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ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


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第15話 地上口 ~若い娘の雇用ってやつは、なかなかにセンシティブで~

 ぱんぱんに張った黄色いレジ袋を両手にぶら下げて坂を下っていたら、後ろから声をかけられた。


「おはようございます、ランボさん」


 振り返ると垢ぬけたおっさんが近づいてきていた。ツルタ氏だ。今日のいでたちは、複雑だけどクセになりそうな柄の半袖シャツ(バティックシャツとか言ったはずだけど、うろ覚えだから口にはしない)に薄いグレーのコットンパンツ。足元はメッシュの入ったスリッポン。相変わらず品よくお洒落な私服で、およそ警備員とは思えない。なにを食べたらこんなイケおじになれるのやら。


 あいさつ代わりに右手を荷物ごと軽く挙げる。


「今日も朝から暑いですね。早起きと違って暑気というやつは歳をとっても楽にはならないものですね。ときにどうでした? 三連休は、ゆっくり骨休めしてリフレッシュできましたか?」


「三連休……ですか」


 俺は溜息を()き、えらく密度の濃かった昨日を思い出す。


「なにか疲れたりしてません? というか、なんですかそのお荷物は」


 さすがはツルタ氏。いつもとはちょっと違う俺を見逃してはくれない。てか、見りゃわかるか。


「いや、差し入れを少し」


 嘘は言ってない。


 全部、ここに来る前に近くのドンキに寄って買ってきたものだ。幕の内的な弁当二つと、中袋のドッグフード。さらにはハンドタオルとボックスティッシュに、ティーバッグと電気ポット。これらについて細かく話せないってわけじゃないんだが、出勤前の雑談でってのはなんか違う気がするし、そもそも説明するのがメンドクサイ。なんせ、どっから話せばいいのかって内容だから。


「差し入れ……ですか」


 そう言ってツルタ氏は話題を結んだ。すぐに次の話題を持ってこれるほどスマートではないが、「いま触れるべき内容でもないのは理解した。だからひとまずスルーした」みたいな感じ。ズカズカと踏み込んでこないあたりがツルタ氏らしい。


 まあどっちにしたって、あと十五分もすればわかること。説明なんてそれからで充分だろう。


 一方的に気不味い雰囲気を醸したまま、0号倉庫に到着した俺とツルタ氏は黙々と潜る準備を整えた。


     ⌚


 ツルタ氏以下三名の警備員とともにダンジョン入場ゲートに立った俺はあらかじめ出しておいたパスカードをレジ袋を掴んだままの右手で持ち上げ、カードリーダーに当てた。


 やっぱ先に説明しとくべきだったかなぁ。倉庫でも予定より少ない輸送物資を見て、ツルタ氏、意外そうな顔をしてたし。


 ぷしゅっという空気音とともに開いたゲート扉。その先の洞穴を臨むはずの俺たちの視界は、目の前に立つ水面(みなも)の大きな体で塞がれていた。


「おはようございますランボさん」


 慣れない大声を張り上げての水面の挨拶に、思わず俺は一歩下がってしまった。


「お、おはよう」


「約束通り、ちゃんと迎えに来ましたよ。荷物、まだ残ってるんですよね」


 用意していた台詞なのだろう。訥々とした昨日の喋りではない。おまけにがんばった感じの笑顔まで大盤振る舞いしている。


「お、おう」とたじろいでいる俺のうしろからツルタ氏が前に出た。


「こちらの方は、前に酒場でお会いした姉妹の妹さんの方、ですよね。」


「ランボさんからご説明のあったフィールドスタッフの泉澤水面ですっ」


 ちょいまて! 俺はまだ説明してないよ。


 案の定、ツルタ氏は俺の顔を覗き込んでる。しくじったぁ。


「あ、この子がね、昨日(きのう)現場でリクルートした水面……、泉澤水面くんなんだ。それともうひとり……。あれ? 鏡華は?」


「おねえちゃんは下にいます。やっぱりリュウちゃんが出てきたがらなくって」


 リュウちゃん? あ、龍昇丸のことね。なるほど、さもありなん。


「昨日? 昨日、中に潜られたんですか?」


 眉根を寄せたツルタ氏が俺に尋ねてくる。そうだよね。まずはそっからだよね。


 開きっぱなしのゲートがブザーを鳴らし始めたので、俺は入場するのをやめて入り口前に戻った。水面もパスカードを当てて外に出てくる。


「これ、とりあえず差し入れな」


 両手の袋を水面に押しつけた俺は、一度息を吐いてから仕切り直しをはじめた。


「昨日、ちょっとした手違いがあって出勤してたんだよ、俺。で、そんときに姉妹と会って、せっかくだから機材運びを手伝ってもらったんだ。そしたらさ、二人ともすげえ優秀で……」


 いいわけとしか聞こえない俺の説明を、ツルタ氏はフラットな表情で黙って聞いている。そのうしろに控えてる警備員三名は、あきらかに疑いの目で俺を見ていた。優秀と言われて照れている水面の表情(かお)で、三人の疑惑はさらに深まったはず。


 職権乱用のスケベおやじが情実で若い娘っ子雇いやがった、とか思ってるんだろうなぁきっと。


「妹さん……、水面さんはたしか、お力が強い、とおっしゃってましたよね」


「そう。そうなんだ。そりゃあもう有能で、いま俺たちが持ってる荷物と同じかそれ以上を、昨日の一回で運び込んでくれたんだよ」


 重いダッフルバッグを足元におろしてひと休みする警備員たちの顔には、にわかには信じがたい、と書いてある。そうだよね。フツーはそう思うよ。


 と、ツルタ氏の顔がほころんだ。


「なるほど。理解しました。つまりランボさんは第二層アタックに備え、休日だった昨日も人材探しに奔走されてたんですね。そして、先の一件で才能の片りんを見せておられたお二人の能力をさらに見究め、見事スカウトに成功された。そういうことですね」


 なんという好意的解釈! まるで俺が超仕事熱心みたいに聞こえる。


 誤解を解こうとすればさらにややこしくなるので、俺は曖昧にうなずいてやり過ごすことにした。が、ツルタ氏の観察眼はさらに上をいっている。


「いや、お二人ではなくて三人、ですかね。もうお一人、リュウさんとおっしゃる……」


「それは」と口を開きかける水面を制し、俺は言葉をかぶせた。


「そっちは、リュウの方は、下行って会ってもらってからの方が話が早いんだ」


「隠し玉、ということですね。水面さんの口ぶりから察するに、相当気難しい方なのかもしれませんね。わかりました。どんな能力をお持ちの方なのか楽しみにすることにします」


 気難しい方、か。たしかにあいつは気難しそうだよな。俺は胸の裡だけでにやりと笑う。


 なんにせよ、この場はなんとか収まった。


 そう胸をなでおろしていたら、後ろから声がかかった。


「ねえランボさん、まだ機材残ってるんでしょ。こんな風船みたいに軽いのはランボさんにまかせるから」


 そう言いながら二つのレジ袋を俺に戻してきた水面は、警備員たちの足元にあるダッフルバッグを三つまとめてひょいと持ち上げ、台詞を続けた。


「これ、三個だとバランス悪いんで、私の分にもうひとつ用意してください」

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