引き取り願いますっ!」

 恐怖に駆られた富実樹がそう叫ぶと、さっきの円の外側に座り込んでいた。

(嫌だ……何、これ。怖いっ。怖いよっ!)

 富実樹は不安に駆られ、先程の悪戯心を忘れ、資料庫を飛び出していた。

(何……何なの? これ、怖いっ!)

 富実樹が部屋に戻ると、既に杜歩埜と些南美は居なかった。

 富実樹は誰の目もないので、寝室のある、後宮の二十五階へと上がり寝てしまった。




「富実樹はようやく気付いたか。しかし、乗り越えられなかったようだな……」

「ええ。冷静に、もっとじっくり考えられれば意味は解ったでしょうね。わたくしとしては、仰っている意味が解り、それでもまだこの国に留まってくれる方が宜しいのですが。それにしても峯慶様、あの大きさと雰囲気はどうかと思いますが。あれでは誰でも逃げ出しますわ」

 由梨亜妾は、あれを仕掛けた峯慶に、文句のようなものを言いながらも、刺激しないように、慎重に言葉を選んで言った。

 それは、仕方がない。

 峯慶は富実樹の望みを何よりも第一に考えているが、由梨亜妾は、十三年ぶりに再会した我が子とそう簡単に別れるつもりはなかった。

 だから三年前、富実樹が王座に即く前にこのような仕掛けをした峯慶には、軽く恨みを抱いていた。

「それは仕方がない。そう簡単に国を離れてもらっては困る。慎重に考えてもらわねば。それにチャンスがない訳ではない。富実樹はあの時すぐには思い付かなかったが、後で考え付けば……」

「ええ。そうですわね。ですが峯慶様、このように長い時間御起きになられていれば、体力も危うくなりますわ。御夕食の前で御座いますが、御眠りになられた方が宜しいのでは?」

「ああ、そうだな。娘の為とは言え、私は今日、少々無理をし過ぎた……」

 そう言うと、峯慶はストンと眠りに落ちていった。

三従兄弟みいとこ…親同士が再従兄弟、祖父母同士が従兄弟、曾祖父母同士が兄弟である者同士の関係。一組の高祖父母(曾祖父母の親)が共通している。自分から見て八親等で、続柄的に見て同世代。

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