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2-53 君と僕の新武器品評会

「――せつな!BEST4(ベストフォー)ばい!BEST4(ベストフォー)!これはすごかよ!」


庭鳥島にわとりじまの。仮にも治療室であろう。もう少し静かにできぬものか」


「〈十天推薦枠ワイルドカード〉……準決勝進出、おめでとウ……」


 治療室に足を踏み入れたのは、俺と予選Aブロックで激闘を繰り広げた面々――庭鳥島にわとりじまもえ馬絹まぎぬ百馬身差ひゃくばしんさ冴積さえづみ四次元よじげんの三名であった。


「おー、お前らか」


「――ぶひっ!?昨年ファイナリストが三人も、ですと!?」


「おォ!ボスと予選でったヤツらかァ!」


「せつな!回復したとね!?――って、陽奈子様!?」


「げっ……」


 陽奈子は明らかに嫌そうなリアクションを執る。一方の庭鳥島は、憧れの陽奈子に出逢えたことに感動した様子だ。彼女は陽奈子の手を取ってぶんぶんと握手を始めた。


「陽奈子様!あたし陽奈子様の大ファンばい!あ、あたし庭鳥島にわとりじまもえって言うけん!」


「……知ってるわよ。アンタが予選で雪渚を裏切ったこともね」


「――ちょっ!?予選でせつなを裏切ったのは仕方なかばい!あれくらいせんと、〈極皇杯〉では勝てんばい!」


「言いたいことはわかるけど……雪渚の優しさを踏みにじるような真似をしたアンタを、あまり好きにはなれないわね……」


「陽奈子様!嫌わんでよ!あたし、陽奈子様が〈十天〉に入ってすぐからの古参フォロワーばい!」


 ――自業自得だろ……。


「……して、夏瀬の。体調は万全か?」


「おう、馬絹まぎぬ。天音のお陰でバッチリだ」


「次は準決勝……一回戦より熾烈しれつな戦いになるだろうからネ……。万全を期すに越したことはないヨ……」


 そう呟く冴積さえづみが見つめる先は、天井の隅に取り付けられた小型のモニターだ。〈神威結社〉の面々も含め、全員が一回戦第四試合――大和國やまとのくに終征しゅうせい幕之内まくのうちじょうの壮絶な一戦を見守っていた。


『――拳と刀による凄まじい猛攻!!両者!一歩も退きません!』


「そうだな……。どっちが勝っても……強敵だ」


 モニターの画面の中では、最早もはや、侍とは呼べない、自由奔放な戦闘スタイルで幕之内に斬り掛かる男の姿があった。赤い着物風の上着と青い袴風の下衣したごろもを身にまとい、長い黒髪を後ろで束ねた爽やかな雰囲気の青年。彼は赤い着物の上から水色の半纏はんてんを羽織っている。


 彼は二刀流。二本の刀を、ぶんぶんと振り回し、まるで竜巻のように斬り掛かる。そこには侍の信念も何もない。ただただ、戦いに特化したスタイルの侍――それが彼、大和國やまとのくに終征しゅうせいだ。


「僕は昨年彼に負けたからネ……。彼には頑張ってほしいヨ……」


冴積さえづみなんかずっと負けとけばよかばい!根暗スナイパー!」


 ――コイツ……ホント冴積のこと嫌いだな……。


「だが、相対する幕之内のも強者ぞ」


 一方、銃火器とも呼ぶべき凄まじい威力の拳を連続で繰り出す、ボクサースタイルの男の姿がある。長いストレートの金髪を後ろでたばねた、色黒で上裸の、大柄な男。男は尖った形のサングラスを掛けていた。


 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の肉体の上から羽織はおった、背中に虎が刺繍ししゅうされた赤いスカジャンが、彼の動きに合わせてなびいている。彼の名は、幕之内まくのうちじょうである。


