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3-18 世界十三位頂上決戦

「ルールは覚えてるのだ?」


「無論だ。お互いが持つ宝石が割れれば敗北――だったな」


 ――つまり、戦闘不能状態に陥れば実質敗北が確定する。


 両者、構える。これから始まる戦いを予感させるかのように、温かい春の風が吹き付けた。


「――食らうのだ!」


 手毬(てまり)はドタドタと足音を立てながらこちらに向かってくる。――遅い。何も成長していないように思われる。


 ――下級異能、中級異能、上級異能は同名の異能が世界各地に存在する。〈微電(スパーク)〉から正統進化したのなら、中級異能、〈電雷(サンダー)〉や上級異能、〈轟雷(ライトニング)〉……。いや、世界十三位だ……。そんなレベルではないか。


 羊の着ぐるみの手で俺に触れようとする手毬。俺はそれを回避する。そして――。


「――〈リベレーター〉!」


 俺の手にスリングショットが握られる。俺の想像力の訓練によって可能になった、二丁拳銃以外の武器の選択肢。これによって文字通り、〈リベレーター〉は〈エフェメラリズム〉の遺志を継いだ。


「あれ?ボクを避けるってことは、ボクの異能が〈微電(スパーク)〉じゃないこと、バレてるのだ?」


「当然だろ……。偉人級異能か神話級異能……。どうやってそこまで才能を伸ばしたのかは知らないけどな」


「ふふん!まだ教えられないのだ!」


 〈リベレーター〉の(さお)を引き抜き、パチンコ玉を撃ち込む。――が、ぼふっ、という音を立てて、手毬の着ぐるみに沈んでしまった。手毬は再び俺に触れようと手を伸ばすが、俺は上体を反らして回避する。


「――おっと!」


「避けちゃダメなのだ!」


 俺に回避され、バランスを崩したはずの手毬は、またしても俺に触れようと手を伸ばしてくる。――そこで、違和感が生じた。


 ――身体が重い。


「――雪渚、タッチなのだ!」


 俺の意識は、そこで途絶えた。最後に見た光景は、ドヤ顔の手毬と、傷だらけの庭鳥鳥(にわとりじま)(かつ)ぎ、現れた竜ヶ崎だった。


「ボス……?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「――勝ったのだ!ボクが雪渚に勝ったのだ!」


手毬(てまり)の、夏瀬のを倒すとは中々やるの」


「これで〈十二支〉もS級に昇格やな!」


 目を覚ます。目に映るのは見慣れない天井。周囲に〈十二支〉の面々がいることを考えると、恐らく、ここは手毬(てまり)の家の中だ。


「――せつくん、目が覚めましたか?」


「あ、ああ……。寝てたのか、俺は……」


「雪渚、負けちゃったけど仕方ないわよ。また次頑張りましょ」


「ガッハッハ!ボス!油断しちまったなァ!まァ仕方ねェよォ!切り替えていこうぜェ!」


「夏瀬雪渚、敗北したのか」


「にゃはは~。オタクくんはあまねっちが見つけてなかったら死んでたね~」


「全身の骨がぐちゃぐちゃに折れてましたからな……。いやはや、酷い目に遭いましたぞ……」


 俺は起き上がると、イマイチ状況が掴めないまま、手毬に問い掛けた。机の上には、俺が持っていたはずの青い宝石が、粉々になって置かれている。


「手毬、『視界に入れた相手の動きを鈍化させ、触れた相手を眠らせる異能』――これが手毬の新しい異能か」


「ふふん!そうなのだ!〈眠久(ヒュプノス)〉なのだ!」


 ――ヒュプノス。ギリシャ神話に登場する、眠りの神。


「神話級異能か……」


「手毬すげェなァ!」


「ええ、下級異能から神話級異能など、前例がないかもしれませんね」


「吾輩ら〈十二支〉は厳しい訓練を受けての。その成果が最も発揮されたのが手毬のであった」


「そういうことなのだ!」


「でもいくら手毬が相手とは言え、せつながそう簡単に負けるとは思わんかったばい」


「まあ、いいんじゃないかい?それであたいらはS級クランの仲間入りなんだしさ」


 ――あれ?コイツら……。


「あのー、邪魔するようで悪いんだけどさ、みんな何か勘違いしてないか?」


「雪渚氏?どうしたのですかな?」


「にゃはは~。せつなっち、まだおねむかにゃ~」


「――いや、勝ったのは俺らだぞ?」


 その場にいた、〈神威結社〉、〈十二支〉――全員の動きが止まる。その言葉は、その場の全員を混乱させるのは十分だった。


「雪渚、らしくないわよ?どうしちゃったの?」


「せつくん……そういうことですか」


「姉御ォ!何か気付いたのかァ?」


「――あれっ?なんで!?」


 (いち)早く、その矛盾の正体に気づいたのは天音と、プレートフォンを開いた卯佐美(うさみ)兎月(うづき)であった。


「――なんで〈神威結社〉がS級になってるの!?」


 皆がその画面を覗き込む。俺もポケットからプレートフォンを取り出し、俺の目論見通りになっているのか目視で確認することにした。


――――――――――――――――――――――――

Clan Ranking

1.【S】――非公開――

2.【S】高天原(たかまがはら)幕府

3.【S】不如帰会(ほととぎすかい)

