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ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


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第20話 作戦案 ~俺たちには立て直しの時間が必要だ~

「動画は見てくれたんだよな」


 ウィンドウいっぱいの宇宙空間を背中に背負ったポロシャツ姿の荏原(えばら)が他人事のような顔でうなずいた。


「いやあたいへんだったみたいっスねえ。まるで映画じゃないスか。たしかにあれじゃ作業になんない」


「警備の方からも報告あがってるだろ」


「さっき読んだっス。腕刺された子とかいたんスね。ご愁傷様っス。テーザーガン使わなかったんスか? せっかく()に掛け合って最新型の持たせたげたのに。もっとうまくやれないもんスかねぇ」


 使ってたよ。でも相手の数が半端なかったんだよ。そんなに言うならおまえがこっち来て使ってみせろってんだ。オフィスだか自宅だかわかんねえとこからエラそうに文句言ってんじゃねえよ。


「とりあえず明日から三日間の新規作業中断は了解っス。上の連絡はこっちで対応しとくんで。始末書とか書かなくても済むよう計らっとくっスから」


 始末書が必要な話かよ!? 馬鹿かおまえは。そのための調整役におまえがいるんだろうが。そもそもこっちの進捗はおまえが立てたスケジュールより一週間は先いってんだぞ。なに恩着せがましいこと言ってやがる。


「あとな、次のアタックで使う備消品の購入は俺が建て替えるから、あとできちんと補填しといてくれ」


「早めの申請頼むっスよ。月替わりになるとメンドーなんスから」


 あたりまえだ馬鹿。


 俺はもう、早くこいつとの会話を終わらせたくてうずうずしてる。


「じゃ、次回は金曜っスね。いい報せを楽しみにしとくっス。工事記録動画はいつものようにエリア戦略部のストリーミングサーバにあげといてくっさい!」


 荏原の方もこれ以上の長話をするつもりはないようで、締めにかかってきた。と思ったら、最後に要らないひと言を添えてくる。


「前みたく『新宿地下専』タグのつけ忘れは勘弁っスよ。探すのにメンドーなんスから!」


 またまたイラっとする。


 最初の動画をあげたときのつけ忘れミスを、ひと月以上経ったってのにわざわざ引っ張ってきやがる。


 荏原俊平(シュンペイ)、いつか絶対首絞めてやる。


 俺はもう何度目になるかわからない同じ決意を今回も誓って、リモート通話を終えた。


「報告は終わりましたか?」


 後ろから声をかけてきたのはツルタ氏だった。


 彼も今日は八面六臂だったようだ。斜面で作業する俺を守るために上り口を死守しつつ、苦戦する警備員たちの助力に走り、群がるオークを警棒で撃退する。「飛び道具は自分の主義に合いませんから」という言葉通り、彼自身はテーザーガンを持たない。だが彼の立ち位置(ポジション)ならそれも正しい。混戦する格闘戦に割って入ることが多いから、味方に当たる誤射は命取りになる。剣道が全国大会クラスだってのも裏付けとしてあるのだろう。


「とりあえず、今日の分は」


 俺は肩をすくめて立ち上がった。


 時刻は午後九時の少し前。地上の0号倉庫には、俺とツルタ氏以外には誰も残ってない。


「それにしても、今日は散々でしたね」


「ですね」と俺もうなずく。


「隊員たちはもう帰らせました。幸い、救急対応は一人だけで済みましたよ」


「腕刺された彼は大丈夫なんですか?」


「命には別条ありませんが、たぶん全治二か月というところでしょう。救急車に乗せられるとき、こんな仕事辞めて大分の実家帰るってわめいてましたよ。まぁあれだけ元気があれば心配はないでしょう」


 ロッカー前で背を向けたツルタ氏は着替えをはじめた。彼の青い制服には赤黒いまだらが飛散るように染み込んでいる。夥しい量の鮮血。だが、上着を脱いで剥き出しになった彼の背中には打ち身のひとつもついていなかった。


