3-27 続・真宿エリア防衛戦
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――竜ヶ崎巽は真宿駅前の交差点を駆け抜けていた。白い法衣を着た者たち――〈不如帰会〉の信者たちを軽く吹っ飛ばしながら。月光を黄色の双角が反射する。
「――巽ちゃん!ありがとー!」
「――おォ!お前ら死ぬなよォ!」
後ろを振り返り、〈真宿エリア〉の住民たちの声援に応えながら、竜ヶ崎巽は満足げな表情を浮かべていた。胸の前で拳を握り、気合いを入れ直す。
「よォし!ボスがアタイを頼ってくれたからなァ!頑張るぞォ!」
竜ヶ崎巽は真宿駅前広場へと辿り着く。その場所でも、〈真宿エリア〉の住民たちと白い法衣を着た老若男女があちこちで剣を交えていた。
「あァ?コイツら何人湧いて出てくるんだよォ……」
そう、竜ヶ崎巽が呟いた瞬間、白い法衣を着た信者たちが爆発と共に吹っ飛んだ。何か、軽い爆撃でも食らったような挙動だ。的確に信者だけを狙った攻撃。竜ヶ崎巽が夜空を見上げると、そこには光り輝くギャルがいた。
「おォ!陽奈子かァ!」
「――陽奈子様だ!」
「日向様万歳!」
「今のうちにコイツら縛り上げろ!ロープ使え!」
「武器奪え!コイツめ!」
住民たちが騒ぎ立てる中、日向陽奈子はそれを気に留める様子もなく、光の速さで移動してゆく。夜空から、指先から放つ光線で信者だけを無力化しているようだ。
「さすが陽奈子だなァ……」
「――あのー、竜ヶ崎巽ちゃん?」
声がする。声は竜ヶ崎巽の背後からだ。竜ヶ崎巽が振り返ると、彼女は立っていた。
「あァ?」
白髪ツインテールにカラフルな毛先。そしてベレー帽。ふわふわとした雰囲気の、画家のような格好の少女が、スケッチブックを抱えて、広場のベンチに座っていた。
「――うわああああああああ!!!逃げろぉぉぉぉぉ!!!」
悲鳴。竜ヶ崎巽が振り向くと、ついさっき日向陽奈子によって制圧されたはずのその広場は、地獄絵図と化していた。オーク、ゴブリン、ガーゴイルにゴーレム――ファンタジー小説に登場していても遜色ない魔物たちが、住民たちを襲っていた。
「なっ……なんだァ!?」
「驚かせちゃったかなー?」
画家の少女がスケッチブックを抱えたまま、ベンチから立ち上がる。彼女だけが、悲鳴が上がる広場で一際落ち着いていた。その右手には筆が握られている。
「テメェの仕業かァ……!」
「そうだよー?偉人級異能、〈夢筆〉――『描いたものを具現化する異能』だよー」
「ガッハッハ!自分の異能を自分から明かすヤツはアホだってボスが言ってたぞォ!」
「あれー?でも巽ちゃんだって〈極皇杯〉に出てたから、私、巽ちゃんの異能知ってるんだけどなー」
「なっ……なんだとォ!?」
「それにさー、勝てるから言ってるんだよー?わかんないかなー」
「ハッ、アタイが負けるかよォ!」
「うーん、私ねー、巽ちゃんが千回も負けた竜ヶ崎龍ちゃんと同じ〈不如帰会〉の副大臣なんだー。負けるとは思えないかなー」
「チッ、〈不如帰会〉かァ……」
「そうだよー?会員番号『拾参』――諜報省・副大臣、虹架彩だよー」
「〈神威結社〉の竜ヶ崎巽だァ!」
竜ヶ崎巽はそう怒鳴るように告げると同時に、「竜人化」する。刺々しい尻尾が生え、爪が鋭く伸びる。キラリと月光を反射した爪の切っ先が妖しく光る。住民たちの悲鳴の中、竜ヶ崎巽は思考する。
――先に住民たちを助けねェとまずい……。けど、コイツを倒さなきゃ魔物が無限に出てきてしまう……。クソ……!ボスなら……ボスならどうする……?
