2-19 十の頂点は何を見る
第1章後の幕間に、
1-VX1/1-VX2という形で
神威結社と十天に所属するそれぞれのキャラクターの
キャラクタービジュアル(AI生成)を投稿しております。
よろしければご覧ください。
(第1章終了時点のネタバレを含みます)
――一方、〈天上天下闘技場〉。新世界中の注目を集めるのは、上空の大型ホログラムディスプレイにリアルタイムで映し出される映像である。一般観客席や、既に敗退した大勢の出場者が集う出場者観覧席は、凄まじい熱気に満たされていた。まるで体感温度が数度上がったかと錯覚するほどに。
――その熱気は闘技場だけに留まらない。新世界中へ伝播し、新世界中がお祭り状態であった。この時点での瞬間視聴率は実に九十六パーセント……。
「――マジか!馬絹やられた!」
「Aブロックやべえ!」
「Dブロック、本戦進出経験者勢揃いだぞ!」
「Cブロックも残り二人だぞ!」
――〈天上天下闘技場〉、十天観覧席。楕円型の闘技場――そのアリーナを囲うように配置された観覧席の中、〈十天〉の面々もまた、上空に浮かぶ大型ホログラムディスプレイ越しに、激戦が繰り広げられる予選の様子を見守っていた。
十天観覧席は十一の玉座が横並びになっている。中央に〈十天〉・第一席――鳳世王が座る。正面から見て左側に偶数席次、右側に奇数席次の玉座がある。中央に行くほど席次が高くなる並びだが――玉座にきちんと腰掛けているのは僅か三名であった。
「庭鳥島萌……馬絹百馬身差……コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……!」
美しい白髪のウルフカットにメイド服の美女、〈十天〉・第二席、「大天使メイド長」――天ヶ羽天音はその表情に影を落とし、わなわなと怒りに震えていた。西日を前髪のばってんヘアピンが反射する。――端的に言えば、天ヶ羽天音はヤンデレであった。
「私のせつくんとイチャイチャしやがって……コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……!」
「――おいヤンデレメイド♪メインヒロインの十一話振りの台詞がそれでいいんか♪」
編み上げたブレイズヘアの男が、銀色のグリルを歯の合間から覗かせた。〈十天〉・第八席、「雷霆アンダーグラウンド」――銃霆音雷霧である。
「せつくんと私の大恋愛を邪魔しやがって……クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが……!」
「……あ、天音さんは……ず、ずっとこの調子だね……」
夏瀬雪渚へ異常な執着を見せる天ヶ羽天音に、軽く引いた様子の小柄な女は〈十天〉・第十席が一人、「天運姉妹」――杠葉樒。桃色と水色のツートンカラーの左右非対称のツインテールにゴシック調のロリータドレス。彼女は片手にお気に入りのクマの縫いぐるみを抱き抱え、花柄のゴシック調の黒い傘を差していた。
「――これが愛なのですわね!」
対して、天ヶ羽天音に羨望の眼差しを向けるのは、杠葉樒の双子の姉である、〈十天〉・第十席が一人、「天運姉妹」――杠葉槐であった。桃色の割合が高い左右非対称のツインテールに、白い着物と赤い袴。雅な和装少女は花柄の和傘を差す。
「ケケッ♪愛を超えてこれはもうビョーキだろ♪大恋愛とか言うてんぞ♪」
「む……胸を雪渚に押し……押しっ……あんなに雪渚と密着して……ああっ……ああ……」
一方で放心状態に陥っている小柄なギャル風の女は、〈十天〉・第七席、「#ぶっ壊れギャル」――日向陽奈子であった。毛先だけ桜色に染まった金髪ツインテールが風に戦ぐ。
「ケケッ♪コイツはコイツで露出する割には耐性ねーな♪似非ギャルが♪負けヒロインムーブも大概にしとけよ♪」
「ま……負けヒロイン……」
銃霆音雷霧の容赦ないコメントに強烈なダメージを受けた日向陽奈子は卒倒する。二人の関係性は、EMBの一件以来若干の改善を見せたが、そもそもが相容れない二人でもあった。
銃霆音雷霧は小馬鹿にした様子で日向陽奈子や天ヶ羽天音の顔を覗き込む。
「――ケケッ♪おい♪コイツら使いモンになんねーぞ♪」
「ははは、夏瀬君は人気者だね」
赤髪に白い小ぶりな王冠を載せ、赤い派手なスーツの上から黒いクロークを羽織った、イケメン然とした男、〈十天〉・第一席、「KING」――鳳世王が呆れつつも爽やかに告げた。新世界の頂点に立つ彼もまた、〈極皇杯〉の予選をその両の瞳で見守っていた。
