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3-30 尋ね猫

 ――演説を終え、翌日の夕方。〈オクタゴン〉の地下一階・トレーニングルームに〈神威結社〉の七名が集まっていた。中央の特設リングでは、ニコと竜ヶ崎が模擬戦をしながら修行をしている。


「――竜ヶ崎巽、動きが単調だ。それでは読まれるぞ」


「おォ!わかったァ!それで、『単調』ってなんだァ?」


 特設リングの周囲にはアスレチックが設けられている。俺はそのうちの一つ、 平均台に腰掛けていた。傍では陽奈子がパンケーキを頬張っている。


「ニコと竜ヶ崎もよくやるよなあ。〈オクタゴン〉にいるときは(ほとん)どこのトレーニングルームに入り浸ってるよな」


「小生としては、ニコ女史が〈神威結社〉に入ってくれたお陰で、竜ヶ崎女史に修行に付き合わされることもなくなって大感謝ですぞ……。トレーニングの翌日は筋肉痛で動けなくなりますからな……」


「オタクくん、それ筋肉痛じゃなくて肉離れの間違いじゃな~い?」


「――ぶひっ!?失礼なっ!猫屋敷女史!」


「にゃはは~、オタクくんに怒られたにゃ~」


「――せつくん、猫屋敷さんも〈真宿(しんじゅく)エリア〉の皆さんに迎え入れてもらえて良かったですね」


「ああ、まあ元々の猫屋敷が築いていた信頼があったからな。そうじゃなきゃ総バッシングだろ」


「いや~、ホントだね~。感謝だね~」


「でも彼岸が〈不如帰会(ほととぎすかい)〉に誘われたのって『魔王城バトルロード』の収録の一週間前なんでしょ?」


「そうだよ~。多分、あたしが四天王に選ばれたのを知ってだと思うよ~」


 ――猫屋敷が〈不如帰会(ほととぎすかい)〉に属していた期間は限りなく短い。情報量も俺が今持っているのと大差ないようだ。


「『魔王城バトルロード』のスタッフに〈不如帰会(ほととぎすかい)〉の信者が紛れ込んでいたのでしょうか?」


「少なくとも『魔王城バトルロード』の関係者に〈不如帰会(ほととぎすかい)〉の人間がいることは間違いないだろうな。――あっ、そうだ。ニコ、ちょっと来てくれ」


「む?なんだ、夏瀬雪渚」


 機敏な動作で竜ヶ崎へと攻撃していたニコの動きがピタリと止まる。ニコはこちらに歩み寄り、リングから降りてきた。俺は懐から用意していたものをニコに手渡す。


「ニコのプレートフォンだ。昨日一二三(ひふみ)に頼んでおいたのがさっき届いてた」


「そうか。感謝する」


「ニコっち~、使い方は後でひなこっちと一緒に教えるよ~」


「承知した。よろしく頼む」


「でもさっすが雪渚の親友――五六(ふのぼり)くんね。仕事が早いわ」


「せつくんが唯一認める天才ですからね」


「ですが雪渚氏、プレートフォンの契約だけならキャリアショップで済むはずですぞ?」


「それがな……一二三(ひふみ)の奴が『雪渚の仲間なら俺が担当する』って聞かねーんだよ」


「まあ、プレートフォンはそもそも〈天網(てんもう)エンタープライズ〉の製品ですからね」


「CEOが直接担当とは……豪華なオプションですな……」


銃霆音(じゅうていおん)のヤツと言い、五六(ふのぼり)くんと言い、雪渚って男にもモテるわよね……。さすがにアタシの方が恋愛なら分があると思うけど……」


「――陽奈子ォ!そういうの今の時代よくねェんだぞォ!」


「なんで竜ヶ崎女史はLGBTにだけ厳しいんですかな……」


「てか雪渚、つれこまからまだ毎日連絡来てるの?」


「おー、通知オフにしてなきゃ今もリアルタイムで通知が止まらないぞ。見ろ、俺のSSNS(スーパーエスエヌエス)の未読件数の『9,999件』――全て恋町(こまち)だ」


