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ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


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第9話 再邂逅 ~俺はかれらの欲しいものを持ってるし、かれらは俺の役に立つ~

「もしかしてあんた、こないだの地味おじ?」


 失礼な呼びかけに振り向くと、逆光を背負った二人組が立っていた。前に出る小さな影と、後ろに控える大きな影。先日の酒場で遭遇した姉妹に間違いない。


「まともな探索者の格好してるから人違いかと思っちゃったよ。なになに? いまから潜んの?」


 朝の太陽がまぶしくてイマイチ表情は見えないが、薄笑いしてることくらいは想像できる。まったくもって失礼な女だ。


 可能な限り渋い顔をして、俺は小さくうなずいた。


「ダンディは、今日は一緒じゃないの?」


 ツルタ氏のことか。にしてもダンディと地味おじとは、随分な差ァつけてくれるじゃねえか。


「彼は……今日はフツーに休みだ」


「え? 月曜なのに?」


 いた! こんなところに仲間が!


 とか喜んでる場合ではない。


 そもそも、表情が読めないのは分が悪すぎる。そう思い、俺は数歩位置をずらす。そんな動きに頓着するでもない美少女は、俺の陰になっていた建物の入口を見つめていた。視線に釣られて振り返る。彼女の目が捉えていたのは扉に貼られたポスターだった。


┌────

 クラスタソリッドは止まらない!

 新宿ダンジョン、エリア拡大中!

       ────┘


「エリア拡張工事準備室って、あんた、クソネットの人だったのかよ?」


「おねえちゃん、会社の人にその言い方は失礼だよ」


 姉ちゃんはクソで、妹は聖女だ。


 ていうか、身バレしたんじゃしかたねえ。


「そうだよ。迷宮(した)に潜って5Gの基地局建てんのが俺の仕事だ」


「マジか!」


 姉は本気で驚いているようだった。が、失礼な物言いを改めるそぶりはない。


「こいつは世話になってる、と言いたいとこだけンど……」


 そこで一旦切った姉は、大きな深呼吸をしてから怒鳴りつけてきた。


「いづンなったら第二層さ使えるようにすんだ、こらっ!」


 血相を変えた元美少女は、そのまま息継ぎもしないで畳みかけてくる。


「おめたつがのそのそしてっがら、おらだづのじぇんこは尽いでしまったでねぇが。おがげでこっちはこれがら帰るどごだ。どうしてけるんだ? えっ!?」


「悪い。なに言ってんだかぜんぜんわかんねぇ」


 いやマジでわかんねえよ。そんなバリバリの方言を早口でまくしたてられても。


 俺の表情を読んでなのか、姉の肩に手を置いた妹がすっと前に出た。


「クラスタソリッドさんのせいじゃないんですけど、私たち、配信が上手くいかなくって手持ちのお金が尽きちゃったんです。だから今日の汽車で故郷に帰ることになって」


「出世払いできなくてごめんなさい」と言って、妹は大きな体を深々と折り曲げた。その右手は姉の小さな頭に当てて、合わせてのお辞儀を強要している。マジでよくできた妹さんだ。かなりの力で押しているのか、くの字の姿勢にされた姉が「ぐえっ」と呻きを漏らしている。


「明日から、だ」


 地面と向かい合わせにさせられている姉が、俺のひとことに反応して上目を向けてきた。


「明日って、なにが?」


「第二階層のエリア工事」


「はあ?!」と叫んだ姉は、押さえつけている妹の手を跳ねのけた。


「なんで? なんでそのタイミング?! いじめ? パワハラ?」


 身の危険を感じるレベルの爆発的な勢いで、猛獣姉は飛び掛かってきた。が、その手は伸ばす前に動きを封じられた。後ろに立つ妹が、瞬間の反応で姉の両腕を掴んだのだ。握られた肌が、みるみるうちに赤く染まってくる。


 こりゃあ、あの手の下で相当強い力のせめぎ合いをやってるな。


 俺は息を整えて説明を続けた。我ながら言い訳じみてるとは思うけど、姉妹の話を無下にしたつもりはない、ってわかってもらえるだろうか。


「これでも相当前倒しにしたんだぜ。きみらと会った翌日に提案書を出して、第一階層の拡充よりも先にする承認を取れたのが先週末、金曜の夕方だ。最短だろ?」


 俺の真心は、ほんのかけらも通じない。腕を掴まれたままの姉が捕縛を振り解く勢いで、間髪入れず吠えたてた。


「土日も仕事しろっ!」

「おねえちゃんっ!」


 覆いかぶさるように抱え込んだ妹が、鼻息を荒立ててじたばたする姉を本気で叱りつけている。さながら、子どもの猛獣を(しつ)ける剛腕調教師だ。


 この姉、たしかに小柄ではあるが、最初に見た見事な投げから考えても身体能力自体は相当なもののはず。その姉を力だけでねじ伏せている妹の腕力は、たぶん凄いのだろう。居酒屋で聞いた姉の台詞を思い出した。


――荷物なんか持たせたら凄いよ。重量挙げとかなら、オリンピックでも余裕で金メダル(きん)じゃないかな。


「お前らさ、帰りのチケットはもう買ってんの?」


 はあ? と毒気の抜けた姉。その顔の上で妹が応えた。


「まだです。このあと駅に行って買うつもりなので……」


「実家帰ってはじめることなんかも、まだ決めてないんだよな?」


 うなずく妹。姉の方は意味がわからんという顔をしている。


 俺は考えていた。今のこの姉妹が足りていないものと、今の俺にとってあると助かるもの。0号倉庫に積まれた機材と物資、さっき金庫で見かけた封筒、さらには俺に与えられている白紙手形。それらを思い浮かべて線で繋いだ俺は、なるべく善人に見える笑顔をつくって、二人に考えを告げた。


「即金で日当出せるんだけど、どう? とりあえず今日一日、俺の手伝いをしてみない?」

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