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2-38 FINALIST御披露目会・破

『――今年も危なげなく予選を突破!優勝候補筆頭にして本戦最多出場!!!書道家・水墨画家としても名をせる彼女の墨の牙城を崩す者は現れるのか!? 〈淡墨うすずみエリア〉・エリアボス!』


 水飛沫と共にその場に優雅に現れたのは、白い和風ヘアバンドを着けた黒髪ロングの美女であった。頭の両端に法螺貝をかんざしのようにし、毛先はたこの吸盤のようになった不思議な髪型だ。書道家らしい、黒を基調とした着物を着用している。


「あらあら♡素敵なコが揃っているわねぇ」


「うげっ!海酸漿うみほおずきかよ!めんどくせーな……」


「あら♡幕之内ちゃん……に知恵川ちゃんじゃない。久しぶりねぇ」


 もっと不思議なのは、臀部でんぶからなまめかしい紫のたこの脚がいくつも生え、その上に座るように立っていることだった。たこの大きな腕が、彼女を取り囲むようにウネウネとうねっていた。


海酸漿うみほおずき殿……」


「そんなにビビらなくてもいいわよぉ。ま、新世界の海を統べる私の前じゃ雑魚か稚魚に過ぎないのだけれど♡」


『――優勝予想ランキング一位!Eブロック代表!!!「Champion」!!!海酸漿うみほおずき雪舟せっしゅうぅぅぅぅ!!!』


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 ――例の異能戦のソロランキングは、異能バトルの強者がずらりと並ぶが、実は抜け道が存在する。簡単だ。「スマホを持たない」ことだ。スマホ――プレートフォンがなければまず登録ができないのだから。現に、以前の竜ヶ崎もランキングには一切掲載されていなかった。


 ――だから事実上の世界十二位は彼女――海酸漿うみほおずき雪舟せっしゅうということになる。いや、本来なら〈極皇杯〉を優勝したのだから、〈十天〉に入ることもできた人物だ。第七席や第八席相当の力があると考えても不思議はない。


『――ファイナリスト六人目!本戦初進出!ノーマークにしてダークホース!〈極皇杯〉初エントリーにしてわずか六分で本戦進出を決めた!!!その正体は一切不明!!!だがそれでいい!!無名から成り上がるのが〈極皇杯〉だ!!!』


 ――あの予選を六分……!?誰だ……?知らない人物か……?


『――妖艶ようえんな雰囲気とグラマラスなボディに会場の熱気もヒートアップ!!!陰のある大人のお姉さんは好きですか!?』


 次に楕円形のアリーナ内部に現れたのは、赤紫のウェーブがかったロングヘア――その前髪に白いメッシュのラインが入った女であった。頭には、喪の席で着用する黒いトークハットをかぶっている。巨乳安産型のグラマラスな、長身の美女。着用するのは黒や赤を基調としたゴシック調のドレス。


「あァ?誰だ?このどエロいねーちゃんは?」


じょう殿、失礼ですよ……」


「知らない女の子ねぇ。六分なんて私より早くて素敵だわ」


「あぁ……鬱よ。本当に鬱……。なんで私がこんな大会に出ないといけないのかしら……」


「何なのです?貴女あなた……」


「あぁ……高圧的な女……。本当に嫌になる……。死にたい……」


 ――なんだコイツ……。


 肌は雪のように白く、大きな涙袋は所謂いわゆる、地雷系を彷彿とさせる。切れ長の瞳――その目力は強く、瞳の奥でぐるぐると渦を巻いている。油断すれば吸い込まれそうな目だった。凄まじい負のオーラ――こちらまで気が滅入りそうになる。


『――優勝予想ランキング三位!Fブロック代表!「毒林檎級ジョーカー」!!!現憑月うつつづきるなぁぁぁぁ!!!』


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 ――現憑月うつつづきるな……。この新世界の強者は全て頭に入っているが、聞いたこともない名だ。だが、予選を六分で突破したというのは明らかに外れ値――異常だ。一切の油断は禁物……。


『――ファイナリスト七人目!本戦初進出!六度目の〈極皇杯〉挑戦で遂に!!!ファイナリストへ!!!開会式でも存在感を放った〈日出国ひいづるくにジパング〉の女王・杠葉ゆずりはまこも様やその妹君、〈十天〉・第十席に異例の若さで座する杠葉ゆずりは姉妹が名を連ねる杠葉家!!!』


 ――問題はコイツだ……。


『――その杠葉ゆずりは家で執事長を務めるのがこの男!!!つい先程から始まった優勝者予想ランキングでは最下位ながら、虎視眈々(こしたんたん)と逆転優勝を狙う!!黒いスーツの紳士は今宵!!勝利の女神に仕えるか!?』


