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ep.5

『私のスマホの中にね、売買っていうアプリができてたのよ。ダウンロードした記憶はないわ。』

僕のスマホの中でカナさんは自分のスマホの画面を僕に見せようとしてくれているが小さすぎてよくわからない。


「カナさんの特性のせいですかね?商売ってやつありましたもんね。」

カナさんのステータス画面の特性の欄に【商売】というものがあった。

『そうね、そうかもしれないわ。それでね、ちょっと弄ってみたら売る項目があってね、試しに獣に触れながら売るってやってみたの。そしたら銅貨みたいなのに変わったの!これってこの国の通貨かしら?』

「ライハルト、どう?」

カナさんはスマホから銅貨をこちらに出してくれた。

ライハルトは手に取って銅貨を見ている。

「こんなコインあったかな?でもこのギラっていうのはこの国のお金の単位だよ。」

銅貨には1と印されている。

「ライハルトが知ってるのはどんなお金?」

「僕は金貨しか知らない。金貨には10000ギルって書いてたかも?」

さすが王族だと言うしかない。

この銅貨10000枚で金貨1枚なのかもしれない。


「この国でこの硬貨が使えたらカナさんに頼らないで必要なものを買うことができるね。」

カナさんは楽しくなってしまったみたいでブルーシートの上の魔物はほとんど消えてしまっていた。


『ケイタくん、銅貨100枚で銀貨1枚になるみたいよ。その間に小さい銀貨があって、それが50ギルらしいわ。』

「100円、50円、1円みたいな感じですね。なるほど。金貨は10000円札ですね。」

『そんな感じみたいね!小さい魔物だと5ギルくらいで売れるわ。5円だとしたらかなりの数を売らないとパンすら買えないかもしれないわね。』


僕たちはこの国の物価がわからないので魔物を狩りつつ街へと向かった。

僕も太めの枝をみつけて攻撃力が少し上がった気がした。

ライハルトはレベル30になろうとしていた。

驚いたことにカナさんは狩った魔物を売っているだけでレベルが上がり、レベル50になっていた。

僕は、というとやっとレベル5になった。

完全に足手まといの部類だろう。


銀貨が2枚になろうとした頃、立派な石造りの塀が見えてきた。

僕たちが目指していた街、オモリに到着した。


────


街にはすんなり入ることができた。

カイドとは違い、行き交う馬車の数が多い。

大きな通りには露店のような簡単な造りの店がたくさん並んでいた。


野菜や果物、肉や魚などの食料品から剣や弓まで様々なものが並んでいた。

お腹の空いていた僕たちはまず焼鳥のようなものを買うことにした。

僕はおどおどしながら「こんにちは、1ついくらですか?」と聞いてみた。

「いらっしゃい!2本で1ギルだよ!」

僕は銅貨を3枚渡し、串を6本受け取った。

異国での初めての買い物にドキドキしていた。

路地に入ったところに座れそうな場所をみつけた。


「ケイタの焼いた肉の方がうまいな。」

ライハルトは少し不服そうに言いながらも自分の分を完食していた。

カナさんもそれには同意したようだ。

『私はもうそれはいらないわ。』

と言っていた。

果物とパンも買ってみた。

味の薄い桃みたいなやつと、カチカチで味のしないパンだった。

この国の食べ物は総じて美味しくないのかもしれない。

僕は海外旅行なんかしたことがなかったのでよく知らないけど、日本食はきっとレベルが高いのだろう。


「カナのパンが食べたい。」

ライハルトは食パンを気に入っているようだ。

「こちらのお金でカナさんが買い物できればいいんだけどね。」

『そうね…通販サイトに入金できないかしらね…』

カナさんは少し時間をちょうだいと言ってスマホを険しい顔で眺めている。

機械操作は苦手だと言っていた。


串焼きが2本で1ギル、果物は3個で1ギル、パンは大きめのやつが1つ1ギルだった。

日本での価値でいくと1ギル300円くらいだろうか?

