3-38 攻略戦組旅行会議
やがてリビングには〈神威結社〉の全員が集まった。朝食を終え、それぞれがリビングで寛いでいる。恋町も一緒だ。
「ああ、そうだ。みんな話があるんだがちょっといいか」
「夏瀬雪渚、なんだ」
ぞろぞろとソファに全員が集まってくる。陽奈子は俺を意識しすぎてしまったのか、今日は俺の隣には座らなかった。恋町は気を遣ったのだろう、俺から少し離れた場所に座る。俺の両隣には天音と、俺に頬を擦り寄せる竜ヶ崎が座る。
「どうしましたか?せつくん」
――うっ……。心が痛いな……。天音を裏切る形になってしまった……。が……心を鬼にするしかない。
「ボス!何かするのかァ?」
「ああ、昨日の飛車角さんの話を受けて考えたんだが……〈不如帰会〉攻略戦に参加するメンバーで旅行にでも行かないかと思ってな」
「にゃはは~、これはまた突然だね~?せつなっちー」
「ですが、一致団結するためにも悪くないと思いますぞ!」
「ああ、〈不如帰会〉攻略戦にミスは許されないからな。最近はバトってばかりだし、休養という意味でも偶にはいいだろう」
「おォ!飛車角は〈不如帰会〉攻略戦には参加しねェけど〈神威結社〉の一員みたいなモンだからなァ!当然来るよなァ!?」
『…………悪いが俺はパスだ。……柄じゃねえし〈十災〉や〈災ノ宴〉の件でそれどころじゃねえ』
「あゆむっちは忙しいし仕方ないね~。てかさー、〈不如帰会〉攻略戦に参加するメンバーってことはー、こまっちーとまくのうちっちと、〈十二支〉のみんなもだよね~?」
「ああ、幕之内と〈十二支〉には既に了承を得ている」
「雪渚はんの提案なら、わっちも当然行きんす」
「でも雪渚、旅行は賛成だけどどこに行くの?」
「うーん、そうだなあ……」
「……フッフッフ……お困りのようですな、雪渚氏!」
「拓生……?」
「そういうことでしたら小生に名案がありますぞ!」
「うわ~、ロクな案じゃなさそうだにゃ~」
「猫屋敷女史!小生を甘く見てはいけませんぞ……!小生が提案するのは、〈黄金郷エルドラド〉の中心地――〈埃及エリア〉ですぞ!」
「〈埃及エリア〉ですか。旧世界ではエジプトが位置していた砂漠地帯で、今はゴールドラッシュで栄えた地ですよね」
「炭鉱が盛んな地よね。ピラミッドも観光地として有名だわ」
「それだけではありませんぞ!やはり〈埃及エリア〉と言えば、カジノですぞ!」
「にゃはは~、やっぱりロクな案じゃなかった~」
「――おお!カジノか!」
元・ギャンブル狂いの俺は興奮して立ち上がる。だが、天音が冷めた目で俺を見ている。
「……せつくん、お忘れですか?せつくんは旧世界で、ギャンブルやパチンコで多額の借金を負ったんですよ」
「うっ……それを言われると……」
「ガッハッハ!姉御が完済したらしいなァ!」
「その節は……本当に……」
「雪渚ってたまにアホなのか天才なのかわかんなくなるわよね……」
「夏瀬雪渚、『カジノ』も『ギャンブル』もわからない」
「ギャンブルは要は博打だよ。金を賭けて勝負を争うんだ。カジノはそのギャンブルの設備を備えた娯楽場だな」
「そうか。勉強になる」
「まあたまにはパーッと遊ぶのも悪くないと思いますぞ!小生や雪渚氏が稼いだ大量の虹金貨だけでなく、〈十天〉のお二人が稼いでくださった分や、最近は猫屋敷女史や竜ヶ崎女史も稼いだ分を〈神威結社〉に一部入れてくれてますからな!」
「おォ!今なら金はあるぞォ!」
「まあ……やりすぎなければ悪くないかもしれませんね。せつくんも最近はギャンブルもパチンコも控えてくださっていますし」
「ガッハッハ!金が全部なくなっても面白ェかもしれねェなァ!」
「全然面白くないわよ……。巽ちゃん……」
「よし、そうと決まれば幕之内と〈十二支〉にも連絡してみるか……」
プレートフォンのSSNS経由で、幕之内と手毬に同時に電話を掛ける。すると、ビデオ通話形式で直ぐに二人に繋がった。二人の顔が画面分割した形でテレビに映し出される。
『――おう、夏瀬。〈不如帰会〉攻略戦組の旅行の件か?』
『――雪渚!丈!旅行はいつなのだ!早く行くのだ!』
