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ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


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第30話 隠し扉 ~ブレイクスルーを求め彷徨う夜~

 自分が根無し草じゃなかったことに気づけたのは、俺にとって大きな前進だった。


「刹那的な」と聞けば文学的でかっこいいが、なんのこたぁない、「無敵の人」なんて単なる思考の硬直だ。圧力を受け止めて内に溜め込むはずのバネがガチガチに固まって、ビジョンも希望もなんも無しにただ跳ね返すだけ。そんなんでヒットなんて打てるはずがない。


 歌舞伎町に向かって歩きながら、俺は三人に感謝していた。かれらのメッセージがなかったら、俺が誰かと繋がっているなんて思い出せもしなかっただろう。


 俺はとんでもない迷惑をかれらにかけるところだった。


 立ち止まった横断歩道で、俺はふうっと胸をなでおろす。


 かれらに責任を分担してもらおうだなんてこれっぽっちも思ってない。が、少なくとも相談したり弱音を吐いたりできる仲間がいるのがこんなにも心強いとは、いまの今まで知らなかった。


 信号(シグナル)とともに動き出す群衆にまぎれ、俺も右左と足を出す。


 ある意味、荏原にだって礼を言わなけりゃいけない。あいつが資格凍結してくれなかったら、勢いのままに蓄電石強奪を進めていたかもしれない。


 雑踏を縫って迷宮を目指す。夜の八時を回っているが、この街のひとびとにとっては真昼間と同じだ。スロープから見下ろす城下町も、煌めくネオンの足元で数えきれない男女が思い思いにうごめいている。


 もしかしたら、と思いながらすれ違う人の顔を注意していたが、さすがにツルタ氏の姿は見当たらなかった。たぶん、いまごろは帰りの電車に揺られているのだろう。


 入場ゲートにカードを当てて迷宮に踏み込んだ。


 俺はいま一人だが、俺のすることは、少なくとも三人には繋がっている。いいことも悪いことも。四十年以上生きてきて初めて味わうこの感覚に、俺は喜びを感じた。


 仲間(チーム)ってのは、いいもんだな。


     ⌚


 ゲートから下ってすぐ、第一層回廊網入口の集約点(ハブ)『新宿ダンジョンメインロビー』の片隅で、俺は佇んでいる。


 外の城下町に比べれば随分と少ないが、それでも昼間の十号通り商店街くらいには人影がある。帰還した探索者、物見遊山の外国人、記念グッズを物色するOL。こんなところでデートしてるカップルもいる。


 いつもならロビーなんぞさっさと素通りして、まっすぐベースキャンプに繋がる主要隧道口に向かうのだが、今夜の目的はそっちじゃない。


 毎月の一千万をコンスタントに、しかも合法的に稼ぐためには、普通のことをしていては駄目だ。切り口の違う、自分にとって未知のスキームが必須になるはず。


 いわゆる「創出」ってやつだな。


 だからここに来た。


 普段見過ごしているなにげない部分にこそ、新たなヒントが落ちてたりするのではないか。いままでとは違う視点、これまでやったことのないアプローチが、新たな思いつきを産んでくれる。そう期待して、行き来する探索者の観察からはじめてみることにしたのだ。


     ⌚


 ここにしゃがみ込んで一時間余り、都合にして百組近くの入出するひとびとを観察してきた。が、これといったヒントはひとつもなかった。


 そりゃそうだろう。ここでおにぎり屋でも開いてひと儲けしようってなレベルの話ではないのだから。

 あきらめて顔を上げた俺の視界の隅に、なにかが引っ掛かった。


 オレンジ色の間接照明で仄暗いロビーの片隅、少しだけ張り出した岩肌の向こうから、その人物は現れた。


 前に奢ってやった爺さん。たしか『ガン爺』。


 ただ、あのときとはだいぶ様子が違う。低身短躯なのは変わらないが、身にまとう雰囲気があきらかに別物だった。例えて言うなら、猫カフェのクッションで寝転んでる猫と、日向の地面をついばむ雀を草原の陰から狙ってる猫ほどの違い。俺の知ってる酔っぱらってヘロヘロの足取りではなく、謹厳実直の書初めみたいに矍鑠(かくしゃく)と歩を進めるその姿は、まさに熟練職人だった。


 彼が現れた岩陰。あそこには、取っ手もなにもなくまっ平らな壁のような扉が一枚あったはず。


 ここに出入りするようになって何回めかの朝、雑談の中でツルタ氏から聞いた台詞を思い出す。


「自分も入ったことはありませんが、どうやらあそこがこの迷宮で最初の発掘現場に繋がる坑道の入口なんだそうです」


 最初の発掘現場と言えば……。


 俺は速攻で立ち上がり、ガン爺のあとを追った。


     ⌚


「おお、(あん)ちゃんか。ひさしぶりじゃ。もう半月になるか。あんときは世話になったクサ」


 厳めしかったガン爺の貌が、俺を認めて一瞬で破顔した。


「兄ちゃん、ランボ、()うんじゃろ」


「え? 俺、名前言ってたっけ?」


「前にここで見よぉたことがあったクサ。兄ちゃん、ミナヨちゃんに荷物ば持たせとったやろ。儂、こう見えたっちゃサスケ姉妹んファンやけん」


 なんとまあ。こんな世代にも配信の視聴者がいたりするのか。

 いや、そんなことよりも。


「ガン爺、いま出てきたとこって坑道だよね、発掘場所の」


「何の」とは言わない俺の配慮にガン爺も気づいたようだ。


「あじゃあ、見られとった。そいは門外不出の内緒ごとクサ」


 門外不出と言うわりに悪びれた様子はない。


「まあ、実際に使うてみせた兄ちゃんには隠したってしょんなかたい」


 いきなりぶっこんできた発言に俺が絶句していると、ガン爺はにやりと笑って言葉を続けた。


「あんた、よう生きて帰ってこれたな」


     ⌚


23:31 ランボ

――今日はご迷惑をおかけしました。明日は作業は行わずベースキャンプでのミーティングのみとします。朝十一時の現地集合を目途ではじめますが、警備員の三人はお休みにして、ツルタさんお一人で来てもらえると助かります。


 俺の送ったメッセージに一分と待たず、了解の返事が返ってきた。


 続けてもう二通、鏡華と水面にはそれぞれ同じ文面でメッセージを送った。


23:33 ランボ

――今日はすまなかった。明日はなるべく早くそっちに行く。


 タイムラグなしでスマホが震える。水面からの返信だ。


23:33 水面

――無事でよかった。明日、待ってます。


 ベースキャンプの寝台でずっとスマホを握り締めていたのであろう水面の姿を思い、俺の眼がしらは少し熱くなる。


「終わったか?」と尋ねてきたガン爺に、俺はうなずきだけで返事する。肩をすくめたガン爺は、卓袱台の上の湯吞茶碗をぐいとあおった。


 と、ポケットに仕舞いかけたスマホが、再び低周波で震えだした。


23:35 鏡華

――お詫びに、なんかスイーツもってこい


 彼女らしい返しに頬を緩ませた俺は、サムアップのスタンプを一個だけ打ち返してから、空になったガン爺の湯吞に一升瓶の焼酎を注いだ。

今日からは1話更新。

更に明日からは更新時間を朝7時に変更します。

(自転車操業なので、予告なしに時間等が変更することがありますが、ご了承ください)

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