3-10 十災と呼ばれし者たち
「天音たちは……このことを知っていたのか……」
「はい……」
「うん……。ごめん、雪渚。黙ってて……」
「天ヶ羽天音、日向陽奈子。何故こんな重大な話を黙っていたのだ」
「……こんな話……できるわけないじゃないですか……」
誰も天音と陽奈子を責めることなどできなかった。下手すれば、冗談だと笑い飛ばしていたかもしれないレベルの話だ。現実味がなさすぎる。こんな話は、子供染みた妄想だ。そう、笑い飛ばしたかった。
――待て……初代〈十天〉……ってことは……。
「――天音!もしかして……その六十年前、〈十災〉と戦ったのか!?」
「いえ、せつくん。それは否定させてください。私が〈十天〉に在籍したのは、二代目の〈十天〉からです」
「雪渚、だからアタシたちはその話も聞いただけなの」
「そうか……」
「雪渚殿、〈十災〉は必ず、十人居る筈で御座る」
「……ということは、何人かは割れた……と言ってもいいかもしれませんね」
「せつなっち、どういうことかにゃ~?」
「犇朽葉……は確定」
「それに、現憑月月、〈不如帰会〉の教祖たる『はんぶん様』、そして拙者の兄者――大和國幻征も、〈十災〉だと考えた方が良さそうで御座るな……」
「師匠……俺は犇朽葉に何もできませんでした。ですが……夏には、〈不如帰会〉に攻め込むつもりです。『はんぶん様』は必ず、討ち取って参ります」
「良くぞ言ってくれたで御座る、雪渚殿。〈十災〉にとってもまた、〈災ノ宴〉は天下分け目の大戦……。今はきっとその準備をしている筈で御座る。それに先んじて『はんぶん様』を討ち取れれば、〈災ノ宴〉での勝機はあるで御座ろう」
「師匠、前回――六十年前の〈災ノ宴〉の日付は……?」
「二〇五〇年の一月一日――元旦で御座る。偶然とは思えない日付で御座るな」
――だとすれば……あと八ヶ月あまり……。それがタイムリミットか……。
「師匠、何とか俺も他の〈十災〉を特定できるよう動いてみます」
「それが良いで御座るな。この近年で失踪した人間は、特に怪しんだ方が良いで御座る。前回もそうであったようで御座るからな」
「――あァ?ボス、ちょっといいかァ?」
「どうした?竜ヶ崎」
「失踪で思い出したんだけどよォ、〈極皇杯〉の予選のとき、犬吠埼のヤツがよォ、失踪した騎士団長を捜してるとか言ってた気がすんだよなァ」
「犬吠埼女史と言えば……〈城塞都市テンジク〉直属の騎士団ですな。その騎士団長となると……最上川真下元・騎士団長ですぞ!」
「おォ!そいつだァ!」
「ふむ……最上川殿で御座るか。彼女が〈十災〉であれば……脅威で御座るな」
「犬吠埼なら話は早い。竜ヶ崎、犬吠埼に連絡しておいてくれ。やはり〈十二支〉に会う必要があるな。会って詳しく話を聞こう」
「おォ!ボス!了解だァ!」
「夏瀬雪渚、〈十二支〉をボコるなどと言っていなかったか」
「事情が事情だからな……。〈十二支〉と組手で修行のつもりだったが後回しだ」
「雪渚殿、〈十天円卓会議〉でもこの件は共有し、〈災ノ宴〉に備えることとするで御座る」
「師匠、よろしくお願いします」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――再びの〈オクタゴン〉・リビング。天音と陽奈子、猫屋敷が作ってくれた夕食をみんなで囲みながら、俺たち八人は団欒の時を過ごしていた。八人というのは、竜ヶ崎の膝の上に置かれた車輪付きのペットカメラ――飛車角さんを含んでいるからだ。
『…………竜ヶ崎の嬢ちゃん、ベタベタ触るのはやめろ。……何も見えない』
「ガッハッハ!可愛いヤツめ!」
竜ヶ崎が食事を頬張りながら車輪付きのペットカメラを捏ねくり回している。車輪付きのペットカメラ――その車輪を回転させ、飛車角さんが必死に抵抗する。
『…………竜ヶ崎の嬢ちゃん、蹴るのはやめろ。……雑に扱うな』
「お前も飯食うかァ!?」
『…………食えるか』
「……それにしても厄介な話になってきたな」
「夏瀬雪渚、〈十災〉の件か」
「ああ、話が大きくなりすぎだ。本当に新世界の未曾有の危機じゃないか。犇みたいなのが新世界を牛耳ったら、それこそ人類滅亡一直線だぞ」
