2-37 FINALIST御披露目会・序
――第十回〈極皇杯〉、予選開始より三時間三十一分十三秒。時刻は夜。〈天上天下闘技場〉に、ウェーブがかった紫のポニーテールの女――インターネットアイドル、見来未流流――愛称、ミルルンの声が響き渡る。
『――おーっと!Gブロック!決着!Gブロックが遂に!決着しました!』
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
一般観客席からは大歓声と共に、騒めきが起こっていた。月光が一千万人の観客たちの横顔を鮮やかに照らす。
「この人って……〈十天〉の……!」
「マジ……!?ヤバくない……?」
「てかこの人勝ち残っちゃったけど……強いの?」
「さあ……俺はHブロック観てたから……」
一方、玉座に腰掛ける――厳密には玉座の周りで騒いでいるのは、この新世界におけるTOP10――〈十天〉の面々だ。中央の玉座に腰掛ける鳳世王は、〈十天〉の面々を何度か注意しても収まらなかったのか、ぐったりと疲れ果ててしまっている。
天ヶ羽天音と日向陽奈子は両手を合わせてまるで女子高生のように燥いでいる。楕円形のアリーナを見下ろす銃霆音雷霧は、隣に立つ大和國綜征に語り掛けた。
「お侍サン♪結局来ちゃったぜ♪弟子のアルジャーノンが♪」
「――見事。流石雪渚殿で御座ったな」
「ちっとタイムおせーけど♪まあいっか♪」
大歓声の中、ミルルンが高らかに宣言する。
『――では!一人ずつ!既に五千万票以上が集まっている、たった今始まったばかりの優勝予想ランキング!その順位と併せて!改めてファイナリスト八名をご紹介いたしますっ!アリーナ中央にご注目くださいっ!』
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
『――ファイナリスト一人目!!本戦初進出!今年も〈十天推薦枠〉が本戦にキターーー!彼の暴力団・〈竜ヶ崎組〉の壊滅に多大な貢献をし、〈十天〉・第八席――銃霆音雷霧様と引き分ける大偉業!』
「ケケッ♪おめっとさん♪」
『――親善試合を飾った〈十天〉・第二席、第七席が付き従う両手に花の最高頭脳!昨年ファイナリストが犇めく修羅の予選Aブロックでは昨年ファイナリスト相手に連戦連勝!この新世界に蘇った麒麟児の金縁の眼鏡に、勝利の女神は映るのか!?〈神威結社〉・クランマスターにして〈真宿エリア〉・エリアボス!』
月明かりに照らされたアリーナの中央に、白いボサボサの髪に赤いニット帽を冠った、トランプ柄の柄シャツの男が突然現れた。男は茶色の色付きのレンズが入った金縁の眼鏡を着用している。男は調子に乗った様子で両手を広げた。
『――優勝予想ランキング六位!Aブロック代表!「革命前夜のスーパールーキー」!!!夏瀬雪渚ぁぁぁぁ!!!!』
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
大歓声の中、夏瀬雪渚――俺は、十天観覧席を見上げた。白髪のウルフカットの日本人離れしたメイド服の美女――天音や金髪ツインテールのギャル(?)――陽奈子がこちらに嬉しそうに手を振っていた。その目には涙が浮かんでいる。
――辿り着いたぞ……!ファイナリスト……!
雷霧や師匠もこちらを見て頷く。背後の満席の出場者観覧席では、拓生が嬉しそうにこちらに手を振っていた。忌住鱚子、冴積虚次元、馬絹百馬身差、冴積四次元に庭鳥島萌、落ち込んだ様子の慈安寧。予選Aブロックでたった一枠のファイナリストの座を懸けて死闘を繰り広げた面々の姿もあり、俺は一安心した。
――闘技場に戻ったら〈犠牲ノ心臓〉が発動せずにみんな本当に死んでいた――みたいな最悪なオチも想定していたんだが、そんなことはなくて良かった……。
――さて、他のファイナリストは……!
『――ファイナリスト二人目!二年連続本戦進出!この男が今年の本戦でも他ファイナリストを斬る!!斬る!!!斬るゥゥゥゥ!!!第五回〈極皇杯〉優勝の大和國幻征、現〈十天〉・第五席に座する第七回〈極皇杯〉優勝の大和國総征!〈極皇杯〉王者二人を兄に持つ王者の超直系!!』
――ということは……あの人か……!
『昨年準優勝の特攻隊長が!!!昨年の屈辱を糧に!!頂に手をかける!!連綿と受け継がれる王者の系譜!!〈十天〉の遺伝子、覚醒なるか!?』
俺の隣に突如現れたのは、赤い着物風の上着と青い袴風の下衣を身に纏い、丁髷や総髪に近い髪型の、長い黒髪を後ろで束ねた爽やかな雰囲気の青年だった。赤い着物の上から水色の半纏を羽織っている。クールなその青年は、俺に爽やかな笑顔で語り掛けた。
「雪渚殿、矢張り上がってきましたね……」
「ええ……」
『――優勝予想ランキング二位!Bブロック代表!「ファンタジスタ無双侍」!!!大和國終征ぃぃぃぃ!!!』
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
――終征さん……!現時点で世界十二位……〈十天〉に次ぐ実力者だ……。あの厳しすぎる予選を二年連続……化物か……!
