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1-63 第七席

 ――日も変わり、深夜。新世界八日目――二一一〇年十二月八日、深夜四時。


 〈オクタゴン〉のリビングにて、俺と拓生、竜ヶ崎は、二人の帰りを待っていた。拓生は倉庫の金庫に三百枚の虹金貨こうきんかを納めてくれており、俺と竜ヶ崎は、テレビの前に置かれたガラスのローテーブルを囲んで、煙草を吸っていた。時計の針の、チクタクという音だけが響き、そこにはいつになく、気不味きまずい空気が流れていた。


 だが、三人が考えていることはきっと同じだった。先程の陽奈子の言葉。イルミネーションをバックに、陽奈子が俺に言ってくれた言葉は、俺の頭から離れなかった。


 陽奈子と別れるとき、陽奈子の目には少し涙が浮かんでいた。陽奈子はそれでも気丈に振る舞い、俺たちに勘づかれまいと俺たちを早々に帰した。あの後、陽奈子が泣いたであろうことは容易に想像できる。今だけは、俺の勘の鋭さに嫌気が差した。


 ――陽奈子は、俺を好きだと言ってくれた。それは素直に嬉しい。だが多分、陽奈子は俺のことを諦められていないのだろう。


 ――「本当に相手のことを思うなら厳しくすべき」……なんて言葉もあるが全く共感できない。俺はあれ以上陽奈子に強い言葉を吐けないし、正直俺の言葉次第でどうにかなっていたとも思えない。出会って間もないが、それくらいに陽奈子は俺を好いてくれている。


 そんな中、仕事を終えた拓生がリビングへと戻ってきて、俺と竜ヶ崎が座るL字型のソファに腰を下ろす。同時に、煙草を灰皿に押し付けた竜ヶ崎が、重々しく口を開いた。竜ヶ崎の頭に生えた二本の黄色い角が照明を反射する。


「陽奈子は……ボスのことが好きだったんだなァ……」


「……驚きでしたな」


「アタイは正直恋愛とかわかんねェよ。ボスやみんなのことは大好きだけどよォ、それは陽奈子の気持ちとは違ェような気がする……」


 ――陽奈子は、俺と天音のことを想って「俺にフラれる」なんて、辛い決断をした。そして気丈に振る舞って、俺に気を遣わせないよう配慮した。


「日向女史は本当に〈神威結社〉に入ってくれるのですかな……?」


「アタイは陽奈子が入らねェなんて嫌だよォ!」


 ――そのときだった。俺たちの背後で、扉が開く音が聞こえる。玄関だ。


 振り返ると、そこにはメイド服に身を包む、天音の姿があった。肩には少しだけ、雪が積もっている。


「皆さん。帰りが遅くなってしまい申し訳ございません」


 そこに陽奈子の姿はない。陽奈子はまだ、〈オクタゴン〉の場所を知らないはずだ。天音と共に帰らなければ〈オクタゴン〉に来れない。空気が、張り詰める。


「姉御ォ!……って陽奈子はァ……?」


「それが……しばらく日向さんの帰りを待っていたのですが……こんな連絡が……」


 そう言って、天音が差し出したスマートフォンの画面――SSNS(スーパーエスエヌエス)DM(ダイレクトメッセージ)の画面。陽奈子とのやり取りが記されており、その画面越しの会話からも仲睦なかむつまじい様子がうかがえた。そして、その中には、「先に帰ってて」とだけ、つづられていた。


「何度か電話をかけてみたのですが……連絡が取れず……」


 陽奈子のそのメッセージの下には、実際に天音が掛けたであろう「不在着信」のマークが数件と、〈オクタゴン〉の位置情報、「私のためにごめんなさい」という天音のメッセージが続いている。


「まだ日向さんは〈オクタゴン〉の所在をご存知ないはずなので所在地だけは伝えておきましたが……」


「そうか……」


 天音の話を一通り聞き終えた拓生と竜ヶ崎は、慌てた様子で声を荒らげた。


「――おいボス!まさか陽奈子のヤツ……ッ!」


「そんな……!探しに行きますぞ!」


 ――いや、陽奈子は俺みたいに弱い人間じゃない。多分、陽奈子はそんなことはしないハズだし、天音もそれは理解しているようだ。


「いえ……きっと日向さんは大丈夫です」


「そうだな……信じて待とう。アイツはそんなヤワじゃねえ」


「……っ!そ、そうですな」


「悪ィボス。そうだなァ……」


 ――そして、更に待つこと数十分。玄関脇の窓から朝の眩しい陽光が差し始めた午前五時。雪もみ、よく晴れた早朝。突然そのときは訪れた。えてか否か、施錠されていなかった扉を開け、一人の女の子が入ってきた。