4.【S】警視庁

5.【S】鉛玉(なまりだま)CIPHER(サイファー)

6.【S】ワルプルギスの夜

7.【S】尋常(じんじょう)機関

8.【S】空軍

9.【S】海軍

10.【S】陸軍

11.【S】天網(てんもう)エンタープライズ

12.【S】氷河時代

13.【S】神威結社

14.【A】十二支

15.【A】X-DIVISION

16.【A】(ほむら)自警団

17.【A】――非公開――

18.【A】赫衛(かくえい)

19.【A】――非公開――

20.【A】オラクル・コーポレーション

21.【A】――非公開――

22.【A】――非公開――

     ↓

――――――――――――――――――――――――


 〈神威結社〉の表記の左側に記された【S】という虹色に光る文字。対して、その一つ下の順位に位置する〈十二支〉には、【A】と輝く金色(こんじき)の文字。間違いなく、S級に昇格したのが〈神威結社〉だということを示していた。


「――手毬!宝石はどうなっとるとね!?」


 手毬が慌てて、懐から赤い宝石を取り出す。――が、その宝石は、バラバラに砕け散っていた。原型を留めていない。


「な、なんでボクの宝石が割れてるのだ!?」


「――夏瀬の、これはどういうことだ?」


 俺は馬絹(まぎぬ)の問い掛けに答えるため、寝ていたベッドに腰掛ける。皆が注目する中、俺は(おもむろ)に口を開いた。


「他言無用で頼みたいが……俺の異能は『両者に掟を定め、掟を破った者には罰を与える異能』――〈天衡(テミス)〉だ」


 突然のカミングアウトに、〈十二支〉の面々だけでなく、〈神威結社〉の面々も目を丸くする。陽奈子が、「それ言っていいの?」とでも言いたげな様子で、俺を見ている。


「せつなの異能……神話級異能だってのは〈極皇杯〉の決勝で黒崎が()うとったけど……そんな異能だったとね……」


「だが夏瀬のの異能がその〈天衡(テミス)〉とやらであれば……〈極皇杯〉の予選で吾輩が戦ったときに起きた不可思議な現象も……説明が可能ではあるぞ」


「その上で俺は、手毬と相対した瞬間に掟を定めた。掟の内容はこうだ。『掟:他者を戦闘不能に陥らせることを禁ず。破れば、自身の持つ宝石が割れる。』」


「それでせつくんが勝利した――というわけですね」


「お、おかしいのだ!そんなの、ボクが〈眠久(ヒュプノス)〉を持っていると知っていなきゃできないのだ!」


「いや、手毬が神話級異能、〈眠久(ヒュプノス)〉を持つと知っておく必要はない。そもそも手毬が世界十三位というのは既知の情報だ。何らかの方法で才能を伸ばし、異能を昇格させたことは容易に想像できる」


 ――そう、この未来は、俺が手毬と相対した時点で、確定していたのだ。


「その結果、俺が敗北する――ということもな。だから先手を打って、異能戦の結果に関わらず勝てるよう仕組ませてもらった」


「ボス!すげェ!そんなことしてたんだなァ!」


「先に割れたのは手毬の方だ。だから俺たちが勝った」


 ――戦闘中、〈天衡(テミス)〉を使わなかったのもそれが理由だ。この掟を上書きするワケにはいかなかった。


「夏瀬雪渚……そこまで図っていたのか……。悔しいが、私たちの負けのようだな」


桔梗(ききょう)ぅ!悔しいのだぁ!」


「せつなはすごかね……」


「ははっ!またあたいらは鍛え直すしかなさそうだね」


「だが夏瀬の、何故異能をこうも簡単に吾輩らに話したのだ?(なれ)は今までその異能を隠していたのではなかったのか?」


「ああ、〈天衡(テミス)〉について話したのは、お前ら〈十二支〉に協力を仰ぐためだ」


「協力……って、せつな、なんば協力すっとね?」


「〈不如帰会(ほととぎすかい)〉――知ってるよな?」


 空気が変わる。――ここからが本題だ。


「〈不如帰会(ほととぎすかい)〉って世界二位のクランやんけ!なんや色々問題起こしとるって聞いとるで」


「そう言えば、手毬のや竜ヶ崎のが苦しめられた〈竜ヶ崎組〉が属する組織も……日向(ひなた)のの家族や親友を奪ったのも〈不如帰会(ほととぎすかい)〉という話であるな」


