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2-64 白と黒が舞うアリーナ

 満天の星空の下、十天観覧席では、〈十天〉の面々がその戦いを見守っていた。日向ひなた陽奈子ひなこが独り言のように呟く。


「異能のコピー!?強くない!?」


「いえ、陽奈子さん。そんなことはないかもしれませんよ」


 そう答えたのは天ヶ羽(あまがばね)天音あまねだった。彼女のメイド服のフリルが夜風にひらひらとなびいている。


「そうなの……?」


「そうですね……。例えばあの観客席の最前列にいる茶髪の男性……」


 そう言って天ヶ羽(あまがばね)天音あまねが指し示したのは、観客席の向かい側――その最前列で歓声を上げる一人の男性だった。


「あの人……?」


「陽奈子さんが神話級異能、〈戯瞞ロキ〉を持っていたとして、あの男性と戦うことになったとしたらどうでしょう」


「あっ……そっか。相手の異能がわからないと……」


「異能の練度という点でもコピー元のオリジナルには勝てません。良くて互角。準決勝でせつくんが陽奈子さんの模倣をしましたが、恐らく陽奈子さんには勝てないでしょう?そういう意味では黒崎さんの〈戯瞞ロキ〉は……神話級異能とは思えないほどに使い勝手が悪い異能です」


「違う相手と戦う度に自分の異能が変わるって……確かに使い勝手は最悪ね」


「ですがコピーの異能ということを伏せて、かつ、相手の異能の詳細がわかっていれば、対等には戦えるでしょう」


「それでやっと対等なのね……」


「ただ……その条件下でかつ、せつくんの〈天衡テミス〉のように複雑な異能をコピーすれば、せつくんは黒崎さんの異能の正体が掴めず、一方的に蹂躙される形になってしまいます」


「雪渚の〈天衡テミス〉が複雑なせいで……。雪渚……」


 一方、その戦いに声援を投げ掛ける〈十天〉の面々は、〈神威結社〉の二人だけではない。〈十天〉・第十席――杠葉ゆずりはえんじゅ、並びに杠葉ゆずりはしきみもまた、その戦いに没頭していた。


「……影丸、優勝するんですのよ!」


「……か、影丸!……か、勝って!」


「夏瀬さんも……影丸の異能を看破したのは見事でしたわ。ですが……僅かに遅かった(・・・・)


「――ケケッ♪さーて、どうなるかね♪」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――〈天上天下てんじょうてんげ闘技場〉・アリーナ。俺たちは再び、アリーナの地に相対していた。


『夏瀬雪渚!またしてもマネキンによる身代わりを用意していた!だが夏瀬雪渚の残機は残り一体!どうなるんでしょうか!?決勝戦!』


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 お互いが〈天衡テミス〉を持ち、それをお互いが理解している状況。この先は、お互いがお互いの定めた掟を破らないように画策する頭脳戦となる。


『掟:〈戯瞞ロキ〉による掟の制定を禁ず。

 破れば、その掟が相手に通知される。』


 ――この掟ならば、掟を破るのは黒崎だけだ。俺の異能は〈戯瞞ロキ〉ではないのだから。一方的に黒崎の定めた掟を知ることができるが……。


「――おや、夏瀬様、また変えましたか(・・・・・・)


「……っ!」


 ――やはり黒崎も似たような掟を定めていたか……!だがそれなら……〈リベレーター〉が活きる……!


 〈リベレーター〉の二つの銃口を黒崎へと向ける。――発砲。黒崎はそれを華麗に避け、〈ノーブルレイピア〉を片手に迫ってくる。そしてそれをまた発砲して牽制。揉み合いが続く。


「くっ……!夏瀬様……体術は互角のようですね……!」


「はぁ……!はぁ……!そのようだな……!」


「であれば――」


 刹那せつな、俺の脳裏を文字列がよぎった。


 ――『掟:発砲を禁ず。破れば、全身が炎上する。』


 ――成程なるほど……。黒崎が定めた掟……〈リベレーター〉を嫌がっているわけか……。それなら……敢えて受けて立つ……!


