3-44 臨時十天円卓会議
――その日の夜、〈オクタゴン〉の玄関前にて。〈翔翼ノ女神像〉の前で、俺たちは玄関前で送り迎えをしてくれる竜ヶ崎、拓生、猫屋敷、ニコと相対していた。
「それじゃ、行ってくるよ。〈十天円卓会議〉」
俺の隣には天音と陽奈子が控えている。
「夏瀬雪渚、承知した」
「おォ!ボス!気を付けてなァ!――ニコォ!ボスがいねェ間に修行して強くなるぞォ!」
「竜ヶ崎巽、承知した」
「雪渚氏!天ヶ羽女史!日向女史!帰ったら話を聞かせてくだされ!」
「にゃはは~、今回はあたしがオタクっちを襲ってオタクっちが半殺しになってるみたいなことはないから安心してね~」
「シャレになってないんだよな……」
「ふふ。せつくん、陽奈子さん、では参りましょうか」
「うん!行こ!」
「――よし、行くか。〈十天円卓会議〉へ――」
天音、陽奈子と同時に〈翔翼ノ女神像〉に手を触れる。すると、瞬く間に視界が切り替わる。これで、二度目の来訪だ。
次の瞬間、俺たちが立っていたのは、白一色の広い部屋だった。部屋の四隅には〈翔翼ノ女神像〉――例の女神像が置かれている。
そしてその部屋の中央には、大きな大きな白い円卓が置かれ、その円卓を囲うようにシンプルながら何処か高級感のある金と白の玉座が並べられている。頭の位置より高い背凭れが、引き締まった印象を与える。その場には、既に全員が揃っていた。
大きな白い円卓には、円卓の弧に沿って時計回りに、金色のローマ数字が彫られている。「Ⅹ」から時計回りに、「Ⅷ」、「Ⅵ」、「Ⅳ」、「Ⅱ」、最奥に「Ⅰ」、「Ⅲ」、「Ⅴ」、「Ⅶ」、「Ⅸ」――そして再び「Ⅹ」へと戻る。〈十天〉の席次で言うところの、偶数席次が俺から見て左側に、奇数席次が俺から見て右側に配置され、奥に往くに従って席次が高い者が座っているらしい。
空間を満たす空気はあまりにも厳かで、人によっては失禁すらしてしまうのではないか――そんな、有無を言わせぬ緊張感があった。そんな中、口を開いたのは――「Ⅷ」の席に座る雷霧だった。
「――よう♪アルジャーノン♪」
「雷霧……早いな。お前は毎回遅刻すると聞いたが」
「ケケッ♪事態が事態だからな♪それよりアルジャーノン♪ここに来ると思い出すな♪オレとお前で殺し合った夜をよ♪」
「そうだな……」
「――せつくん」
突然、天音が俺の袖を引いた。天音の白い髪が、白一色の室内と調和している。陽奈子も既に「Ⅶ」の席に着席したようだ。
「せつくん、第二席にお座りください」
「ええ……〈十天〉しか座っちゃいけないんだろ?」
「そうですが、元々せつくんのために取っておいた第二席です。新世界の頂点は、せつくんにこそ相応しいですから」
「花見の場所取りと同じマインドで〈十天〉に属してたのかよ……。……まあ、座れと言うなら座らせてもらうが……」
渋々、「Ⅱ」の刻印が為された第二席に腰掛ける。右側には赤髪のイケメン然としたホスト風の男――〈十天〉・第一席――鳳世王が、左側には恋町が座っている。恋町は煙管を片手に煙を吐き出した。
「わっちも同感でありんすよ。雪渚はんは何れ、〈十天〉となって新世界の頂点に立つべき器どす」
「勘弁してくれ……。背負えねーよ……」
鳳さんを隔てて向かい――「Ⅲ」の席に座る飛車角さんの背後には、手毬が立っていた。〈十天円卓会議〉の雰囲気にそわそわと落ち着かない様子だ。よく見ると、涙の跡があり、つい先程まで泣き腫らしていたのが容易に窺える。
〈十天〉以外に他にいる人間と言えば、「Ⅹ」の席に座る杠葉姉妹――その背後に控える黒崎だ。つまり、この場には〈十天〉十一名と、部外者三名を加えた計十四名が集っていることになる。
そして、鳳さんが、顎を両手の上に乗せたまま、口を開く。その一言で、空気がまたがらりと変わった気さえした。
「――揃ったね。では始めようか。臨時〈十天円卓会議〉を――」
「そうだねぇ。何から話そうかぁ?」
「――そうだね、噴下君。まず先に謝罪しておかなければならないが、僕は今回の件、現場である〈埃及エリア〉にいなかった。申し訳なかったね」
「しゃーねーだろ♪〈災ノ宴〉が控えたこのタイミングなら、|犇と同タイミングで他に〈十災〉が現れる可能性もある♪そのとき〈十天〉が全員〈埃及エリア〉に固まってたら終わりだからな♪」
「うんっ☆鳳さんは謝る必要ないよっ☆」
「……すまないね。という事情もあり、大まかには聞いているが、僕もまだ完全に事情を把握できていないんだ。一度、確認の意味合いも込めて報告を頼めるかな」
