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ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


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第34話 新兵器 ~新しいフェーズに入る前に~

「一応規定では副業不可ってなってんスけど……」


「じゃあどうやって返せっつーんだよ。てめぇら都合で押し付けられた借金を」


「押し付けられた、なんて人聞きの悪い」


「ほかに言いようなんてねえ」


 リモート画面の向こうで荏原の野郎がにやにや笑っている。目の前にいたら馬乗りンなって首絞めてやってんのに。


「まあいずれ、尾仁川さんは出向で、本籍はうちじゃないスからその辺の細かいことはなんとかしますよ、僕が」


 なぁにが「僕が」だ。恩着せがましいこと(はなは)だしい。


「取りっぱぐれのまま跳ばれるよりは百万倍いいっス。まあせいぜいバイト頑張っ」


 例によっての余計なひと言をクローズボタンで断ち切って、俺は顔を上げた。


「てことは、OKなんですね!」


 水面が満面の笑みで拍手する。


「まあそういうことだ」と応え、俺も控えめに親指を立てた。


「会社立てるんなら社長はランボがやってよね」


「起業なんて、俺、やったことねえよ」


四十(しじゅう)のおっさんが泣きごと言うな。誰だって初めてはあんの」


 そう切り捨てる鏡華の横で、水面が身を乗り出してきた。


「私、全面的に協力しますから」


 二人のうしろでツルタ氏がにこやかな表情を浮かべている。と、いきなり鏡華が振り返り、ツルタ氏にターゲットを移した。


「そこで笑ってるけど、ダンディも役員なんだからね!」


「え? 自分も、ですか」


「当たり前でしょ。チームMSFなんだから!」


「なんだよそのMSFつーのは」


 俺の声に反応して向き直った鏡華は、両手を腰に当てて胸を張った。


「『みちのくサスケファミリーズ』に決まってんでしょ」


     ⌚


 休み明けの月曜日、新しい拠点「ベースキャンプ(BC)セカンド」に俺とツルタ氏一行が到着すると、いきなり鏡華がぶーたれてきた。


「おっそーい!」


 顔にでっかく、待ちくたびれたと書いてある。腕のG-Shockを見ると、十一時を回っていた。入口からかれこれ二時間。たしかに時間がかかり過ぎだ。


「もうさ、ここに住んじゃいなよ、ランボもダンディも」


「んなこと言ったらこーゆーのとか0号に届いた荷物とか、いったい誰が持ってくんだよ」


 ボストンバッグからコンビニ弁当と配送品のいくつかを取り出すと、姉妹は飛びついてきた。


「デリバリーサービス、サイコー! 配送員さん、これからもよろしくね❤」


 さっそく弁当を開ける鏡華と水面に俺はツッコミを入れる。


「だいたいお前たちにまともな時間感覚なんてあんのかよ。年中薄暗がりの穴ン中じゃ、昼も夜も関係ないだろうに」


「まあ、ほうなんだけど、ひちよー定時配信ってのほひゃってるから」


 年頃の娘が口にもの入れたまま喋んな!