「――お邪魔するね」


 ギャル風の可愛らしいファッションの、その女の子は、玄関から一歩、リビングに足を踏み入れ、仁王立ち――美しくも力強く、その場に立っていた。俺たちは静かに、その様子を見守る。彼女のルビーの両の瞳は、俺たちの姿をしっかりと見つめていた。俺は、その女の子――陽奈子に言った。


「おい遅いぞ、陽奈子」


 陽奈子は散々泣いたのだろう。頬には涙痕るいこん――涙が流れた跡があった。だが、今の陽奈子の表情は明るく、吹っ切れた様子だった。腕を組んで、たくましく、ソファに座る俺たちを見下ろす。そして、彼女は少し照れた様子で口を開いた。


「えへへ……ごめん雪渚、それにみんなも」


「陽奈子ォ!来てくれたんだなァ!」


「日向女史!歓迎しますぞ!」


「日向さんが来てくれて嬉しいです。〈オクタゴン〉へようこそ。日向さん」


 次々に、陽奈子に歓迎の言葉を浴びせる仲間たち。そして、天音も。天音も既に吹っ切れた様子で、その声音には純粋な本心がにじんでいた。


「ああ、改めて歓迎するよ」


「うん!みんなありがと!」


 嬉しそうに破顔して八重歯を覗かせる陽奈子。そして陽奈子は、その姿勢のまま、俺と、俺の隣にたたずむ天音に告げた。


「――雪渚、あまねえ!ごめん!諦められなかった!アタシ、まだ全然雪渚のこと好き!」


「ふふ、そうですか」


 天音はくすりと笑った。二人の間のわだかまりは、既になかった。


「雪渚!アタシのことどう思ってる!?」


 陽奈子は俺の目をじっと見て、真剣な表情で問うた。天音が、それに付け加えるように、俺に優しく告げる。


「せつくん、私には気を遣わず、素直に答えてあげてください。それがせつくんの誠意です」


 俺は天音の言葉に小さく頷き、まだ吸えそうな煙草を灰皿に押し付けた。そして、陽奈子へと向き直る。陽奈子に、言葉を。


「陽奈子は可愛いと思うし魅力的な女の子だと思う。だが天音には一歩及ばねえかもな」


「ふふ」


 嬉しいのか、天音がまたくすりと笑った。俺のそんな言葉を聞いた陽奈子は、腕を組んで仁王立ちした姿勢を崩し、顔を真っ赤に染めて照れた。


「可愛い……可愛い……って!」


「ふふ……素直に答えるのが誠意だとは言いましたが、彼女である私の前で他の女の子を褒めるなんて、正直すぎるようですね?」


 天音が少しだけ怖い目で、俺を見た。だが、本心では怒っていないということは誰の目にも明らかだった。そして、陽奈子は俺に問うた。


「……じゃあ、あまねえさえ倒せばアタシにもチャンスはあるんだよね!?」


「日向さん……そういうことですね?」


「うん!アタシはあまねえに勝ちたい!雪渚がアタシに振り向いてもらえるように、アタシは今よりもっと可愛くなる!」


 ――陽奈子は……強いな……。


「……わかりました日向さん。受けて立ちますよ。絶対にせつくんは渡しません」


「うん!アタシも絶対に負けないから!」


 そう言って頷き合う、天音と陽奈子。再び俺を見た陽奈子に、俺は告げた。


「はっ、クソかっけえな陽奈子。いいだろう、振り向かせてみろよ」


「うん!絶対雪渚に好きになってもらうから!」


 そう言って陽奈子はまた、八重歯を覗かせて笑った。玄関から差し込む朝の光が、彼女の姿を美しく照らしていた。


 そして、静観していた竜ヶ崎と拓生が、騒々しくなり始める。新たな頼もしい仲間――〈十天〉・第七席――日向陽奈子を迎えた〈神威結社〉。温かい光景がそこにはあった。


「っしゃァ!陽奈子!良かったなァ!」