「銃霆音くんっ☆女の子をそんな風に揶揄っちゃダメだよっ☆」
肩に垂らした、淡い青のメッシュが螺旋状に入った鮮やかなオレンジ色のボリューミーなサイドテール。水色のビキニの上から海色のケープを羽織り、海色のショートパンツを履く彼女は〈十天〉・第九席、「完璧で究極の乙姫」――漣漣漣涙。
「うるせーんだよ♪いい子ちゃんが♪」
「皆はん元気でありんすなぁ」
興味なさげに煙管を吹かす女の姿がある。丸みを帯びた黒髪ショートボブに、豊満な胸元を露わにした花柄の着物が映える。頭に紅く大きな彼岸花の花弁を着けたその女は、〈十天〉・第四席、「花鳥風月」――徒然草恋町。
「おーい♪バカ共♪徒然草がうるせーってよ♪」
「一番うるせーのは銃霆音さんですわ!」
「おーおー和装ロリ♪政治家様がオレに楯突こうってか♪」
「え、槐お姉様……!や、やめようよぉ……」
「ふん!ですわ!」
「ケケッ♪」
「――扨、雪渚殿が参加する予選Aブロックも生存者数は残り八名――佳境で御座るな」
白色の袴を筋骨隆々の上裸の上から羽織る、長身の古風な糸目の侍は夏瀬雪渚が師匠と呼ぶ男、〈十天〉・第五席、「剣聖大将軍」――大和國綜征である。モヒカン風ツーブロックの頭部の両サイドにはX字の傷跡がある。
「そうだねぇ。Aブロックは間違いなく修羅のブロックだねぇ」
女の子のような甘ったるい声で大和國総征に同調する、筋骨隆々の肉体の上から黒地のタンクトップを着た、強面で大柄な男。黒いスポーツキャップを冠っており、髪型は髪を後ろで団子状に結った、所謂、マンバンヘアのこの男は〈十天〉・第六席、「百八禁金剛力士」――噴下麓である。噴下麓は貯えたワイルドな顎髭を撫でながら告げた。
「それにしても昨年ファイナリストの百馬身差ちゃんを倒すなんて、夏瀬くんはすごいねぇ」
「神話級異能、〈天衡〉……矢張り雪渚殿が授かるべくして授かった異能で御座るな。彼の難解な異能を使い熟せるのは雪渚殿だけで御座ろう」
「うんうん。綜征の下で修行した成果が発揮されてるねぇ」
「………………………………」
一方、鳳や徒然草と同様に、大人しく玉座に腰掛けるマスコット体型の小柄な男。目を閉じ、腕を組み、何やら物思いに耽る。将校服に身を包む彼は〈十天〉・第三席、「王手警官」――飛車角歩である。
――以上、十一名。彼らがこの新世界の頂点――〈十天〉、歴代最強の世代である。その何れもが、「地球滅亡を謳われた巨大隕石を宇宙に飛んで拳一つで破壊した」、「地球の体積の二割を削った」、「細い枝木を振るって空を割った」等という神話級の逸話を残している。
「つーかEブロックとFブロックが早すぎなんだよ♪なんだ六分って♪去年の俺よりはえーじゃねーか♪」
この時点で既に八つのブロックのうち、半数――四つのブロックは決着していた。つまり、第十回〈極皇杯〉のファイナリストが四人決まったことを意味する。
「確か去年の雷霧の予選突破が開始から十分、第七回の綜征が十三分だったねぇ」
「そう考えるとアルジャーノンは時間掛けすぎだ♪もう二時間経つぞ♪」
「でもでもっ☆初出場で最終予選組なんて、ボク、夏瀬くんスゴいと思うなっ☆きっとたっくさん頑張ったんだねっ☆」
「Fブロック代表のエッロいカラダの女――現憑月月って何者だよ♪〈極皇杯〉のファイナリストになるような奴を〈十天〉の誰も知らねーなんてことあんのか♪」
「無名でファイナリストなんてサイコーにロマンだねっ☆まさに〈極皇杯〉ドリームだよっ☆」
「反してGブロックは膠着状態が続きますわね……」
「……………………」
杠葉姉妹はGブロックの戦闘の模様を映す大型ホログラムディスプレイに注目していた。その表情には緊張の色が滲む。姉、杠葉槐の言葉に、妹、杠葉樒は言葉を返せない。
「……はぁ。何にせよ優勝はEブロック代表かFブロック代表――何れかに決まったようなものでありんしょう」
「――そ、そんなことないわよ!まだ雪渚が戦ってるじゃない!」
生気を取り戻した日向陽奈子が八重歯を覗かせ、子犬のように徒然草恋町に反駁する。
「なんざんすか?日向はんは阿呆でありんすか?」
「な、なによ……!徒然草……!」
日向陽奈子と徒然草恋町の関係性は、銃霆音雷霧と日向陽奈子の関係性とは比較にならないほどに不仲であった。原因は定かではないが、二人の間に何らかの確執があったものだと思われる。
