1-9 異能バトル戦績ランキング
改めて、「決定」をタップする。次に表示された、「加入するクランメンバーと端末を近付けてください」という画面に従って天音のスマホに俺のスマホを近付けると、「クラン情報」のページにこのように表示された。
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〈神威結社〉
Clan Master:夏瀬 雪渚
Clan Member:――非公開――
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「あれ……?天音は情報非公開設定にしてるのか」
「……あ、そうでした。あの、せつくん、メニューバーから『ソロランキング』ってところ開いていただけますか?」
「ああ、これか」
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Solo Ranking
1.【天】鳳 世王
2.【天】――非公開――
3.【天】飛車角 歩
4.【天】徒然草 恋町
5.【天】大和國 綜征
6.【天】噴下 麓
7.【天】日向 陽奈子
8.【天】銃霆音 雷霧
9.【天】漣漣漣 涙
10.【天】杠葉 槐
10.【天】杠葉 樒
12.【極】大和國 終征
13.【極】幕之内 丈
13.【極】冴積 四次元
15.【極】馬絹 百馬身差
15.【極】猿楽木 天樂
15.【極】霧隠 忍
15.【極】庭鳥島 萌
19.【極】――非公開――
20.【極】――非公開――
↓
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洗練されたデザインのランキングに羅列された人名が、名前のフリガナを示すアルファベットと共に表示されていた。一部は「非公開」表示になっている。下にフリックして更に下のランキングを確かめてみるが、下位になるほどに「非公開」の表示は増えていく。
「世界六国が評価する異能バトル――この新世界では『異能戦』と呼ぶ方もいらっしゃいますが、その戦績を基にしたそのソロランキングですね。それぞれの名前が書かれたバーをタップするとその人の情報が寄せられ、書き込まれるWebページのようになっています」
「ほー、Wikipediaみたいなモンか」
――成程。非公開設定にしておかないと、戦闘を目撃した人間に勝手に情報を書き込まれ、異能が世界中にバレる――即ち、自らの武器である異能を世界に晒す自殺行為。そりゃ非公開にするわけだが……。
――そうなるとこの上位陣は異様だな。殆どが公開設定……。余程その強さに自信があるのか……。
「はい。ですので私も含め、多くの方は非公開設定というわけなんです」
「成程な……。ん……?この【天】というエンブレムは何なんだ?虹色に光ってるヤツ」
「はい。世界上位十名――〈十天〉を示すエンブレムです。厳密には十位は同率で二名いらっしゃるので〈十天〉は十一人ですけどね。非公開設定にしても異能が公にならないだけで〈十天〉クラスになると大抵の場合、世間に名は浸透していますが……」
【天】という、〈十天〉のメンバーである人物の名前の左側で虹色に、神々しく輝くエンブレム。画面に表示されている単なるデータ情報にすぎないと言うのにも関わらず、そのエンブレムは、一瞬見蕩れてしまうほどの凄まじい存在感を放ち、それは〈十天〉の烈度の証左であるかのように思われた。
「せつくん……?大丈夫ですか……?」
「あ、ああ……」
――これは大きすぎる。第二席のみ非公開設定のようだが、〈十天〉の大半の情報が見放題。この新世界を生き抜く上での重要なヒントになりそうだ。〈十天〉以外の上位陣も含め、分析しておくべきか。
――まあモデルやアイドルとして世界中の注目を集める〈十天〉もいるくらいだ。そう考えると〈十天〉の中に公開設定にしている人間が多くとも不思議はないか。そもそも大陸を動かしたり一国を滅ぼしたりする奴らだ。公開設定にしてもさほど変わらないのだろう。
