第8話 月曜日 ~ハッピーマンデーなんて聞いてねえ~
月曜の朝、エアポッドでお気に入りのビースティを聴きながら出勤する。いつもと同じ時間の京王線に乗って新宿に向かうのだが、なぜかラクに座れた。
いくらなんでもおかしい。車内の人が少なすぎる。なにかあったのだろうか?
不信に思った俺はスマホのカレンダーを確認する。疑惑はすぐに氷解した。今日は海の日、ハッピーマンデー。
なんてこった! どんだけ世間と隔絶してるんだよ俺は。
考えてみりゃこの土日も、溜まってた洗濯ものを片付けるのにコインランドリーに半日籠り、一週間分の冷凍食品と酒を買い出しに行って、近所の町中華で二回飯食って、あとは自室でビースティか、そうでなきゃダンジョンの配信を見てただけ。独り言以外で口を開いたのは「レバニラとビール」だけだったかもしれない(二回とも同じものを食べたから)。
「駄目オトナじゃん、俺」
自嘲気味に口に出してみたら、それも案外悪くないって気がしてくる。いつもの半分以下の雑踏だが、それでもそれなりににぎわっている新宿の地下街を歩きながら、俺は自分を理解していた。せっかくの休みではあるけれど、どうせここまで来ちゃったんだから少し潜って仕事してこう、と考えてるのを。
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外国人観光客が目立つ靖国通りを左に折れて二ブロックほど入ると落書きだらけの仮囲いにぶつかる。そのまま東に歩けば、ものの一分で東京迷宮遺跡入口が現れる。入場口はそこそこ混んでいた。Tシャツにスニーカーなんてのがけっこういるから、本気の探索ではない野次馬的な物見遊山なのかもしれない。
たしかにいま流れてる配信を見る限り、ダンジョン内が危険なところという印象は感じない。いいとこ、未整備の洞窟。大都会のど真ん中なのに観光地の鍾乳洞なんかと同じ調子で入場できて、しかもライトな探検気分が味わえる。
「そういや、配信者の中には『有料でガイドやります』なんて言ってたやつもいたっけ」
そんなことを思い出しながら通用門に回る。俺たち作業員は業務コードが発行されてるから、当然ながら入場券は要らない。振り返って遠足気分の連中を一瞥した俺はつぶやいた。
「迷い込んでゴブリンに連れ去られてもしらねえぞ」
だらだらとした坂道を下ってカルデラ状の城下町に入った。まだ九時前だってのに開けてる店も何軒かある。ダンジョンには入らずに、ここの雰囲気だけ味わってくって観光客も少なくないんだろうな。
荏原が『0号倉庫』と呼ぶ地上詰め所で、俺は着替えながら備品のチェックをする。当然だが、ツルタ氏たちは来てない。そりゃそうだ。本日は国が定める国民の休日だ。サービス業の連中以外はみんな大手を振って休んでる。勘違いして出てくる馬鹿なんて、俺ぐらいなもんだ。
「ツルタ氏にはちょっとだけ期待したんだけどなぁ」
一人でぼやき、独りで嗤う。
いやいや、彼は立派なオトナだ。俺みたいなはぐれもんと一緒にしちゃあ失礼だよな。
倉庫の中身は約束通り補充されていた。機器類の他にも大量の水と糧食、毛布や寝袋なんてのもある。よく見ると、見慣れない筒状のものも何本かあった。少し角ばった警棒サイズで、黄色いプラスチック製。説明書きもなにもないから、どう使うのかもまったくわからん。まあ、必要なもんならそのうち荏原がなんか言ってくるだろう。
用途不明は置いといても、ここにあるもの全部をベースキャンプに持っていければ短くても二週間は補充なしでいけそうだ。
念のため金庫を開けると、封筒に入れた仮払い現金のほかに蓄電石も増えていた。スーパーの玉子と同じレイアウトで十個入りが二パック。透明ラバーのパッケージは一個ずつ使用できるようになっていて、それぞれに封印がなされている。
そっちはそのままに、前回携帯していた分だけをウエストバックごと取り出した。
「今日は単独だから、あんま荷物は持てねえな」
ヤベェな。またしても独り言。なんかどんどんダメ度が増してってる気がする。
魔物に遭ったらすぐに逃げられる程度の軽装備は整えた。「さあ行くぞ」と扉を開けて、表に足を踏み出す。と、そこでいきなり声をかけられた。
「もしかしてあんた、こないだの地味おじ?」