とりあえず思っていたよりも価値はある気がする。


「ケイタは剣を買えよ。いつまで木の棒で戦う気だよ。」

ライハルトは呆れた顔で武器屋があるのを教えてくれた。

露店ではなく武器の絵のついた看板を掲げている店だ。

入るのはなんだか敷居が高いように感じる。

「とりあえず慣れるまでは、あそこの武器屋でいいや。」

僕は露店で剣を並べている店に向かった。

「あんなオモチャみたいなやつでいいのかよ。」

ライハルトは不服そうだった。


「こんにちは。初心者でも扱えるものはありますか?」

「いらっしゃい!うちのは全部中古だけど手入れはしっかりしてあるよ。これなんか鞘付きだし腰につけられますぞ。」

大柄な男性店主が勧めてくれたのは刃渡り50cmくらいの剣だった。

長ければ攻撃力も上がるだろうけど、僕にはこれくらいの長さから始めるのがいいのかもしれない。

「それはおいくらですか?」

「10ギルでいいよ。」

安いのか高いのかわからないが僕はお金を払って剣を受け取った。

店主の言っていたとおりベルトのようなものがついていて鞘を固定できる。


つけてみるとまるでゲームの中の剣士のようだった。

カナさんに見せると僕と同じイメージを思い浮かべたそうだ。


僕たちは野菜や鍋など必要そうなものを買って街から出てきた。

街には宿があったけど料理ができない上に1泊30ギルだと言われた。

これならどこかにテントを張るほうがいいと言うことで近くの森を目指した。


────


森には小さな魔物が時々出てきた。

街の近くには大きな魔物は出ないということだ。

人の目につかない適当な場所をみつけ、カナさんにテントを出してもらった。

火を起こしてボーッと眺めているとカナさんが僕を呼んだ。

『ケイタくん!私!ついにやったわ!』

僕が慌ててスマホを見ると通販サイトのチャージ金額が10万円を超えていた。

「カナさん?!いったい何をしたんですか??」


カナさんが言うには、通販サイトで買ったものをアプリの【売る】で売ったそうだ。

いろいろ試してみたが、A4サイズのコピー用紙(500枚入り)が換金率が高く、480円で購入したものが100ギルで売れたのだと言う。

この国では紙は高級品のようだ。

それで銀貨を通販サイトで売ったのだという。

銀や金は取引できるそうで、1g100円程度になるという。

銀貨1枚が10グラムちょっとあるらしくて、つまりが480円で買ったコピー用紙が1000円になるという計算になる。

それで10万円を稼いだと言うのだ。

『もっと儲けようと思ったんだけどね、売りすぎたせいなのか売れなくなったのよ。でもかなり稼げたわ!他にも換金率のいいものがないかいろいろ試してみるわね!』


上機嫌のカナさんは僕に鍋とカレールゥをくれた。

カレーを作れと言うことだろう。

無洗米と飯ごうもくれたので僕はご飯を炊くことにした。

まるでキャンプである。

ライハルトの水魔法で水にも困らない。

狩りたてのウサギのような獣を捌いていると【レベルが上がりました】という機械音が聞こえた。

どうやら僕のレベルが上がったらしい。

『特性に【解体】と【調理】っていうのが追加されたわよ!やったわね、ケイタくん!』

「あ、ありがとうございます。」

特性のおかげなのか、捌くスピードも精度も上がった気がする。

じゃがいもや人参の皮剥きなんかしたことないのにスルスルと剥けるようになっていた。

(これは便利だな)


あっという間にカレーは出来上がった。

カナさんも食べたいというので3人分盛り付けた。

カナさんは食器やスプーンやフォークなども買い揃えていた。

いつの間にかピンクの部屋から居心地の良さそうな日本家屋の部屋に変わっていた。

「カナさん、引っ越しされたんですか?」

『そうなのよ!古き良き日本の暮らしを体験するみたいなアプリがあってね、ダウンロードしてみたわけ。』

こたつや座布団があり、畳の部屋はカナさんに似合っていた。

『今は夏だからこたつなんていらないけどね。季節感がバグってるわね。』

よく見るとカレンダーには1985年と書かれていた。

昭和の日本という設定なのだろう。

『古い小説やレシピ本とかもあるのよ。ほら、世界の山菜とかキノコの本とか図鑑ぽいものも本棚にたくさんあるわよ!』

1人スマホの中にいるのは精神的にも辛いだろう。

少しでもカナさんの気が紛れるならよかった。


「ケイタ!これはどんな魔法で作ったんだ?!この世の中で1番美味しい食べ物じゃないか!」

ライハルトはカレーを気に入ったようだ。

僕もカレーを頬張る。

前回食べたのは1週間くらい前だろうか。

母親の作るカレーは肉がゴロゴロしていて煮込んでいるうちにじゃがいもは溶けてなくなってしまう。

料理上手な母じゃなかったけど、カレーは美味しかった。


僕は家族のことを思い出した。

あんな僕のことを愛してくれていた。

僕がどうなっているのかわからないけど、きっと悲しんでいるだろうと思う。


(死なずにがんばって生きていたのにな…)


生きることに未練はなかったけれど、家族を悲しませているかもしれないという思いで胸が張り裂けそうだった。


────


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