「天音、もう一ついいか?」
「はい、なんでしょう」
「この十二位から十五位……、公開設定かつ同率が多いのが気になるんだが何か理由があるのか?」
俺の視線の先にある彼らの名前の左側には【極】という、金色のエンブレムが輝いている。
「あ、この方々は昨年の〈極皇杯〉のファイナリストですよ」
「〈極皇杯〉……」
――〈極皇杯〉。これもニュースでやっていたな。あのときニュースキャスターが言っていたのは……。
――『――昨年のエントリー数は脅威の四十万人超え!今年の〈極皇杯〉はメモリアル大会!第十回を数える今年も聖夜に開催されます!予選はバトルロワイヤル形式、本戦はトーナメント形式で一対一の異能バトル!本日より予選エントリー受付開始で――』
――毎年クリスマスに行われる異能バトルの大会ということか。しかし、ソロランキングでの個人情報保護法ガン無視の世界六国の評価といい、〈極皇杯〉といい、新世界は一種のスポーツやエンターテインメントとしての異能バトルを完全に推奨している。
「よくわかった。この情報は大きいな。ありがとう」
――一つ気になるのは、五六一二三。奴の名が上位陣にない点だ。アイツは俺が唯一認める天才だ。非公開設定にしている可能性もあるが、もしアイツが上位にランクインしていないのならば、この上位陣は一二三より優秀な人間ということを意味する……。そんな人間が存在し得るのか……?
「はい!せつくんのお役に立てたのなら光栄です」
「ああ、後でゆっくり確認しておくよ」
「ええ。あ、そうだ。せつくん、私からも一つよろしいでしょうか……?」
「お、なんだ?天音」
「先程のせつくんと竜ヶ崎さんの戦闘なのですが、あれは何が起こったのでしょう?」
「ああ、あれか。そうだな……天音はあの戦闘、どう分析する?」
「そうですね……。私の考えでは、せつくんの神話級異能〈天衡〉は、その名前から、戦闘に、両者共通の『掟』を定めるものなのだと推理しました。そして掟を破った罰を竜ヶ崎さんは受け、敗北した……」
「ほう」
「掟と罰はワンセット……恐らくあの麻痺の罰も、せつくんが竜ヶ崎さんを無力化するために定めたものなのではないでしょうか。そこから導き出されるせつくんが定めた掟は……攻撃した者を条件とした麻痺の罰――といったところでしょうか」
――正解。やはり天音は非常に優秀だ。〈天衡〉という異能の名称と、竜ヶ崎の全身が麻痺した、という限られた情報だけで正解を導き出した。
「正解だ」
「そうでしたか。すっと腑に落ちました」
――天音が俺を裏切ることは天地が引っ繰り返ってもない、と断言できる。異能を他者にバラすことは自殺行為に等しいが、逆に、信頼できる仲間に異能を晒せば、共闘しやすくなるというメリットも同時に孕んでいる。
「結果的には竜ヶ崎と戦えたのは良かったかもしれない。俺の〈天衡〉に関する仮説の裏付けとなった」
「異能の名称だけで冷静にそこまで推理していたとは、流石せつくんですね……」
「まあこれくらいはな。天音、知っている範囲で構わないんだが、神話級異能はその強力な性能故に、発動に何か制限がある、なんてことはあるか?」
「はい。私の知る限りでは制限はございます。恐らくせつくんの〈天衡〉において、罰に即死等、直接敵を死に至らしめる罰は定められないのではないかと」
「そうだな……検証の必要はあるが俺も同じ考えだ。あとは、定める掟と罰のバランスを釣り合わせる必要があるのか否か……ってトコか」
「そうですね。その点も検証の必要がありそうですね」
「そうだな。その辺りは今後もし何者かと戦う必要があれば検証してみよう」
「はい、せつくん。教えていただいてありがとうございます」
「ああ、いいよ。天音と話して俺も改めて整理できたし」
「ふふ、あ、せつくん。ごめんなさい、お話ばかりしてしまって。せつくん、お腹空いてますよね」
「そう言えばそうだったな……」
「ふふ、すぐにお食事をお作りしますので少しだけお待ちいただけますか?せつくんは〈オクタゴン〉の中を探検してくれていても大丈夫ですよ」
