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2-54 ハロー、解放者

「おォ!ボス!よくわかんねェけど何か思い付いたんだなァ!」


「竜ヶ崎……お前いいこと言った。それだろ……!」


まさに……馬鹿と天才は紙一重なのです」


「――ちょっ、ちょっと待ってください!二人だけで話を進めないで、私たちにも教えてください」


「……おっと、悪い。説明しなきゃな。と言っても話はそう難しくない。結局、竹刀を使うより太刀を使った方がいいんだ」


「つまり、スリングショットよりも銃を使うべきなのです」


「なるほど……。単純に武器の性能を上げようということですか」


「シンプルな結論だが、結局それがいい気がするな。戦い方も大きく変えずに済む」


「とは言え夏瀬雪渚、銃と言っても色々あるのです。ハンドガンにショットガン、サブマシンガンにアサルトライフル、スナイパーライフル……。どれにするのです?」


「そうだな……。汎用性を取るならアサルトライフルだが……小回りが利かないか……」


「銃にもそれぞれ特徴がありますからな……」


「知恵川、銃は装填リロード要らずにできるんだよな?」


「夏瀬雪渚の想像力次第なのです。最初のイメージは固定化されるもの――ここで一発目に具現化させた武器が、今後も夏瀬雪渚の武器となるのです」


「よし、決めたぞ。知恵川、早速やってみよう。『共有化』を頼む」


「わかったのです。――『共有化』」


 すると、俺の身体に違和感が生じる。極僅ごくわずかだが、新たな力を授けられたような、そんな、感覚。――この感覚は二度目だった。


「これで……今後、夏瀬雪渚が決めた武器に限っては、好きなタイミングで具現化できるようになったのです」


「よし……」


 回廊に緊張が走る。〈エフェメラリズム〉に代わる、俺の二代目の武器の誕生の瞬間を、陽奈子を除く〈神威結社〉の面々と知恵川が見守っていた。


「では夏瀬雪渚、具現化してみるのです」


 ――知恵川が言った通り、最初のイメージは固定化されるもの。今から具現化する武器が、今後も俺の武器となる。


「よし……。――『二丁拳銃』」


 そう俺が告げた瞬間、ずしりと重い感覚が、俺の両手に襲い掛かった。その両手には――二丁の拳銃ハンドガンが握られている。


「……成功、なのです」


「――おあッ!?何か出たぞォ!」


「ハンドガン――拳銃ですな!」


「拓生ォ!なんだそれェ!食えるのかァ!?」


「どこを見て食えると思ったのですかな……」


「ハンドガン――片手で撃つことができる小型の銃ですね。でもせつくん、二丁拳銃なのはどうしてですか?」


装填リロードせずに済むようにイメージしたからな。二丁にすれば更に連射力も増す。恐らく、この小回りでサブマシンガン級の連射力があるはずだ」


「〈エフェメラリズム〉はどうしても、パチンコ玉の装填時やさおを持って発射するとき、両手が塞がっていましたからな!両手のどちらも攻撃に使えるのは強いですぞ!」


「繊細なイメージなのです。夏瀬雪渚はやはり天才なのです」


「ふふ、そうでしょうそうでしょう」


「天音……嬉しそうだな……」


「ボス!早速バトってみようぜェ!」


「おー、アホめ。準決勝前に体力消耗してたまるか」


「ガッハッハ!」


「――夏瀬雪渚、武器の名前を付けた方が良いのです。私の異能はその名を呼ぶことで具現化するのです」


「ああ、そうだな……」


 ――〈エフェメラリズム〉は享楽主義や刹那主義という意味のネーミングだった。俺の理想の生き方や俺の名前の「雪渚」とも掛かっていて気に入っていたが……次はどうするか。


 試しに拳銃のイメージを絶ってみる。――すると、手中に握られていた拳銃はあっという間に消えてしまった。


「――おあッ!?消えたぞォ!すげェなァ!」


 ――よし、名前はアレにするか。


「――〈リベレーター〉」


 そう俺が声を発した瞬間、再び、両手に二丁の拳銃が握られた。金属の表面が、夕陽を反射して光沢を放っている。


「――〈リベレーター〉。日本語で『解放者』――いいネーミングなのです」


「ああ、気に入った。いい武器だ。ありがとうな、知恵川」


「ほんの謝罪とお礼なのです。気にすることはないのです」


 ――〈リベレーター〉。その名を呼べば、俺の手に握られる、装填リロード不要の二丁拳銃。文句の付けようもない。いい武器だ。


「――雪渚、ここにいたか」


 回廊の奥から俺の名を呼ぶ声が聴こえた。そちらへと顔を向ける。――すると、そこには白衣に身を包む、端正な顔立ちにスマートな印象の眼鏡を掛けた青年の姿があった。無二の親友――五六ふのぼり一二三ひふみだ。


「一二三……!」


「一二三様……!来ておられたのです……?」


 一二三は小さく頷き、こちらに歩み寄る。西日が回廊に差す中、五月蝿うるさいばかりの歓声が、真上の観客席から響いていた。


「ああ、親友と最も信頼する部下の異能戦……流石に見逃すわけにもいかないだろう」


「五六氏!ご無沙汰してますぞ!」


「ああ、御宅君」


「一二三、お前……天プラのCEOなのに割と暇だよな……」


「はっ、トップが不在で回らなくなる企業なんて三流以下だろ?雪渚」


「……一二三様、申し訳ございません。夏瀬雪渚に、遠く及びませんでした」


 知恵川は電動車椅子に座ったまま、一二三に深々と頭を下げる。一二三は優しく、言葉を返す。


「構わない。いい試合を見せてもらった」


 そんな二人に視線を送る俺。一二三と目が合う。


 ――一二三は恐らく、知恵川が俺に勝てないとわかってて仕向けた。いや、知恵川言葉が極めて優秀なのは言うまでもない。だが、それでも俺の足下にも及ばない。それを一二三は、一番わかっていたはずなのだ。


