使用人がなんとかしてくれるんじゃないかなあ、と楽観視した結果。
ふわっとした設定の「君を愛することはない」系話です。
「君を愛する事はない。何故なら、私には最愛のイモーティアがいるからな」
「はあ……」
紹介されていないので定かではないが、推定イモーティアさんを腕にひっつけた状態で、私の旦那様であるクーレー・ゴーゴロク侯爵令息……、じゃない、今日から侯爵のクーレー様が私に言い放った。
結婚して3か月。
当主交代して1日。
うーん、愛人の存在は知っていたけど、義父母が領地に旅立った2時間後に愛人を堂々と自宅に連れてくるとは思わなかった。
まあ、唯一感謝できるのは、当主交代も近くて寝る間も惜しいという口実があったからか、まだ白い結婚だという事かしら?
「お前は侯爵家の仕事をしていれば良い。そのために結婚したんだからな」
イモーティアの可愛さに勝てるやつなどおいないからな、と言い切る旦那様に、やだあ、とイモーティアさんがもじもじと体を捩っている。
イモーティアさん、自分の可愛さに勝てる人がいないってところ否定しないんだあ……、と私は密かに思った。
「そのうち、イモーティアが懐妊したらその子がゴーゴロク侯爵の跡取りだ。それを努々忘れないようにするんだぞ?イモーティアに危害を加えるような事があれば容赦しないからな」
「クーレー様、って頼りになるわ。素敵!」
本当に鼻の下って伸びるんだあ、と私はどうでもいい事を思いながら、どうでもいい事に聞こえるような提案を口にする。
「分かりました……。私はゴーゴロク侯爵家に置いていただけるだけでも幸いです」
殊勝に聞こえる私の言葉に、旦那様もイモーティアさんも満足そうな表情を浮かべる。
「侯爵家のお仕事も力の限り勤めさせていただきます。……ただ、」
「ただ?」
「私の能力だけでは即戦力にはならないかと思うのです。勿論、ゴーゴロク侯爵家に仕える方々は優秀でしょうが、私だけの使用人も何人か雇わせていただけないでしょうか?」
イモーティアさんをお世話する人に人員を割かれると、少し足りなさそうで、なんて、言うと、旦那様がニヤリと笑みを浮かべた。
「良い心がけだな。確かに、イモーティアの事も考えたらお前に割く人員はない。まあ、仕事の報酬として、使用人を雇う事を許可してやっても良い」
イモーティアにはうちのベテランの侍女やメイドをつけるからな、と旦那様が言えば、嬉しい!とイモーティアさんが抱き着いた。
旦那様の鼻の下が伸びる。
……なるほど!
口が少し開いて、顔の筋肉が緩むと、鼻の下が伸びて見えるのね!
「話はこれで終わりだ。仕事をちゃんとしなければ、離婚だからな」
よっしゃ!じゃあ仕事しないぜ!って言うのは簡単だけど、それじゃあちょっと面白くない。
それに、ここで私が侯爵家の仕事をほっぽりだすと、この家の優秀で優しい使用人達が困るからね。
旦那様達が部屋の外に出た途端、家令のモリブデンが頭を下げたもの。
「奥様、本当に申し訳ありません……」
「いいのよ、モリブデン」
家令から、坊ちゃまは本当は良い子で、なんて言い訳が続く。
まあ、生まれた時から見ている可愛い坊ちゃんが、ちょっと浮気しているだけ、みたいな感覚なんでしょうね。
使用人一同にとっては。
顔は良いし、ワガママと紙一重の爛漫さや、侯爵家の一人息子というのが色々な相乗効果をもたらしたんでしょう。
悪い方に。
義父母は良い人だし、ゴーゴロク侯爵家領内の特産品のワインは、ゴーゴロク侯爵家の縁の者しか口にできない物もある。
それは王族だって飲むのが難しいというレベルなのだ。
だから離婚はできるだけしたくない。
ワインのために、仕事をするのも問題ない。
ただ、旦那様にえらそうにされるのはギリ許せても、愛人にえらそうにされるのは許せない。
現侯爵夫人、元公爵令嬢。
プライドだけはあるのだ。
まあ、ワインのためにプライドを少々売ったせいで、現在こんな状況だが。
「あのね、さっき旦那様にもお願いしたけれど、実家から侍女やメイドを呼んでも良いかしら?今から雇って一から教育より、少し気が楽だから」
嫁入りにあたり、侯爵家に気を遣って、私は侍女もメイドも1人として連れてこなかった。
まあ、侯爵家の侍女やメイドの事前に顔合わせした時に、この人達なら大丈夫と確信してたところもあったからね。
いや、ここの使用人達は本当優秀なのよ。
使用人達、は。
家令は申し訳なさそうな顔をしつつも、少しホッとした表情で、勿論です、とOKを出してくれた。
坊ちゃまの最愛に、変な使用人をつけたくない、というのもあったからだろう。