「うん!竜ヶ崎ちゃん――ううん、たつみちゃん!」


「おォ!なんか照れるなァ!陽奈子ォ!」


「〈神威結社〉万歳ですぞ!」


「オタクくんも改めてよろしくね!」


「――ぶひっ!?小生はオタクくんのままですと!?」


「なにそれきも!ウケるんだけど!」


 楽しそうに笑い合う竜ヶ崎、拓生――そして陽奈子の三人。その様子を温かく見守っていた天音がくすりと笑って、ソファに座る俺に言った。


「ふふ、また賑やかになりましたね」


「はは、そうだな……」


 ――こうして〈十天〉・第七席――日向陽奈子が〈神威結社〉に加わった。


 竜ヶ崎や拓生と共に笑っていた陽奈子が、何かを思い出したような表情を浮かべ、俺へと向き直った。


「そうだ!良かったらみんなにアタシの親友に会ってほしいな!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――その日の夕方。俺たちは、陽奈子が元々家族と住んでいたという住宅地の近くにある、ある墓地に訪れていた。


 プレート型の墓石が等間隔に、所狭ところせましと並べられた中、一つの墓石の前に俺たちは立っていた。供えられた弔花ちょうか――数輪の菊の花が、薄暮のオレンジの光に照らされる。


 俺たちの視線の先には、プレート型の墓石に彫られた「青砥あおと舞白ましろ」、「2088~2108」という文字。


 その平板状の墓の前にしゃがんだ陽奈子にならうように、俺たちはその墓に手を合わせる。しばらくく手を合わせた後、陽奈子は、その墓の下で眠る親友に語り掛けるように、おもむろに口を開いた。


「舞白、今日はね。友達を連れてきたんだ。アタシを受け入れてくれた、素敵な人たち」


 肌寒い、冬の夕暮れ。親友に語り掛ける陽奈子を、その背後で俺と天音、竜ヶ崎、拓生が何も言わず見守っていた。冷たい風が俺の頬をなぶる。


「あと舞白、アタシね。好きな人ができたんだ」


 陽奈子は含羞はにかんだ。まるで、女の子同士が、恋の近況を語り合う放課後のように。陽奈子の柔らかな声音は、橙色だいだいいろの空に溶けてゆく。


「スゴくカッコいい人だよ。アタシを庇ってくれて、アタシのために戦ってくれたんだ」


 陽奈子は、優しく言葉を継ぐ。天音の白い毛先が風になびいた。


「ずっと恋なんてしちゃいけないと思ってた。アタシよりずっと……ずっとキラキラ輝いてた舞白の将来を、アタシは奪ってしまったから」


 そう言うと、陽奈子の目が潤んだ。あの悲惨な、辛い記憶がまた脳裏をよぎったのだろう。竜ヶ崎が、陽奈子を案ずる。


「陽奈子ォ……」


「ううっ……舞白……なんで殺されなきゃいけなかったの……?あんな……姿にされて……ううっ……」


 ――〈不如帰会ほととぎすかい〉の二人の信者によって惨殺ざんさつされた陽奈子の家族。偶然遊びに来ていた陽奈子の親友――青砥舞白もその巻き添えを食らってしまった。


 ――更に最悪なことに、加害者の信者の一人は、陽奈子を良く思っていなかった陽奈子の元同僚だった。そのことで、陽奈子は自責の念にられてしまっている。


 陽奈子の声音が、涙声に変わる。陽奈子は、背後で見守る俺に、背中越しに問い掛けた。


「雪渚……アタシはどうすればいいんだろ……。ううっ……やっぱり、舞白のお葬式で見た、アタシに向けられた、舞白のママの怒った顔が忘れられない……」


 ――俺は無宗教だ。葬式なんて見送る側が満足できればそれで良い。建前は死者を弔うためだが、生き返るわけでもない。実態はとむらう側が気持ちに区切りをつけるための儀式だ。