「ほえー、幕之内の攻撃力は半端なかばい。新世界でも陽奈子様や〈十天〉・第五席の次くらいの破壊力じゃなかと?」


「正しい見方だネ……。僕も同感だヨ……」


 ――「剣道三倍段」という言葉がある。竹刀を持つ剣道家に対し、素手で戦う柔道や空手等の武道家が互角に戦うためには、竹刀を持つ剣道家の三倍以上の段位が必要であるという意味だ。


 ――だが、〈極皇杯〉の本戦レベルでは、そんな言葉は何の意味も為さない。何故ならば、大和國やまとのくに終征しゅうせいの刀も、幕之内まくのうちじょうの拳も、一撃一撃が常人ならば即死レベルの必殺技だからである。この戦いに、有利不利なんてものは存在しないのだ。


「おいおいボス!アイツらすげェなァ!」


「ああ、これはどっちが勝ってもおかしくないな……」


「ですが雪渚氏、この勝負の勝者と準決勝で戦うことになりますぞ……」


 俺も、カプセルを満たす回復薬の効能によりすっかり全快していた。〈天衡テミス〉が再使用できることも確認済み。そんな俺の懸念があるとすれば、たった一つだった。


「……ああ。ただ、武器がないんだよな……」


 ポケットに入れていた、〈エフェメラリズム〉――だったはずの金属片。てのひらに乗せたそれらを見て、俺は呟いた。


「悪かったヨ……〈十天推薦枠ワイルドカード〉。大事な武器を壊してしまっタ……」


「いや、冴積さえづみが悪いわけじゃない。元々コイツはかなり頑張ってくれたしな。たまたま予選で限界を迎えただけの話だ」


「だが……武器がなければ困るだろウ。一回戦は頭脳戦だったから武器がなくとも何とかなったガ……この試合の勝者相手に頭脳戦は通用しないだろウ……」


「そうなんだよな……」


 モニターの画面の中では、二本の刀を振り回して大回転する終征しゅうせいさんと、徒手空拳としゅくうけんでそれに対抗する幕之内の姿がある。凄まじい攻撃の応酬。二人の肉体は傷だらけで、いつ決着してもおかしくないように思われた。


「――せつな!あたしがテキトーに武器買ってくるばい!」


「おー、庭鳥島。俺はもうお前を信用してないからな」


「げっ!まだそげんこつ言っとると!?」


「お前が『まだ』とか言うな……」


「では夏瀬の、吾輩に乗って武器を調達に向かうか?なれが使っていた代物であれば、其処そこらで手に入るであろう」


馬絹まぎぬ、気持ちはありがたいが……そろそろ〈エフェメラリズム〉で戦うのは潮時かもしれないな。元が玩具店で買ったものだ」


「『この先の戦いにはついてこれない』――ってヤツですな!」


「でもせつな、どぎゃんすると?武器もなかとに準決勝に臨むのは自殺行為ばい」


 ――俺の神話級異能、〈天衡テミス〉は初見殺しの側面が強い。〈天衡テミス〉主体で戦う戦闘スタイルは変わらないものの、その保険としての武器は絶対に必要だ。事実、冴積さえづみ四次元よじげん戦は〈エフェメラリズム〉のお陰で勝てたのだ。


「雪渚、だったらアタシの〈キラメキ〉使う?」


「いや……そのガントレットは陽奈子の火力があってこそだろ。俺には使いこなせないよ」


「おォ!だったら陽奈子の〈キラメキ〉とよォ、アタイの〈ヴァンガード〉を合体させようぜェ!」


「おー、アホは少し静かにしててくれ」


「ですがせつくん、もう時間もございませんよ?」


「うーん……」


『――凄まじい!凄まじい猛攻!この勝負!先に止まった方が負ける――そんなレベルの戦いです!』


 ――そのとき、キコキコと、車輪を回すような音が聴こえた。そちらに目を向けると、俺が座るベッドのそばに、知恵川がいた。


「……話は聞かせてもらったのです」


「知恵川……」


「武器がないなら、創れば良いのです」


「はあ?」


「私の異能を忘れたのです?夏瀬雪渚の武器を創る程度なら、造作もないのです」


成程なるほど……」


 ――知恵川は実際強い。そしてその知識量も半端じゃない。新世界じゃ間違いなくトップレベルだろう。そして、知恵川の強みをもう一つ挙げるならば、俺の神話級異能、〈天衡テミス〉をつまびらかに知っている点だ。彼女になら、任せられるかもしれない。