変な使用人だと、あちらこちらで醜聞を巻き散らかす事もあるしね。
「…………ふふ。仕込みが無駄にならなくて良かったあ」
私は淑女の笑みを作りながら、内心ガッツポーズを取るのであった。
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「旦那様、少しよろしいでしょうか?」
朝食の場で、今日もイモーティアさんを侍らせた旦那様に、私はニコリと笑いかける。
「私の使用人が今日から働く事になりまして。実家から呼び寄せたので、顔見せぐらいはさせていただけたらと」
「分かった。だが私は忙しい。今ここで簡単に紹介だけしろ」
今日はイモーティアさんと楽しいお買い物ですものねえ。
これからどんな散財が待っているのやら。
まあ、イモーティアさんが、この後で楽しくできるかどうかは分からないけれど。
愛人やってるような、太々しい精神だし微妙だなあ。
「承知しました。ダッディ、マーミー、ニーニ、アンネ、入ってちょうだい」
イモーティアさんが一瞬、え?という顔をし、それから私の使用人達が入ってきて顔を見てから、ひっ!?と悲鳴をあげた。
「執事のダッディ、侍女のマーミー。それとフットマンのニーニと、メイドのアンネよ」
「「「「よろしくお願いいたします、旦那様」」」」
4人が頭を下げる。
旦那様は私の使用人なんかに興味は無いが、イモーティア様は違う。
「なんでこんな所にいるの!?」
ガシャン!と食器を鳴らしてイモーティアさんが立ち上がる。
そんなイモーティアさんを、旦那様がポカンとした表情で見上げた。
私は爆笑しそうになるのを必死で耐えながら、どうなされたの?と涼しい顔を必死で取り繕う。
「うちの使用人がどうかしたのかしら?」
「何やってんのよ!?お父さん!お母さん!お兄ちゃん!お姉ちゃん!」
「「…………え?」」
旦那様ばかりではなく、給仕していた執事までもが間抜けな声を出す。
良いリアクションだね!
星3つ!
「あら、イモーティアさんはファミリア男爵の娘さんだったの?」
うーん、ちょっと演技がわざとらしすぎたか。
いや、本当に知らなくても、イモーティアさんなら私に怒るだろうしね。
「…………うちが水害被害で大変な時に、ろくに帰ってこないと思ったら……」
ダッディが絞り出すような声を出す。
マーミーは下唇を噛んで下を向いていた。
アンネとニーニは恨めしそうな目でイモーティアを睨んだ。
「どういうことだ……?」
うーん、旦那様ったらこんな分かりやすいセリフをファミリア男爵が言ってくれたのに、まだ分からないのか。
そんな事じゃ名探偵にはなれないZO☆
まあ、迷探偵には助手が必要なので、私めがその役をば。
「1年程前に西の地方で大きな水害がありましたでしょう?ファミリア男爵の領地は特に被害が大きくて……。だから、私の実家が援助を申し出たんですの。ただ、短期間で最低限にまで領地の状態を戻すには専門的な事や秘匿的な物も多くて……。だからその間、ご家族でうちで働いていただく事になってましたの」
公爵家で働いていた期間もあるが、1年契約のうち、あと9か月残っている状態である。
その間に新しい人を雇う事もできるから丁度良いと、無邪気(に見えるよう)に私が言うと、嘘つかないで!とイモーティアさんが叫んだ。
「あんた!うちの家族をどうする気よ!?金に物を言わせて、あたしの家族まで……っ!」
そこまでイモーティアさんが叫んだ時、ダッディがつかつかと近寄って頬を張り上げた。
ッパーン!と気持ち良いまでの快音である。
「命の恩人のお嬢様に何て口の利き方だ!うちの領を助けてくださってるんだぞ!?」
「そうよ!あんたなんかうちが苦しい時にも何の手助けもしないで!」
「帰ってこいと言っても帰ってこなかった理由が、これかよ?」
「それに、あんたが家を出る時にくすねたお金の事、忘れてないからね」
ポカンとしていた旦那様だったが、イモーティアさんが泣きだした事で、漸く我に返ったらしい。
「お前達使用人の分際で、私の最愛に……っ!」
「その前に私どもはそれの親でございます。子供の躾は親の義務でございます!」
ダッディの言葉に、う、とクーレー様が怖気付く。
いや、男爵と侯爵であんたの方が偉いんだし、いつも偉そうにするなら、もうちょっと頑張れよ。
「…………お前達、本当にイモーティアの……」
「父です」
「母でございます」
「兄です」
「姉ですわ」
相手が格下の男爵家の人間とは言え、最愛の家族には強く出られないらしい。
まあ、そう考えると普通か。
いや、普通か?