『つーか手毬!テメェ、またオレの家に遊びに来たときにパンツ脱ぎ捨てて行っただろ!なんでオレがガキのパンツ洗わなきゃなんねーんだ!』
『うるさいのだ!丈はボクのパンツを一生洗ってればいいのだ!今やボクの方が〈世界ランク〉は上なのだ!雑魚は黙るのだ!』
『くーっ!なんでオレはこんなガキに負けてんだ!』
「雪渚氏……〈不如帰会〉攻略戦……こんなんで大丈夫ですかな……?」
「大丈夫じゃねえな……」
俺は拓生たちと話した旅行計画を二人に説明する。特に手毬は余程楽しみにしていたようで、瞳をキラキラと輝かせながら話に聞き入っていた。
『おーっ!すごいのだ!〈埃及エリア〉なら百馬身差の出身地なのだ!案内してもらうのだ!』
「ああ、そうか。馬絹の地元なら心強いな」
『〈不如帰会〉攻略戦の決行は夏――まだ数ヶ月あるたぁ言え、いよいよ始まるって感じがするじゃねーか。悪くねーぜ』
「まあ勝利を願った前祝いって感じだな」
「一応何があるかはわからないから、全員ちゃんと戦闘の準備はしてくることね。何があっても責任は負えないわよ」
『おう!了解だぜ!陽奈子ちゃん!』
『わかってるのだ!まあ、ボクらが負けるはずはないのだ!』
「よし、じゃあ来週の土曜日に〈羽成田空港〉で待ち合わせよう」
『…………何もないといいがな』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――その日の夜。何処か遠い場所にて。宇宙服を着た、宇宙を彷彿とさせるような美しいグラデーションのコズミックカラーの髪の男――夜空野彼方は、一人の女と相対していた。彼のふわふわとボリュームのある天然パーマの髪が夜風に靡いていた。
「ははは……君みたいな可愛い女の子に殺されるなんて……本望だよ」
彼の周囲には、三人の人間の遺体が転がっていた。昨年の年末、〈極皇杯〉の予選Aブロックで夏瀬雪渚と戦った、忌住鱚子。冴積虚次元、慈安寧である。彼らの遺体は、野犬に喰い千切られたような痕が幾つもあり、最早、原型を留めてはいなかった。
「きゃははっ☆なんなんこいつ!ナルシストチビくそキモいんだけどー!」
「いやー……女の子がそんな汚い言葉遣い……良くないと思うな。〈極皇杯〉の予選で戦った竜ヶ崎ちゃんの方がよっぽど愛嬌があったよ」
「誰そいつ!知らねーし!聞いてもないこと喋んないでくんない?キモいから!」
夜空野彼方と相対するのは、髪型は黒のボブカット風で、黒いブラジャーの上からアイドル風の白い衣装を羽織るような、大胆な格好をしている女だった。その服装の至るところに牛の模様が施されている。
「いやー、参ったね……。これ以上、どう逃げるかを考えるための時間を稼ぐのは無理そうだ……」
「きゃははっ☆逃がすわけないじゃん!てかあんた〈極皇杯〉で準優勝したことあんでしょ?戦いもしないで逃げ腰とかクソザコじゃーん!ざーこ♡ざーこ♡」
「はは……まさか人を食うとは思わなかったからね……」
「あー、あてぃしカニバリズムだからねー。てかもう無駄話いい?飽きたんだけど――」
瞬間、夜空野彼方の頭部が――失くなった。首の断面から鮮血が噴き上がる。そして、頭部のないその身体は、力なく、地に身を預けるようにして倒れ込んだ。
「もぐもぐ……あー、まず。ぺっぺっ……全然おいしくねーし」
その女――犇朽葉は、血で汚れた口元を拭う。そして、近くに置いていたプレートフォンに歩み寄る。彼女はプレートフォンを拾い上げて満足げな表情を浮かべた。
「うん!よく撮れてる!やっぱあてぃし天才かも!」
夜風が彼女の黒髪の毛先を揺らした。その平原に月光が差し込む。
「それにしてもあてぃしの『悪魔級異能』――〈暴食〉、使うまでもなかったしー。やっぱ〈十天〉と殺し合える〈災ノ宴〉までは我慢かなー。つまんねーの……」
犇朽葉はプレートフォンをポケットに仕舞って歩き出した。
「弱すぎてイライラしちゃったし、気晴らしにカジノにでも行こっと!」
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