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時と宇宙(そら)を超えて  作者: 琅來
第Ⅰ部 それぞれの居場所
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第四章「仲違いと、そして――真実」―3

※警告

今回、あまり直接的ではありませんが、近親相姦の表現があります。またこれ以降の話では、普通に近親相姦が行われ、兄妹で夫婦、または恋人になっているという表現も出て来ます。他にも、一夫多妻制や後宮などのハレム的な要素も出て来るので、そういう表現を生理的に受け付けられないという方は、これ以降の話は読まないで下さい。この前文で気分を悪くされた方がいらっしゃいましたら、申し訳ございません。

 の手を握り、スタスタと歩いて行った。

 千紗はどこに行くか分からなかったが、由梨亜の緊張した雰囲気に圧され、訊けなかった。

 そしてしばらく歩き続けると、由梨亜がどこに向かって歩いているのか分かってきた。

 何故なら、その道はここ一ヶ月ほどずっと通い続けた道……客室のある棟へと向かう道を通っていたのだから。

(一体、何が起こるというの……? それに、あたしと由梨亜はどうなるの……?)

 と、千紗は考え続けていた。

 やがて、客室の中の使われなかった部屋の一つに着いた。

 由梨亜は扉を静かに開け、閉める時もできるだけ音を立てないように気をつけていた。

 そんな由梨亜の様子にただならぬものを感じ、千紗は由梨亜を見つめた。

 千紗は、掠れた声で話し掛けた。

「由梨亜……とうとう、教えてくれるんだね……」

「ええ……そう。私は……」

 そこまで言うと、由梨亜は一息つき、真っ直ぐに千紗を見つめた。

「千紗、落ち着いて聞いて欲しいの。そして、全て信じて欲しい……」

「……うん。分かった」

 千紗は、由梨亜の真剣な表情を見て、決心した。

 由梨亜は、このような様子で冗談が言える人ではない。

 だから、これから話すことが真実であると千紗は知っていたし、直感でも感じていた。

 由梨亜は、それでもしばらく躊躇した後、思い切って、千紗に告げた。

「……私は……私は、この星の……地球連邦の人じゃないわ」

 千紗は、あまりのことに頭が真っ白になってしまった。

 覚悟はしていたけれど、そこまでのものとは思いもしなかった。

「由梨、亜……? じょ、冗談じゃ……」

「勿論、冗談じゃないわ。私がそんな冗談、言える訳ないわよ。まあ、私もこっちの時代に来て、初めて知ったんだけど……」

「で、でも……由梨亜のお父さんとお母さんは? どうなの?」

「いいえ。違うわ。あの人達は、実の親ではないわ。血が繋がらない……育ての親」

「でも、子供が産まれた記録は残ってるじゃん。それは? そんなの、偽造しようがないよ」

 千紗は必死で食い下がった。

「ええ、身分の高い人達の出生記録を作るのはそういう記憶があっても無理。けど身分の低い人なら遅れても大丈夫でしょう? 理由だって、名前を決めるのに時間が掛かったと、母体が弱かった為産まれるまでは油断が許されない状態だったと言えば済むことだしね」

 千紗は『身分の高い』というところに引っかかったが、由梨亜の言う身分が高いというのは王族などだと思い直し、それを横に置いて言い返すことにした。

「でも……そんな、人の記憶って換えることなんてできる訳ないじゃない。そんなのお話の世界だけでしょう? そんな都合良くできたら、世の中何も苦労はないよ」

「いいえ。一つだけ方法はあるわ。……千紗、『魔法』って、信じる?」

「魔法? まさか、これっ……!」

 由梨亜は、これまでの記憶を辿るかのように遠い目をした。

「私達が産まれた家を変わったのも、それに伴って周りの人の記憶もそれに沿って変わったのも、出生記録が変わったのもここに来たのも、こうほうじゅに願いを叶えさせたのも、全て魔法。それに、宇宙連盟――この全宇宙の平和と共存を維持する団体の、事実上の長たる役割を持つ国、おうこくが特許を持っている物は、魔法を使っているわよ。特に、過去を見るきょかいきょうは、科学技術なんかじゃできない代物よ。魔法じゃないとあり得ないわ」

 由梨亜は重大なことをサラッと言った為、千紗はそのことに気付くのに時間が掛かった。

 だが、数秒後、気付いた千紗は、思わず唾を飲み込んだ。

「由梨亜……そんな、まさか、あたし達って……」

「そうよ。貴女の名前はほんじょう千紗。名前ぐらいなら、後で変えましたと言えばいいのだから、そういうことはどうとでも繕えるのよ。そして、『さいいん千紗』という人物は、本来なら、この世の(・・・・)どこにもいない(・・・・・・・)