 ――だが、人の死というのはそんなに軽くない。俺はそのことを、痛いほどに理解させられた。俺は蘇っても、陽奈子の親友――舞白さんは、もう戻ってこない。


「舞白……舞白っ……!アタシね……まだ力不足で何もできないけど……絶対に舞白の無念は晴らすから……!だから……っ!待っててね……!ううっ……」


「陽奈子ォ……」


「ううっ……でもやっぱり寂しいよ……っ!舞白も、ママも、パパも、タロももういない……!ううっ……!雪渚……っ!」


 振り絞るような、震える声に混ざる俺の名前。陽奈子はぎゅっと、首元の、ルビーが埋め込まれたハート型のネックレスを握り締めている。


 ――俺は銃霆音と言葉で戦った昨晩で、自分の過去とは吹っ切れた……と思う。だが、陽奈子は違う。陽奈子はまだ、過去にとらわれている。


「アタシね……アタシね……みんなとこれから一緒に居られるの、スゴく嬉しいよ……!でも、でもね……やっぱり舞白や、ママやパパ、タロのこと、ずっと悲しい……!毎日夢に見る……アタシだけ生きてるのが……辛いよ」


 俺がその言葉に答えられるとすれば、一つだけだった。


「陽奈子……俺さ、両親を恨んでるうちに両親が亡くなったって話。前しただろ」


「うん……」


「それから結局、昨日の今日まで、ずっとその過去を払拭ふっしょくできてねえままだった。両親との確執かくしつを放置したままっちまったからな」


「雪渚……」


「でもそれも昨日、本気で銃霆音と言葉で殺し合って、自分を全部(さら)け出したことで、俺の中で吹っ切れた気がする。陽奈子がきっかけを作ってくれた。『ありがとう』を言いたいのは俺の方なんだ」


「ううん……雪渚が頑張ったんだよ」


「俺は……天音を八十五年も苦しませてしまった。泣かせ続けてしまった。それに天音だけじゃない。拓生のお婆さん――束花つかはなさんや一二三ひふみだってそうだ。俺があのとき自殺を選んだことは、どんなに謝っても償いきれない」


「せつくん……そんなことは……」


「雪渚氏……」


「陽奈子や竜ヶ崎もそうだ。地獄みたいな経験をして、それでも前に進んで生きている。そんなみんなが今、俺と仲間でいてくれることが、とても誇らしいよ」


「ボス……」


「雪渚……」


「結局みんなそうだよ。苦しんだ過去はそう簡単には乗り越えられない。皆が皆そんな強い人間じゃない。でも俺はそれでいいと思ってる。乗り越える必要なんてないと思ってる」


「雪渚は……それで辛くないの?」


「いや辛いよ。だから俺は――」


 俺は、静かに言葉を継いだ。皆が、俺を静かに見守っていた。


「――引きって生きるよ。引き摺って、引き摺って、その重さで脚が千切れても、俺はそれでも前に進むさ。俺を仲間だと言ってくれるみんなのためにもな」


「そっか……雪渚は茨道を選ぶんだね……」


「せつくんらしいと思います。私はそんなせつくんが好きですよ」


「ボス……!そうだなァ!アタイらは……生き抜かなきゃなァ!」


「雪渚氏……天国でばあちゃんもきっと喜んでますぞ……。感謝しかありませんぞ……」


 ――この新世界は、昔の日本のように仕事をしていれば生き長らえるような、そんな優しい世界じゃない。理不尽な暴力で、突然全てが奪われることは珍しくない。だからこそ、仲間と力を合わせて生き残らなければならない。二度と、誰も悲しませないためにも。


 改めて真っ直ぐ、陽奈子を見る。陽奈子は潤んだ瞳で、真っ直ぐと俺と視線を合わせる。


「それでな、俺考えたんだ」


「うん、雪渚。聞かせて……」


「――〈不如帰会〉をブッ潰そう。微力だが俺も手を貸す」


「雪渚……ありがとう。アタシ嬉しい……」


「……日向さんの悲願ですからね。せつくんがそう決めたのでしたら、無論私もお供します。いつまでも、いつまでも」


「そ……そうですな!小生も〈不如帰会〉は許せませんからな!」


 そう言う拓生の脚はガクガクと震えていた。だが、恐怖の中で拓生が絞り出した言葉が本心だということは、十分に伝わった。


「アタイの兄貴が幹部っつートコだろォ!アタイもまだ決着がついたわけじゃねェ!陽奈子ォ!目的は一緒だァ!アタイも手ェ貸すぜェ!」


「うん……みんなありがとう」


 陽奈子はルビーの瞳に浮かべた涙をぬぐって破顔した。上がった口角から、可愛らしい八重歯を覗かせる。


「うん!そう……そうだね!アタシ、萎えてる場合じゃないよね!アタシがこんなんじゃ……舞白たちも辛いもんね!」


「ボス!やっぱ最高だァ!」


 抱きついてくる竜ヶ崎。拓生は、虚空から白い百合やカーネーションといった、五束の綺麗な花束を取り出し、一束を手元に残して、俺たちに一束ずつ手渡した。陽奈子や拓生に倣って、平板状の墓石の上に献花する。