「まだ私の気は済んでいないのです。罪滅ぼし……というわけではないのですが、何か協力させてほしいのです」


「……よし、わかった。知恵川、頼めるか?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺の異能を未だ知らない庭鳥島、馬絹、冴積の三名と、真剣に幕之内の戦いを見守っていた陽奈子を治療室に残し、俺たちは煉瓦れんが造りの回廊に出た。ここにいる、天音、竜ヶ崎、拓生、知恵川――この四人は、経緯は違えど、全員が俺の異能、〈天衡テミス〉を知るメンバーだ。


「竜ヶ崎巽、そちらは誰もいないのです?」


「おォ!誰もいねェぞォ!『しすてまちっく』!」


 竜ヶ崎が回廊の奥を見渡してこちらを振り返る。


「そのアホ丸出しの呼び名はやめるのです、竜ヶ崎巽」


「なんだテメェ!失礼な奴だァ!」


「どちらが……なのです。まあいいのです」


 呆れた様子の知恵川。その回廊には他に誰もおらず、西日が差すばかりだ。俺は回廊の壁にもたれ掛かった。口を開いたのは拓生であった。


「それで知恵川女史、雪渚氏の武器を創るというのは本当なのですかな?」


「本当なのです」


「知恵川さん、せつくんの武器を創ってせつくんに貢献しようという姿勢は見上げたものですが、あなたのイメージ次第で消えてしまうのではないですか?」


「厳密には違うのです。『共有化』によって、私の異能のごく一部を今から夏瀬雪渚に分け与えるのです。使用用途が武器の具現化という一点のみであれば、それは今後永続するのです。夏瀬雪渚のイメージ次第で自由に具現化――好きなタイミングで武器を手にできるのです」


「なるほど……。そういうことでしたら安心です」


 ――そういうことか。だとすれば、拓生が偉人級異能、〈霧箱ウィルソン〉によって、亜空間から武器を自在に取り出すイメージに近いか。


「ただ、武器であれば何でも、というのは恐らく、夏瀬雪渚でも非常に困難なのです」


「この戦いでは剣、この戦いでは銃――っていう自在な使い分けは難しいってことか。まあそんな都合良くはいかないわな」


「そうなのです。そのために、武器を一種に決める必要があるのです」


「まあ元よりその想定だ。問題ない」


「まず確認しておきたいのです。夏瀬雪渚の持つ異能は、神話級異能、〈天衡テミス〉――『両者に掟を定め、掟を破った者には罰を与える異能』――間違いないのです?」


「ああ、間違いない」


「……わかったのです。だとすれば、夏瀬雪渚はこの〈天衡テミス〉と最も相性がいい武器は何だと思うのです?」


「知恵川、それは愚問じゃないか?マジで何でもできるような異能だ。相性のいい武器も何もないだろ」


「正解なのです。よってこのといは解なしなのです」


「なんだお前……」


「でもよォ、ボス、武器っつーなら強いに越したことはねェんじゃねェかァ?」


「まあな……」


「難しいですな。雪渚氏の〈天衡テミス〉が自由すぎるからこそ、選択肢が無限にありますぞ」


「私や陽奈子さんのように、何かに特化した異能であれば武器も簡単に決まるんですけどね。せつくんの異能はその汎用性はんようせいが強みですから……」


「でも竜ヶ崎巽の意見も一理あるのです。確かに、竹刀を使うよりは太刀を使った方がいいのです」


「そりゃそうだが……一種に決めろと言われると難しいな……」


「――でもよォ、ボスは〈エフェメラリズム〉――パチンコであれだけ強かったんだろォ。もっと強い武器だったらどうなっちまうんだろォなァ……」


 思わず、知恵川と目を見合わせる。竜ヶ崎がアホだからこそ出た、その意見――。


「――竜ヶ崎、お前天才か?」

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