「どういう、こと……? どういうこと、由梨亜?!」

 思わず千紗は声を荒げた。

「千紗、静かに。つまり、こういうことよ。『他の居住可能惑星Aで産まれた赤ん坊Bが、地球連邦の本条家に産まれた赤ん坊Cに成り代わり、本条由梨亜となる。赤ん坊Cは子供に恵まれなかった夫婦Dに産まれた赤ん坊として、記憶を変えられ、彩音千紗となる。そして育ち、赤ん坊Bと赤ん坊Cは大きくなってから出会い、親友となり今ここにいる』」

 由梨亜の真剣な表情と、感情の全く窺えない声音に、千紗は由梨亜が本当のことを言っているのだと、何故かすとんと腑に落ちた。

「じゃあ、由梨亜は? あたしが、本当はお父さんとお母さんの間に産まれた子供じゃなくて、由梨亜のお父さんとお母さんの間に産まれた子供だということは分かったし、信じる。だけど……だけど、由梨亜は? 一体、誰なの? 誰の子供に産まれたの?」

「そうね、何から話せばいいのかしら? ……じゃあ、まず、私は誰なのかを話すね。私は……私は、宇宙連盟の長たる役割を担う花鴬国の王女、うんきょうよ」

「花鴬国って、王族のみが日本州や中華州と同じ名前を漢字で表す国で……確か……!」

 千紗は、とんでもないことを思い出した。

 そのことは、先生が、教職にある身とは思えないほど嫌悪感に満ちた顔で言っていたから、千紗の記憶に色濃く残っていた。

 そして、だからこそ、由梨亜は地球連邦に来たのだと確信した。

「……そうよ。花鴬国の王族の苗字は『花雲恭』。そしてね、花鴬国の王……花雲恭家の長には、常に六人の妻がいるの。前王の娘で最も高い王位継承権を持つ王女がなるきさき。他国の王女がなる。貴族の中で最も身分が高いせんしゅく政財せいざいしゅうさい大臣の誰かの娘や孫がなるめかけほう貴族って言う、土地を封じられている貴族の娘か官吏の娘がなるさい。後宮に勤めている侍女がなるさい。それなりの地位の一般庶民の娘がなるさいじょ

 由梨亜はずらずらと後宮の女性達の官名を挙げた。

「私は王の娘だけど、妾の娘。だけど、誰の子であろうと女であろうと、最初に産まれれば第一王位継承者となるの。そして私が産まれてほんの二時間後、妃の娘である異母妹いもうとが産まれたわ。次の日には、后の息子である異母弟おとうとも。順番から言うと私が王位を継ぐんだけど、二時間差の異母妹に変えるべきだと、妃や後見人の貴族が騒ぎ出してね。こっちの方が血筋は上だと。そっちはたかが妾の子ではないかと。そして、自分は妃だが元々他国の王族。この国の『因習』で自分は妃になったが、自分は王女だったと。外交関係上の問題となる前に、こっちに第一王位継承権を寄越せと」

 由梨亜の顔は、どんどん険しくなる。

「しかも、彼女の性格は過激で、私はあの国にいたら消されていたでしょうね。第一、后と妾は何度も彼女に命を狙われ、流産されかかったらしいわ。あと、他の弟妹達のことだけど……」

 由梨亜はそこまで言うと、一息をついて言った。

「私が産まれて八ヶ月後に最女の長女、十ヵ月後には最貴の長男、一年一ヶ月後に最侍の長男、一年五ヶ月後に后の長女、一年八ヶ月後に妃の長男、二年後に妾の次女、二年二ヶ月後に最女の長男、二年六ヵ月後に最侍の長女、二年八ヶ月後に最貴の次男、二年十一ヶ月後に后の次女、三年一ヶ月後に妃の次女、三年四ヵ月後に妾の長男が産まれたの。だから上から行けば妾の長女、妃の長女、后の長男、最女の長女、最貴の長男、最侍の長男、后の長女、妃の長男、妾の次女、最女の長男、最侍の長女、最貴の次男、后の次女、妃の次女、妾の長男ね。さっき言った理由――あの人が妃になったせいで、私の本当の御父様と御母様は、私を地球連邦に送ったのよ。理由は他にもあるでしょうけどね」

 由梨亜は、少し寂しげに言った。

 千紗はと言うと、あまりに沢山のことを一度に言われたせいで、少し混乱気味だ。

 由梨亜はベッドの上に置いてあった箱を取り上げ、歌うように、千紗には意味の解らない言葉を唱えながら、箱を開けていった。

 そして、出てきた物を見て、千紗は息を呑んでしまった。

「それは……『香封珠』!」

「よく覚えてたわね、千紗。そういえば思ったんだけど、千紗は記憶力がいいのに勉強ができないって嘆いてるのは、勉強を頑張るってやる気が足りないんじゃない?」

「由梨亜! また話逸らさないでっ!」

 また、千紗は声を荒げた。

「あ……またやっちゃった」

「でさ、由梨亜。由梨亜はどうやってそのこと知ったの? 由梨亜、こっちに来てから知ったってことは、あっちでは知らなかったってことでしょう?」

「うん。ほうこうそうさいの準備が始まってからの朝の祈祷の時間に、情景が浮かんで来たの。それは、あの花鴬国の様子だった。科学技術は地球連邦とは比べ物にならないくらい進んでいたのにも拘らず、自然が沢山あってとても美しい星だったわ。そして、最後に、私が産まれた時の様子、それで起こった争い、何故私が地球連邦に来たのか、そして、元いた時代に戻る方法が分かった。全部分かったのは、封香奏祭の一週間前だったわ」

