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ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


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第21話 城下町 ~うつしよとかくりよの狭間で~

 月曜の夜だというのにダンジョン城下町は賑わっていた。

 といっても、考えてみればここはもともと歌舞伎町の一角で、再開発工事のために地下五階の深さまでがっつり露天掘りした穴底だ。ぐるり見渡せば陰になった穴の縁からは全方位でビルの頭が覗いていて、それぞれが窓の光を放っている。


「ある意味、都会のど真ん中にあるテーマパークみたいなもんだよな」


 客層も、装備をぶら下げた探索者もいれば仕事帰りのビジネスマンやOLも見かけられる。もちろん、いまの俺みたいな軽装の私服も大勢いて、オレンジを基調とした酒場通りのネオン街を、今夜の止まり木を探してうろうろとさまよっている。

 ご多分に漏れず、俺も店構えを物色しながら歩いていたら、突然目の前の扉が勢いよく開き、中から作業着の男が転がり出てきた。


「この爺ィが! 金もねえくせに店の酒にいちゃもんつけてんじゃねえ!」


 蹴り出されるように地面にうずくまったゴマ塩頭に、店主とおぼしき割烹着の男が薄茶色のタオルとウエストバッグを投げつけた。


「二度と来んな!」


 遠巻きに見ていた通行客たちが無視を決め込んで通り過ぎていく中、俺は、つい出来心で地面に伏した男に歩み寄る。


「爺さん、立てるか?」


 (こうべ)を上げた男の顔は皺だらけだった。どう見ても七十は超えている。いや、もしかしたら八十歳以上かも。そんな老人がこんなとこで? 王子あたりの飲み屋街と勘違いしてんじゃねえのか?


「わりぃな若ぇの」


 老人はそう言って差し伸べた俺の手を掴んだ。思いのほかすんなりと立ち上がった老人の、土のついた作業着をはたいてやった。が、ちっとも埃が落ちていかない。よく見ると、作業着は始めから薄汚れていた。


「爺ぃに手ぇ貸してくれるたぁ、今日びの若ぇのにしちゃあ珍しい。いや、つい今、この店の親父に蹴り出されて……」

「そこまでは知ってるよ。そこで見てたから」


 応じながら、俺は足元に放られたタオルとウエストバッグを拾う。バッグは思いのほか重かった。


「こんなの投げつけられたら怪我しちまう。大丈夫かよ、爺さん」

「ああ、平気だ。固ぇとこはぶつけてねえ」

 

 差し出してきた老人の手は頑丈そうに見えた。節くれだった太い指の先、爪の縁まで黒ずんだその手はどう見ても現役のそれだった。


「ここで会ったのもなんかの縁だ。どうよ若ぇの、一杯つきあっちゃくんねえか」


 こちとら明日は買い出しに行かなきゃなんねえんだ。とは言っても、普段の出勤よりはだいぶ遅めでも問題ないっちゃ問題ない。どうせ店が決まっていたわけでもないし、ここはなりゆきにまかせるか。

 俺は、返事も聞かずに歩き出す老人のあとについていった。


     ⌚


(ひで)えもんだぜ。(わし)がちぃっとホントのことを言ったからって店の親父がかんかんになりクサってよ」


 爺さんに連れられて入ったのは千ベロ(千円でべろべろに飲めるという俗語)の小さな店だった。おでんをつまみながらビールを飲む俺の隣で、爺さんは焼酎の梅酒(うめ)割りを()りながら(くだ)を巻いている。