「で、いよいよ今日からは第三層にアタックするんですよね」


 ちゃんと飲み込んでから尋ねてくるのは水面。毛色の良さは、姉を反面教師にしたせいだろうか。にしても、血の気は姉妹ともに盛んだ。


「まあそうなんだけど」と口ごもる俺に、ツルタ氏が助け舟を出してくれた。


「ランボさんはどこかでテストをしてみたいそうですよ。例の『黒玉』を」


「できたの?!」


 口から米粒を飛ばす勢いでの食いつく鏡華をいなすかのように、落ち着いた声のツルタ氏が言葉を続ける。


「ここまでの道中で聞きましたが、週末に試作品をいくつかつくられたそうです」


「見たいです!」


 半分がた食べ終えていた弁当を横に置いて、水面が身を乗り出してきた。鏡華なぞ、テーブルの梱包や機器を横に避けて場所までつくっている。


 こりゃどっかでけじめつけないと埒があかん。


「いいからまずは飯を食い終われ。話はそれからだ」


     ⌚


「なにこれ、黒玉じゃなくてピンクじゃん」


「こっちは薄い緑色」


 週末の部屋に籠ってつくったビリヤード球サイズの労作を、姉妹が手のひらに乗せて顔を近づけている。その絵面を見てる俺は、いたたまれないくらい気恥ずかしい。

 さすがに年の功だけあって、ツルタ氏はそれがなんだかわかってるから、二人を横目で見ながら赤くなる俺を楽しそうに笑ってやがる。


「黒は薄いのがなかったんだよ!」


「え? そんな特別に薄いの? このゴム風船」


 縛りつけた根っこ部分の真反対にふくらむぷっくらとした突起を指先でつつきつつ、鏡華はきょとんとしている。そんな貌を見せられたら、俺はもう降参だ。

 こいつら、純真過ぎる。


 当たり前だが未使用だし、中に塗布されてるゼリーだってしっかり洗い落とした。とはいえ、避妊具(コンドーム)だぞ。若い娘が楽しそうに先をつついてていいもんじゃねえだろうが。


 先に気づいたのは水面だった。たぶん、中学では保健体育の授業を真面目に聞いていたのだろう。


「ランボさん……これってもしかして」


 肩をすくめてうなずくしかない。


「ひゃっ」と言って取り落した緑色の玉を、ツルタ氏が素早く受けとめた。このくらいの高さから落ちた衝撃で暴発するとも思えないけど、危険行為なことには変わらない。


「え? なになに? どうしたの?」


 いまだになんもわかってないおこちゃま鏡華は、動転する水面をぽかんとした表情で見つめていた。


「いいから鏡華もそいつをテーブルの上に置け」


 つくってきた()()二個が安全な場所に置かれたのを確認してから、俺は説明をはじめた。腹をくくって。


「いまお前らが持ってたのはだな、言ってみればアレだ。いわゆるひとつの、コンドーム」


「ええええ! マジで?! いやっ! サイテーッ! ランボのヘンタイ!!」


 大騒ぎする鏡華の隣で、水面は、やっぱりという顔をしている。


「ある程度以上丈夫で、なおかつ薄く、いったん破れれば内側のものがすっかり露出する伸張性。そんな都合のいい市販品はそれしかなかったんだよ」


 仕組みは簡単だ。


 蓄電粒砂と還元剤をセットに仕込む、それだけの話。還元剤はマグネシウム。粉末状のボトルがモノタロウで売っていた。

 Aパターンは、マグネシウム粉末を詰めたコンドームを蓄電粒砂と一緒にコンドームに入れて詰める。Bパターンは逆の、内側を蓄電粒砂で外側をマグネシウム粉末。ゴムの厚さは、どちらも0.01ミリと、内側だけ0.01で外側は0.03ミリ。さらに蓄電粒砂の量を調整してみたものの組み合わせで、計八個試作した。


「握った感じはA、Bともあまり違いが無いですね。Bパターンは外側が還元剤なので、反応からの爆散に多少タイムラグが発生するかもしれない」


「ただ、Aだと爆散した際に無駄が多く出そうで」


 ツルタ氏を相手に考察を交わしている間じゅう、姉妹は試作品を持って使い勝手を試していた。コンドームアレルギーはもう収まってくれたようだ。


「これ、砂の側に内側のゴムを破りやすくする小石かなにかを混ぜた方がいいかもしれませんね」


「その場合、取り扱いが要注意になりそうっスけど」


「ランボさん」と割り込んできたのは水面だった。


「私たち、お二人が地上に帰られたあとの時間に何回か第二層を回ったんです、まだエリアになってないところとか。その中で、たぶん人が踏み込んでない小さな広場をみつけたんです。コウモリがたくさん天井にぶら下ってたんで、中まで入って調べてはいませんが、あそこなら黒玉のテストに使えるんじゃないでしょうか」

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