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2-44 千の黒星の昇り龍

注目度ランキング90位ありがとうございます!

 ――海酸漿うみほおずき雪舟せっしゅうの衝撃の告白カミングアウト響動どよめく観客席。それは、ファイナリスト控室も同様だった。


海酸漿うみほおずき殿……流石さすが、第八回の王者ですね……」


 声を漏らすのは大和國やまとのくに終征しゅうせいだ。彼が後ろで束ねた黒髪が微かに揺れる。張り詰めた空気がファイナリスト控室を満たしていた。


「神話級異能……最悪の想像が当たっちゃったわね……」


「それに海酸漿うみほおずき女史は……全く本気を出していないようですぞ……」


「はい、完全に竜ヶ崎さんが舐められていますね……」


 〈神威結社〉の面々も次々に言葉を口にする。彼女らは、竜ヶ崎巽の勝利を願いながらも、あまりに一方的なその試合に衝撃を受けていた。


「まあオレの一年前に優勝してた女だからな♪本来なら〈十天〉の第八席は海酸漿うみほおずきでもおかしくねーからな♪」


「まずいですな……。竜ヶ崎女史の身体も限界ですぞ……!まだ〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉が発動していないことが不思議なくらいですぞ……!」


「いや……オタクくん、あれは海酸漿うみほおずきが遊んでるのよ。わざと、巽ちゃんを殺さないように」


「はい、あれはもうパフォーマンスの域ですね。竜ヶ崎さんを、自分を魅せるための『舞台装置』として利用しているだけでしょう」


海酸漿うみほおずき女史……残酷ですぞ……。そんな人にどうやって勝てと……」


 そんなとき、クッション型ソファに腰掛け、黙ってモニターを見つめていた夏瀬雪渚に声を掛けたのは、タオルで汗を拭う幕之内まくのうちじょうであった。


「なあ夏瀬、竜ヶ崎ちゃんも苦労してんだよな」


「ん……?あ、ああ……」


「だったらあの子は伸びるぜ?修羅場をくぐった奴は決まって強い。夏瀬も、銃霆音も、オレだってそうだ」


「そうだな……」


「竜ヶ崎ちゃんの夏瀬への忠誠心は本物だぜ?あの子はホントにオメーに感謝してんだな」


「俺は何もしてねーよ……。ただ、アイツが強かっただけだ」


 ――竜ヶ崎……。


 ――突然、控室の扉が三回ノックされた。黒いスーツに身を包む、運営スタッフらしき男が控室に顔を出す。


「――現憑月うつつづきるな様!黒崎くろさき影丸かげまる様!選手入場ゲートへご案内いたします!」


「影丸!来ましたわね!姉様ねえさましきみと、応援してますわよ!」


「……か、影丸。……が、頑張ってね……」


えんじゅ様、しきみ様、ありがとうございます。では……行って参ります」


 しかし、その場に現憑月うつつづきるなの姿はない。運営スタッフの男が、黒崎に問い掛けた。


「えっと……黒崎様。現憑月うつつづき様はどちらに行かれたかご存知ありませんか?」


「いえ……先程までいらっしゃったのですが……」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『なん……と!謎に包まれていた、海酸漿うみほおずき雪舟せっしゅうの異能が……!神話級異能、〈瀛溟ダゴン〉だと明かされました!――いや、この強さなら納得でしょうか!?』


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 水に満たされた戦場バトルフィールドでは、爆撃のように襲い掛かる『墨弾すみだま』の雨と、むちのように襲い掛かる触手の猛攻に、竜ヶ崎巽は必死に耐え忍んでいた。海酸漿うみほおずき雪舟せっしゅうの神話級異能CO(カミングアウト)に、竜ヶ崎巽は反駁はんばくする。


