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どうか、小説家気分に浸らせてください。

作者: 桜雨桜桃
掲載日:2025/10/26

どうか、小説家気分に浸らせてください。


《女なんだから化粧しろ。


女の子だからピンクにしようね。


女なんだから、ちょっとはおしゃれしろよ。


うるさい、うるさい。


灰色の言葉の羅列がうるさくてしかたない。》




遮光カーテンで締め切った

散らかった部屋で誰に届けることもなく文章を書きなぐる。


パソコンに向かって自分のきもちをできるだけ綺麗に書き連ねる。


手元にはアフタヌーンティーで購入したアールグレイを淹れたティーカップで優美で潤沢な時間を愉しんでいる。


こうしていると、偉大なる大作家になったような心地になれる。




どたどた、と足音が騒がしい。


一気に興ざめした。

せっかく、執筆活動に専念していたのに。


その足音の主が乱暴にドアを開けた。


『よう、相変わらず、汚ねぇ部屋だなぁ』といって汚らしい足で私の原稿を踏み荒らす。


『ちょっと!それ原稿』と私は怒鳴る。


男は悪びれもなく『は?こんな誰にも読まれないのが「原稿」かよ』と嘲笑う。


私は恥ずかしくて言い返せない。


男はため息をついた。


『あのな。お前は小説家になったつもりなんだろうが、世間からしたらただのフリーターなんだよ』といった。


私は何も言い返せなかった。


彼は出版社勤務の編集者で結婚もしている。

もうすぐ奥さんにも子どもが生まれる予定だ。


そんな人生がうまくいっている人に私のじめじめとしたきもちなんて分からないし、分かられたくもない。



『お前さぁ、ほんとに小説家になりたいわけ?』と、黙ったままの私に追い打ちをかけるようにいう。



分からない。


作家になりたいはずなのに、あと一歩が踏み出せない。


周りの友達は私の作品を読んで褒めてくれたり、ときには涙を流したりしている。


そのたびに『小説家になりなよ!ファン第1号になるから!』っていってくれて嬉しかった。


この男にだって、そんなふうにべた褒めされては『今、新人賞やってるから応募してみろよ』って新人賞のページ見ながらいわれたりもした。


何度褒められても期待されても私は動けない。


いや、動かない。




また黙り込む私をみて、『まあ別に小説家になる奴なんて限られてるよな』といってテーブルに置いていたスコーンを貪った。


スコーンを食べるだけ食べて男は座布団から立ち上がって帰っていった。


手元をよく見たら新人賞の応募チラシを持っていた。




私って、なんで小説書いてるんだろう。


小説家になりたいから?


ちがう。



小説家みたいになりたいから?


うーん、近からずも遠からず。



もしかしたら、小説家気分に浸りたいのかな。


だから、小説を書くだけ書いて世間には公表しない。


公表するとしても、仲の良い友達だけ。


完全に同好会。

あるいは 大学のサークル。




自分のきもちに気付いたらちょっと肩の荷がおりた。


周りからの期待を裏切ることが少しだけ辛かったけど、私は好きなことを仕事にしたくない。


だって、気分なんだから。


気分が義務になるのは、ちがうよね。



さて、さっきの続きを書こう。



《女なんだから化粧しろ。


女の子だからピンクにしようね。


女なんだから、ちょっとはおしゃれしろよ。


うるさい、うるさい。


灰色の言葉の羅列がうるさくてしかたない。


というか、あれこれ否定する前に私の話をまず聞け。


まず、化粧は肌荒れが酷くなるからしたくない。

スキンケアはちゃんとしているし、いろいろ求めないでほしい。


理由があることも考えてほしい。



昔からピンクより青のほうが好き。


青は綺麗な海の色。


綺麗な海を見ていると心が洗われる。


私は、海の色である青が好き。



おしゃれより、ゲームにお金を使いたい。


おしゃれは流行りで変わるし浪費も激しいけど、ゲームはソフトさえあれば物欲も抑えられる。


ゲームはゲームの中で物欲が満たされるからソフト代以外は、お金がかからないような気がする。


おしゃれより、ゲームが好きでもいいじゃない。


ピンクより、青が好きでもいいじゃない。


化粧も無理してしなくてもいいじゃない。



世間がどう言おうと私は私なのだから。 》


よし、ここまで書けた。


ああ もうすぐしたら、夜が明ける。


朝になったら仕事人間に変身するので…お願いします、神様、 太宰様、ゲーテ様 、シェイクスピア様、ルイス・キャロル様、芥川様… どうか、まだ小説家気分に浸らせてください。