「まあ。イモーティアさんのご家族だったのね。イモーティアさんの家名を存じ上げなかったから気付かなかったけれども……」
…………ちょっと苦しい言い訳かな。
だってこの男爵家、子供達が全員、父母どちらかの生き写し状態で似てるからなあ。
まあ、気付かなかった天然系というていで押し通そう!
「ご家族と一緒なんて、イモーティアさんもお心強いでしょう」
良かったわあ、とはしゃぐ私に、よろしくお願いします、とファミリア男爵家の皆々様は憎々しい視線をイモーティアに向けながら頭を下げた。
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それから、私の試練の日々は始まった。
その日の午後。
今日は天気が良いので庭の薔薇を見ながらお茶をという時になった時、イモーティアさんが私に難癖をつけにやってきた。
一応午前中に買い物は行ったらしい。
まあ、一日コースと聞いていたのに、午前中で切り上げたという事は、やはり私の使用人達が気になったのだろう。
そりゃあ気になるだろうなあ。
私は既に、イモーティアさんの顔を見るだけで笑いそうになってしまう。
それでも平然を装って、薔薇の香りのする紅茶を少し飲んでから、ニコリと淑女の笑みを浮かべながらイモーティアさんに話しかけた。
「ごきげんよう、イモーティアさん。どうかなされたの?」
「このドレス、クーレー様に買っていただいたのよ?」
今から夜会ですか?みたいな豪華なドレスを着て、イモーティアさんはクルリと回った。
このボリュームのドレスを着て1人で回転できるなんて!
イモーティアさん、以外と筋力があるのかしら?
「…………あれ?あんた、胸盛ってない?」
アンネがイモーティアさんにポツリとこぼす。
その瞬間に、バッとイモーティアさんが胸の辺りを手で隠すような仕種をした。
それだけで、彼女の乳が偽乳だと自白したも同然だ。
「馬鹿の一つ覚えみたいに、胸盛りゃ男にモテると思って……」
「仕方ないわよ。実際何人かはそれで引っ掛かてるんだしねえ」
呆れた姉の言葉に、母が笑いながら付け足す。
「いい加減気付きな?胸にしか目がいかない男なんてろくなもんじゃないよ?」
「そうそう。浮気者とかに引っ掛かるのが関の山よ」
「って、既に浮気者に引っ掛かってたわね!」
「はあ……。我が娘ながら、男を見る目の無い……」
イモーティアさんは怒りにプルプル震えている。
後ろのメイドは笑いを必死にこらえてプルプル震えている。
そして、私は笑いを堪えるために天然を装うとしたのだけだが。
「そんなに盛っているの……?」
好奇心が勝ってしまった。
「だってお嬢様、イモーティアの普段は……ゴニョゴニョ」
「それもその下着で……ゴニョゴニョ」
「え?そんな事が可能なの?」
下着1つで世界が革命されとる。
驚く私に、マーミーが苦笑を浮かべた。
「そうなんですよ。うちは貧乏男爵で常勤の使用人なんか雇えないから、私が洗濯の仕分けまでだけしてましたし」
「凄い技術だわ……っ!」
普通に感動してしまった。
私もそこまで胸がある!ってタイプじゃないもの。
マーミーやアンネと同じくらいから、あそこまで自然に盛れるなんて!!!