 八重歯を覗かせる陽奈子にその画面を見せ付ける。陽奈子はドン引きした様子だ。


「うわぁ……つれこまのヤツ……雪渚に嫌われるってわかんないのかしら」


「まあただのヤリマン女ですからね。仕方ないでしょう」


「頑張って返してはいるんだけどな……。まるで追い付かねえ」


 ――「ヤリマン女」か……。恋町(こまち)の過去に関する話なのだろうが、どうも気に掛かる。俺から聞くのも嫌だろうし、恋町(こまち)(いず)れ打ち明けてくれればいいのだが……。


「でもさー、あたしもこれで〈不如帰会(ほととぎすかい)〉と敵対しちゃったワケだけど~、こまっちーも〈不如帰会(ほととぎすかい)〉との戦いに参加してくれるんだよね~?」


「ああ、〈神威結社〉を除けば、恋町(こまち)と幕之内、〈十二支〉の面々が協力してくれる。〈不如帰会(ほととぎすかい)〉との全面戦争だな。本当は恋町(こまち)には〈(わざわい)(うたげ)〉での〈十災〉との戦いに備えておいてほしいんだが……」


「まあ雪渚がいるならつれこまは絶対来るわよね……」


「〈十天〉が三名に〈極皇杯〉の本戦進出経験者(ファイナリスト)、〈世界ランク〉の上位ランカーが勢揃い……豪華なメンツですな……」


「せつくん的には勝率はどれくらいでしょうか?」


「本当に『はんぶん様』次第だな……。良くて勝率は五分……かもしれない」


「雪渚でもそう思うんだ……。厳しい戦いになるわね……」


「もう……やるしかないですな。小生も、これ以上悲しむ人が増えるのは嫌ですぞ!」


 改めて〈不如帰会(ほととぎすかい)〉壊滅への意思を固める。そんな中、壁掛け時計を見て、突然声を上げたのは竜ヶ崎だった。


「――やべェ!バイトの時間だァ!ボス!ちょっと出かけてくる!」


 竜ヶ崎は慌てて階段を駆け上がろうとする。俺はそんな竜ヶ崎を呼び止めた。


「――おいおい、待て待て。なんだバイトって、別に自由だが聞いてないぞ」


「あっ、ち、違ェよ。ちょっと外出する用事があってなァ……!」


 竜ヶ崎は誤魔化すようにして上階へと逃げ去っていった。やがて、一階の玄関の扉がバタンと閉まる音が聞こえてくる。俺たちは(いぶか)しげに顔を見合わせた。


「なんだ竜ヶ崎の奴、バイトなんてしてたのか。俺知らなかったぞ」


「そう言えば竜ヶ崎さん、一ヶ月ほど前からせつくんが不在のときを見計らって外出していましたね」


「でも〈神威結社〉には雪渚やオタクくんが稼いだお金が無限にあるわよ?バイトなんてする必要ないじゃない」


「たつみょん、何か企んでるんじゃな~い?」


「夏瀬雪渚、『バイト』とはなんだ?兵器か?」


「なんでだよ。アルバイト――お金を稼ぐために働くことだよ。俺や天音も大昔には塾講師のバイトしてたな」


「ふふ、懐かしいですね」


「まあ竜ヶ崎は社会経験がないだろうから……社会経験を積むのは悪いことじゃないが……」


「雪渚氏の言いたいことはわかりますぞ……。竜ヶ崎女史にバイトなんてできるんですかな……?」


「………………」


 拓生の言葉に一同は沈黙する。皆、考えることは同じだった。


「……不安になってきたな。何のバイトか知らんが、下手したら営業妨害だぞ」


「雪渚氏……様子を見に行った方がいいかもしれませんぞ……」


「少人数で行く方が良さそうですが……」


 天音は皆の顔を(うかが)うが、その反応は、天音の期待とは反したものだったようだ。


「――皆さん、気になりますよね……」


「仕方ねえ。全員で行くか」


「陽奈子さん、私たちで空から竜ヶ崎さんを探しましょうか。まだそんなに遠くには行っていないでしょう」


「そうね。アタシの『着替照(きがてらす)』でみんな変装しましょ。巽ちゃんにバレないようにね」


「――よし、『竜ヶ崎巽尾行作戦』、決行だ」

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