「六分で予選を終わらせた――即ち、六分で六万人を屠った者と、二時間経っても数人しか倒せず未だ予選に囚われている夏瀬はん。この時点で実力差は明確でありんす」
「うぅん、徒然草ちゃんの言うこともわかるんだけどぉ、夏瀬くんは極めて優秀な部類の人だよぉ」
「〈天衡〉――だったでありんすか?例えば掟の罰で会場にミサイルでも投下して、自身は続け様に罰で身を守れば良いだけの話でありんす」
「そ、そんなこと雪渚もわかってるわよ!アンタなんかと違ってめちゃくちゃ頭いいんだから!」
「それに関しちゃ処女ギャルちゃんに同意だな♪でもその上でアルジャーノンはその選択をしなかった♪」
「ど、どういうことよ、銃霆音……」
「いやいやお前ら強すぎるから忘れてんだろ♪ミサイル程度で本戦進出経験者連中は殺れねーぞ♪」
「銃霆音……アンタ、そのファイナリストを全員秒で蹴散らして去年の〈極皇杯〉をクソ回呼ばわりさせた張本人じゃない……」
「ケケッ♪でも人を見る目には自信ニキだぜ♪オレは♪」
「はぁ。何にせよ夏瀬はんの優勝はないでありんしょう」
「あー♪残念ながらそれにゃ賛成だな♪」
「徒然草……!銃霆音……!雪渚を侮辱するならアタシ許さないわよ」
「バーカ♪〈十天〉加入以来ツンデレ気取ってた割にアルジャーノンに即堕ちした馬鹿の言葉に説得力なんてねーんだよ♪そもそもオレはハナからアルジャーノンは優勝できねーって言ってんだろが♪」
「銃霆音……!アンタ……何なのよ」
「はぁ。今年も大味で退屈な〈極皇杯〉になりそうでありんす……」
「アンタら……!」
「――陽奈子さん、そこまでにしましょう」
天ヶ羽天音が手を出して仲裁に入る。冷静さを失っていた日向陽奈子は我に返った。
「あまねえ……」
「大丈夫ですよ。所詮は薄っぺらいヤリマン女とヤリチン男の話です。真に受けては負けですよ」
「天音はんもわっちに牙を剥くんでありんすか。まっこと残念でありんす」
「おいおいヤンデレメイド♪オレはアルジャーノンと殺し合った仲だっつーの♪テメーこそアルジャーノンとパコってるだけだろが♪」
「銃霆音さんはせつくんの本質なんて何も見えていませんよ」
「本質が見えてんなら彼氏の自殺の予兆にも気付かんもんかね♪」
「…………今は言わせておきます」
「はい論破♪なんつって♪」
銃霆音雷霧は極めて口喧嘩が強かった。彼が新世界一のラッパーたる所以でもあるが、こと舌戦においては、新世界で彼に勝てる者はまず存在しない。
「皆さん喧嘩は良くありませんわ!」
「……え、槐お姉様の言うとおりだよぉ。……せ、折角の〈極皇杯〉なんだから……み、みんな仲良くしようよぉ……」
「うるせー♪生まれ持っての勝ち組が♪」
「――だが、徒然草殿と銃霆音殿の言葉にも一理あるで御座るな」
「お♪思わぬ援護射撃♪」
「大和國さん……?貴方まで何を仰るのですか?」
「天ヶ羽殿と日向殿は〈極皇杯〉へ出場したことがないで御座る故、知らぬのも無理はなかろう。〈極皇杯〉は、生存者数が十名を切ってからが本番で御座る」
「おいおいお侍サン♪柊征の受け売りだろ、それ♪あんな無双劇を繰り広げたお侍サンが予選を語れるかよ♪」
「大和國さんの予選は衝撃でしたわね……」
「周囲の建物を全て倒壊させ――六万人を建物の下敷きにしたんだろ♪アルジャーノンと同じ〈竜宮楼〉だったな♪」
「スタート地点の客室から一歩も動かず、その場で刀を軽く振るっただけで勝っちゃったよねっ☆あれはテレビで観ててビックリしちゃったなっ☆」
「ここからが本番――というのは仰る通りですが……そんなことはせつくんも理解しているはずです」
「そうね。雪渚なら絶対に上がってくるわ」
「はぁ……まあそこまで言わはるなら確と見届けなんし」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
そのとき、大歓声が巻き起こった。彼らの視線は、一様に大型ホログラムディスプレイの一つ――「C」と表示された映像に注がれている。
「あっ☆Cブロックも決着したみたいだねっ☆」
「あと終わってないのは……Aブロック、Gブロック、Hブロック――残り三枠だねぇ」
「さーて♪Hブロックのドラゴンガールはどーよ♪」
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