「あら、お嬢様は偽乳にご興味が?では後で、更に凄い技術を伝授いたしますね」
アンネがニコニコと笑いながら言ってくれる。
いや、イモーティアさんの技術を更に超えれるの!?
「何よ!何よ!!!」
そう怒りながらイモーティアさんは走って去っていった。
…………あの豪華ドレスで。
自分でたくし上げて走っていく様は単純に凄いし、メイドが置いてけぼり状態だ。
お待ちください~、とちょっと涙声で我に返ったメイドも去っていった。
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夕飯時。
朝食もそうだったが、前侯爵夫妻がいた時も一緒に食べてたせいか、自然の流れで旦那様と一緒に食事を取る事になってしまっている。
いや、愛人と一緒に食べるなら、私に別室で食べろとか命令しろよ、と思うのだが、そういう思考は無いらしい。
まあ、見せつけたいと昨日くらいまでは思ってたからだろうなあ。
そして今日の今日じゃ修正できなかったんだろう。
旦那様とイモーティアさんの給仕は、ゴーゴロク家の執事1人だけ。
対して、私には給仕が4人である。
「…………多くないか?」
「いいえ」
いや、どう見ても多いですけどね。
ツッコミはそれだけで良いんかい。
しかも追い出せとかならんのかい。
…………まあ、愛人の家族を追い出すのは気が引けるのかな……。
イモーティアさんも可愛い子ぶってるから、両親兄姉を追い出せとは表立って言えないだろうし。
そして夕食が始まる。
朝食の時もそうだったが、イモーティアさんは少々カトラリーを使うのが下手らしい。
嘘です。
少々どころかドヘタクソです。
カチャカチャ、こんなに賑やかな晩餐は初めて☆というくらいに鳴らしている。
「……すっげえ音」
ニ-ニがポツリと零した。
「な……っ!?」
瞬間、顔を赤くしたイモーティアさんに更なる追い打ちをかけるのは、姉のアンネである。
「何言ってんの。まだマシになった方でしょうよ。だってほら、切り分けたお肉をフォークで食べてるのよ?」
「確かにそうだな。あいつ、昔はナイフとフォークで切った後は、ナイフで口に食べ物運んでたからな」
「そうそう。私は右利きなんだから、右手で持ってる物で食べるのが正しいのよ!って言い張ってたっけ?」
ニーニとアンネの会話に、私は逆に、凄すぎる……!と謎の感動を覚える。
だって、ナイフを口元にとか、考えただけで私はちょっと震えてしまうのに。
「あれは恐かったなあ……。結局、10歳くらいまでナイフで食べ続けてたしなあ」
「最後、ナイフで口を切るまでナイフのままでしたからねえ」
父母の追い打ち。
「口の中切ったってか、あれ、舌怪我したんだよな?」
「そうそう。あの日は久しぶりにお肉が出て、そのソースが美味しかったからって、ナイフを舐めたのよ。それで舌が、ねえ……」
そして更なる追い打ちのニーニとアンネの会話に、ひょえええ、と私はそれを聞いただけで足が震えた。
痛い痛い、という顔を旦那様もしている。
執事は表情を作る事も忘れて、イモーティアさんを嫌悪を混ぜながら凝視していた。
「何よ!?人を馬鹿にして!!!」
「事実でしょ」
怒鳴ったイモーティアさんに、アンネがサラリと反論する。
そんな奴はおらんやろ、と思いたいのに、イモーティアさんの態度は、今までナイフで食事をしていたと自白したも同然なのだ。
うわあんん!と泣きながらイモーティアさんが去り、それを旦那様が追い、暫く呆然としてから、執事が、料理長に連絡をしてくると部屋を去っていった。
私はとりあえず、食事を再開した。
ナイフを見て、ちょっとブルリと震えたけれど。
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それからも、イモーティアさんの口撃は悉く撃退されていった。
やっぱりおしめを替えていた人達に勝つ事は難しいのだろう。
どんな嫌味を言ったって、過去の恥ずかしいエピソードでどんどんと上書きされてしまう。
私も最初は、愛人がちょっと居づらくなれ、くらいに思っていたのに、イモーティアさんのありえないエピソードが今や待ち遠しい体へと変えられてしまった。
