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3-2 魔王城バトルロード

 ――数日後。俺たちはテレビ局――ジパングTV(テレビ)のスタジオを訪れていた。魔王城をモチーフとした、禍々(まがまが)しいセットが組まれ、その中央にはバトルステージが存在感を放っている。その周囲には大勢の観覧客が訪れていた。


「はー、随分と金の掛かったセットだな……」


「せつくん、観覧の倍率も凄まじかったようですよ」


流石さすが『魔王城バトルロード』ですな!」


「ボス!敵がいそうな雰囲気だぞォ!気を付けろォ!」


「ふーん、ここでアタシが戦うのね。悪くないじゃない」


 陽奈子は両手で、以前飛車角さんから貰ったという車輪付きのペットカメラを抱えている。竜ヶ崎はそれに気付いたのか、不思議そうに陽奈子に問い掛けた。


「陽奈子ォ、なんでそれ持ってきたんだァ?」


「うーん、よくわかんないけど飛車角さんが持って行けって言うから……」


「――〈神威結社〉の皆様!お待ちしておりました!」


 現場が賑わう中、ポロシャツ姿の男性が俺たちの前に現れた。男はぺこりと頭を下げる。


「『魔王城バトルロード』のディレクターを務めております、宮原です。本日は何卒よろしくお願いいたします」


「こちらこそ。あのー、打ち合わせとか何もなかったんですけどいいんですか?」


「ええ、夏瀬さん。『魔王城バトルロード』は台本もヤラセも一切ナシのリアルをお届けする番組ですから。勇者と真剣勝負をしていただければ問題ございません」


 ――異能戦。やっていることは殺し合いと何ら変わりないのだがこの狂った新世界では最大のエンタメと化している。まあ、もう慣れたが。格闘技の延長戦だと考えるのが良いだろう。


「おっさん!アタイらはどこで観てればいいんだァ?」


「おっさ……おや、あなたは〈極皇杯〉ファイナリストの竜ヶ崎さんですね。天ヶ羽(あまがばね)様と竜ヶ崎さん、御宅さんはVIPルームをご用意しておりますのでそちらでご覧ください」


「おォ!気が利くじゃねェかァ!」


「こら竜ヶ崎、失礼だぞ。……じゃあ天音たちとは一旦ここで解散だな」


「ええ、せつくん、陽奈子さん。お二人なら心配無用かと存じますが、頑張ってきてください」


「そうですな!楽しみにしてますぞ!」


「うん!あまねえたちは見てて!……と言っても勇者が四天王を四人倒さないとアタシの出番ないけど」


「ガッハッハ!ボスがいるんだァ!陽奈子の出番はねェだろォ!」


「では日向様と夏瀬さん、ご案内いたします」


 ディレクターの案内で観覧席へと続く階段を上ると、そこには魔王が座する玉座が置かれていた。雰囲気は禍々しく、「魔王城バトルロード」という番組名に相応ふさわしい様相だ。ゲームの最終局面で戦う魔王の座る玉座を想起させる。そして、その両サイドには、四天王四人が座れるサイズの赤いソファが置かれていた。


「こちらが大魔王・日向様と四天王の皆様に待機していただくスペースになります」


 そこには、既に三人の男女がいた。一人は燕尾服えんびふくに身を包む執事――黒崎影丸である。黒崎は頭を下げ、陽奈子と俺に爽やかに挨拶をする。


「日向様、夏瀬様、ご無沙汰しております」


「黒崎……」


「黒崎くん、よろしくね」


「はい、日向様」


 ――黒崎……〈極皇杯〉の敗戦以降、会うのに若干の気不味きまずさと抵抗がある。とは言え今回は共に大魔王である陽奈子を守る味方だ。今日は黒崎が嘘をく道理はない。


 そして、異様な存在感を放っていたのは彼だけではない。ミルキーブラウンのロングヘアの髪は癖毛で軽く外ハネ。ベージュのだぼっとしたセーター――それを萌え袖にして着ている女の姿がある。下睫毛したまつげが長い、三白眼でデフォルトでジト目……というよりは気怠げで眠そうにも見える。


「ひなこっちー、おひさ~」


彼岸ひがん!久しぶり!」


 ――猫屋敷ねこやしき彼岸ひがん。第八回〈極皇杯〉にて本戦BEST4(ベストフォー)の戦績を誇る実力者。だが実際は、敗退したというよりは、〈極皇杯〉の途中でやる気がなくなってわざと負けた、と言われている。


「そっちがせつなっちでしょ~?あたしは猫屋敷ねこやしき彼岸ひがんにゃー。よろ~」


「せつなっち……。あ、ああ、よろしく」


 ――随分マイペースだな。大丈夫か?コイツ……。


 そして、その様子を気に留めることもなく、コーヒーを口にしながら足を組み、読書に勤しんでいる女の姿が目に留まった。黒のショートボブの頭を一周するように、白いダイヤ型の装飾を着けている。格好は白い十字紋が施された赤地のコート風衣装。腰の鞘に収まる剣も相俟あいまって、何処どこか騎士を想起させる衣装だ。顔の造形は外国人のように整っていて、長い睫毛まつげが美しい。


