3-8 神威結社親睦会
――その日の夜。新たにニコと猫屋敷を仲間に迎え入れた俺たち〈神威結社〉一同は、杠葉家の面々と別れ、〈オクタゴン〉へと帰り着いた。疲れた体をソファに預けるようにして、腰を落とす。俺の両脇には当然のように天音と陽奈子が座る。
「それにしても今日は色々あったわね……」
「本当ですね……」
「取り敢えず猫屋敷とニコもソファ座ってくれ――って猫屋敷はもう当然のように座ってるな」
「にゃはは~。もうあたしも〈神威結社〉だから当然の権利だよ~」
「夏瀬雪渚、それは命令か?」
「おい、こんな奴とどう生活するんだ……」
「ガッハッハ!ニコ!何でもいいから座れェ!」
「……承知した」
「雪渚氏も難儀しますな……」
「さてと、ニコに猫屋敷、まずこれが部屋の鍵だ。ニコは二〇四号室、猫屋敷は二〇五号室を使ってくれ」
「これで二階は埋まりましたな!」
「図らずも〈神威結社〉の戦力強化ができましたね」
「にゃはは~。ありがとー、せつなっち。役に立つときは役に立つよ~」
「何言ってんだァ?コイツはよォ……」
「夏瀬雪渚、自室が与えられるのか」
「軍隊では集団生活だったかもしれないが〈オクタゴン〉じゃ基本自由だ。毎朝四時に起こしたりもしないから好きに過ごしてくれ。……と言っても慣れるまでは難しいだろうが」
「そうか。善処しよう」
「さっき拓生の〈霧箱〉で亜空間に詰め込んだニコと猫屋敷の荷物の片付けは後で各々やってもらうとして……」
「おォ!ボス!メシだなァ!」
「ああ、でも今から作るのは大変だろうし、親睦会と歓迎会も兼ねて、回転寿司でも行くか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――〈真宿エリア〉の住宅街を出て、駅方面に歩けば飲食店が建ち並ぶ通りがある。俺たちはその一角にある回転寿司チェーン店を訪れていた。
俺たちはテーブル席に案内され、その両側に三人ずつ座っている。拓生はスペースを取るので通路側に席を用意してもらった。
「ほらニコ、遠慮せずもっと食え」
「それは命令か?」
「おー、ニコ、もうその台詞は金輪際禁止だ」
「承知した」
「そして猫屋敷は逆に少しは遠慮してくれ」
「にゃはは~。寿司は最高だね~」
「〈神威結社〉もまた一段と賑やかになりましたな!」
「ホントそうよね。雪渚が楽しそうで何よりだわ」
「ふふ、そうですね」
「ボス!食った皿はこの流れてるとこに戻していいのかァ?」
「アホめ、その皿の数で会計するんだから絶対戻すなよ」
「せつくん、たらことネギトロとサーモンお好きでしたよね?幾つか頼んでおきましょうか」
「おっ、天音!わかってるな!」
「ふふ、彼女ですから」
「雪渚は味覚が子供ね……。大の甘党だし」
「あまねっちー、あたしに赤貝三つ頼むにゃ~」
「ふふ、わかりました」
「竜ヶ崎巽、先程から私に米粒が飛び散っている」
「うるせェ!」
〈十天〉二人に〈極皇杯〉ファイナリスト二人を擁する〈神威結社〉は今や有名クランの一角だ。回転寿司店の店員も慌てた様子で俺たちに失礼のないよう、腫れ物のように扱ってくる。何処か心が痛む。
「さて、食べながらで構わないが話を聞いてくれ」
「なんだ?夏瀬雪渚」
「今後の〈神威結社〉の方針を定めておかないとな」
「せつなっちー、〈高天原幕府〉のお師匠さんたちに例の件伝えに行くんでしょ~?」
「それもそうなんだが、もっと先の話だ。猫屋敷は知ってると思うが、俺たち〈神威結社〉は〈不如帰会〉に事実上、喧嘩を売ったことになっている」
「あー、〈竜ヶ崎組〉ぶっ倒してるもんね~。それにひなこっちも会員番号一桁とやらを倒してるし~」