 俺は容赦なく〈リベレーター〉の引き金を引く。二丁拳銃から放たれる二発の銃弾が空を切る。眼前の黒崎は目を丸くしていた。


「なっ……!」


 黒崎はすんでのところで、〈ノーブルレイピア〉の剣先で銃弾を弾いた。途端、俺の身体が真っ赤に燃え上がる。だが、容赦なく〈リベレーター〉での攻撃を続ける。


『夏瀬雪渚!燃えたぁぁぁ!!!』


「あっつ……!」


 ――よし……そして……。


『掟:発砲を禁ず。

 破れば、消火される。』


 俺の掟の罰により俺の全身を包んでいた炎が消え去る。俺の柄シャツから白い煙が、夜空にもくもくと立ち上っていた。


『掟:回避を禁ず。

 破れば、全身を麻痺する。』


 ――既に黒崎への「通知機能」の罰は下っている。黒崎が再度「通知機能」の罰を定めない限り、この掟は読まれない。


 〈リベレーター〉による発砲。黒崎は上体を捻って回避する。――が、黒崎の体が硬直した。「麻痺」の罰が下ったのだ。


「あが……っ!」


「俺の異能の熟練度でお前に負けるかよ……!」


 俺は、動けない黒崎に歩み寄った。そしてその左胸――心臓の位置に銃口を突き付ける。夜風に黒崎の黒い短髪がなびいていた。


「勝負あったな……。黒崎……」


「くっ……!」


『夏瀬雪渚!ここで王手チェックメイトか!?』


 ――そして、発射。パァン、という弾けるような銃声。誰もが夏瀬雪渚の勝利を確信していた。――ハズだった。


「――それは私が愚かだったときの話でしょう?」


「……っ!」


 背後から背中を斬られる。撃ち抜いたはずの眼前の黒崎は、まるでもやのように晴れてしまった。幻覚だったのだ。


 ――黒崎も掟を書き換えていた……!


「やるな……!あんた……」


「フフ、意趣返しですよ」


『とてつもない試合です!一進一退の攻防が続きます!』


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 〈リベレーター〉と〈ノーブルレイピア〉による、再びの揉み合い。この勝負は最早もはや、どちらが勝っても不思議はなかった。


「黒崎……あんた、さっきの例え話、どこまで真実だ?」


「例え話だと申し上げたはずですが……。ですがまあ、そうですね。八割方事実でございます」


「事実と異なるのは……不治の病にかかったのがあんたの姉じゃなくて、あんたの主――杠葉ゆずりはまこもだということか」


「……そうですか。そこまで……」


「そのために〈極皇杯〉を優勝したいのか?」


「ええ、まこも様は隠しておられましたが……余命半年……!あまりに強い神話級異能の代償です……!だから……今年じゃなきゃダメなんですよ……!」


『な、なんと……!衝撃です……!会場中が騒めき立っています……!』


 撃ち抜いた〈リベレーター〉。その途端、黒崎の〈ノーブルレイピア〉――その柄による手首への打撃によって、片方の拳銃を地に落としてしまう。黒崎は即座にそれを蹴飛ばした。アリーナの向こうへと〈リベレーター〉の片割れが力なく転がってゆく。


「……くっ!……確かに〈極皇杯〉を優勝すればどんな願いでも叶うらしいが……不治の病なんて治せるのか?」


「わかりません……!……が、それしかもう方法はないんですよ……!」


「『わかりません』か……。あんたほど用意周到な人間から出る台詞セリフとは考えづらいな……」


「仕方ないでしょう……!私奴わたくしめは……この世界の人間では(・・・・・・・・・)ないのですから(・・・・・・・)……!」


『えっ……』


「は……?」


 ミルルンが驚嘆の声を漏らす。その瞬間、残り一丁となった〈リベレーター〉と〈ノーブルレイピア〉が交錯し、互いに両者の手を離れた。カラン、と音を立てて互いの武器が地に落ちる。


「……どういうことだ……?」


「……私奴わたくしめの本当の名は『クロード・シェイド』……この新世界の人間ではない、異世界人でございます」


 そして黒崎は静かに語り出した。冷たい夜風がアリーナを吹き抜けてゆく。


「六年半ほど前のことです――」

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