「えーと、君も四天王か?夏瀬雪渚だ、よろしく」


「………………」


「えっと、名前を聞いてもいいか?」


「もしもーし」


 陽奈子がその人物の眼前で手を振る。――が、その女は本の一点を見つめ、クールな表情を崩さないまま、何も答えようとはしない。


「あのー……」


「ねえアンタ、雪渚が名前聞いてるんだけど。自己紹介くらいしなさいよ」


「………………」


 ――沈黙が辛いな……。


「なあ、名前くらい教えてくれないか?」


「――それは命令か?」


「は?」


「それは命令か?」


「いや……命令じゃねーけど」


「ならば指示か?」


 ――あ、これ命令や指示じゃなければ会話できないとか……そういう……。


「あ、じゃあ指示ってことで」


「そうか。私はニコラ・メーデー・合戦坂がっせんざかだ。普段は〈陸軍〉の大将を務めている」


「ニコラ……さんはあれか。〈十天〉の飛車角さんの元部下っていう……」


「――ニコで構わないが、それは質問か?」


「ああ、質問だ」


「その通りだ。飛車角上官の命令に従い、この場におもむいた」


「この子……だいぶめんどくさいわね……。命令と指示と質問でしか会話できないじゃない……」


 陽奈子が俺に耳打ちする。そのとき、陽奈子が抱えていたペットカメラのLEDリングの目が光った。常に電源はオンにしている。今、飛車角さんと繋がったのだ。


「あっ、飛車角さん!ねえ、これどういうこと?ニコラなんとかさん全然コミュニケーション取れないんだけど!」


『…………ああ、日向の嬢ちゃん。悪いな。ニコは生まれてからの二十四年間、ずっと戦場で生き抜いてきた奴だ。…………「命令に従う」以外の行為は不必要として教わってきたんだ』


 ――ああ、道理で……。


『…………ニコに社会を教えてやりたかったんだが、今回の「魔王城バトルロード」は日向の嬢ちゃんや夏瀬の坊主にオファーすると、テレビ局の人間()てに聞いてな。……お前らと一緒なら学ぶこともあるかと思ってな』


 ――これは……難儀するな……。面倒な人物を寄越されたものだ。


「飛車角上官、これはなんなのだ」


『…………あ?ニコ、お前説明しただろうが。……テレビの番組だ』


「テレビとはなんだ」


『…………聞いての通りだ。……日向の嬢ちゃん、夏瀬の坊主、ニコをよろしく頼む』


 飛車角さんがペットカメラ越しにそう告げると、ペットカメラのLEDリングの光は消えてしまった。眠そうな眼と猫口で呟くのは猫屋敷だ。


「にゃはは~、なかなか愉快な面子メンツが集まったね~」


「猫屋敷様とニコ様も改めてよろしくお願いいたします」


「くろさきっちー、よろ~」


「命令であれば従おう」


 ――これが四天王……。そして、四人全員が神話級異能を持つ……。


「雪渚、今日は大変そうね……」


「はは……。……つーか黒崎、杠葉ゆずりは姉妹と一緒じゃないの珍しいな」


「いえ、お嬢様方でしたら天ヶ羽(あまがばね)様たちとVIPルームにいらっしゃいますよ」


「へえ……」


 すると陽奈子が、禍々しい玉座に座って言った。


「ま、このメンバーが魔王軍ってワケね」


「ニコっちの仕事はひなこっちを出さないよう、勇者を倒して倒して倒しまくることにゃ~」


「む、それだけか?承知した」


「神話級異能が四人集まったのです。そう簡単に日向様は出させませんよ。そうでしょう?準優勝・・・の夏瀬様?」


「黒崎……お前な……」


 ――とは言えその通り。俺たち四天王の役割は、大魔王である陽奈子を出さないことだ。勇者の連勝は、何としてでも俺たち四天王で食い止めなければならない。


 俺たちのいるスペース――魔王軍ルームは観覧席の隅にある。そこから見下ろす舞台の中央にはバトルステージ。流石さすがに〈極皇杯〉の本戦ほどの規模ではないが、それでも虹金貨こうきんか数百枚の金は動いているであろう。番組スタッフの気合いも十分だ。


『皆さんこんにちはー!司会を務めます、インターネットアイドルの見来みくる未流流みるること、ミルルンでーす☆よろしくーっ!!』


 裏ピースで元気良く登場したラベンダー色のポニーテールの女――彼女は精巧にできたホログラムだ。この感覚も、彼女の声色も数ヶ月前の激闘――〈極皇杯〉を思い出させる。


 だが〈極皇杯〉と決定的に違う点がある。それはたった独りで戦い抜かねばならなかった〈極皇杯〉とは異なり、今回は味方がいる。猫屋敷にニコ、そして〈極皇杯〉の決勝で殺し合った黒崎ですら今回は味方だ。何より心強いのは、バックに陽奈子が控えてくれている点。その高揚感に、心躍る。


「始まるね~。まずは最初誰行く~?」


「ああ、四天王の出場順は俺たちで決められるんだったな」


「では私が行こう」


 ニコが鞘から剣を抜き、観覧席の階段をゆっくりと下りてゆく。その背中は華奢きゃしゃながら力強く、いくつもの戦場を生き抜いてきたことを物語っている。


「見ていろ、魔王軍。私が誰一人として先には進ませない」

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