「なに言ったんだよ?」

「店で出してるウイスキーの中味がボトルと違うってな」

「そりゃ怒るわ」

「あんなもん、匂い嗅ぎゃ一発でわかる。ホワイトとハイニッカだぞ。誰だって気づクサ」


 二杯目の梅酒割りを受け皿から先に啜った爺さんは、さらに話を続けた。


「つまみも贋物じゃった。出てきたカニカマも、蟹なんかエキス一滴(はい)っちょらんクサ」


 適当に相槌を打ちながら、俺は()()()()()にかぶりつく。だしが口の中にじゅわっと広がった。

 料理なんて騙し合いみたいなもんだろ。いま食ってるこれだって、(ガン)肉に似せてつくった精進料理からきてるはずだし。


「この街はなんでもかんでも贋物ばかりじゃ。オーク肉と謳っとる店だってほとんどは豚肉じゃい。それも、スジばっかりの屑肉クサ」

「うちのスジはちゃんと煮込んだ牛スジだよ」

 店の女将がカウンターの内側からそう言いながら俺と爺さんの皿に一本ずつ牛スジ串を置いてきた。


「爺さんは鼻がいいのか?」

「ガン爺、でいい。儂の鼻は天下一品じゃ。なんでも嗅ぎ分けるクサ。酒でもメシでも土でも石でも。人だってもちろんじゃ。なあ女将、おまさん、歳はいくつじゃ」

「女に歳は聞くもんじゃないよ。ま、四十二だけど」

「ダウト、じゃ。実際は五十前クサ。儂の鼻がそう言うちょる」

「くそ爺い! 勘定乗せるよ!」


 爺さんは「ほれ見い」と言ってからからと笑った。


     ⌚


 店の勘定は結局、俺が全部受け持った。爺さんは財布を持ってきてなかったのだ。


「あじゃあ、上着に入れっぱなしに違ぇねえ。すまんが(あん)ちゃん、貸しにしといてけろ」


 泉澤姉妹と言い、この街で飲むとこんなんばっかだな。


「いいよガン爺、今夜は楽しかったから」

「次の機会があれば、必ず穴埋めさしてもらうクサ」


 いい気持ちに酔ってる俺は手をひらひらさせた。

 店の前、俺は現世(うつしよ)に上る坂に、爺さんは酒場街の奥にひそむ幽世(かくりよ)の闇に身体を向けている。爺さんが別れ際に言葉を投げてきた。


「おう、兄ちゃん。おまさんからはいい匂いがする。偽もんじゃねえ、ホンモノの匂いクサ」

「おだてなくてもいいよ。だいたい『いい匂い』つってもいろいろあるだろ。いったいなんの?」


 背を向けて歩み去ろうとする爺さんが、足を止めてこちらに振り向いた。

 にいっと笑って、俺の問いかけにひと言だけ残す。


「電気クサ」


     ⌚


 木曜の夕方、導入したばかりの六十インチ液晶TVでビースティのライブ動画を流しつつ、俺は部屋でちまちまと手作業をしている。

 洞穴の入口を塞ぐ熱線柵は三セットともすでにできあがり、部屋の隅に立てかけてある。そこそこ重いので、明日の出勤前にツルタ氏に車で取りに来てもらうことになっている。

 池に投げ込む用の電極も、電工ドラム二巻きで準備した。さすがに蓄電石を持ち出すわけにはいかなかったが、インバータは一台だけ持ち帰って改造を済ませた。

 火曜日の午後は、地上に出てきた水面と合流して買い物に行ってきた。

 計画していた道具はすべて新宿駅東口ドンキのモノタロウで手に入る。モノタロウ、マジで便利。

 彼女の方も、保存食糧のほかに、交換用のCCDカメラや固定カメラ、LEDストロボライトなどを買い込んでいた。水面には、ついでにランチでデカ盛りステーキを御馳走してやった。


「これ、おねえちゃんには絶対ナイショにしといてくださいね。ホント絶対ですよ」


 そう言いながら、水面は実に満足げな笑顔で七百二十グラムのTボーンを平らげていた。


「いよいよ明日だな」


 届いたばかりの潜水用ウエットスーツ六着の山を眺めながら独り言を漏らす。このスーツは保険だ。200(ボルト)で帯電した池の水に生身で触れたら、人間なんぞひとたまりもない。池の縁の湿地で戦うことになるかもしれないチームメンバーたちを少しでも守ってやれる装備は必要だ。そう思い、注文しておいたのだ。

 海パン一枚になり、封を切った七着目をもって風呂に向かった。

 全身をシャワーで濡らし手足を押し込む要領でゴムスーツを着込んでいく。これはけっこう骨だな。姉妹には着替える時間を用意してやらんといかんかも。そもそもあいつら、水着とか持ち込んでるのかな? 水面に聞いとくべきだったな。


 風呂場から戻り、ウエットスーツ姿のまま、最後の作業を始める。こいつは保険の保険。

 黄色のレジ袋から未開封のアルミホイルを取り出す。一本、二本。さらにその下の、A4まで対応の簡易断裁機も。

 五十メートル巻きのアルミホイルを目分量の二センチ幅で短冊状に切り出し、それを断裁機でだいたい十六等分にする。できあがったのはおおむね二センチ角のアルミ箔小片十六枚。

 アルミホイル二巻き分のそれをつくり終えるまで三時間かかった。八万片の手作りチャフ。

 空になったレジ袋二枚に、二つに分けたそれを押し込み、手持ち掃除機のような充電式ブロワの足元にまとめて置いた。


 よし。準備完了。

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こんばんは。作者の深海くじらです。

ここまで通読してくださったみなさま、本当にありがとうございます。

今日はみなさまにお願いがあって、ここに登壇しました。


願わくば、みなさまのブックマークに本作を加えていただけませんでしょうか。


おかげさまで現在のジャンル別週間ランキングは「9位」と好位置をいただけております。

ですが日間ランキングの方は、この24時間で加算されたPtが2点(ブックマーク1件)だったため「48位」と落ち込んでおります。

日間が「2位」(過去最高位)だったときの、読んでくださる方々の裾野の広がりを今一度体験したい。

未だ完結していない本作執筆のためにも、そう願う次第であります。


どうかひとつ、みなさまのお力を本作にお貸しください。

よろしくお願いいたします。

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追伸

明日は夕方5時台の2話更新のみとなります。

それと、感想(苦言含む)などをいただけたりすると嬉しさが3倍増しになりますので、よろしかったらそちらも。

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