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時と宇宙(そら)を超えて  作者: 琅來
第Ⅰ部 それぞれの居場所
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第五章「時と宇宙(そら)を越えて……」―3

「御久し振りに御目に掛かります、陛下。この度、わたくしをおうこくへ連れ戻して下さいましたこと、本にありがたく存じます」

第一王女よ、大きくなられ、再びこの国に御戻りになられたこと、喜び申し上げます。これからは、この国の王女として、また跡継ぎの娘として、そして弟妹達の姉として振舞うよう、御願い致します」

 そう言ったのは、一段高い所にある玉座の足元に控えている、一見しただけでかなりの大貴族だということが分かる男性である。

 そして、その玉座に座った威風堂々とした男性の足元に、略式ではあるが一国の国王に、そして自らの父に、公式な場で挨拶するのに相応しい礼をした、美しい少女がいた。

 ここは花鴬国の王宮、カサミアン宮の玉座の間。

 男性の足元にいるのは、生後一ヶ月足らずでこの国を離れ、そして十三歳になった今戻って来た、花鴬国第一王女にして第一王位継承者である、うんきょう富実樹。

 そして、玉座に座っている男性は言うまでもなく、ここ花鴬国の国王にして富実樹達十五人兄弟の父である、花雲恭(ほう)きょう

 そして、左右の長机に座っているのは、普段から王族との接触が許されている大臣級の貴族や官吏十数人と、庶民からの選挙で議会の委員になったうちの代表五名。

 そしてその短い対談が終わり、富実樹と峯慶は、一緒に後宮の峯慶の部屋の一つに行った。

 部屋に着いてから、峯慶は富実樹に向かって尋ねた。

「富実樹……本当に、良かったのか? 戻ってきて。来年でも良かったのだよ? いくら向こうにいても、こちらに戻って来るその時は、変わらなかったのだから……」

「……そのことは、仰らないで下さい。私も、後悔していますから……」

「では、何故そうしなかったのかな? 私の娘よ」

 峯慶が茶目っ気を出してそう尋ねると、富実樹は少し唇を尖らせて答えた。

「あれ以上、が――私と入れ替わった人が、真実から押し出されているのに耐えられなかったんです。それに、知らせてしまったとしたら、私も千紗も、どこかぎこちなくなってしまいます。それだったら、告げたらすぐに戻る方が良かったんです」

「そうか……それでは、お前はこれからこの国の地理歴史、王族としての立ち居振る舞い、言葉遣いその他諸々を学びなさい。ちょうどよい教師もいることだしな」

「御父様、ちょうどよい教師とは、どなたですか?」

「今呼んで来るから焦らないように。しょうを呼んで来なさい」

 由梨亜妾――富実樹の母は、その『富瑠美』を呼びに行った。

 しばらくして、ノックの音がして、由梨亜妾と、その『富瑠美』だと思われる、富実樹と同じくらいの少女が入って来た。

「失礼致しますわ。御父様」

(御父様……?)

 富実樹は嫌な予感に駆られたが、見事にその予感が的中した。

「富実樹、これはの娘で第二王女、第二王位継承者である富瑠美だ。つまりは、お前のすぐ下の異母妹いもうとだよ」

 そう紹介された富実樹の異母妹の富瑠美の髪は、富実樹と似てふわふわと波打っていたが、金糸に勝るとも劣らない見事な金髪で、目は富実樹と同じ桃色だが、色は富実樹よりも濃い色で、背は富実樹より少し小さい。

 そして、髪の色、瞳の色、それに身長を見ないことにすれば、瓜二つであった。

御異母姉様おねえさま、御初に御目に叶いまして、わたくし、本当に嬉しゅう御座いますわ」

「貴女は……私の異母妹の……富瑠美様?」

 富実樹はどこか呆然としながら問い掛けた。

 だが――

「それはいけませんわ。御異母姉様」

 いきなり、富瑠美がきっぱりと言い返して来た。

「まず、一人称は『私』ではなく『わたくし』と仰って下さい。それにいくら母親がめかけではあっても、第一王位継承者、及び第一王女は貴女様で御座います。つまり、わたくしの異母姉あねに当たります。ですので、わたくしのことは富瑠美と御呼び下さいませ。それから、絶対に他の兄弟に様付けをしないで下さい。実の兄弟で、それも貴女様の方が格上であらせられるというのに、それは大変可笑しいことですわ。誰に何度訊こうとも、誰もがそう返すはずに御座います」

 いきなりどぎっぱりと言われ、思わず目を白黒させていると、苦笑しながら峯慶が言った。

「富実樹、富瑠美はお前の異母妹ではあるが、お前を裏切る可能性の少なく、そして最も地理歴史儀礼祭典等に通じている。これから、お前は富瑠美に付いて、様々なことを学びなさい」

「は、はい……分かりましたわ。御父様」

 それから、

(どうして……富瑠美は、あの深沙祇妃の娘なのに……)

 と不思議に思い富瑠美を見ていると、富瑠美は苦笑して答えた。

「御異母姉様、このことを不思議に思うのも、無理は御座いませんわ。わたくしは、御異母姉様とはほんの二時間差で産まれ落ちましたが、そのたったの二時間で、わたくしは第一王位継承者にはなれませんでした。それに、わたくしの御母様――深沙祇妃は失望して、御母様付きの侍女侍従共々、生後間もないわたくしを育児放棄してしまったのです。早い話が……そうですね、ボイコットですわ」