「一週間前って、ちょうど由梨亜があたしと話さなくなった時……」

「ええ、そう。ところで、戻る方法は、実は三つあるのよ」

「み、三つ……?」

 千紗は、少し動揺してしまった。

 何故なら、常識的に(?)考えて普通はあり得ない状況から戻る方法は、そんなに多くないと思ったからだ。

「一つ目は『富実樹と入れ替わった少女を生贄として奉げ、その生命力を使い花鴬国へ戻れ』」

「……あたし? あたしを、生贄、に? その……方法使えば、あたし、死ぬの?」

「ええ。生命力を使うということはその命を全て使い切るということだからね。ちなみに、それが一番いい方法らしいわ。だけど、私は絶対嫌。生贄なんて時代錯誤なこと、誰がするもんですか。それに、誰かを殺して自分が幸せになるなんてことやりたくないし。特に、それが私の親友の千紗だなんて。そして二つ目は、『何か強力な力を持つ物を、入れ替わった少女を媒体として力を注ぎ込み、富実樹は花鴬国に戻れ。だが、媒体とされた少女はこの時代に残される。但し、媒体とされた衝撃に耐え切れず、寝たきりになってしまう可能性が高い』」

「その方法使ったら、あたし、この時代に取り残されて、しかも一生寝たきりになるかも知れないの?!」

 千紗は、驚き過ぎて、かなりの大声で叫んでしまってから慌てて口を押さえた。

「大声出さない。一応結界張ってるからあんまり洩れないけど、千紗は規格外よ。絶対に洩れるわ。で、話を戻すけど、私もこの二つの方法は使いたくない。千紗がこの時代に残るのは嫌だし、死ぬのも寝たきりになるのも嫌。だから、三つ目の方法を使いたいと思うの」

「三つ目の方法って……?」

 千紗は、ほんの少しだけ期待を混ぜて言った。

 その様子に、由梨亜は微笑して、言った。

「あのね、三つ目の方法は、『富実樹と入れ替わった少女の二人で力を合わせ、強力な力のある物の媒体になり、負担を半分にする。そして富実樹は花鴬国に戻り、入れ替わった少女は現代の地球連邦に戻り、本当に産まれた家に戻る。周りの記憶も、最初からその少女がその家に産まれたというものになり、出生届もそれに合わせて変わる。但しその入れ替わった少女は、最初は富実樹のことを憶えているが少しずつ忘れていき、最終的には富実樹を完全に忘れる。しかし富実樹は覚えている。また、互いを信頼していなければこの方法は使えない。この方法は、互いを信頼していれば最も成功率が高いが、逆の場合成功率は最も低い』」

「つまり、この方法は場合によって最も成功率が高く、最も成功率が低い方法ってことね」

「そう。……千紗、どうする? 千紗が嫌なら、私はここに残るわ。私は、見たことがない御父様御母様よりも、千紗の方が大事なの」

「何言ってるの、由梨亜。そんなの認めないよ。由梨亜は花鴬国の王女で、第一王位継承者でしょ? そんな由梨亜が戻らなかったら、花鴬国のお父さんとお母さんがどんなに悲しむか分かる? あたしは三つ目の方法を試すよ。由梨亜が戻れるのならどんなことでもやる。あたしは由梨亜を信じてるし、由梨亜もあたしを信じてるでしょ? だから今のあたし達にとって三つ目の方法が、一番成功率が高いってことだよ。もし失敗したとしても、由梨亜は戻れるように祈るよ」

「千紗……」

 由梨亜は涙で声を詰まらせた。

「ありがとう。三つ目の方法をやってみよう。私は、絶対に千紗のこと忘れない」

 千紗も、少しだけ瞳を涙で潤ませながらも、精一杯の晴れやかな笑みを浮かべた。

「あたしはどう足掻いても由梨亜のことを忘れるけど、それでも覚えていれる最後の瞬間ときはできる限り延ばす。約束するよ。あたしは由梨亜のことを忘れても、心の奥底に、由梨亜のことを……由梨亜と過ごした楽しい時間を刻み付けて、記憶じゃなくて感覚で、絶対に覚えてる」

「じゃあ、始めよっか」

「うん。由梨亜、絶対に、成功させようね」

「勿論」

 千紗と由梨亜は、不敵に微笑んだ。

 まるで、今の自分達には、不可能なことはないとでも言うかのように。

 まるで、自分達に残された最後の時間――『彩音千紗』と『本条由梨亜』として過ごせる、最後の瞬間ときを、心に刻み付けるように。

 二人は、最後の賭けに出た。

 互いを想う気持ちのみで……。

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