「ツルタさんは怪我とかしなかったんですか?」


「してません。今日はたぶん、一度も触られてないですね」


「え? あの乱戦で!? それって、めちゃくちゃすごくないですか?」


 シャツに袖を通す肩越しに、ロッカーの鏡に映るツルタ氏の顔が見えた。


「見えるんですよ、周りの次の動きが。時間にすればほんの一瞬なんですが、その先廻りでたいがいのことは対処できるんです」


 その貌に、普段なら決して見せない不敵な笑顔が浮かんでいた。


「予兆はあったんですが、モノにしたのは今日の立ち回りから。鏡華さんが言われていた『拡張』というやつが、自分の身にも起こったんでしょう」


 やっぱりそうか。鏡華の言ってた迷宮の効果は本当だったんだ。


「自分の場合、身体能力ではなくて『感覚』の方だったみたいです。まあ還暦もとうに過ぎてますから、今さら体力に上乗せもないですよね」


 振り向いたツルタ氏は普通の笑顔に戻っていた。


「ランボさんの判断、正しいと思います。今日はオークども(てき)に押し込まれてしまいましたが、多少の損耗があったとはいえ全員無事生還できたことがなにより大きなポイントでしょう。そのうえで、明日すぐに潜るのではなく、三日間で身体を休め雪辱の準備をする。この考えには自分も賛同です」


 そう。激戦から撤退し、ほうぼうの(てい)で辿り着いたベースキャンプで、俺は全員揃っての休養を提言したのだ。


     ⌚


 寝台に横たえた怪我人の手当てを軽傷の警備員二人にまかせた俺は、ツルタ氏、鏡華、水面の三人を目の前に座らせた。龍昇丸(リュウ)が、オレも混ぜろと言わんばかりに鏡華と水面の間に身体を押し込んでくる。


 光があふれるベースキャンプは、それだけで気持ちを落ち着かせてくれる。三人と一匹のひと心地ついた表情に安心を感じた俺は、帰路に考えていた思いつきを口に出すことにした。


「明日からの三日間、迷宮での作業はすべて休みにしようと思う」


 真っ先に反応するのは鏡華だ。


「助かる! それならカメラの補充も間に合うね。でも大丈夫なの? 進捗的に」


「おまえらが頑張ってくれてたからスケジュール的には大丈夫。ちっと休んで鋭気を養ってくれ。あと、『先端チャンネル』で注意喚起をしといて欲しい。あそこのオークどもは気が立ってるはずだから」


「りょ。たしかに、いま素人さんが入ったら全滅しちゃうね。次入るとき連中の興奮が残ってるのもいやだしね。おけ。このあと配信しとくわ」


 さすが鏡華。身をもって体験してるから話が早い。俺は「頼む」


「でも、いまのままではあそこは攻略できませんよ。手榴弾でもあれば対処できそうですけど。あと、火炎放射器とか」


 優しい顔した水面がひどく物騒なことを言う。


「それは無理でしょう。多少広めとは言え閉鎖空間ですから、爆発なんてさせたらこちらにも大きな衝撃波が跳ね返ってきます。それに火炎放射器も対流の少ない迷宮内では酸素不足や一酸化炭素中毒を引き起こすかもしれない」


 ツルタ氏が丁寧にダメ出ししてくれるが、そもそもどっちも入手不能だよ。地面の中っつっても、ここは東京都の一部なんだぞ。


「俺たちが奴らに圧勝してるのはなんだと思う?」


 黙り込む五人。と、水面が手を挙げた。


「知能?」


「そうだな。それもそうかもしれん。まあ連中と話したことがないから実際はわからんけど。でもそれよりもっとはっきりしたもんがあるだろ」


 思案顔の水面の横で、早々に自分で考えるのを放棄した鏡華が、ご飯を待つときのリュウと同じ顔で待ち構えている。その顔から順に見回した俺は、短くひと言発した。


「電気、だよ」


「電気?!」


 混ぜっ返してくる鏡華に、おれは「そう、電気」と念押ししてやる。


「どう使うんですか?」


 奥で手当てをし合ってる警備員三人を気にしてか、ツルタ氏が声を落としてきた。いや、奥を気にしてる俺の気持ちを読んだのか?