――〈オクタゴン〉はこれからの生活の拠点となる。お言葉に甘えて簡単に探検させてもらおう。
「すまんな天音。〈オクタゴン〉内を見回らせてもらおう」
「はい!お食事が準備でき次第、お呼びしますね」
リビングからキッチンへと入り、テキパキと食事の用意を始める天音。キッチン内の様子を覗くと、真新しいシステムキッチン、その天井に取り付けられたレンジフード。スタイリッシュなデザインの冷蔵庫や電子レンジ等の家電が並ぶそのキッチンは最高の料理の腕前を持つ天音にこそ相応しいものであるように思われた。
「ほー、立派なキッチンだな……」
正八角形のリビングを中心として、その右隣には倉庫、男女共用のトイレ――と、正八角形の建物の外周に沿って各設備が配置されている。右隣の、エレベーターと階段の区画を挟んで、更に右隣には時計回りに、ランドリー、バスルーム、シャワールーム、先程通った玄関、そして一周して天音が料理を進めるキッチン――という形で外周に沿って配置されている。
リビングから覗ける各設備のスペースは何れも同一のある程度の広さがあり、三ツ星ホテルのようなランドリーやジャクジー付きのバスルーム、ガラス張りのシャワールームと、その優雅さに心躍る。
「上の階にも行ってみるか……」
歩を進めてエレベーターの前に立ち止まり、ボタンを押下する。位置関係としてはエレベーターは、玄関からリビングを挟んで真向かいにある形になる。温かみのある木造のホームエレベーターに、ガラスの窓が取り付けられている。開いた扉に乗り込み、「2」のボタンを押下する。
エレベーターの横には階段もあるが〈オクタゴン〉内での移動は基本的にはエレベーターでの移動になりそうだ。その理由は言うまでもなく、自宅にホームエレベーターがあるというのは中々に男子心を擽るものがあるからだ。
――俺の新生活の拠点……。ワクワクするな……!
チーン、と音が鳴る。ホームエレベーターの扉が開き、二階の廊下に足を踏み入れる。眼前に広がるガラス張りの窓からは、先程までいたフローリング張りの温かみのある正八角形のリビングが一望できる。視界の端に映るキッチンの入口から覗く光景から、天音が料理をしている様子が窺える。眼前の廊下には赤いカーペットが敷かれ、その廊下に個室の扉が連なる様子はまるでホテルのようだ。
「壮観だな……こんなところに住めるとは……」
木製だが高級感のある各個室の黒い扉の中央上辺りに、明朝体で部屋番号が書かれている。エレベーターの左手から、部屋番号は、「201」「202」――そして一周して「207」という要領のようだ。一階の各設備の区画の真上に各個室がある形になる。
唯一半開きになった二〇二号室の扉の隙間から、天音らしい暖かい雰囲気の部屋の光景が覗く。
その手前、二〇一号室の扉を開けると、さながらホテルの個室のようなカーペット張りの空間が俺を出迎えた。大きなベッドに、個室備え付けのユニットバスに小型のテレビや冷蔵庫。ベランダには物干し竿まで用意してある。
「おお……!これは……!」
更に部屋の壁際に設置された本棚には沢山の本が、テレビ台の上には新品の箱に入った最新式のゲーム機や幾つかのゲームソフトが用意されていた。本棚の本を一冊手に取る。
『Flowers for Algernon』に『Do Androids Dream Of Electric Sheep?』……。俺の好きな作品――『アルジャーノンに花束を』に『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の日本語訳されていない原書だ。
――それにゲーム……天音は俺のために態々こんなものまで用意してくれたのか……。
少し、涙が出そうになる。目に浮かんだ泪を柄シャツの袖で拭う。窓から差し込む暖かい夕陽が、優しく俺を包み込んでくれているような、そんな気がした。
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