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ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


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第11話 作業体 ~ダンジョンで「チン」する未来が見えた~

 明りの灯ったベースキャンプでG‐Shockを一瞥する。午後一時の少し前。ダンジョンの中は日差しも星明りもないせいか、しばらくいると本当に時間の感覚がなくなる。太陽はやはり偉大だ。

 ここまで来るのに一時間半だったからもう一往復できないでもなかったが、もともと今日は休日なのだからあんまり根を詰めてもしょうがない。姉妹についても、明日の荷運びとツルタ氏らへの紹介もあるから、今日は一緒に戻ってもらって安宿でも手配してやるとするか。


「ねえランボ」


 手持無沙汰でスマホをいじっていた鏡華が顔をあげた。どうでもいいけどこいつ、俺のことは呼び捨てなのね。こっちも真似てやった方がいいのかな?


「まだ時間、あるんっしょ。どうせならさあ、ちっとだけでも潜ってみない? もうひとつ下まで。少しくらいなら案内できるから」


 第二階層……か。たしかにちょっと興味はある。新宿ダンジョンWikiによると、層が変わるとそこに潜む生き物や植相がまったく違ってくるらしい。

 といっても地図があるのは第二層まで。それも最奥までの一本道と入り口付近の側道を放射状に少し辿っただけ。それより先に潜って無事生還した探索者はまだいない、ってことだ。観光気分で出入りできる第一層とは本気度がまるで違う。


「鏡華……たちは、どこまで行ったことがあるんだ?」


 試しに呼び捨てにしてみた。なんというか、自分史的にトップクラスで照れ臭い。そのせいか、つい早口になってしまう。


「どしたん? ランボ、なんかぎこちないよ」

「お、おう。ちょっと立ち眩みがしてな」

「座ってんのに? じじいかよ」


 くそ、俺の半分しか生きてないやつ笑われた。彩りのなかったこれまでの人生がうらめしい。


「このあたりまで、ですね。たぶん」


 タブレットを手元に寄せていた水面が、地図画面を指差しながら俺の質問に応じた。要らんツッコミをしない水面ちゃんはいい子だ。

 水面が示していたのは第二階層のエントランスから何百メートルか入った先の少し広めのスペースだった。


「ここ、不思議な空間だったんです。なんていうか、吹き抜けみたいに天井が高くって。持ってたライトが暗かったから正確なところはわからないんですが、あの高さだったら第一層まで突き抜けてるんじゃないかなって思えるくらいの」

「あそこ、水の匂いもしたっけ」


 第二階層には水があるのか?

 そういえばWikiにも、光る苔の群生があると書いてあった。そういうことなら湿度も確かめときたい。手持ちの機材は屋外仕様だから防水はIP54(防塵・防沫)程度だ。水没まであるようだともうちょい本気の漏電対策、例えばIP67クラスの防水ボックスなんかも必要になるかもしれん。


「危険はないのか?」

「んー、あたしたちの知る限りでは。つっても第二層は都合一時間もいなかったけどね」

「なんか音がしてたっておねえちゃん、言ってたよね」

「がさがさ、みたいな? まあ、襲い掛かってくるようなのはいなかったよ」


 要は、暗かったからほとんどわからなかったってのが実情だと理解した。


「降りるのは問題なかったんだな?」

「耳がきゅってなるのはあったけど、とくに危なそうなとこはなかったよね」

「だっけ」


 水面の答えに鏡華が同意する。

 俺はもう一度時計を見ながら予定を考えてみた。もし潜るなら、最初の基地局くらい建てておきたい。六時には外に出るとして、ざっくりあと五時間。準備に三十分、帰り路に二時間とみて、優に二時間は降りていられる。ケーブルを敷き、穴を開けてフレームを取り付け、機器を設置する。作業的にはかなり余裕があるな。

 期待でうずうずしてる鏡華の顔を見て、俺は決心した。


「わかった。降りる準備をしよう。ただし、ヤバそうになったら即撤収だからな」


     ⌚


 再充電したランタンを片手に持つ鏡華を先頭に、水面、俺の順で第二階層に降りる隧道に入った。三人ともヘッドセットの左右にライトを付けているが、明るい部屋に慣れた目には影の部分が漆黒の淵のように見える。

