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3-32 居酒屋潰し

 通常通り、会計を済ませ、店を後にする。店から死角になる位置で、俺たちは集まっていた。


「よし、陽奈子、『着替照(きがてらす)』を解いてくれるか」


「うん!」


 陽奈子が俺たちに光り輝く手を(かざ)す。


「サンキュー、陽奈子」


「うん!どいたま!」


「……よし、これでアイツらからもいつも通り、〈神威結社〉の面々に見えるハズだ」


「そうだね~。でもせつなっちさー、この後はどうするの~?」


「あまり好きな言葉じゃないんだが、『私人逮捕』……って知ってるか?」


「警察ではなく、一般人による逮捕のことですね」


「ああ。私人逮捕って『現行犯に限られる』んだよ」


「なるほどですな!あの店長が竜ヶ崎女史に暴行している現場に突撃するんですな!」


「ああ、立派な暴行罪だからな。そのタイミングで〈十天〉も含めた俺たちが現れたら、店長はどんな反応をするんだろうな?」


「にゃはは~、せつなっちも悪知恵が働くね~」


小賢(こざか)しいですな!」


「ずる賢いわね……」


「お前ら……褒めてんのか……」


 店の傍でそのタイミングを待ち構える。すると、数分としないうちに、店内から怒声が聞こえてきた。


「――このノロマが!殴り殺すぞ!」


「来たな、行くか」


 俺たちは足並みを揃えて店内に足を踏み入れる。


「すみません。ラストオーダーを過ぎてしま――って、え……?」


 先程、竜ヶ崎の陰口を叩いていたスタッフが笑顔で対応するが、俺たちの姿を見て表情を曇らせた。無理もないことだ。


「――退()け」


 そのスタッフを押し退()け、今、(まさ)に竜ヶ崎を殴り付けようとしていた店長に近付く。


「――おい」


「……はい、なんでしょ――ッ!?」


 店長の表情が、恐怖で凍り付く。泣きそうになっていた竜ヶ崎が、俺を見て目を丸くする。


「……ボ……ス……?」


「お前、〈神威結社(ウチ)〉の可愛い妹分に何をした?」


「――ま、待ってください!夏瀬さん!自分は竜ヶ崎……さんに仕事を教えていただけで……!」


 店長は態度を急変させる。俺――いや、正確には背後に控える〈十天〉の二人に怖気付いてしまったのだ。


「ほう、じゃあなんで竜ヶ崎の顔が()れている?」


「……っ!そ、それは……さっき転んで怪我をしたみたいで……!」


「嘘を()くな。見てたんだ。ぶち殺すぞ、ガキが」


 俺がそう告げた途端、天音が三対六枚(さんついろくまい)の白い翼を生やし、舞い上がると共に〈水星砲(すいせいほう)アクアリアスカノン〉を背後に展開する。同時に、陽奈子が全身を神々しく光らせて浮き上がる。その手には、ガントレット――〈キラメキ〉が()め込まれている。