「では私からお伝えしましょうか」
声を発したのは、俺の背後に佇む天音だ。天音は淡々と、明瞭かつ的確に事実を述べてゆく。
「今回、〈不如帰会〉攻略戦に参加するメンバー、〈神威結社〉七名と〈十二支〉七名、それに、徒然草恋町、幕之内丈を加えた計十六名で〈埃及エリア〉を訪れました。その場にて、偶然、杠葉姉妹と黒崎影丸と合流いたしました」
「天ヶ羽様の仰る通りでございます」
「間違いありませんわ」
「その夜、突如として〈埃及エリア〉にて流星群が確認されました。犯人は〈十災〉――犇朽葉。日向陽奈子、せつく――夏瀬雪渚は敵の討伐へ。他のメンバーは流星群の対応、私は住民の救助という形でその場で散開しました」
「そうでありんす」
「その後、犇朽葉の討伐に、飛車角歩、大和國綜征、噴下麓、銃霆音雷霧、漣漣漣涙が参加。応戦しましたが逃亡を許す形となってしまいました」
「オレらに極めて向かねえ集団戦とは言え、〈十天〉六名とアルジャーノンを相手取って、まだ余裕そうだったな♪化物だぜ、ありゃ♪」
「そうだねぇ……」
「そう言えば夏瀬くんって前に犇ちゃんに『無敵状態』の罰を破られちゃったんだよねっ☆」
「あ、ああ……」
「でも噴下さんの異能はちゃんと発動したよねっ☆これってどういうことなのかなっ☆」
「ああ……それは俺も気になってたんだ。てっきり、犇にそういう力があるのかと思ってたが……」
「……………………それに関しては簡単な話だろ」
「……どういうことです?」
「……………………夏瀬の坊主の〈天衡〉はイメージによって罰を下す。…………要は思考が安定してねえといけねえんだ。…………『魔王城バトルロード』で夏瀬の坊主が犇と対峙したときは、旧世界の夏瀬の坊主が見慣れてねえ凄惨な現場だったからな……。…………かなり動揺してイメージが正確でなかったんだろう」
「成程……そう言われれば……」
「なるほどねっ☆」
「ケケッ♪ダセーな♪アルジャーノン♪」
「うるせえよ……」
「話を戻しましょう。その後、総員合流しましたが……猿楽木天樂、犬吠埼桔梗、卯佐美兎月、虎旗頭桜歌――以上四名の遺体が発見されました。その後、解散したという流れになります」
「……成程。そうだったのか……。ありがとう、天ヶ羽君」
「みんな……ボクのせいで死んじゃったのだ」
「――着ぐるみガール♪そいつらは誰に殺されちまったんだろうな♪」
「えっ……誰って……犇朽葉に決まってるのだ」
「――羊ヶ丘殿、それは有り得ないので御座る」
「アルジャーノン♪説明してやれ♪」
「ああ、手毬……俺はホテルの前からピラミッドの頂上で戦う陽奈子と犇の下へ向かう際、殺された四人が流星群に相対しているのを視認しているんだ」
「……ど、どういうことなのだ!?」
「そして犇朽葉は陽奈子との戦闘において、ピラミッドの頂上から離れていない。逃げ去った方向も逆方向だ。犇朽葉には、四人を殺す時間も隙もないんだよ」
「……そ、そんなハズはないのだ!そ、そうなのだ……!きっと、幻覚や分身の異能で……!」
「それはないのよ、手毬ちゃん。犇朽葉の異能は、『悪魔級異能』、〈暴食〉――『喰らったモノの特徴をその身に再現できる異能』。その力はアタシたちも実際に目の当たりにしてる」
「それに犇朽葉は間違いなく実体で御座った。犇朽葉に四人を殺すことは不可能で御座ろう」
「じゃ、じゃあきっと流星群に巻き込まれて死んでしまったのだ!」
「あの殺され方見たろ♪着ぐるみガール♪流星群じゃねえ♪確実に人の手で殺されてる♪」
「それじゃあ……だ、誰が……みんなを殺したのだ!?」
「決まってんだろ♪オレらからすりゃアイツらは雑魚だけどよ♪仮にも〈極皇杯〉の本戦進出経験者や〈世界ランク〉三十位以内の上位ランカーだ♪そいつらを殺せるなんて奴は限られる♪」
「そうだねっ☆抵抗しないなんて考えられないしっ☆」
「……〈十天〉はみんな理解しているのだ!?わ、わからないのだ……!」
「……………………羊ヶ丘の嬢ちゃん。…………四人を殺せるのは……相当な実力者だ。…………しかも、あの場にいた、な」
「そんなの……もう……!他に……いないのだ……!」
「…………………そうだ。殺したのは〈十天〉の誰か。…………やっぱり潜んでやがるな。………………内通者」
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