「一二三……お前……やっぱりそうか」


「教育者だろ?俺も」


「趣味悪いぞ……」


「はは。――おっと、俺もそろそろ行かなきゃな。雪渚、また会おう」


「あ、ああ……」


「一二三様、お供するのです」


「いや、知恵川君は残ってくれ。〈極皇杯〉の顛末てんまつが気になるのだろう?」


「一二三様……ご厚意に感謝するのです」


「じゃあな。雪渚」


 一二三はそう言って、回廊の奥へと消えていった。


「あのメガネ……暇なのか忙しいのかよくわかんねェヤツだなァ……」


「今や天プラは新世界トップの企業ですからな……。暇なはずはありませんぞ」


「……せつくん、そろそろ治療室に戻りましょうか。せつくんでしたら不要でしょうが、準決勝に備えて試合をチェックしていた方がよろしいかもしれません」


「ああ、そうだな。トイレ行って戻るから、先にみんなは戻っててくれ」


「かしこまりました、せつくん」


「ボス!アタイがボディーガードするぞォ!」


「いや、ぐそこだから大丈夫だ。竜ヶ崎も試合観たいだろ?先に戻ってな」


「おォ、そうかァ!わかったァ!」


 治療室の中へと戻った天音、竜ヶ崎、拓生、知恵川の背中を見届けながら、俺は回廊の先へと進む。回廊の壁側に、男女別にトイレが備え付けられていた。トイレへと足を踏み入れようとしたとき、回廊の奥から声が聴こえた。またしても、聞き覚えのある声だ。


 回廊の奥を覗く。そこに立っていたのは二人。一人の男が、一人の女にかしずいて、その手の甲にキスをしていた。天女のような、緑や黄緑を基調とした衣装の女と、燕尾服に身を包む端正な顔立ちの男。〈日出国ひいづるくにジパング〉の王――杠葉ゆずりはまこもと黒崎影丸だった。


「影丸、其方そなたならきっと優勝できようぞ」


まこも様、ありがとうございます。まこも様に拾っていただいた恩義……必ず、この〈極皇杯〉にて」


 ――黒崎……予選もギリギリの大接戦だったと聞くが……。一回戦は不戦勝。未だ実力の底は見えない。


 俺はトイレで用を済ませ、そっとその場を離れた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 治療室の扉を開くと、その場にいる全員が、激戦が繰り広げられるモニターに注目していた。大和國やまとのくに終征しゅうせい幕之内まくのうちじょう――未だフルスロットルの攻防が続く。


「もう三十分くらいやってないか?よく体力持つな……」


「夏瀬雪渚、私たちは四時間弱やってたのです」


「せつくん、おかえりなさいませ」


「ボス!戻ったかァ!」


「雪渚!一緒に観よ!」


「おう」


 陽奈子や天音の近くのベッドに腰掛ける。


「どうだ?第四試合」


「うーん、そうね……。どっちが有利……とも言えない状況よ」


「あの二人のどちらかとせつくんが戦うことになるんですね……」


 画面の中の終征しゅうせいさんと幕之内は汗だくで殺し合っている。そして血塗ちまみれ。凄まじい激戦が繰り広げられていることは、言及するまでもないだろう。


 ――あれが人間同士の試合か……?なんて激しい……。


 そんな二人は、一切動きを止めることなく、殴り、斬る。嵐のような怒涛の猛攻に思わず息を呑む。戦う二人の声がモニターのスピーカーから聴こえていた。


「やるじゃねーか!終征しゅうせい!」


「幕之内殿、想像以上です……!こんな楽しい戦いは何時いつ振りでしょうか……!」


 少しでも出方を誤れば、即座にサイコロステーキにされてしまうであろう終征しゅうせいさんの振り回す刀。少しでも出方を誤れば、即座にミンチにされるであろう幕之内の拳骨の乱打。二人は傷だらけになりながらも、笑顔を浮かべていた。


 時刻は十九時を回っている。闘技場にはすっかり夜の帳が降りていた。モニター越しに覗く夜空には満点の星空が浮かび上がっている。――そんなとき。


『――ストップだ♪終征しゅうせいじょう♪』


 ――突如として、声が響いた。終征しゅうせいさんとも、幕之内とも違う。無論、この治療室にいる者でもない声。そのよく知る声は、モニター越しに――その十天観覧席から聴こえていた。


 ――雷霧……?


 〈十天〉・第八席――銃霆音じゅうていおん雷霧らいむがマイクを持って立ち上がっていた。アリーナ内で、ピタリと動きを止めた両者は、不満を口にする。


「あ?おいおい銃霆音、邪魔すんじゃねーよ」


「そうですよ、銃霆音殿。まだまだ決着はこれからでしょうに」


 治療室にいる俺たちは、何が起こったのかもわからないまま、静かにその様子を見守っていた。


『お前ら♪そのままじゃ決着つかねーだろ♪だから勝敗はこっちで勝手に決めさせてもらうぜ♪』


 ――雷霧……?何考えてるんだ……?


「はぁっ!?ふざけんじゃねーよ!銃霆音!」


「銃霆音殿、それはあんまりでしょう」


『いやいや♪お前らにとっても悪くねー話だぜ♪』


「あ?どういうことだよ?」


 ――雷霧……!コイツ……!


『〈十天〉権限により両者を勝者とする♪準決勝は、アルジャーノンを加えた三人で戦ってもらう♪』

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