「そうなのだ。〈不如帰会(ほととぎすかい)〉は許せないのだ」


(まさ)にそこだ。お前たち〈十二支〉の力を見込んで頼みがある。〈不如帰会(ほととぎすかい)〉の制圧――〈不如帰会(ほととぎすかい)〉攻略戦に力を貸してほしい」


「決めるのはクランマスターである手毬ばい」


 庭鳥島の言葉に、〈十二支〉の一同は頷き合った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺と手毬(てまり)は場所を移動し、近くのレストランに入った。煉瓦(れんが)造りの、温かみのあるイタリアンレストランだ。俺たちが座るテーブルには俺の好物の一つであるたらこスパゲッティ、そしてカルパッチョ、ピザなどが並んでいる。


 メンバーは四人。大勢で移動しても仕方ないので、俺は天音を、手毬は犬吠埼(いぬぼうざき)を連れている。他のメンバーは〈神屋川(かやがわ)エリア〉の住民たちと、外で〈神威結社〉のS級昇格祭を楽しんでいるところだ。外からは賑やかな声が聴こえてくる。


「――というのはさっき話した通りだ。どうだ、手毬。頼まれてくれるか」


 俺の問い掛けに、手毬は力強く頷く。


「もちろんなのだ!〈竜ヶ崎組〉の件は雪渚たちに助けてもらったとは言え、ボクもまだ許せてないのだ。協力できることがあるならドンと来い、なのだ!」


「ありがとう、助かるよ」


「だが夏瀬雪渚、私たちは具体的には何をすればいいのだ?その会員番号一桁(ダーキニー)の討伐か?」


「いや、会員番号一桁(ダーキニー)の討伐は俺たち〈神威結社〉で請け負う。〈十二支〉には十万人の信者の無力化を頼みたい」


「〈十二支〉には〈極皇杯〉の数万人規模の予選を勝ち上がった本戦進出経験者(ファイナリスト)が大勢いますからね。力を貸してくだされば百人力です」


「わかったのだ!ボクたちに任せるのだ!」


「殺しではなく無力化ということだな。そういうことであれば私も問題ない」


「ありがとう。それと犬吠埼(いぬぼうざき)、聞きたいことがある」


「……?私にか?」


「ああ、最上川(もがみがわ)真下(ました)騎士団長について教えてくれ」


「……構わないが……何故だ?」


 ――〈十災(じっさい)〉の疑いが掛けられている件は話すべきではないだろう。そうでなかった場合、不必要に混乱させるだけだ。


「いや、興味本位だ」


「そうか……。では話すとしよう。この話は、〈極皇杯〉のときに手毬や(リー)蓬莱(ホーライ)にも話したのだが――」


 そう前置きをして、犬吠埼(いぬぼうざき)は淡々と語り始めた。


最上川(もがみがわ)真下(ました)騎士団長は、私も所属する、〈城塞都市テンジク〉直属の騎士団の(かしら)を務めるお方で、黒い甲冑に身を包む女騎士だ」


「ふむ……」


「正義感の強い方でな。あの方のようになりたいとずっと背中を追い掛け続けていたのだが……その彼女が、単独での任務に向かった一年前、失踪――行方を(くら)ませた」


「任務の行き先は……?」


「――〈鬼ヶ島〉……と言っていた」


 ――これは……。


最上川(もがみがわ)騎士団長は神話級異能をお持ちだった。〈十天〉に来ないかと声も掛かっていたほどの方だ。簡単に敵に敗れて命を落とすとは到底思えない」


「確かに、数年前、私たちは最上川さんを〈十天〉に誘ったことがございます。『守るべき仲間がいるから』と丁重にお断りされましたが……」


「それほどの人物が行方不明か……」


「私も〈極皇杯〉以降、捜し続けているのだが……全く足取りが掴めない。〈鬼ヶ島〉に立ち入ることも考えたが……〈十天〉ですら立入禁止だからな……。打つ手なしというわけだ」


蓬莱(ホーライ)もビックリしてた話なのだ!本当に何があったのだ?」


「わからない……。すまない、夏瀬雪渚。私が知るのはこの程度だ」


「いや、助かった。ありがとう」


「参考になったのならば良いが……」


「暗い話は終わりにして、ボクたちも〈神威結社〉のS級昇格祭に参加するのだ!みんな待ってるのだ!」


 手毬がピザにがっつく。一切れではなく、丸ごとだ。


「あ、おい!手毬!ピザを丸ごと食うな!俺の分残せ!」


「ふふ、こんな平和が続けばいいんですけどね……」

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