「舞白……アタシみんなと頑張るから。空から見守っててね」


「……いい友達だったんだな」


「うん!最高の友達!あ、もちろんみんなもね!」


「ははっ……」


 ――すると、そのときだった。俺のスマートフォンから場違いな着信音が流れる。画面を見ると、「銃霆音 雷霧」からの着信だとわかった。


「……雷霧か」


「銃霆音?アイツホント……空気読めないわね」


「陽奈子、悪い。出ていいか?」


「うん、多分大事な話だと思うし」


 陽奈子の言葉に小さく頷き、「応答」を押下する。スマートフォンを耳元に近付けると、調子の良い声が、俺の耳を突いた。


『よっ、マイメン・アルジャーノン♪イカした報告だ♪』


「雷霧……お前な……。こっちはそういうテンションじゃないんだが」


『つれねーな♪まあいっか♪決まったぜ♪』


「決まった?何がだ?」


『〈極皇杯きょくのうはい〉の〈十天推薦枠ワイルドカード〉――今年はアルジャーノン♪俺たち〈十天〉はお前を選ぶぜ♪』


 電話越しの雷霧の声が皆にも聴こえていたのだろう。雷霧のその言葉を受け、天音と陽奈子が、俺の目を見てこくりと小さく頷いた。


「そうか……。〈十天推薦枠ワイルドカード〉か」


『〈十天〉は全員文句ないっつーからな♪異例のパターンだが〈十天円卓会議サミット〉を待たずに決定だ♪またブチカマしてくれよ?』


 ――〈極皇杯〉。去年の総参加者数は四十万人、全世界での生中継の最高視聴率は九割を超えた、〈十天〉を除いた世界最強――世界十二位を決める超絶ビッグイベントだ。


 ――クリスマス・イヴに予選が、クリスマス当日に本戦が行われる。予選は、全参加者が八つのブロックに分かれ、バトルロワイヤルを異能バトルで戦い抜く。そして、各ブロックで最後に残った一名――計八名のみが本戦に進むファイナリストとなり、トーナメント戦を戦う。


 ――〈十天推薦枠ワイルドカード〉は、〈十天〉からそんな〈極皇杯〉の優勝候補に与えられる、最高の勲章だ。名実共に、優勝候補の一人として認められたことになる。


「そうか。わかった。天音と陽奈子も推してくれたんだ。その期待に恥じない結果を残そう」


『それでこそマイメンっしょ♪』


「――おォい銃霆音!アタイもいるからなァ!ボスが優勝でアタイが準優勝だァ!」


『ドラゴンガールか♪二位狙いとは大した忠誠心だ♪ま、期待してるぜ♪』


「ああ。報告ありがとう、雷霧」


『おっす♪じゃーな♪』


 電話が切れる。再びスマホをポケットに仕舞う。そして仲間たちに告げた。


「……さ、行くか」


「うん!」


「はい、そうですね」


「行きますぞ!」


「ッしゃァ!」


 立ち上がった陽奈子。金髪のツインテールとその桜色の毛先が、暮風ぼふうなびいてかすかに揺れる。俺たちはそうして霊園を後にした。美しい真冬の黄昏たそがれは、俺たち五人を優しく包み込むようだった。


 ――その道が何処どこに続いているのかはわからない。それでも、俺たちは前に進まなければならない。


 ――次はいよいよ〈極皇杯〉だ。俺は、絶対に優勝する。

第一章『新世界篇』、これにて完結です。


ここまで読んでいただいた方、評価やブックマーク、感想等をくださった方、まずはありがとうございます。


そして次回より第二章『極皇杯篇』に突入します。


この回の投稿時点でプロットは完成済みでして、途中まで執筆している段階ですが、第一章より熾烈な異能バトルを繰り広げることになりそうです。


少し執筆と推敲のお時間をいただきますが、引き続きお楽しみいただければ幸いです。


もしよろしければ、評価(すぐ下の★★★★★)やブックマーク等で応援していただけると執筆の励みになります。

よろしくお願いいたします。

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