イモーティアさんが私にぶつかってきた呈で水をかけられ、うっかり服が濡れてしまった時は、かなり大きくなるまで夜中のお漏らしが続いていた事を暴露された。
私が呼んだ商会の商品を見ている時に、イモーティアさんが乗り込んできた時は、昔に騙されて、宝石ではなくガラス球を購入した事を暴露された。
見る目が無いんだから、宝石なんか持ってても仕方ないだろう、と一蹴だった。
子供好きを旦那様にアピールしている時は、子供なんか好きじゃないという事を暴露された。
しかも、赤ちゃんは100%の確率で、イモーティアさんが近付くだけで泣くらしい。
口くっさいんじゃねえの?とニーニに言われて、泣いて去っていった。
バカねえ、口が臭いのがまた好きとか言う癖を持つ人が世の中にはいるのよ、とアンネの流れ弾によって、旦那様も去っていった。
私が女性にしては少々身長が高い事を馬鹿にされた。
いや、旦那様が男性にしては低い……、とちょっと思ったが、その前に、あんた縮んだ?とマーミーが暴露した。
どうやらイモーティアさんは、旦那様の身長を気にしてか、常に少し腰を落とした状態でいたらしい。
いや、確かにボリュームのあるドレスばかり着るなあとは思っていたけれど、そのためとは!
これにはかなり感心した。
やっぱりイモーティアさんはかなり足腰が強いのだろう。
私も公爵令嬢としてカーテシーを維持する自信はあったが、長時間、立っている時も移動する時も腰を落として、更に自然に過ごしていたイモーティアさんは凄すぎる。
親兄弟からのドン引きエピソードは、私もドン引きだった。
兄の友人全員に告白して、総ふられとか、姉の友人にマウントをとって悉く撃退されただとか。
甘い物を求めて、花の蜜を飲んだらそれが毒花だったとか。
少し知恵をつけた後に、砂糖をなめまくって、摂取量が多かったからか、吐きまくって砂糖壺ごと駄目にしたとか。
…………砂糖、貴重なのにね……。
顔は少々可愛いが、中身を知ればほとんどの男が逃げていくのだとか。
……旦那様と付き合って半年くらい経ってると調査書には書かれていたけど、実は旦那様って凄い人なのでは……?
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そんなこんな毎日が続き、流石のイモーティアさんも泣きつき、旦那様も怒りだした。
「離婚だ!離婚!」
「かしこまりました」
ちょっと肩透かしを食らっているような顔を旦那様が浮かべたが、まあ仕方ない。
幻のワイン飲み放題は少し惜しいが、あのお人好しな義父母なら、捨てられた呈の私が泣きつけば、毎年1本くらはワインを融通してくれるだろう。
ってか、名産品なのに、旦那様はあまりワインに興味が無いようで、このまま頑張って侯爵家に居座っても、飲み放題の道は遠そうだと気付いてしまったので、こちらとて未練は無い。
「では、ファミリア男爵家の皆さんを、私の仕事の後任として置いていきますね」
「え?」
イモーティアさんが間抜けな声を出す。
「後3か月くらいは男爵領を立て直すのに時間がかかるので、ファミリア男爵家の皆様ももう少し出稼ぎをなされた方がよろしいでしょう。ご安心ください、彼等の給料は我が公爵家で出しますので」
「……えっと?」
旦那様が訳が分からないよ、みたいな顔をしている。
「私がいなくなれば、女主人のお仕事はイモーティアさんがされるんでしょ?それに、お仕事ができるアピールをしておいた方が、義父母様達も再婚を許可しやすいのでは?」
「確かにそうだな」
そんな訳あるかい!とツッコミを入れたい気分だが、ここで衝動に負けたら、人生の敗北一直線である。
旦那様には是非私と離婚していただかなければいけないし、義父母様が男爵家の娘を嫁にするなんて考えられないと言う前に逃げなければいけない。
「でも、その引継ぎを私がするのもなんですから、ファミリア男爵家の皆さんにお願いしようかと」
ほの暗い目でファミリア男爵家の皆さんがイモーティアさんを見る。
恨みはまだ消えていないらしい。
ひぃっ!とイモーティアさんがあげた悲鳴は、旦那様には聞こえていないのかな?
