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2-EX1 ペスト医師の第二夜

 ――その映画館には誰もいない。閉館後のスクリーンに、鳥のくちばしのような白いペストマスクを着けた男が映っている。つば広の黒い帽子、ワックス加工された漆黒のコート、革製の黒い手袋にブーツ、黒のマント――徹底的に露出を避けた格好で、堂々と椅子に座る男。


 彼は足を広げ、膝の上で手を組むような形で座っている。椅子に座るペスト医師は、こちらを真っ直ぐと見て告げる。まるで我々に語り掛けるように。


「……また会ったね」


 ペスト医師の声音は、モザイクが掛かったか、ボイスチェンジャーを使ったかのような声で、体格から何とか男と判別できる程度だ。


「ああ、そんなに穿うがった見方をしないでくれたまえ。僕はただの新世界の観測者さ」


 ペスト医師は一呼吸置いて、再び口を開いた。しかし、ペストマスクに阻まれ、その表情筋の動きを読み取ることはできない。


「君はテラリウムを知っているかい?」


 映画館のスクリーンに映るペスト医師。ザーッというザッピングのような音と共に、映像が少し乱れる。


「植物や土を入れたガラス容器の中で小動物などを飼育する方法だ」


 ペスト医師は酷く落ち着いた様子で淡々と言葉を継ぐ。


「インテリアの一種としても人気の飼育方法だが……こうも考えられないだろうか」


 誰もいない映画館に、ペスト医師の言葉だけが静かに響く。


「地球もまた、一種のテラリウムである、と」


 新世界の観測者を名乗るペスト医師。彼は何処どこか暗い部屋にいるようだ。


「地球という容器に、土や植物、海水を敷き詰め、その中に人間という小動物を飼っている――そうも考えられないだろうか」


 淡々と言葉を継ぐ彼の顔は見えない。椅子と彼だけが映るその映像は、時々ザーッと乱れる。誰もいない仄暗ほのぐらい映画館で、スクリーンはその映像だけを映していた。


「だとすればそれを飼育するのは誰なのだろう?」


 ペスト医師の言葉を皮切りに、少しだけ、空気が張り詰める。


「神か?はたまたこの新世界を創造した者か?フフ……疑問は尽きないね」


 不気味さを放つそのペストマスク――取り付けられたガラスのゴーグルが光を反射する。


「――全ては虚構だよ」


 映像が、プツンと切れる。ザーッという音と共に、白と黒が交錯する砂嵐だけがスクリーンの中を舞っていた。

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