「テメェが神話級異能だァ……!?どうだっていいんだよォ!ンなことはよォ!」


「あらあら♡戦意喪失して諦めてくれると思ったのだけれどねぇ。どうしてそこまで頑張るのかしらぁ?」


「ボスは、アタイにとって地獄でしかなかった戦いを楽しいモンにしてくれたァ!今はボスのために強くなるのが楽しくて仕方ねェ!強ェ奴とれるのが楽しくて仕方ねェ!」


「口を開けば『ボス、ボス』って……うるさいわねぇ」


「あァ!?何が悪いんだァ!?」


『まるで嵐!嵐のような攻撃は止まらない!竜ヶ崎巽!どう攻略するんだぁ!?』


 まない墨の銃弾にしなる触手のむち。竜ヶ崎巽は水中で身をひるがえして回避に専念するも、その嵐のような攻撃に、「回避」という概念は、そもそも存在しなかった。


「『仲間のため』、『家族のため』、『応援してくれる人のため』――そんなんだから勝てないのよぉ」


「クッソ……!テメェにアタイの何がわかるんだァ!」


「私は私のために戦うのよぉ。私が今を一番楽しむために、ねぇ」


「アタイが戦ってるのはボスや仲間のためだけじゃねェ!アタイ自身が最後に幸せになるために戦ってんだァ!」


「それもあなたの敬愛する『ボス』の受け売りかしらぁ?言っておくけどねぇ、あなたの『ボス』も大したことないわよぉ。ちょっと賢いだけの人間じゃないかしらぁ」


「テメェがボスを勝手に語るんじゃねェ!アタイのボスだぞォ!」


 かと言って、竜ヶ崎巽が被弾覚悟で突っ込むことすら、海酸漿うみほおずき雪舟せっしゅうは許さなかった。墨の銃弾としなる触手が竜ヶ崎巽の身動きを封じる。


「彼が神話級でも偉人級でも構わないのだけれど……『才』を持つ人間なら〈十天〉だけで十分よぉ。彼が銃霆音くんに異能戦では勝てなかったことが……彼の限界を物語っていることに気付けないのねぇ」


「クッソがァ……!どいつもこいつもボスを勝手に語りやがってよォ!」


「あなた……いや、竜ヶ崎ちゃん。何にせよ……あなたじゃ私には届かないわぁ。だって『ボス』に依存していて、あなたの人生を生きていないもの」


「ボスは凄ェけどよォ、みんなが思ってるほど強い人間じゃねェンだよォ!だから!アタイや、姉御や、陽奈子や、拓生で、みんなで支えてやろうって決めたんだァ!何度も言わせんなァ!何も知らねェテメェがごちゃごちゃボスを語るんじゃねェ!」


 その様子をモニター越しに見守っていた夏瀬雪渚が思わず声を漏らす。


「竜ヶ崎……アイツ……!」


 竜ヶ崎巽は怒りのあまり、海酸漿うみほおずき雪舟せっしゅうを捲し立てる。そして触手を掴み、引き千切ちぎった。青い血液が水中を漂う。――この試合、海酸漿うみほおずき雪舟せっしゅうが初めて受けたダメージであった。


「いったぁ……!痛いわよぉ、竜ヶ崎ちゃん」


 その隙を突いて、竜ヶ崎巽はそのまま、〈継戦ノ結界(バリア)〉の頂上付近を漂う海酸漿うみほおずき雪舟せっしゅうの下へと泳いでゆく。


「――何がアタイの人生を生きてねェだァ!ボスのお陰で、アタイはアタイの人生を生きることができてんだァ!アタイはボスのお陰で今、幸せになんだよォ!」


「あらあら♡本当に話を聞かない子ねぇ……」


「だからテメェにアタイの人生の邪魔はさせねェ!アタイが幸せになるために!アタイはテメェを倒すぞォ!タコ女ァ!」


「これがアニメや漫画の世界ならここからあなたが逆転勝利するんでしょうねぇ。――でも残念♡」


「あァ!アタイが勝つんだよォ!」


「私はこのアリーナ内を水で満たしたのよぉ?水を自在に操る異能だということに気付けなかった時点で、あなたの負けよぉ♡」


「――『竜ノ両鉤爪ダブルドラゴニッククロウ』!!!」


 ――衝撃音。その音は、竜ヶ崎巽が海酸漿うみほおずき雪舟せっしゅうの肢体をX字に切り裂いた音――ではなかった。完全に水が引いた〈継戦ノ結界(バリア)〉内。その上空五十メートルから、触手によって竜ヶ崎巽が、地に勢い良く叩き落とされた音だった。


「――が……は……ッ!」


 一方の海酸漿うみほおずき雪舟せっしゅうは、ふわふわと地に舞い降り、臀部でんぶから生えた触手をクッションに、安全に着地した。


「元より満身創痍の身体で……ビルの十五階相当の高さから突き落とされたのよぉ。あなたの負けよぉ。竜ヶ崎ちゃん」


 地に横たわる竜ヶ崎巽の身体が、眩い光に包まれる。そして、腕の先から徐々に消滅してゆく。――〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉の発動だ。


「発言の一部は撤回するわぁ、竜ヶ崎ちゃん。あなた、格好良かったわよぉ」


「クッソ……!クソ……!」


 竜ヶ崎巽は涙を流していた。それは、圧倒的な力の前に敗北した悔しさからか、ボス――夏瀬雪渚の期待に応えられなかった無力感からか。


『一回戦第一試合!勝者は――海酸漿うみほおずき雪舟せっしゅうぅぅぅぅ!!!!』


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

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