「――巽ちゃん、しっかりしなさいよ」
上空から声が。その方向から放たれた光線が、次々に魔物を貫き、駆逐してゆく。次に水の軌道が虚空に現れ、魔物を消滅させる。
「竜ヶ崎さん、住民の皆さんは大丈夫です」
「――陽奈子ォ!姉御ォ!」
地に降り立つのは日向陽奈子と天ヶ羽天音であった。魔物は瞬く間に一掃され、住民たちは歓喜の声を上げている。
「助かったぁ!」
「〈十天〉万歳!」
白髪ツインテールの画家、虹架彩はきょとんとした様子だ。
「あれま、私のモンスターたち、やられちゃった」
その言葉に日向陽奈子がドヤ顔で答える。彼女の金髪ツインテールの桜色の毛先が揺れた。
「ふふん!〈真宿エリア〉中の信者は一掃したわ。千日前千秋楽も気絶してたから拘束したしね!」
「因みに死傷者はゼロです。……私の異能でゼロにした、というのが正確でしょうか。御宅さんの武器や〈竜ヶ崎組〉の元構成員の皆さんのお陰で死人は出ませんでしたからね」
白髪ツインテールの画家、虹架彩はまたもきょとんとした様子で口を開く。
「あれま、大失敗じゃん。千秋楽ちゃんは何してるのー。私より会員番号上位なのにー」
「ガッハッハ!〈神威結社〉がいる〈真宿エリア〉を襲ったのが間違いだったなァ!」
「もうこれ撤退していいかなー?会員番号一桁ならともかくさー、〈十天〉二人相手に分が悪すぎるよー」
「あら、アタシたちは手出ししないわよ?」
「はい、竜ヶ崎さんだけで十分勝てますから」
「そういうこと。巽ちゃん、〈神威結社〉の強さ、そこの画家女に思い知らせてあげて」
「さっさと終わらせて戻りますよ、〈オクタゴン〉に。そろそろせつくんが猫屋敷さんを倒して退屈されているでしょうから」
「よォし!任せとけェ!」
「あっ、やるんだー。仕方ないなー」
竜ヶ崎巽と虹架彩は広場の中心で向かい合う。気付けば、四人を取り囲むように、そこにいた住民たちも集まっていた。
「……あの画家の女の子、敵なのか?」
「さっきの奴らの親玉っぽいぞ?」
「日向様や天ヶ羽様が敵だと仰るなら敵なんだろ」
「巽ちゃん!勝てよー!俺らは大丈夫だから!」
「白い奴らも拘束したからあとはそいつだけだ!」
声援を受け、竜ヶ崎巽の力が漲る。竜ヶ崎巽は胸の前で拳を突き合わせ、再度気合いを入れ直す。彼女の長い黒髪が夜風に靡いていた。
「――よォし!ぶっ倒してやるよォ!」
虹架彩は小さく頷くと、物凄いスピードでスケッチブックに何かを描いた。虹架彩がスケッチブックを竜ヶ崎巽に向ける。そこに描かれていたのは、巨大な龍だった。
「じゃあ、始めよっかー」
龍の絵が光を放つ。途端、広場にその龍が現れた。全身の鱗が妖しい光を放つ。スケッチブックに描かれていたはずの龍は消えている。具現化したのだ。
「バハムートだよー」
「ぐるぉぉぉぉぉおぉおぉぉぉおおぉぉおおおぉぉおおぉおぉおおぉおぉぉおおぉお!!」
龍が唸り声を上げる。鼓膜を劈くような咆哮。竜ヶ崎巽や住民たちは思わず耳を塞ぐ。
「……うるっ……せェ……!」
虹架彩はその龍の背に飛び乗り、夜空に高く舞い上がった。龍――バハムートの目はしっかりと地上の竜ヶ崎巽を見据えている。その存在感は凄まじく。
――そのときだった。龍の背に乗っていたはずの虹架彩が、広場に尻餅を搗いたのは。虹架彩が思わず夜空を見上げると、そこにいたはずのバハムートは、煙のように消えてしまった。
「あれま、何が起こったのー?」
竜ヶ崎巽は、彼女の背後にいた。鉤爪・〈ヴァンガード〉の切っ先が光る。竜ヶ崎巽は虹架彩に背を向けたまま、呟いた。
「……弱ェ」
