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ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


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第22話 出撃前 ~準備の仕上げはごろうじろ~

「これはまた、かなりの物量ですね」


 笹塚の賃貸マンションまで迎えに来たツルタ氏が、玄関先まで持って降りていた今日の作戦のための機材の山を見て感想を述べた。


「柵の棒があるからと思ってワゴンにしたんですが、これだったら軽トラで来た方がよかったくらいですね」


「ウエットスーツが嵩張るだけっスよ。ふにゃふにゃだから、押し込みゃワゴンでも十分入るでしょ」


「この金属パイプ、足場用のですか? 二メートルでもけっこう重いですね。こんなのよく買って帰ってこられましたね」


「一本五キロちょいっス。塩ビじゃ耐熱がもたないからこっちにしたんスけど、水面じゃあるまいし、六本なんかとても運べなくって。翌日便で配達してもらいました。こんなの持って電車乗る元気はなかったス」


 くっちゃべりながらもツルタ氏の仕事は早い。五分もせずにすべての荷物が車に収まった。まだ朝の七時半。出勤時間を厳守しなきゃいけないわけでもないが、余裕は山ほどある。


「たった三日でよくもここまで用意されましたね。たいしたものです」


「いや、まあ、それほどでも」


 ハンドルを握るツルタ氏の労いがうれしい。なんだか先生に褒められてる気分だ。


 朝の甲州街道を東に向かう。


 助手席の窓から見える世界は光にあふれていた。以前なら無個性で面白みのないビルや住宅と断じて見過ごしてきた景色だが、いまは複雑なリズムを奏でる色とりどりの街並みに見えている。流れてゆく風景が、豊か過ぎて追いきれない。光も色も無い迷宮に慣らされた感覚が現実世界の情報量を処理しきれず、ハングアップしてるみたいだ。


 通りは都心に向かう通勤の車でそこそこ混んではいるが、渋滞というほどでもない。この分だと八時前には着きそうだ。


「ちなみにウエットスーツはなんのためにご用意を?」


「池を帯電させるから、水際でオークとやり合うことになった際にみんなが感電しないように……」


「スーツは何着?」


「七着っス。俺の分も含めて」


 無言になったツルタ氏は思案顔でなにかつぶやきはじめた。


「……この時間に開いてるとすれば……」


 新宿駅の大ガードを越えたところでツルタ氏はハンドルを右に切った。


「自分、ちょっと買い物してきますので、ランボさんは車で待っていてください」


     ⌚


 入口ゲートで待ち構えていた水面に金属パイプのセットを任せ、俺とツルタ氏と警備員たちの五人は残りの荷物を分担してダンジョンに入場した。先頭はツルタ氏、次は俺、そのうしろに電工ドラムやケーブル類を抱えた警備員三名、しんがりは長さ二メートルの電熱柵三セットを抱えた水面という隊列。


 ベースキャンプの向かう第一層の隧道で、俺はツルタ氏に尋ねる。


「さっきの買い物、ありゃいったいなんだったんです?」


 俺の背中の荷物は自分用のウエットと改造インバータ、それにチャフを入れたレジ袋二つ。ブロワはたすき掛けにして前に抱えている。ツルタ氏は自分と姉妹分のウエットと謎の買い物袋。片手に持ったその袋を軽く持ち上げ、ツルタ氏は答えてくれた。


「長靴ですよ。子ども用のサイズ違いを二足ずつ」


「え? 絶縁ブーツはウエットとセットで荷物の中に……」


「自分らにはいますでしょ、もう一人の仲間が」


 ああ、リュウの分か。


 俺だって別に失念していたわけじゃない。だが犬用の絶縁靴なんてどこにもないから、俺の作業場の近くにリードで留めとくくらいしかやりようがないと思っていたのだ。


「なるほど。子ども用の長靴ですか」


「二足重ねの長靴を履かせるんです。紐かなにかでハーネスに結んでおけば簡単には外れないし、多少の気休めくらいにはなるでしょう」


「盲点でした。さすがっス」


 前を行くツルタ氏の背中が笑ってるように揺れた。


     ⌚


 ベースキャンプで待ち構えていた鏡華は、ウエットスーツを見てブー垂れはじめた。


「これ、なんか分厚くて動きにくそう。あとだぼだぼしててカッコ悪い」


「や、着てみるとそうでもねえぞ。先に俺らが着て見せてやるから、ちょっと外出て待っててくれ」


 俺以外の四人は初めてというのでそこそこ時間がかかったが、男軍団の着替えは無事終わった。さすがに若い連中はしゅっとしてて似合ってるが、意外なことにツルタ氏のハマり具合が半端なかった。


