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ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


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第4話 会議室 ~モノホンのカリスマってのはこういうもんか~

 立ち尽くす課長さんの背中を回り込み、音もなく席についた王塚社長は前置きゼロでいきなり話しはじめた。


尾仁川(おにかわ)さん、報告書は拝見しました。まずは最初の橋頭堡(きょうとうほ)を無事築いてくださりありがとうございます。御社を傘下に加えた甲斐がありました」


 正面からの視線は、末席に座る俺の顔を真っ直ぐに射抜いている。へびに睨まれたなんとかというか、金縛りに遭った俺は足の先すら動かすことができなかった。


「ご指摘のチーム編成については、残念ながら今のところはクリティカルな打開案を持ち合わせておりません。ですが、座して静観というつもりでもないので、その点はしばしご寛容ください。取り急ぎ、警備員の補充はお約束しますので。また助手やその他必要人員についても、尾仁川さんの権限を拡大しておきましょう。事前もしくは事後の報告はいただくことになりますが、尾仁川さんご自身がこれはという方がいらっしゃるようであれば、人事部の決裁抜きで加えていただいて構いません」


 そこではじめて息をつき、仏像のような笑みを浮かべた王塚社長は、「あくまでも雇用契約を逸脱しないレベルで、ではありますが」と付け足した。

 ちょっとまて。いまなんつった? 人事部の決裁抜きで? てことは、俺が勝手に人雇ってもいいってことなのか?

 いやいやいや。この白紙手形、一見はめちゃくちゃ好条件のように聞こえるけれど、要は丸投げってことだろ。自分とこでは人材探しや育成なんてやってられないから、お前が自前の伝手でなんとかしろって言ってんだよな、これ。いいのかよ。通信四強に名乗り上げてる上場企業様がそんなことで。


「私たちが求めるのは、未だ未踏部分の多い新宿ダンジョンの全域全階層を、中に入って探索されるすべての方々があまねく通信環境を享受し、シームレスに外界と受発信できるエリアに塗り変えること。ただそれだけです」


 演説を一旦切った王塚社長は、ここでぐるりと全体を見回した。

 まさに睥睨。お前はギレン総帥かって感じだ。本物(モノホン)の独裁者ってのは、こういうののことを言うんだろうな。


「ただし、これには条件が付きます」


 王塚社長は大きく息継ぎをする。

 列席の背広組が飲む固唾(かたず)の音が会議室全体に響いてるかのようだ。


「スピードです」


 まあ大事だよね、スピード。とくに業界後発のベンチャーとしては。


「完遂するまでの時間がかかればかかるほど、他者による有象無象が増えてくるのは想像に難くありません。志の中途半端なインフラが参入してくるとトータルでの利便性が低下し、ひいては人類全体が得られるはずの利益が損なわれることになります」


 これが世に云う「王塚スタアの大言壮語」ってやつか。やたらに主語をでかくして、聴いてる馬鹿の心を掴む。単に自分とこのシェアを独占までもってきたいだけだろうに。


「だからこそ、スペシャリストであるみなさんのお力が必要なのです」


 なぁにが「スペシャリスト」だ。この面子ン中で現場潜って手ぇ動かせるのなんて俺しかいねえじゃねぇか。


「目標の期限は一年。来年の夏には新宿ダンジョンの津々浦々で自由に配信動画が視聴でき、SNSでつぶやける。そんな未来を実現しましょう、私たちの手で」


 長い息継ぎ。突っ立ったままの課長さんや他の背広どもも社長に釣られてなのか、部屋の二酸化炭素濃度がひと目盛上がるくらい大きな息を吐いてやがる。

 だがこの連中はいまの話の本当のヤバさに気づいてないんじゃねぇか? よく考えてみろ。一年だぞ、たったの。どこまで深いのかもわかってない未知の迷宮相手の期限に、そんなめくら判みたいな調子で安請け合いして大丈夫なのかよ。

 とはいえ、背筋が凍った俺もその場で声を上げることはしなかった。勇気がなかったのもあるが、それよりも、大規模開発の工数なんてもんは遅れてなんぼってのが常識だろうと軽く見積もって。


 どうやら本題は終わったっぽい。盛り上げるだけ盛り上がった場の空気が少し軽くなった気がする。呪縛から解き放たれた俺の身体も軋みをあげてるし。

 すげえな、この掌握力。この社長、マジでばけもんだよ。


「私からお伝えすべきことは以上です。詳細についてはのちほど担当よりお知らせしますので、尾仁川さんは明日以降も、昨日同様5G通信のエリア拡大に粉骨砕身していただけるようよろしくお願いします」


 では、と締めた殿上人は、霧のように立ち上がり霞のように退出していった。


     ⌚


 二日めからの現場はだいぶラクになった。

 交代で入ってきた二名の警備員は頑丈そうな武闘派で、初日の助手が担っていた機材等の荷物持ち役もこなしてくれた。おかげで俺は、自前機材をぶら下げたベルトとバッテリーを収める少し重めのウエストバッグ、それに携帯食と遮熱シート、ロープなどを詰めた個人用リュックだけで済み、両手が自由に使えるようになった。


「初日にゴブリンを撃退したのは効果的だったようですね」


 横を歩くツルタ氏が話しかけてきた。口調が明るい。そりゃそうだ。再開から三日、ここまで対処したモンスターはスライムやアミガサなど粘菌性で動きのとろいのと、あとは大型げっ歯類が少々。棍棒持って向かってきた初日のゴブリンどもに比べたら小学校の遠足みたいなもんだ。おかげでこっちの作業ノルマも順調に稼げてる。今日もDAS一基と子機八個のメッシュWiFi一セットを設置することができた。


「そちらの進捗も順調ですか?」

「おかげさまで。このままのペースで行けりゃあ、今週中に第一階層の主回廊がクリアできそう」


 タブレットで開いたダンジョン地図を指で辿る俺は、ツルタ氏の質問に軽い調子で応える。いやマジで順調。なんなら側道だって、既知の分だけでいいならプラス三日くらいで網羅できそうな気さえする。

 にしても、先行探索者の有志が作成してネットにあげているこの地図はなかなかの優れモノだ。新宿ダンジョンWikiにぶら下っているから、ユーザーによる加筆や修正も随時行える。かく言う俺も5Gエリアのレイヤーを絶賛提供中だ。今みたいにネットが繋がってればWiFi測地で現在地も表示できる。GPSが届かない地下迷宮を彷徨う探索者向けのインフラとしては第一級の必需品とも言えるだろう。


「いやあ、便利な世の中だねえ」


 思わず言葉にしてしまった俺のつぶやきが聞こえたのか、ツルタ氏も苦笑いをしている。雰囲気にのった俺は勢いまかせのひと言を口に出してみた。


「どうスかツルタさん。今日は定時に上がれそうだし、そのあと一杯、とか」


 顔を上げた俺のヘッドライトにツルタ氏の笑顔が照らし出された。


「よろこんでご相伴させていただきます」

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