その様子を見守っていた日向陽奈子が驚いた様子を見せる。
「巽ちゃん……また強くなってるわね」
「ええ、そのようですね。竜ヶ崎さんの指導役であるニコさんは〈陸軍〉の元・大将――プロの軍人ですから。戦闘の指南ならお手のものでしょう」
そう言って天ヶ羽天音はウルフカットの白髪を搔き上げる。一方、当の竜ヶ崎巽はその言葉を受け、満足げに言葉を放つ。
「おォ!ニコが鍛えてくれてっからなァ!」
「……っ!」
虹架彩は少し焦ったのか、次々にスケッチブックに絵を描いてゆく。グリフォン、ミノタウロス、ケルベロスと次々にその場に現れるが、瞬く間に消滅してゆく。それは、竜ヶ崎巽の素早い動きに合わせてのものだった。
「絵ばっか描いてねェでテメェで戦えよなァ!」
虹架彩が描くモンスターたちは、竜ヶ崎巽によって次々に倒されてゆく。竜ヶ崎巽の勝利は時間の問題かのように思われた。――が、何かを閃き、動いたのは虹架彩であった。
「閃いちゃったー。こんなの、どうかなー?」
虹架彩が筆を走らせる。スケッチブックから現れたのは――赤いニット帽を冠った白髪の青年。茶色いレンズに金縁の眼鏡、柄シャツを着用している。両手には二丁拳銃――〈リベレーター〉が握られる。その男は、竜ヶ崎巽を見て、口を開いた。
「おう、竜ヶ崎」
「ボス……!」
「どうした竜ヶ崎、俺に爪を向けて。俺に攻撃する気か?」
「い、いや、違ェよォ、ボス!アタイがボスに攻撃するワケねェだろォ!」
竜ヶ崎巽は慌てて「竜人化」を解く。
「はは、そうだよな。竜ヶ崎」
「お、おォ……!」
竜ヶ崎巽の様子が明らかにおかしい。そのことに気付いたのは、日向陽奈子や天ヶ羽天音だけではない。〈竜ヶ崎組〉の元構成員たちや、〈真宿エリア〉の住民らもまた、その違和感を察知していた。
「おい……巽の様子がおかしいぞ……?」
「いや、当然だろ……。竜ヶ崎ちゃんが夏瀬様にどれだけ救われたか――例え偽物だとわかっていても、攻撃なんてできやしねえよ」
「クソ……!あの子……性格悪いな……」
虹架彩が描いた夏瀬雪渚は、虹架彩を庇うように立っている。竜ヶ崎巽が恐る恐る、夏瀬雪渚に物申す。
「ボス……そこをどいてくれェ。アタイ、そいつを倒さねェといけねェんだァ」
「おいおい竜ヶ崎、それは許されねーぞ。いくら俺の可愛い妹分でも、この子を襲おうってんなら俺も戦わなきゃいけなくなる」
「……ッ!」
夏瀬雪渚は、〈リベレーター〉――二丁拳銃の銃口を竜ヶ崎に向ける。誰がどう見ても形勢逆転。完全に虹架彩のペースであった。
「竜ヶ崎、行くぞ」
「ま……待ってくれェ、ボォス!」
〈リベレーター〉から銃弾が放たれる。竜ヶ崎は避けるので精一杯だ。竜ヶ崎が回避した銃弾――その流れ弾は、聖水の軌道と光を放つ拳によって次々に撃ち落とされてゆく。
「巽ちゃん、こっちは大丈夫よ。流れ弾が住民のみんなに当たるようにはしないから」
「ええ、竜ヶ崎さんは敵を倒すことに注力してください」
「――陽奈子ォ!姉御ォ!すまねェ!」
「――っ!巽ちゃん!」
竜ヶ崎巽は夏瀬雪渚に気を取られていた。それこそが、術中であった。竜ヶ崎巽が身に纏う黒い軽装の鎧。それを貫通して、巨大な槍が、竜ヶ崎巽の腹部を穿いていた。
「が……はッ……!!」
竜ヶ崎巽の身体が、槍と共に高く持ち上げられる。その槍を手にしていたのは――虹架彩であった。槍の先端から、赤い血がぼたぼたと滴り落ちる。
「虹架彩の個展へご来場ありがとうねー。巽ちゃん?」
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