『――ファイナリスト三人目!本戦進出二年振り二度目!この女が二年振りに帰って来たぁ!今や生活必需品となったプレートフォンの開発、世界六国を結ぶエクスプレス開発の技術提供でお馴染み!!』
――「スマートフォン」で通用するからそう呼んでいないが、正式名称は「プレートフォン」……。そして、こんな紹介が為される女はこの新世界にただ一人……!
『〈天網エンタープライズ〉の副社長!!更に東慶大学文学部を首席で卒業し、言語学者としても活躍する、正に誰もが認める才女!!!IQ150の頭脳が展開する言語ゲームに、君の頭脳は追い付けるか!?』
俺と終征さんの背後に現れたのは、未来的な電動車椅子に座った、Aラインシルエットの青みがかった銀髪の女だった。頭には、白くモコモコで円柱型のロシアンハット。口元を隠した、首元の白いファーティペット。裾が広がったロイヤルブルーのロングコート風のアウター。ハイカットブーツ。冬の寒冷地の貴族のような装いの女だ。
電動車椅子の両端から伸びたアームに大型のディスプレイが取り付けられ、女の前に展開されている。「Finalist」という文字がディスプレイの画面の中で踊る。女は何か辞典のような分厚さの本を読んでいる。
「夏瀬雪渚なのですか、そうなのですか。本戦に残ってくれて良かったのです。漸く、一二三様に群がる害悪を処理できるのです」
その女の赤い瞳には、酷い狂気が宿っていた。こちらをじっと見つめて離さない。そして、その表情には絶対の自信が滲んでいた。
「……雪渚殿。知恵川殿と仲睦まじくない様子ですが……」
「ええ……。まあ、ちょっと……」
『――優勝予想ランキング五位!Cブロック代表!「言の葉のアカシックレコード」!!!知恵川言葉ぁぁぁぁ!!』
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
――俺が唯一認める天才・五六一二三が「言葉に関する知識量では雪渚や俺と同格」と評していたのが彼女だ。もう、この本戦には、舐めて掛かっていい相手は一人足りともいない。
『――ファイナリスト四人目!三年連続本戦進出!暴走族クラン・〈脳苦會斗〉の元総長から華麗な転身を遂げたスーパーミドル級!拳一つで暴力団組織を壊滅させたボクシング世界王者が!今年もファイナリストに歩を進めたァ!!!』
――三年連続……!アイツも……やはり来るのか……!
『今は亡き友人や祖父に誓った〈極皇杯〉優勝の決意を胸に、破壊力を増した拳は今年こそ天を穿つのかぁ!?前人未踏の三年連続ファイナリスト!』
現れたのは、長いストレートの金髪を後ろで束ねた、色黒で上裸の、大柄な男。尖った形のサングラスを掛けている。筋骨隆々の肉体の上から羽織った、背中に虎が刺繍された赤いスカジャンが、吹き付けた夜風を受けて靡く。
シャドーボクシングスタイルで登場した男。その拳がシュッシュッと空を切る。男は遅れて転移したことに気付き、俺の背中をバシバシと叩いた。俺は、内心呆れながらも彼に告げた。
「よォ……来たぜ!夏瀬!」
「いてえいてえ……!幕之内……これちゃんと立ってなきゃいけないヤツじゃないのか」
「知るかぁい!オレが法律だ!」
「なんだこいつ……」
「はぁ……アホが増えたのです」
「……つーか暴走族やってたんだな」
「軽蔑するか?」
「いや、全く」
「はっ、お前ならそうだろうな!」
「丈殿……今年は戦えることを期待しています」
「おっ!終征か!そうだな!」
『――優勝予想ランキング四位!Dブロック代表!「Mr.ノックアウト」!!!幕之内丈ぉぉぉぉ!!!』
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
――幕之内は単なる脳筋に見えるが実際強い。それが明日の本戦で明らかになるだろう。……ここまでは順当として……竜ヶ崎はまだか……!?
『――ファイナリスト五人目!本戦進出二年振り四度目!第八回〈極皇杯〉!!優勝!!!〈十天〉入りを拒んだ前々回王者がまさかのカムバック!!!昨年は欠場ながら、二度目の出場以来、出場した年は必ず本戦まで進出するという脅威の戦績を誇るのは、〈十天〉・漣漣漣涙様と並んで新世界の水中戦最強・「統海三王」に数えられるこの女!』
――前々回……王者……だと!?
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