「ひっ……!ま、待って……!許して……!」


「良くも可愛い巽ちゃんを殴ってくれたわね?お返しに、アタシも光の速さで殴ってあげようかしら?」


「〈十天〉を敵に回して、『許して』で済むと思いますか?」


 店長は腰を抜かしてしまい、その場に失禁してしまった。天音と陽奈子、二人の放つ圧倒的な存在感に、スタッフには失神する者まで現れた。


「夏瀬雪渚、やはりこの男は殺しておくか?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」


「いやはや……小生たちの出番はなさそうですな」


「そうだね~。にゃはは~、あたしもこの〈神威結社〉を一度は敵に回したと思うと、馬鹿なことをしたにゃ~」


「まあいい、一発殴らせろ」


「ま……待って……!」


 俺は店長に歩み寄り、アッパーカットを決める。クリティカルヒットした攻撃。店長は跳ね上げられ、天井に激突。その場に力なく落ちた。


「夏瀬ー!!いいぞー!!」


「やべえ本物の〈十天〉初めて見た!!」


 酒でいい気分になっていた客たちが沸き上がる。気絶した店長を横目に、竜ヶ崎に告げる。


「竜ヶ崎、帰るぞ。お前がバイトしてる理由は知らんが、こんなとこでバイトするのはやめろ。気分が悪い」


「まあ、どっちにしろこの件はアタシの四億人のフォロワーがいるSSNS(スーパーエスエヌエス)で告発して、この店は潰すけどね」


「で、でもよォ……ボス、アタイ、バイトしなきゃいけねェ理由があんだよォ」


「お前な、交通費でバイト代なくなってるだろ。お前実質タダ働きしてることになってるぞ」


「――おあッ!?そうなのかァ!?」


「たつみょ~ん、バイトなら『にくきゅう日和(ウチ)』で働く~?なんか予約がかなり先まで埋まっちゃって、人手が足りないんだよね~」


「おォ!いいじゃねェかァ!」


「よし、帰るか」


「おォ!でもボスよォ、なんでここにいるんだァ?」


「あー、散歩だよ、散歩」


「ガッハッハ!違う国まで散歩するヤツなんかいねェだろォ!」


「お前な……」


 そうして、俺たちは〈オクタゴン〉へと帰っていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――一週間後。〈オクタゴン〉・一階リビングにて。


「――ボス!いつも世話になってるからプレゼントだァ!」


 竜ヶ崎が、綺麗に包装された七つのギフトボックスを抱えてリビングに現れた。そのうちの一つを、嬉しそうに俺に手渡してくる。


「おう、竜ヶ崎。ありがとう。開けていいか?」


「おォ!開けろォ!」


 箱を開けると、そこに入っていたのは、意外なことに――電動歯ブラシだった。


「電動歯ブラシ……?嬉しいけどなんで電動歯ブラシなんだ?」


「おォ!ボスはタバコ臭ェからなァ!ちゃんと歯ァ磨けェ!」


「……ぶち殺すぞ、ガキが」


「悪意のない悪口が一番タチが悪いですな……」


「ガッハッハ!おォ!そうだァ!みんなの分もあるぞォ!姉御もいつもうまい料理ありがとなァ!陽奈子もアタイと仲良くしてくれてありがとなァ!」


「ふふ、ありがとうございます。竜ヶ崎さん」


「巽ちゃん、ありがと!」


 竜ヶ崎は皆にプレゼントを手渡してゆく。七つあるのは、半分〈神威結社〉の一員であるペットカメラ――飛車角さんの分も含めているのだろう。


「ゲームですな!いやはや、嬉しいものですな!」


「たつみょんありがと~。バイト頑張ってくれてるもんね~」


「おォ!猫屋敷のとこで働くのは楽しいぞォ!みんな優しいし、『まかない』もくれるしなァ!」


 ――竜ヶ崎は案外仕事を覚えるのは早かったようだ。猫屋敷の話では、既に一週間足らずで戦力として活躍しているらしい。と言っても、完全ホームの〈真宿(しんじゅく)エリア〉ではあるのだが。


「竜ヶ崎巽、これはなんだ」


「おォ!漢字ドリル十冊だァ!勉強するぞォ!」


「……竜ヶ崎巽、一緒にするな。私は物を知らないだけで賢い」


『…………なんだ、竜ヶ崎の嬢ちゃん、俺の分もあるのか』


「おォ!」


『…………悪いが遠隔では開けられなくてな、開けてみてくれないか』


「おォ!いいぜェ!」


『…………成程(なるほど)。煙草か。……悪くないな』


「飛車角はよくわかんなかったからなァ!」


『…………はっ、ありがとな、竜ヶ崎の嬢ちゃん』


「でもさ~、たつみょんはどうするの~?あたしらにプレゼント買うのが目的だったんでしょ~?バイト辞めちゃうの~?」


「おォ、それなんだけどよォ、猫屋敷がいいなら続けてェんだよなァ。居酒屋のときは苦しかったし辛かったけどよォ、今はめちゃくちゃ楽しいからよォ」


「ほんと~?そう言ってくれると嬉しいにゃ~」


「ボス!いいかァ!?」


「竜ヶ崎の社会経験にもなるし、いいんじゃないか」


「竜ヶ崎巽、修行も忘れるな。夏瀬雪渚から竜ヶ崎巽を鍛えるよう言われている」


「おォ!もちろんだァ!どっちもちゃんとやるぞォ!――よォし!ニコ!早速今から修行するぞォ!」


「承知した」


 竜ヶ崎がニコを連れて地下のトレーニングルームへと駆けてゆく。だが、〈不如帰会(ほととぎすかい)〉との決戦の日は近い。平和な日々も、長くは続かなかった。

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