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ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


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13/22

第13話 龍昇丸 ~賭けてもいいが、こいつは血統書付きで間違いない~

 姉妹はともに無事だった。

 髪の毛は随分とむしられたみたいだしブルゾンや手袋、ヘッドセットなんかも傷だらけになってはいたが、肉体的にはかすり傷数か所で済んだようだ。この程度の救急キットならここ、ベースキャンプにも備えてある。


「こわかったあ。あいつらめちゃくちゃ噛んでくんだもん。殴っても全然効かないし。てか数多過ぎ。マジ死んだって思った」

「おねえちゃん、真っ黒になってたもん。私が行ってもぜんぜん役に立たなかったけど。ていうか、一緒に噛まれにいっただけ」

「ホント。おまえのおかげだよ、助かったのは」


 そう言って鏡華は胡坐(あぐら)に寄り添う柴犬の背中を撫でた。当のわんこは二本目のドライソーセージを齧るのに懸命だった。


     ⌚


 あのときは美しく見えたお犬さまだったが、近くで見ると瘦せ細り、毛並みもぼろぼろの野良犬だった。あちこちに禿げたところもあり、相当の苦難があったことがしのばれた。

 俺すら威嚇し姉妹を守って仁王立ちしていた犬は、二人が動き出し俺の呼びかけに応えたところから睨むのをやめ、彼女たちの傷を舐めはじめた。不思議なのは、犬の視線が外れたと同時に俺の身体が自由になったこと。まるでやつに(から)めとられていたかのようだ。


「ヤバ。まだ配信続いてた」


 起き上がった鏡華の言葉で、俺もタブレットを見返す。コメントが山ほど連なっていた。


―― キョーコちゃんたち、マジピンチだったのね

―― 生還おつ

―― なにあれカラス?

―― 【勇者】お犬さま【最強】

―― え、犬に助けられたの?

―― 腕の傷、痛そう

―― 野生の狼あらわる

―― なんかおっさんの声しなかった?


「死にかけキョーコです。コウモリに襲われた。マジヤバかったけど、この子が助けてくれました」


 鏡華の視界そのままに、タブレットの配信画面いっぱいに犬の顔が映った。


―― 柴犬じゃん。

―― かしこそうな目

―― やせてる

―― それって野生? ダンジョンに犬住んでんの?

―― 首輪ついてるっぽい

―― その首輪、なんか書いてね?


 おっさんの声はマズそうなので、俺は画面を鏡華に向けた。


「首輪?」と言いつつ、鏡華は犬の首筋に手を這わせた。よく慣れているのか犬の方もされるがままになっている。水面も姉の後ろから覗き込んだ。


(りゅう)(しょう)(まる)。この子、龍昇丸って言うのかな」


 首輪の画面に水面の声がかぶさったとたん、雪崩のようにコメントが流れ出した。


―― 龍昇丸!

―― りゅーしょーまるキターーー!!

―― それって冒険仙人の犬じゃね?

―― いまの声、ミナヨちゃん?

―― 行方不明の龍昇丸!

―― 見覚えあると思ってた

―― ↑↑↑↑あと出し草

―― 仙人の新着、夏前から見てない


「みな……よ、冒険仙人って知ってる?」

 尋ねる鏡華に水面が首を横に振って応えていると、再びコメントが流れた。


―― 難所とか未踏の場所とかが紹介されるとすぐ制覇しに行くユーチューバー

―― いっつも犬連れてく冒険家

―― 冒険配信のひと

―― 春頃、次のターゲットは新宿ダンジョンつってた

―― >次のターゲット 最後の配信がそれ

―― 仙人、行方不明扱いじゃねえの?

―― 冒険仙人と龍昇丸はセット


 俺は自分のスマホで「冒険仙人」をぐぐってみた。一番詳しかったWikiの記事によれば、冒険系の配信を十年以上続けているネット界著名人の一人らしい。五年ほど前から愛犬を同行させるようになったのだとか。今年五月中旬のダンジョン挑戦宣言を最後に配信が途絶えているそうだ。

 龍昇丸の項もあった。柴犬、オス。今年七歳になるらしい。飼い主の意図を読むのに長けていて、方向感覚も鋭い。ある冒険で仙人が体調不良で動けなくなった際、三日三晩片時も傍を離れず主人を守り続けた、という美談もある。

 五月中旬からならほぼ二カ月。この汚れ方からして、少なくともひと月は主人と離れた野良生活をやってるだろう。Wikiの美談が実話だとすれば、この犬が自ら出奔(しゅっぽん)することは考えにくい。とすれば、冒険仙人はもう……。


「そう。あんた龍昇丸っていうんだ。あんたのご主人、いなくなっちゃったんだね」


 声に振り向くと鏡華が龍昇丸の頭を撫でながら話しかけていた。タブレットの画面にいっぱいになった龍昇丸も、真摯な瞳をこちらに向けて真っ直ぐ見つめ返している。


「あんたのご主人、探さなきゃね」


 そこで言葉を切った鏡華は、予告動作なしに俺に振り返った。


「ランボ、あたしこの子を飼う。で、一緒に潜ってこの子のご主人探しを手伝ってあげる。いいよね?」


 いいよね、って、なんで俺に許可を。

 画面では早くもコメント祭りが始まっていた。


―― 美談キターーッ

―― 神回決定

―― exactly!

―― オレも龍昇丸になりたい

―― 龍昇丸萌え~❤

―― 仙人がみつかるといいね

―― てかランボって誰?

―― >ランボって誰 さっきのおっさんじゃねえの? 萎えるわ~

―― 今北産業。チャンネル登録した


 視聴者数はいつの間にか千人を上回ってる。こんな状況でペット禁止とか言えるかっての。その場の俺にできることなんて、「とりあえず配信を終わらせてベースキャンプに帰ろう、って姉ちゃんに伝えて」と小声で水面に頼むだけ。


     ⌚


 姉妹とともにベースキャンプまではおとなしくついてきた龍昇丸だったが、地上には(がん)として上がろうとしなかった。

 それを見て「あたしもここに残る!」と言い出したのは鏡華。


「だってこの子、ひと月以上ずーーーーーっと一人だったんだよ。新しい飼い主としては、今はいっしょにいてあげなきゃダメなとこでしょーが」


 俺は肩をすくめて水面と顔を見合わせた。水面は困り顔を見せつつも苦笑いしてる。


「おねえちゃんがこんなふうに言い出したら、それはもう決まりです。明日の朝九時にはダンジョンの入口まで出ていきますから、今夜は私もおねえちゃんといっしょにここに泊まらせてください」


 言いながら、水面の目は棚の備品に向いていた。そこには彼女自身が今日運んできた寝袋と断熱シートが重ねてある。この抜け目なさ。ただのおっとり娘じゃねえな。

 しかし鏡華だけならまだしも、水面にまでお願いされては俺も折れるしかない。くそ。帰り路は俺一人かよ。なんも出ないことを祈るしかねえ。


「しょうがねえな。ホントは面倒なことは明日に回したかったんだけど、鍵まで預けるとなるとそんな悠長なことも言ってられん」


 俺はそう吐き捨ててタブレットのグループウエアアプリを開いた。



-------送信完了-------


件名: 新宿地下・現地スタッフ緊急採用の件

送信者:尾仁川蘭戊(新宿地下専任チーム 設営作業主任)


【雇用形態】 臨時フィールドスタッフ(ダンジョン内常駐)


【対象者】 (2名)

・泉澤 鏡華

・泉澤 水面


【備考】尾仁川特例を適用のこと。本日18:00付で雇用開始とする。


-------承認ステータス: 申請中(課長承認待ち)-------

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