 気遣いに感謝しつつ、俺も声を落とした。


「幸いなことに、俺たちは強力なバッテリーを持ってる。これをテーザーガンの充電だけに使ってるなんてもったいなさ過ぎるんだ」


 まだ合点のいってない面々に、俺は言葉を続ける。


「策は二方向で考えてる。ひとつはオークの営巣。あそこにある三つの洞穴のどれが本拠なのかはわからないから、三つ全部の入口にニクロム線の罠を仕掛けるんだ」


「なるほど。電熱線ですね」


「そう。ヒーターとかドライヤーに使われてるやつだ。今回は、そいつでオークの巣の入口をふさぐ。簡単な熱線檻にしてやるんだよ。そんなに大仰なものじゃなくていい。二メートルくらいの耐熱棒二本に穴の横幅を越える長さのニクロム線を二十本くらい並べて巻き付けたのを三セット用意する。ボクシングのリングロープみたいな感じだよ。三日間あれば余裕でつくれる」


「そのニクロム線って、電気通すと熱くなったりするの?」


 鏡華の質問に俺はドヤ顔で答える。


「一千度近くまで上げられるはず」


 目を丸くする鏡華と水面。リュウは表情の変わった二人を見上げている。


「元を絶つってわけですか。たしかに大群で攻めてこられなければ、今までのやりかたで十分対処できますね」


 納得した表情のツルタ氏がわかりやすく付け足してくれた。まるで阿吽(あうん)の呼吸の連携みたいだ、と思いながら、俺は二の矢の説明に入る。


「池の中から白い馬、アレへの対処が二つ目だ」


「ケルピーっていうらしいですよ、あの白馬。視聴者さんがコメントで書いてました。探索者を水の中に引き込んで溺れ死にさせるそうです」


 水面が豆知識を教えてくれた。


 水の中に人を引き込むっつーと、アレか、河童みたいなもんか。ていうか、なんで姿が馬なの? およそ水とは関係なさそうなんだけど。


「そう、そのケルピーとやら。あいつを無力化するために、池の中の水に電位差を付ける」


「電位差?」


「電源の入ったドライヤーを湯舟に落として風呂に浸かる人を感電死させる、なんてトリックのミステリーを読んだことないか? それとおんなじで、あの池に電気を通して中の生き物を感電させるんだよ」


 どうやら姉妹は推理小説を読まない派らしい。一方、理解の早いツルタ氏は、気になるであろう疑問を想定通りのタイミングで投げてかけくれる。


「電圧と電流量は間に合うんですか?」


「そっちはインバーターをちょちょいといじればなんとかなる。なんせ元の方は電圧も電流も破格だから」


 俺の答えが伝わったのはツルタ氏だけだったようだ。狐につままれたみたいな顔で、鏡華がぼそりとつぶやく。


「よくわかんないけど、ランボって悪知恵が働くタイプだったのね」


 ひとが考え抜いた名案への感想がそれかよ!


     ⌚


「お一人でつくるとおっしゃった罠道具の制作ですが、お手伝いならいつでも伺えますから、手が必要であればすぐにご連絡ください」


 ツルタ氏はそう言い残して帰っていった。


 明日は材料集めの買い物で一日つぶれるだろう。姉妹の方で店舗での購入が必要なものも、水面が今夜中にまとめてリストで送ってくれることになっている。


「今日できることは全部終わった」


 独り言を漏らしつつG‐Shockに目を移す。


 午後九時十分。まっすぐ帰るにはちょっと早いかな。晩飯も兼ねて、たまには独りで飲みにでも行くとするか。

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