「ボイ、コット……?」

 富実樹の問いに、富瑠美はあっさりと答えた。

「ええ。第二王位継承者とは言え、王位継承権を持つ子供が死んでしまっては堪りませんから、御父様が、わたくしを御母様から無理矢理取り上げて、由梨亜妾に預けたのですわ。そして名付けもして頂きました。ですから――」

「ちょ、ちょっと待って。貴女の御母様……深沙祇妃は、名前も付けずにボイコットした訳? それって大事じゃない! 誰も、何も言わなかったの?」

 咄嗟のことで、富実樹は思わず敬語を使うのを忘れてしまった。

 だが、その途端……富瑠美の冷た~い視線が、富実樹を射抜いた。

「それでは、後で言葉遣いの猛特訓をさせて頂くということで……」

 その地を這うような低い言葉に、富実樹は思わず一歩後退ってしまった。

「まあ、そうですわね。それどころか、御母様の後見人は、皆それに便乗してしまいましたわ。しなかった方も、いるにはいましたけれど……。ですが、他の方々は、わたくしが第二王位継承者であること、そしてじょに懐妊の兆しがあることから、御父様と由梨亜妾以外からは、本当に無視されましたわ」

「へ、へえ……」

 思わず、富実樹は感心してしまった。

「そうですわ。こんなことを話している場合では御座いませんでした。それでは、早速授業の方を始めたいと思います。御異母姉様、授業のことですが、この国のことについてどのようなことを御存知ですか?」

「はい。えっと、この国が宇宙連盟の長的役割を持っていることや、地球連邦が他の星の存在を知らなかった時の日本国との関係など、基本的なことしか……」

「そうですか。では、地理歴史から始めましょう。また、それらの合間を縫って言葉遣いと儀礼作法を。それでは地理から始めましょう。こちらへ。あと、昼餐は御食事のマナーの練習です。やることは沢山ありますわ。それと、ことによっては他の弟妹達の力も借りますわよ」

「は、はい……」

 さっさと歩き始めた富瑠美の後を慌てて追って行ったが、富瑠美が滑るように歩いているのに対し、富実樹はそれと逆だった。

 そして部屋に残っていた富実樹の父母は、富実樹の

「どうしたらそういう風に歩けるの……?」

 と言う弱音を聞き、笑い出してしまった。

 峯慶はゆったりと重々しく、由梨亜妾は軽やかに。

「まあ、なんて面白いこと……」

 由梨亜妾が言うと、峯慶も言った。

「ああ。こう言う子供達に育つとは、正直言って、あの時は思ってもみなかった……」

「そうですわね。本当に、予想も付かないことばかりで、面白う御座います。……そう言えば、陛下。富瑠美があの誓約書を書くこと、深沙祇妃は御承知なさいましたの?」

「ああ、それか。勿論、気が狂ったかのように騒ぎ出したよ。だが喚いている隙に富瑠美がさっさと署名して、それでことなきを得た。さすがは、富瑠美だ。其方が育てたことはあるな」

「……ええ。まあ、そのことは置いておくとして……それは、深沙祇妃は騒ぐでしょうね。富実樹に何もない限り、王座を狙わないという誓約書だなんて……」

「ああ……。そうだな」

 峯慶は小さく笑みを洩らして言ったが、ふと、真顔になって由梨亜妾に問い掛けた。

「話は変わるが、あの二人は、本当に自分の名前の意味を解ってくれるだろうか。我々が、心を込めて付けた名を……」

 峯慶のその溜息のような言葉に、由梨亜妾が風のように呟いた。

「富実樹は、『富や名声を陰謀などによって手に入れるのではなく、優しい行いによって心を富ませること、樹木を視てその神秘を感じる美しい心、そして、その時に実った果実を、単なる食糧としてみなし、感謝する気持ちすら持たないのではなく、ここまで育ってきたその生命力と大地の恵みに感謝する心』を、富瑠美は『心を富ませ、豊かな心を持つように、高貴さを表すラピスラズリ――瑠璃のように気高い心を持ち、それでいて弱者を思いやる気持ちを持ち、宝石のように美しく、きらきらと光る美しさ、心を持つように』と、わたくしが付けた名のことですね?」

「ああ。……富実樹は解ってくれるかも知れないが、富瑠美は、真実解るとは思えないな。あの深沙祇妃の血を引いているのだから、やはり似る所はある。富瑠美は、物事を深く追求せずに、上辺だけを飲み込んで行動することが多々あるからな……。富瑠美には、この意味が、解らないだろう。……さて、そろそろ行かなければ。処理しなければならない書類が山ほど残っている」

「いってらっしゃいませ、陛下。ですが、わたくしの記憶違いでなければ貴方様は、書類の処理は、他の御兄弟と比べて、凄まじい速さでこなされていたと思いますが……」

 由梨亜妾は、茶目っ気たっぷりに含み笑いをし、峯慶も同じように笑い返してきた。

 どうやら、この夫婦は茶目っ気がたっぷりとある、似た者夫婦のようだ。

「それは、他の兄弟が少し遅くて、私が少し速かったということだけだよ」

 そう言うと峯慶は部屋を出て執務室へと向かい、由梨亜妾は自分の部屋へと向かった。

今回の話で、第Ⅰ部はようやく中盤まで進みました。ここまで読んで下さって、ありがとうございます。

次話からは、少し時間が飛んで四年後になります。それぞれ、本来の居場所に戻った二人、特に富実樹(由梨亜)の方が、どんな活躍を見せて、どんな選択をするかに焦点が当たることになります。富瑠美以外の富実樹の兄弟達も登場する予定ですので、お楽しみ頂けたらと思います。

この話はまだまだ続きますので、どうぞ宜しくお願いします。

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