序章「総ての始まり」
この話は基本的に友情物ですが、話の都合上恋愛も入ってきます。また、途中で近親相姦も入ってくるので、苦手な方はご注意下さい。
「嗚呼。この子は……この子はあの時に、産まれて来てしまったのですわね。せめて……せめて、もう少し遅ければ……」
「そのことは、言うな。今は、産まれたてのこの子供に、名を付けなけなければな」
「それは、考えがあります」
「どのような名だ?」
「はい。それは、今この国にはない、富や名声を陰謀などによって手に入れるのではなく、優しい行いによって心を富ませること、樹木を視てその神秘を感じる美しい心、そして、その時に実った果実を、単なる食糧として感謝する気持ちすら持たないのではなく、ここまで育ってきたその生命力と大地の恵みに感謝する心を願って、――と名付けましょう。この子が――になった時の繁栄を願い」
「ああ。それはいい。美しい名だ」
「ところで……」
そう言うと、美しいその女性は、一息置いてから、隣の男性に話しかけた。
「この子は、やはり、あちらへ……?」
「その時は、お前の名をつけよう……きっと」
「あの……この子に、弟か妹が産まれたら……そして、信頼でき、決して裏切らないような子供がいた時は、その時にはこの子が――と言って、いいですわよね? いくらあんな人でも、まだそのような酷いことをやろうとは思わないでしょうから」
「ああ。我らはいつまでもいられるとは、限らんのだからな……」
この二人の間に、なんとも淋しそうな空気が流れた……。
「まあ、なんて可愛い子なんでしょう。ぴったりの名前は何かしら?」
「そうだなぁ。そうだ。古い言葉で、『鶴は千年 亀は万年』と言うではないか。だから、鶴はどうだ?」
「そんな名前は嫌よ。なんて言ったって、この――に相応しい名でないと、絶対にからかわれるはずだわ。それに、古風すぎるわよ。絶対に、断固として拒否します」
「しかし、縁起がいいと言うと……」
「じゃあ、この――を取って、私が好きな音で響きのいい、『――』という音をつけましょう。そして、この『――』の漢字は、このように」
女性はそう言うと、手元にあったパネルに一つの漢字を書いた。
「そう、そしてこの二つをくっ付けて、――にしましょう! 貴方。反対、しないでしょうね?」
「も、勿論だ! 反対する訳がない! ……それに、響きのいい名だしな」
「ええ。本当に……本当に、可愛い子。大きくなった時、どんな子でもいいわ。この子に合う友達が、沢山できるといいわね……」
「ああ……そうだな……」
先程の二人とは実に対称的に、何とも暖かく、優しい想いが満ち溢れた……。