「マーミーとアンネがお世話係もできるでしょうし、気心の知れたダッディやニーニに仕事を教えてもらうのは、イモーティアさんにとってもやりやすいでしょう」
「そうだな。お前、少しは良い事を言うじゃないか」
満足そうな旦那様。
微笑を返す私。
そんな私達を、イモーティアさんは信じられない物を見るような目で見ている。
私を睨むのは良いけど、説得しないといけないのは旦那様、じゃない、ゴーゴロク侯爵様よ~。
ただ、侯爵家の内部の事が、他の男爵家に知られているという事に危機感は無いのかしら?
まあ、平和な国だし、暫くは大丈夫かも?
うーん、どこかの家に乗っ取られたりするなら、実家の公爵家が頑張って侯爵家を潰した方が早いかしら?
こういう時、無駄に高い爵位だと対応が面倒ね。
まあ、それは実家に帰っての検討って事で。
「それでは私は失礼しますね。マーミー、アンネ、残っている荷物をまとめて、後で送ってちょうだいね」
「「かしこまりました」」
そう言って私はさっさと実家に帰った。
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その後。
ゴーゴロク侯爵は、離婚までは認められても、再婚が認められる事はもちろん無かった。
恨みもあったのか、それとも仕事を覚えさせねばという気概が先走り過ぎたのか。
イモーティアさんが再婚を認められないにも関わらず、ファミリア男爵家の皆さんは鉄拳制裁込みでイモーティアさんを躾けた。
普通、使用人が主の恋人に手を出すなんてありえないが、親が子供を躾けているのだという言葉に、ゴーゴロク侯爵は流された。
結果。
イモーティアさんの顔は腫れ上がって酷い物になり、それを見て急にゴーゴロク侯爵は愛が冷めたらしい。
酷い話だ。
その頃、ちょうどファミリア男爵家の皆さんも領地に戻る時期だったので、イモーティアさんを引きずってそのまま帰っていったらしい。
イモーティアさんも殴られ過ぎて、抵抗する力を失ったのだろう。
まあ、自領が辛い時に逃げるだけならまだしも、金品を盗んでいった事があまりにも大きい罪だったのかもしれない。
イモーティアさんが盗まなければ、助かった命があったかもしれないのだし。
ゴーゴロク侯爵家はその後嫁を探したようだが、あそこは嫁の顔が変わるまで殴られ続ける、なんて、噂が出てしまったせいで、嫁の来手がない。
まあ、間違ってはないけどね。
元嫁は殴られてないけど、嫁(予定)は殴られまくったわけだし。
男爵家は持ち直し、何とかやっていけそうだと、ダッディから手紙がきた。
公爵家には頭が上がらないと書いてあったが、私の興味本位で振り回したも同然なので、礼の言葉はちょっと落ち着かない。
イモーティアさんの話はあれから聞かない。
まあ、小さな男爵家の次女の存在などそんなものだろう。
少しは気にはなるが、平民になったとかいうオチなら笑えても、笑えないオチが待っている可能性もある。
ゴーゴロク侯爵家は公爵家に毎年幻のワインを3本くれるという約束をしてくれた。
まあ、慰謝料代わりなので、こちらがどう考えても損しているように見えるかもしれないが、私は毎年ワイン3本の方が嬉しい。
公爵家にも1本渡す事で話はついてるし。
そして私は新しい嫁ぎ先を探している。
後妻でも良いし、愛人でも良いから、ワインの美味しい領地を持っているところが良いなあ、と父にねだっている感じだ。
なかなか見つからないけれど。
めでたし、めでたし。
一部めでたくなしでも、どっとはらい。
笑える話にしようと思って、憎めない系愛人を目指したのに、家族の怨念が強すぎたオチになりました。