『…………〈災ノ宴〉か。……まさか俺が異能戦をやる羽目になるとはな』
「ひしゃかくっちー、〈十天〉なんだから強いんでしょ~?」
『…………馬鹿も休み休み言え。……冗談抜きで俺は〈十天〉最弱だぞ』
「ガッハッハ!第三席が最弱なワケねーだろォ!アタイでもわかるぞォ!」
『…………まあいい』
「雪渚、この際だから包み隠さず話すけど……前回の〈災ノ宴〉は六勝四敗……辛勝だったらしいわ。今回もそう簡単には行かないでしょうね」
「〈十天〉の全力で六勝四敗……厳しすぎるな……。あのときの犇もとても全力とは思えなかったし……」
「そうですな……。取り敢えずは小生たちは〈不如帰会〉の壊滅に全力を尽くすしかありませんな……」
「で、せつなっちー。明日は結局何するの~」
「ああ……。ってか猫屋敷、お前ずっとここにいて猫カフェは大丈夫なのか」
「にゃはは~。スタッフが常駐してるから心配要らないよ~。あたしも時々戻るつもりだしね~」
「よし、猫が大丈夫なら安心だ。……で、明日何するかだったか」
「ボス!手毬たち〈十二支〉に会いに行くんだろォ!?」
「ああ、犬吠埼に最上川真下騎士団長の詳細を尋ねるのと、〈不如帰会〉壊滅に手を貸してもらえないか頼みたい」
「そっか、会員番号一桁は私たちが倒すにしても、他にも信者が十万人いるわけだもんね……」
「ああ、〈十二支〉には〈極皇杯〉の予選Aブロックで単身で三万人以上倒した馬絹もいるしな。あの力は是が非でも借りたい」
「それと〈十二支〉とのクラン対抗戦で修行ですな!」
「ああ、手毬は俺への対抗意識を燃やしてたからな。アイツなら乗ってくるだろ」
『…………まあお前ら〈神威結社〉はその方針で進めてくれ。……俺も俺で〈災ノ宴〉に向けて準備しておこう』
「了解です、飛車角さん。……んで、竜ヶ崎、〈十二支〉は今何処にいるんだ?」
「――おォ!〈神屋川エリア〉だァ!」
「〈神屋川エリア〉!?……って、巽ちゃんたちが暮らしてた、プレハブ街よね?」
「〈極皇杯〉でも住民の皆さんが応援に来てましたな。今はどうなっているのか気になりますな」
「なんか今すげェことになってるらしいぞォ!」
俺は箸を置き、ポケットからプレートフォンを取り出した。そして、その画面を開く。
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Clan Ranking
1.【S】――非公開――
2.【S】高天原幕府
3.【S】不如帰会
4.【S】警視庁
5.【S】鉛玉CIPHER
6.【S】ワルプルギスの夜
7.【S】尋常機関
8.【S】空軍
9.【S】海軍
10.【S】陸軍
11.【S】天網エンタープライズ
12.【S】氷河時代
13.【A】神威結社
13.【A】十二支
15.【A】X-DIVISION
16.【A】炎自警団
17.【A】――非公開――
18.【A】赫衛
19.【A】――非公開――
20.【A】オラクル・コーポレーション
21.【A】――非公開――
22.【A】――非公開――
↓
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「〈十二支〉……凄まじい勢いだな……」
「まぎぬっちやもえぴょん、さるがきっちもいるんでしょ~?当然じゃな~い?」
「〈極皇杯〉の本戦進出経験者揃いの強豪クランですからな……」
「手毬たちと会うのも〈極皇杯〉の打ち上げぶりだなァ!どんだけ強くなってっかなァ!」
――〈十二支〉の躍進は凄まじい。〈神威結社〉よりも新しい新参クランなのにも関わらず、既に〈神威結社〉と同率の十三位。もう、舐めて掛かることのできる相手ではなくなった。
「夏瀬雪渚、本当に明日も四時起きでなくて良いのか」
「ニコ……それ誰も起きられねーよ……」
その後も、〈神威結社〉の賑やかな食事は続いた。考えることは数多あったが、まずは〈十二支〉との再会だ。
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