「〈神威結社〉は陽奈子に竜ヶ崎、〈不如帰会〉と因縁が何かしらある人間がいるからな。夏には〈不如帰会〉に攻め込もうと思ってる」
「にゃはは~。大胆だね~、せつなっちー」
「揶揄うなよ、猫屋敷……。まあそれでだ、危険が伴うから無理にとは言わないが、ニコと猫屋敷にも手伝ってもらいたい」
「私は構わない。教官が言うには、私は殺戮するために生まれたらしいからな」
「ニコォ!そんなこと言うんじゃねェ!悲しいだろォがァ!」
「竜ヶ崎巽……できれば米粒を飛ばさないでもらえるとありがたい」
「せつなっちー、あたしもひなこっちの友達だし構わないけど~、それってあたしらの仕事は具体的には何なわけ~?」
「会員番号一桁の各個撃破だ」
「そうなるわね。残る会員番号一桁は七人、教祖である『はんぶん様』を合わせて八人よね」
「幕之内さんが協力してくださるので、各々が会員番号を一人倒せばいい計算ですね」
「つれこまも行くらしいけどあんまりアイツの手は借りたくないわね……」
「――ぶひっ!?雪渚氏、そ、それって小生も頭数に入っているんですかな!?」
「拓生、怖けりゃ止めはしないが、お前、〈竜ヶ崎組〉のときも立派に李蓬莱を倒しただろ」
「そうだぞォ!拓生ォ!お前強いんだぞォ!」
「……こ、怖いですが頑張りますぞ……!」
「ですがせつくん、〈十天〉の皆さんを交渉して仲間に加えるのではありませんでしたか?」
「ああ、それなんだが――今回は他の〈十天〉の力は借りない」
「――ぶひっ!?マジですかな!?」
「大マジだ。犇朽葉の事件は突然起こったからな。あの類の事件が二度と起きないとは限らない。そのとき、新世界の頂点である〈十天〉が不在だとそれこそ新世界の未曾有の危機だ」
「確かに……あんなのが現れて〈十天〉が誰もいないと、新世界は滅びかねないわ……。冗談抜きでね」
「そうですね……。ただでさえ陽奈子さんと徒然草さん、私がその間、不在になりますから」
「ああ、飛車角さんが既に伝えてくれているかもしれないが、天音と陽奈子にはこの件を〈十天円卓会議〉で〈十天〉の面々に伝えてほしい。〈十天〉には犇朽葉の再来に備えてもらうべきだ」
「飛車角氏の話では、犇朽葉のような『悪魔級異能』を持つ者は……一人ではないかもしれませんからな……」
「わかったわ、雪渚。伝えとくね」
「かしこまりました、せつくん」
「にゃはは~。それにしても会員番号一桁ね~。噛み応えある子はいるのかにゃ~?」
「でもよォ、会員番号一桁って数字が小せェヤツが強ェんだろォ?アタイ……会員番号『玖』の兄貴にすら勝てなかったんだぞォ……。アタイで役に立てるかなァ」
――竜ヶ崎……いつになく弱気だな……。まあ竜ヶ崎の背景を思えば無理もないか。
「ニコ、竜ヶ崎を鍛えてやってくれないか」
「む、私か。承知した」
――ニコが竜ヶ崎を鍛え、竜ヶ崎がニコに倫理観を教える。これが恐らく最善の組み合わせだ。
「雪渚、それぞれどの会員番号一桁を担当するかは決めてあるの?」
「いや、会員番号一桁に関しては情報がないからな。その場で出会った奴と戦うことになりそうだ。〈竜ヶ崎組〉のときと同じ要領だな」
「よ、よし、頑張りますぞ!」
「『はんぶん様』だけは陽奈子に任せる。頼むぞ」
「うん!わかった!」
「それでせつくん、夏まで各々で鍛錬を積むとして、目先の目標のようなものはございますか?」
「そうだな……。修行がてら、一度アイツらをボコしておくか」
「ボス、アイツらってドイツらだァ?」
「――〈十二支〉だよ」
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