 姉妹の話から最長でも百五十メートルと踏んだ俺は、片側をベースキャンプのスイッチングルーターに繋いだ二百メートル巻きの|MMF《マルチモード光ファイバー》ドラムを水面に預け、順次繰り出しながら隧道の岩壁に固定していった。

 ステープルを打ち込むタイミングで合図を送ると、即座に振り向く鏡華が俺の手元をピンポイントで照らす。重たいドラムを片手で持った水面は、自分の影が作業部位にかからないよう立ち位置を替えながら絶妙な弛み(テンション)でケーブルを送り出してくる。

 最初の一、二度軽く注文を入れた後は、二人ともまるで熟練工のように無駄のない動きを見せてくれる。正直びっくりだ。なにしろ作業してる俺が、まるでストレスを感じないのだ。

 こいつら、もしかして作業助手の天才か?


「あのさあランボ、さっき充電に使ってた機械ってなに? 満タンになんの、めちゃくちゃ早かったんだけど。アレ、普通に売ってる携帯充電器じゃないよね」


 光源背後の暗闇の中で鏡華が疑問をぶつけてきた。

 こいつ、けっこう目敏(めざと)いな。


「あれはな、門外不出の秘密のバッテリーだ。もちろん店には出回ってない」


 どこまで説明していいかわからないので、俺は適当にごまかした。が、鏡華の興味は機器自体ではなかった。


「いいなぁ、あのバッテリー。アレとこのランタンがあれば配信のレベルもずいぶんあがるのに」


 準備の際に気づいたが、鏡華のヘッドセットにはCCDカメラが付けてあった。おそらくスマホとペアリングしているのだろう。だが彼女らがもともと持っていたヘッドライトは単照式なうえにルクスも低い。おそらく動画撮影に充分な光を得ることはできなかったのだろう。スマホのライトなんか併用してたら、すぐに電源が底をついちまうし。


「ほら、ダンジョン内は火気厳禁になってるじゃん。松明(たいまつ)も使えないし焚火(たきび)なんてもってのほかって言われてるから、光も電気もぜんぜん足んないんだよ。てか、なんで禁止になってんのよ」

「迷宮内は空気の循環がねえんだよ。入口以外は外に繋がってないから風も吹いてねぇし。そんな中でもの燃やしたりしたら、煙が溜まってとんでもねぇことになる。おまえらは知らねぇかもしんないが、焚火なんてのはよ、結構な頻度で不完全燃焼が起こってんだぜ。洞窟内で一酸化炭素なんて、練炭自殺とおんなじだよ」


 鏡華は影になったままで「めんどくせえもんなんだな」と吐き捨てる。

 まったくもって雑な受け答えをする女だ。見た目だけならモデル級だってのに、もったいねえったらありゃしない。

 ケーブルの張りを調整している水面が「それじゃあ」と口を開いた。


「ラノベに出てくるダンジョングルメみたいにお料理したりするのもダメなんですか?」


 水面の質問に答えるときは、俺の口調は丁寧になる。むろん、えこひいきだ。


「残念ながらそうなんだ。オークのステーキとか歩き(だけ)のスープとかをやってみたいのはわかるけど、それで事故が起こったら取り返しのつかないことになっちゃうんだよ。だから持ち込めるのは、そのまま食べられるおにぎりやサンドイッチで、保存食なら干し肉かエナジーバー。ホントはお湯沸かしてコーヒーやカップラーメンなんかも楽しみたいんだけどね」


 まぶしい光の向こう側から間髪入れずに返ってきたのは鏡華の声だった。


「電子レンジと電気ポッドを持ってくればいいんじゃね?」


 そいつは目からウロコだ。

 たしかにそれは有りかもしれない。普通の探索者にはもちろん無理な話だが、俺が管理しているアレを使えば、電子家電でベースキャンプのQOL(クオリティオブライフ)を改善することができそうだ。

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