僕の瞳のその先に
この作品は、自分があまり書かないジャンルを書いてみました。苦手な方は閲覧を控えるようお願いします。
僕の名前は桐生東吾、さっき幼馴染が亡くなった。死因は交通事故だった。
僕たちは家族ぐるみで仲が良く、だからなのかお葬式にも呼ばれた。
みんなが見慣れない喪服に着替えて葬式に参列している。
突然幼馴染が死んでしまったことに実感がわいていなかった。
その幼馴染は、気づけば僕の隣にいて、いつも笑顔で...その笑顔に惹かれてしまうほどに魅力的だった。
そんな彼女のことが…好きだった。
けれども、そんな彼女に告白する勇気を持てなくて、毎日あいまいに過ごしてしまっていた。
いつか告白すれば…そう思っている中、突然死亡した。
心のどこかで後悔していた。
「…あかね」
僕は幼馴染の名前を呟く。もちろん棺桶の中に入れられたあかねは何も反応はしない。
カチューシャを抱えて眠るあかねは返事もせず、目をつぶっているだけだった。
その姿を見ているだけで、やはりどこか心の中で後悔していた。
「…」
僕も、僕の家族も、あかねの家族も、何も言わずに葬式を終える。
するとあかねの両親は感情をこらえていたのか
「…どうしてだぁ」
「どうしてなのよぉ…」
と大粒の涙を見せている。
僕は、棺桶の中に入れられたあかねを見ていても、心の中眠っている感情が呼び覚まされることはなかった。
こんな感じで一日を終え、自分の家に帰ることになった。
僕の部屋の窓から見える家は、あかねの住んでいた家だった。
「…あかね」
その家に向かって呟いても、昔のように「なぁに~?」と可愛らしい声で返事をするあかねは出てくることはなかった。
「…分かっていたはずなのに」
そう、分かっているのについそう言ってしまう。
自分はあかねの死を受け入れることができないということなのかもしれない。
「…どうして気付かなかった?どうして自分はいつも失ってから気付くんだ?」
僕は涙を流しながらつぶやく。
心の中に眠っていた感情が呼び起こされ、目を伝って涙という形でどんどん出てくる。
この気持ちを抑えられることはないだろう。
「…好きだ、あかね」
僕は一人、部屋でそう呟いた。
________
あかねの死を受け入れるようになってから、俺はかなり調子が変わったと思う。
学校から帰ってきたら必ずあかねの部屋だった位置の窓を確認する。
もう出てくることはないのに、窓を覗いてあかねが出てくるまで待ってしまう。
「…あかね」
僕はもともとあかねの部屋だった部屋を眺め、何もない殺風景な部屋をただ眺める。
こう眺めたとしても、何かが変わるというわけではないことを、分かっているつもりだったのに…
「…東吾!」
そう思っていたら、自分の部屋のクローゼットから声が聞こえてきた。
「…嘘だろ?あかねなのか?」
クローゼットから聞こえてきた声は、間違いなくあかねだった。
僕はすぐさまクローゼットを開けると、「いたた…」と言いながらあかねが出てきた。
「あかね…なのか?」
「そうよ、何とかここに来れたわ」
あかねはもうすでにこの世界を去っているはずなのに、僕の目の前には、幾度となく見た姿が映っていた。
「ど、どうしてここに来れたんだ…?」
「...まぁ死んじゃった事実は変わらないけど、最後にあいさつしたいから出て来たってだけよ」
「…あかね!」
僕はまたあかねに会えた感動という気持ちがあふれ、ついあかねに駆け寄りハグをしようとするが…
触れられない。触ることができなかったようだ。
「…そうだよな、触れないよな」
あかねは何も言わずにベッドに近づく。
「…私の部屋ってこう見えてるんだ」
あかねは僕の部屋を観光名所かのように散策した。
「…それにしても恥ずかしいわ」
「…まさか、聞いてた?」
「…告白は面と向かっていってほしいわよ」
まさか聞こえていたなんて思ってもなかった。
「…あかね、僕はあかねのことが大好きだ」
「そ、そうやって言われると照れちゃうんだけど…」
あかねは、僕の見たことない顔をして返事をする。
するとあかねは僕の目の前にやってきて
「…ちょっとだけ瞑ってて」
僕の視界は暗くなり、唇に謎の感触が広がった。
「…私も好きよ、ばーか」
そうとだけ言い残すと、あかねはどこかへ消えていってしまった。
僕の瞳のその先に、彼女の特徴的なカチューシャがあった。