 このオヤジ、どんな格好させてもかっこいいな。腹がぽっこり出てるのは俺だけじゃねえか。


「へえ。そんなに変じゃないね。ランボ以外は」


「ほっとけ」


「じゃあ、あたしらも着てみるわ」


 二人が着替えをしてる間にツルタ氏は龍昇丸(リュウ)の絶縁靴を用意しはじめた。警備員三人が照らす光の下で、小さい長靴を少し大きい方に押し込んでいる。横でリュウも手元を覗き込んでいた。が、できあがったものを履かせる段になると、俄然嫌がりはじめる。


 そりゃそうだ。常に裸足がデフォなんだから、あんなのを履きたがるわきゃない。


「できたよ。中入って」


 部屋の中の二人はまるでモデルだった。


 背の高い水面はボリュームのあるボディラインが強調されていて、まるでギリシャの彫像のようだ。腰に巻いたブルーのバンダナが絶妙なアクセントになっている。


 対する鏡華はコケティッシュ。女性的なラインは若々しく、スレンダーな分手足がすごく長く見える。こっちのアクセントは真っ赤なバンダナ。ポニーテールがよく似合っている。


 正直言って、二人ともかっこいい。


「昔読んだマンガの女怪盗みたいですね。かっこいい」


 俺の心の声をツルタ氏が言葉にした。スルっと褒めてくんだよな、このひと。


 水面が大きな体をもじもじさせる。


「こら、そっちの三人、目がぎらついてて怖いよ」


 見ると警備員が三人とも顔を紅潮させている。道中もずっと不安げだったテンションがいきなりマックスまで上昇したみたいだ。


 リュウもはしゃぎはじめ、尻尾をぶんぶん振り回しながら二人の周りをぐるぐると回っている。


「ほら、リュウも長靴履くよ」


 しゃがみこんだ鏡華に身体を預けたリュウは、されるがままに靴を履かされていた。


     ⌚


「作戦を確認する。今回はDASの設置は行わず、モンスターの掃討にのみ集中する。ポイントはひとつ。やつらの行動を自由にさせない」


「することはざっくり二つで、ひとつはやつらの巣穴を塞ぐこと。もうひとつは池の両端に電極を沈めること。あとは囲み切れなかった残党を従来のやり方で各個撃破する、そんな感じ」


「前回は設置の穴を掘る音で呼び寄せた感じだったから、今回は隠密で行く。振り分けは、ツルタさんら四人が洞窟を塞ぐ熱線柵の設置、サスケ姉妹は二手に分かれて電極の投入。リュウは自由に動けるように、俺のそばで待機」


 ツルタ氏がうんうんとうなずいている。


「柵の電源投入はできるだけ三か所同時に行う。中の連中に気づかれると飛び出してこられちまうから。ニクロム線なんて電気が来てなきゃただの針金だから、連中に突進されたらひとたまりもない」


「池に電気を通すのは柵の熱線が動き出してからでいい。前回でもケルピーは登場時はゆっくりだったから」


「池のインバータは俺が操作するけど、柵の方は穴がばらけてるからそれぞれで扱い、ツルタさんが統括でよろしく」


 警備員三人と目を合わせたツルタ氏が、俺に振り向いて「了解です」と応えた。


「それともうひとつ。鏡華、水面、今回だけはマルチのカメラを俺のメットにもつけても構わない。目は多い方がいいし、たぶん俺が一番自由に俯瞰できるはずだから」


「おお、解禁してくれるんだ。いいねいいね」


 俺の台詞に鏡華が色めき立った。水面も小さく拍手している。


 眉をしかめた俺は、「今回だけだ」とぶっきらぼうに返した。


     ⌚


 規定違反モノの最後のピースを金庫からウエストバッグに移した俺は、ベースキャンプの扉を外から施錠する。表では、警備員たちが装備品を地面に並べていた。ものものしい雰囲気を感じてか、数組のパーティーがこちらを窺っている。


 一緒に来られると面倒だから声をかけといたほうがいいか。と思っていたら、水面が立ち上がって手を振りはじめた。


「みなさーん。下の第二層はこのあとしばらく危険になりますから、私たちのあとには着いてこないでくださいね。あと二時間くらいしたら『ダンジョン最先端TV』の配信で実況をお伝えしますからぁ」


 軽装パーティーの女性から「キョーコちゃん、ミナヨちゃん、がんばって~」と声がかかる。


 鏡華が「視聴者さんだった」と舌を出した。


 俺は進入口に向き直り、胸を張る。


「さあ、出発だ」

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