暑くて開けっ放しにしていたカーテンから朝日が差し込んできた。


気付いたらマウスを握り締めながら眠っていた。


その姿は本物の小説家のようだった。












どうか、小説家気分に浸らせてください。


《女なんだから化粧しろ。


女の子だからピンクにしようね。


女なんだから、ちょっとはおしゃれしろよ。


うるさい、うるさい。


灰色の言葉の羅列がうるさくてしかたない。》




遮光カーテンで締め切った

散らかった部屋で誰に届けることもなく文章を書きなぐる。


パソコンに向かって自分のきもちをできるだけ綺麗に書き連ねる。


手元にはアフタヌーンティーで購入したアールグレイを淹れたティーカップで優美で潤沢な時間を愉しんでいる。


こうしていると、偉大なる大作家になったような心地になれる。




どたどた、と足音が騒がしい。


一気に興ざめした。

せっかく、執筆活動に専念していたのに。


その足音の主が乱暴にドアを開けた。


『よう、相変わらず、汚ねぇ部屋だなぁ』といって汚らしい足で私の原稿を踏み荒らす。


『ちょっと!それ原稿』と私は怒鳴る。


男は悪びれもなく『は?こんな誰にも読まれないのが「原稿」かよ』と嘲笑う。


私は恥ずかしくて言い返せない。


男はため息をついた。


『あのな。お前は小説家になったつもりなんだろうが、世間からしたらただのフリーターなんだよ』といった。


私は何も言い返せなかった。


彼は出版社勤務の編集者で結婚もしている。

もうすぐ奥さんにも子どもが生まれる予定だ。


そんな人生がうまくいっている人に私のじめじめとしたきもちなんて分からないし、分かられたくもない。



『お前さぁ、ほんとに小説家になりたいわけ?』と、黙ったままの私に追い打ちをかけるようにいう。



分からない。


作家になりたいはずなのに、あと一歩が踏み出せない。


周りの友達は私の作品を読んで褒めてくれたり、ときには涙を流したりしている。


そのたびに『小説家になりなよ!ファン第1号になるから!』っていってくれて嬉しかった。


この男にだって、そんなふうにべた褒めされては『今、新人賞やってるから応募してみろよ』って新人賞のページ見ながらいわれたりもした。


何度褒められても期待されても私は動けない。


いや、動かない。




また黙り込む私をみて、『まあ別に小説家になる奴なんて限られてるよな』といってテーブルに置いていたスコーンを貪った。


スコーンを食べるだけ食べて男は座布団から立ち上がって帰っていった。


手元をよく見たら新人賞の応募チラシを持っていた。




私って、なんで小説書いてるんだろう。


小説家になりたいから?


ちがう。



小説家みたいになりたいから?


うーん、近からずも遠からず。



もしかしたら、小説家気分に浸りたいのかな。


だから、小説を書くだけ書いて世間には公表しない。


公表するとしても、仲の良い友達だけ。


完全に同好会。

あるいは 大学のサークル。




自分のきもちに気付いたらちょっと肩の荷がおりた。


周りからの期待を裏切ることが少しだけ辛かったけど、私は好きなことを仕事にしたくない。


だって、気分なんだから。


気分が義務になるのは、ちがうよね。



さて、さっきの続きを書こう。



《女なんだから化粧しろ。


女の子だからピンクにしようね。


女なんだから、ちょっとはおしゃれしろよ。


うるさい、うるさい。


灰色の言葉の羅列がうるさくてしかたない。


というか、あれこれ否定する前に私の話をまず聞け。


まず、化粧は肌荒れが酷くなるからしたくない。

スキンケアはちゃんとしているし、いろいろ求めないでほしい。


理由があることも考えてほしい。



昔からピンクより青のほうが好き。


青は綺麗な海の色。


綺麗な海を見ていると心が洗われる。


私は、海の色である青が好き。



おしゃれより、ゲームにお金を使いたい。


おしゃれは流行りで変わるし浪費も激しいけど、ゲームはソフトさえあれば物欲も抑えられる。


ゲームはゲームの中で物欲が満たされるからソフト代以外は、お金がかからないような気がする。


おしゃれより、ゲームが好きでもいいじゃない。


ピンクより、青が好きでもいいじゃない。


化粧も無理してしなくてもいいじゃない。



世間がどう言おうと私は私なのだから。 》


よし、ここまで書けた。


ああ もうすぐしたら、夜が明ける。


朝になったら仕事人間に変身するので…お願いします、神様、 太宰様、ゲーテ様 、シェイクスピア様、ルイス・キャロル様、芥川様… どうか、まだ小説家気分に浸らせてください。



暑くて開けっ放しにしていたカーテンから朝日が差し込んできた。


気付いたらマウスを握り締めながら眠っていた。


その姿は本物の小説家のようだった。












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