 うやうやしく一礼しながら現れたのは、端正な顔立ちで、清潔感のある短い黒髪、そして黒い燕尾服えんびふくに身を包んだ男だった。


「夏瀬様、幕之内様、ご無沙汰しております」


「黒崎……さん……」


「マジかよ……!黒崎さん……アンタがファイナリスト……!」


「そして大和國やまとのくに様、知恵川ちえがわ様、海酸漿うみほおずき様、現憑月うつつづき様、お初にお目に掛かります」


「あらあら♡ご丁寧にどうもぉ」


「〈十天〉の側近……なのです?」


「今年の〈極皇杯〉を優勝させていただきます、黒崎くろさき影丸かげまると申します――」


「黒崎殿……」


「はぁ……自信家ばかりで嫌になる……。みんな死ねばいいのに……」


『――優勝予想ランキング八位!Gブロック代表!「NO LOYALTY, NO LIFE」!!!黒崎くろさき影丸かげまるぅぅぅぅ!!!』


 ――黒崎影丸。俺が知る中で、唯一、〈十天〉以外で神話級異能を持つ者。何度か顔を合わせてはいるものの、その実力は未だ底知れない。


 ――そして……竜ヶ崎は……!


『――ファイナリスト八人目!本戦初進出!皆さんの記憶にも新しいことでしょう!十六年間にも及ぶ、〈竜ヶ崎組〉による〈神屋川かやがわエリア〉の支配――そのニュースは世間に衝撃を与えました!そしてその元凶、A級犯罪者、〈竜ヶ崎組〉・組長――竜ヶ崎龍!』


「おっ、夏瀬、アンタのトコの可愛い部下じゃねーか?」


 ――正直、胸を撫で下ろす思いだった。


「部下じゃねーよ……」


『――その実妹にして、一千もの黒星を背負いながらも、〈神屋川エリア〉を支配から救うため、兄に挑み続けた女が遂に!〈極皇杯〉のファイナリストに!Aブロック代表・夏瀬雪渚に忠誠を誓う、〈神威結社〉の一番槍!〈神屋川エリア〉の全住民の期待を背に!八度目の〈極皇杯〉挑戦で遂に!遂に!悲願の本戦進出へ!!』


 円を描くように立った俺たちの中央に現れたのは、「ドラゴニュート化」したその女。月輪がちりんが黄色の双角に反射し、吹き付けた夜風に長い黒髪がなびいた。


『――優勝予想ランキング七位!Hブロック代表!「千の黒星の昇り龍」!!!竜ヶ崎(りゅうがさき)たつみぃぃぃぃ!!!』


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


「――ガッハッハ!ボス!約束通り!アタイが来てやったぜェ!偉いだろォ!」


「お前は心配要らなかったな……。竜ヶ崎」


「ガッハッハ!アタイはボスの右腕だァ!当然だろォ!――お!」


 竜ヶ崎がふと、出場者観覧席を見上げる。そこには、羊ヶ丘(ひつじがおか)手毬てまりリー蓬莱ホーライ――そして、強者として名高い、猿楽木さるがき天樂てんらく犬吠埼いぬぼうざき桔梗ききょう霧隠きりがくれしのぶ夜空野よぞらの彼方かなたの姿が見えた。彼女らは一様に竜ヶ崎に手を振っている。


「竜ヶ崎……お前……あんな強者たちを倒してきたのか……」


「ガッハッハ!そりゃボスもだろォ!ちっとだけ早く終わったから空港で観てたぞォ!」


「竜ヶ崎の方が早かったか」


「――おあッ!?ボス!まさか忘れちまったのかァ!?約束しただろォ!本戦に残ったんだからご褒美に『なでなで』してくれェ!アタイはえてるぞォ!」


「はは、覚えてるって。よしよし……」


「ガッハッハ!後で姉御たちにも褒めさせてやるかァ!」


 竜ヶ崎は頭を撫でられ、気持ち良さそうに目を閉じ、頬を擦り寄せる。とても満足そうだ。小動物のように俺に懐く竜ヶ崎が何処どこか愛くるしかった。


『――以上!ファイナリスト八名!!!初エントリーで本戦進出が二名!本戦返り咲きが二名!』


 一般観客席には、〈竜ヶ崎組〉の元構成員たちや〈神屋川エリア〉の住民たち、〈真宿しんじゅくエリア〉の住民たちの姿も見受けられる。特に〈竜ヶ崎組〉の元構成員たちはどうも興奮している様子で、他の観客に取り押さえられているようだ。


『――過去大会のファイナリストが続々と予選で敗れ去った、史上!最もハイレベルな今大会!!!この大会を制し、トロフィーの輝きに祝福されるのは一体誰だぁぁぁぁぁぁぁ!!!第十回〈極皇杯〉!決勝本戦!此処ここに開幕だぁぁぁぁぁぁ!!!』

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